2σ Guide

医療訴訟とは
医療事故・医療過誤を法的に整理する

医療事故や医療過誤の疑いについて、法的責任、医療水準、証拠、因果関係、手続、弁護士相談の準備までを一般向けに整理します。

26.4か月 令和5年の平均審理期間
54.5% 令和5年の和解割合
20.0% 令和5年の判決認容率
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医療訴訟とは 医療事故・医療過誤を法的に整理する

医療事故や医療過誤の疑いについて、法的責任、医療水準、証拠、因果関係、手続、弁護士相談の準備までを一般向けに整理します。

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医療訴訟とは 医療事故・医療過誤を法的に整理する
医療事故や医療過誤の疑いについて、法的責任、医療水準、証拠、因果関係、手続、弁護士相談の準備までを一般向けに整理します。
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  • 医療訴訟とは 医療事故・医療過誤を法的に整理する
  • 医療事故や医療過誤の疑いについて、法的責任、医療水準、証拠、因果関係、手続、弁護士相談の準備までを一般向けに整理します。

POINT 1

  • 医療訴訟とは何かを最初に整理する
  • 医療事故や医療過誤との違い、訴訟で問われる要件、相談前の準備まで全体像を確認します。
  • 言葉の整理
  • 争点の整理
  • 相談準備

POINT 2

  • 医療訴訟とは何か ― 裁判で問われる対象
  • 医療訴訟は、医学的な結果だけでなく、当時求められた注意義務と説明義務を証拠で検討する手続です。
  • 医療訴訟とは、医療行為または医療提供体制をめぐる紛争について、裁判所で法的な判断を求める手続です。
  • 裁判所の統計では、医療に関する損害賠償事件は「医事関係訴訟事件」として扱われます。
  • 似た用語を分けて理解することは、相談時に疑問点を正確に伝えるうえで重要です。

POINT 3

  • 医療訴訟と医療事故・医療過誤の違い
  • 言葉の違いを押さえると、何を調べ、何を相談すべきかが整理しやすくなります。
  • 医療紛争では、医療事故、医療過誤、医療訴訟という言葉が混同されやすくなります。
  • 医療事故は広い概念であり、過失のない合併症や偶発症を含む場合があります。
  • 医療過誤は、診療上必要な注意義務を怠り、損害が発生したと評価される場合を指します。

POINT 4

  • 医療訴訟が専門的で難しい理由
  • 医学的評価
  • 診療録、検査結果、画像、手術記録、看護記録、説明同意書、薬剤情報を医学的に読み解く必要があります。
  • 医療の不確実性
  • 適切な医療をしても悪い結果が起こることがあり、裁判では診療当時の判断可能性が問題になります。

POINT 5

  • 医療訴訟の法的根拠と責任の考え方
  • 債務不履行責任、不法行為責任、使用者責任・法人責任を整理します。
  • 債務不履行責任
  • 不法行為責任
  • 使用者責任・法人責任

POINT 6

  • 医療訴訟で患者側が立証する四つの要素
  • 義務の内容を特定
  • 義務違反を検討
  • 因果関係を評価
  • 損害を整理
  • 義務、違反、因果関係、損害を分けて整理することが出発点です。

POINT 7

  • 医療訴訟で問われる医療水準とは
  • 医療水準は結果論ではなく、診療当時に期待できた注意義務の基準として検討されます。
  • 裁判上の医療水準とは、医師・医療機関に求められる注意義務の基準を意味します。
  • 最先端医療や理想的医療そのものではなく、また平均的に行われていた医療慣行と完全に同じものでもありません。
  • 結果論を避け、診療当時に何を期待できたかを考えるために重要です。

POINT 8

  • 医療訴訟で争われる説明義務と自己決定権
  • 同意書の有無だけでなく、説明の内容、時期、患者の理解が検討されます。
  • 医療訴訟では、診断・治療の技術的適否だけでなく、説明義務違反も大きな争点になります。
  • 説明義務とは、患者が治療を受けるかどうか、どの治療を選ぶかを自己決定できるように、医師が必要な情報を説明する義務です。
  • 同意書への署名は重要な証拠ですが、それだけで説明義務が尽くされたと判断されるわけではありません。

まとめ

  • 医療訴訟とは 医療事故・医療過誤を法的に整理する
  • 医療訴訟とは何かを最初に整理する:医療事故や医療過誤との違い、訴訟で問われる要件、相談前の準備まで全体像を確認します。
  • 医療訴訟とは何か ― 裁判で問われる対象:医療訴訟は、医学的な結果だけでなく、当時求められた注意義務と説明義務を証拠で検討する手続です。
  • 医療訴訟と医療事故・医療過誤の違い:言葉の違いを押さえると、何を調べ、何を相談すべきかが整理しやすくなります。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

医療訴訟とは何かを最初に整理する

医療事故や医療過誤との違い、訴訟で問われる要件、相談前の準備まで全体像を確認します。

医療訴訟とは、診療、検査、手術、投薬、説明、転院判断、術後管理などの医療行為をめぐり、患者または遺族と医療機関・医師等との間で法的責任が争われる訴訟です。多くは民事訴訟として、損害賠償請求の形で提起されます。

ただし、治療結果が悪かったことだけで、直ちに法的責任が認められるわけではありません。医療には不確実性があり、合併症や偶発的な悪化が起こることもあります。裁判で中心になるのは、当時の医学的知見と医療機関の性格を踏まえ、注意義務や説明義務を尽くしたか、その違反と損害との間に因果関係があるかという点です。

前提このページは一般的な情報提供を目的とする解説です。個別の見通しや対応方針は、診療記録、経過、証拠関係により変わるため、弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

次の一覧は、このページで扱う主な論点をまとめたものです。医療訴訟は医学と法律の両方を整理する必要があるため、まず全体の見取り図をつかむことが重要です。読者は、どの段階で証拠や専門家の検討が必要になるかを読み取ってください。

BASIC

言葉の整理

医療事故、医療過誤、医療訴訟、医事関係訴訟の違いを整理します。

ISSUE

争点の整理

注意義務、説明義務、医療水準、因果関係、損害額の考え方を確認します。

ACTION

相談準備

診療記録、時系列、損害資料、弁護士相談前の確認事項を整理します。

Section 01

医療訴訟とは何か ― 裁判で問われる対象

医療訴訟は、医学的な結果だけでなく、当時求められた注意義務と説明義務を証拠で検討する手続です。

医療訴訟とは、医療行為または医療提供体制をめぐる紛争について、裁判所で法的な判断を求める手続です。典型的には、患者側が医療機関や医師に対し、適切な診療を受けられなかった、十分な説明がなかった、診断や治療が遅れた、手術や処置に問題があったなどと主張し、損害賠償を請求します。

裁判所の統計では、医療に関する損害賠償事件は「医事関係訴訟事件」として扱われます。医事紛争事件は専門的知見を必要とするため、医学界、法曹界、一般有識者からなる最高裁判所の医事関係訴訟委員会も設けられています。

次の比較表は、医療訴訟の位置づけと判断対象を表しています。似た用語を分けて理解することは、相談時に疑問点を正確に伝えるうえで重要です。読者は、裁判所が結果そのものではなく法的要件を証拠で確認する点を読み取ってください。

項目意味医療訴訟での見方
医療行為診療、検査、手術、投薬、説明、転院判断、術後管理など。当時の医学的知見、医療機関の機能、患者の状態を踏まえて評価されます。
医療提供体制引継ぎ、検査結果確認、急変時対応、院内マニュアル、医療安全体制など。個々の医師だけでなく、組織としての体制が争点になることがあります。
医事関係訴訟事件裁判所統計で用いられる医療に関する損害賠償事件の分類。専門的な医学判断と法的要件の整理が必要な事件として扱われます。
Section 02

医療訴訟と医療事故・医療過誤の違い

言葉の違いを押さえると、何を調べ、何を相談すべきかが整理しやすくなります。

医療紛争では、医療事故、医療過誤、医療訴訟という言葉が混同されやすくなります。医療事故は広い概念であり、過失のない合併症や偶発症を含む場合があります。医療過誤は、診療上必要な注意義務を怠り、損害が発生したと評価される場合を指します。

医療訴訟は、医療事故や医療過誤の疑いについて裁判所で法的責任を問う手続です。真相を知りたいという思いだけで進むものではなく、義務違反、因果関係、損害額、責任範囲を証拠で審理します。

次の比較表は、3つの言葉の違いを整理したものです。用語の射程を誤ると、何を証明すべきかが見えにくくなるため重要です。読者は、医療事故が直ちに医療過誤や賠償責任を意味しない点を読み取ってください。

用語基本的な意味注意点
医療事故医療の過程で患者に予期しない悪い結果が生じた出来事を広く指します。医療事故調査制度では、医療に起因し、または起因すると疑われる予期しなかった死亡・死産が対象で、過誤の有無は問われません。
医療過誤医療者が必要な注意義務を怠り、損害が発生したと評価される場合をいいます。納得できない結果でも、当時の医療水準から避けられない合併症なら過誤と評価されないことがあります。
医療訴訟医療事故や医療過誤の疑いをめぐり、裁判所で法的責任を問う手続です。義務違反、因果関係、損害、責任範囲を証拠に基づいて審理します。
Section 03

医療訴訟が専門的で難しい理由

医学的判断と法的要件が重なり、証拠と因果関係の整理に時間がかかります。

医療訴訟が専門的で難しい理由は、医学的評価、医療の不確実性、証拠の偏在、因果関係の立証、和解の多さにあります。診療録に何が書かれているかだけでなく、その記載が医学的に何を意味し、どの時点でどの判断が可能だったかを分析する必要があります。

同じ病名でも、年齢、既往歴、併存疾患、検査値、発症時期、合併症リスクにより最適な対応は変わります。裁判所は結果論だけで過失を判断するのではなく、診療当時に医療者が知り得た情報を前提に合理的な判断だったかを検討します。

次の一覧は、医療訴訟で難しさが生じる主な要素をまとめたものです。早い段階で難点を把握することは、証拠収集や相談準備の優先順位を決めるうえで重要です。読者は、どの要素が自分の疑問点に関係するかを読み取ってください。

医学的評価

診療録、検査結果、画像、手術記録、看護記録、説明同意書、薬剤情報を医学的に読み解く必要があります。

医療の不確実性

適切な医療をしても悪い結果が起こることがあり、裁判では診療当時の判断可能性が問題になります。

証拠の偏り

医療行為の記録は医療機関側が作成・保管するため、患者側は診療記録の開示を受けてから検討を始めることが多くなります。

因果関係

不適切な行為があったとしても、それが死亡や後遺障害を引き起こしたといえるかが別に問題になります。

和解の多さ

令和5年の既済事件764件のうち和解は416件で、判決だけでは事件の解決状況を単純に評価できません。

Section 05

医療訴訟で患者側が立証する四つの要素

義務、違反、因果関係、損害を分けて整理することが出発点です。

医療訴訟では、原則として請求する側、つまり患者側が主要な事実を主張・立証します。典型的には、注意義務または説明義務の存在、義務違反、因果関係、損害の四要素が問題になります。

注意義務には、特定の検査を実施すべき義務、専門病院へ転送すべき義務、術後に一定の観察を行う義務などがあります。説明義務には、重大なリスクや代替治療、治療しない場合の見通しなどを説明する義務が含まれます。

次の判断の流れは、医療訴訟で検討される基本要素の順番を示しています。法的な見通しは一つの要素だけで決まらないため、順番に確認することが重要です。読者は、過失らしい事情があっても因果関係や損害の検討が別に必要になる点を読み取ってください。

患者側が整理する基本要素

義務の内容を特定

検査、転送、観察、説明など、当時どのような義務があったかを整理します。

義務違反を検討

診療録、画像、検査データ、医学文献、専門医意見に基づき、医療水準に照らした不適切性を検討します。

因果関係を評価

義務違反がなければ死亡や後遺障害を避けられたか、損害が軽く済んだかを医学的に検討します。

損害を整理

治療費、休業損害、逸失利益、将来介護費、慰謝料、葬儀費用などを資料で確認します。

Section 06

医療訴訟で問われる医療水準とは

医療水準は結果論ではなく、診療当時に期待できた注意義務の基準として検討されます。

医療訴訟の中心概念の一つが、医療水準です。裁判上の医療水準とは、医師・医療機関に求められる注意義務の基準を意味します。最先端医療や理想的医療そのものではなく、また平均的に行われていた医療慣行と完全に同じものでもありません。

最高裁判例では、新規治療法に関する知見が、当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、その知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情がない限り、その知見は当該医療機関にとっての医療水準になるという考え方が示されています。

次の比較表は、医療水準を判断する際に考慮される事情を整理したものです。結果論を避け、診療当時に何を期待できたかを考えるために重要です。読者は、病院の規模や地域の医療体制も判断材料になることを読み取ってください。

判断材料具体例読み取り方
診療当時の医学的知見医学文献、診療ガイドライン、標準的治療の状況。後から分かった知見ではなく、当時期待できた知見が中心になります。
医療機関の特性種類、規模、診療科、専門性、設備、人員。高度専門病院と小規模医療機関では期待される対応が異なる場合があります。
地域・時間帯地域の医療提供体制、夜間休日、搬送可能性。転院や専門医紹介が実際に可能だったかも検討されます。
患者の状態病状の進行速度、検査値、既往歴、緊急性。同じ病名でも個別事情により求められる対応が変わります。
Section 08

医療訴訟の因果関係 ― 最大の争点になりやすい理由

過失らしい事情と損害とのつながりを、医学的・法的に検討する必要があります。

医療訴訟において、過失の有無と並ぶ大きな争点が因果関係です。因果関係とは、医療機関側の義務違反と患者に生じた損害との間に、法的に意味のある原因結果関係があることをいいます。

医師が検査を怠ったとしても、その検査をしていても結果が変わらなかったのであれば、死亡や後遺障害との因果関係は否定される可能性があります。逆に、検査をしていれば早期治療が可能で、死亡や重い後遺症を避けられた高度の蓋然性があると認められれば、因果関係が肯定される可能性があります。

次の重要ポイントは、因果関係で使われる考え方の違いをまとめたものです。医療訴訟では損害の範囲が大きく変わるため、どの考え方が問題になるかを見分けることが重要です。読者は、「可能性がある」だけでは全損害の賠償に直結しない点を読み取ってください。

高度の蓋然性と相当程度の可能性

民事裁判では、因果関係について高度の蓋然性が求められると説明されます。一方、死亡との因果関係までは証明できない場合でも、医療水準にかなった医療が行われていれば死亡時点でなお生存していた相当程度の可能性が証明されるとき、その可能性自体が法的保護の対象になることがあります。

ただし、相当程度の可能性は、少しでも助かった可能性があれば常に全損害が認められるという意味ではありません。死亡との因果関係が認められる場合とは、損害の内容や賠償範囲が異なります。

Section 09

医療訴訟でよく争われる類型

診断、手術、薬剤、説明、転送、組織体制など、争点ごとに必要資料が変わります。

医療訴訟でよく争われる類型には、診断の遅れ・見落とし、手術・処置上の過失、投薬・薬剤管理、説明義務違反、転送・紹介の遅れ、医療安全管理・組織的問題があります。どの類型でも、発生した結果だけでなく、当時求められた対応と証拠が問題になります。

次の一覧は、代表的な紛争類型と確認すべき争点を整理したものです。類型を見分けることは、必要な資料や専門医の分野を絞るうえで重要です。読者は、同じ医療訴訟でも診断、手術、薬剤、説明、体制で調べる資料が異なる点を読み取ってください。

診断の遅れ・見落とし

がん、脳卒中、心筋梗塞、感染症、肺塞栓、腸閉塞、くも膜下出血、骨折などで、検査未実施、所見見落とし、専門医紹介の不足が争われます。

検査 予後

手術・処置上の過失

手術手技、穿刺、内視鏡、カテーテル、分娩、麻酔管理などで、術中判断や術後観察の適否が問題になります。

手技 合併症

投薬・薬剤管理

薬剤の種類、用量、投与経路、禁忌、相互作用、腎機能・肝機能に応じた調整などが問題になります。

薬歴 検査値

説明義務違反

重大なリスク、代替治療、治療しない場合の見通し、自由診療の内容、費用などの説明が争点になります。

同意書 自己決定

転送・紹介の遅れ

自院で対応困難な症例について、高次医療機関や専門医へ紹介・転送すべきだったかが問題になります。

搬送 緊急性

医療安全管理・組織的問題

検査結果の未確認、情報共有不足、部位取り違え防止、院内感染対策、急変時対応体制などが検討されます。

体制 再発防止
Section 10

医療訴訟に必要な証拠と資料

診療録だけでなく、画像、看護記録、説明資料、家族メモ、専門医意見まで幅広く確認します。

医療訴訟では、証拠の整理が見通しを大きく左右します。重要な証拠には、診療録、看護記録、検査結果、画像、手術記録、麻酔記録、説明同意書、患者・家族のメモ、医学文献、診療ガイドライン、専門医意見、鑑定などがあります。

電子カルテでは記載時刻や修正履歴が問題になることがあります。画像は報告書だけでなく、画像データそのものが重要になる場合があります。患者・家族のメモも、症状の推移や説明内容を補う資料として役立つことがあります。

次の比較表は、医療訴訟で確認される主な証拠と役割を整理したものです。証拠は後から集め直しにくいものもあるため、早めに対象を把握することが重要です。読者は、カルテだけでなく看護記録、画像、説明資料、損害資料まで広く確認する必要がある点を読み取ってください。

証拠主な内容医療訴訟での役割
診療録・カルテ診察内容、診断、治療方針、説明内容、患者の訴え、処方。診療経過と判断の基礎を確認する中心資料です。
看護記録・経過表バイタルサイン、症状変化、疼痛、意識状態、医師への報告。急変事案や術後管理で重要になります。
検査結果・画像血液検査、CT、MRI、X線、エコー、病理、心電図など。診断可能性、見落とし、病状進行の検討に使われます。
手術・麻酔記録手順、術中所見、出血量、使用器具、麻酔管理、酸素飽和度。手技や術中・術後管理の適否を確認します。
説明同意書・説明資料同意書、説明用紙、パンフレット、術前面談記録。説明義務と自己決定権の検討に使われます。
患者・家族の記録メモ、日記、録音、メール、写真、領収書、薬袋。説明内容や症状推移を補う資料になります。
Section 11

医療訴訟前の診療記録開示と証拠保全

カルテ開示と証拠保全は、事実関係を確認するための重要な入口です。

多くの事案では、最初に医療機関へ診療記録の開示を求めます。厚生労働省の指針は、患者の求めに応じて原則として診療記録を開示すべきとの考え方を示しています。開示請求では、カルテだけでなく、看護記録、検査結果、画像データ、手術記録、麻酔記録、説明同意書、紹介状、退院サマリーなど、対象資料を具体的に確認する必要があります。

証拠保全とは、将来の訴訟で証拠を使うことが困難になるおそれがある場合に、訴訟提起前または訴訟中に、裁判所があらかじめ証拠調べを行う制度です。診療録の改ざん・散逸を疑う場合や、通常の開示では十分な資料が得られない場合に検討されることがあります。

次の判断の流れは、診療記録の開示から証拠保全の検討までの整理順を示しています。資料取得の方法を誤ると、その後の調査に影響するため重要です。読者は、通常開示で足りるか、証拠保全を検討すべき事情があるかを分けて考える点を読み取ってください。

診療記録と証拠保全の検討順

対象資料を洗い出す

カルテ、看護記録、画像、検査結果、手術記録、麻酔記録、説明資料などを具体的に整理します。

通常の開示を検討

医療機関への開示請求で必要資料が取得できるかを確認します。

不足・改ざん疑いを確認

開示拒否、資料不足、記載の不自然さ、散逸のおそれがある場合は慎重に検討します。

専門家と手続を選ぶ

証拠保全は専門的な手続のため、必要性、対象資料、タイミングを弁護士等と確認します。

患者側が資料を集める際は、医療機関とのやり取りの日時・相手・内容を記録し、原本を保管し、提出や送付の際はコピーを残すことが重要です。SNSで医師名・病院名・個人情報を不用意に公表することや、自己判断で医学的評価を断定することは避ける必要があります。

Section 12

医療訴訟の流れ ― 相談から和解・判決まで

事前調査、医学的検討、交渉、ADR、訴訟提起、争点整理を段階的に進めます。

医療訴訟は、いきなり訴状を出すのではなく、事前調査に時間をかけるのが一般的です。初期相談、診療記録の取得、医学的調査、交渉、ADR・調停、訴訟提起、争点整理、証拠調べ・鑑定、和解、判決・控訴という流れで進むことがあります。

ADRは、裁判によらず公正中立な第三者が当事者間に入り、話し合いを通じて解決を図る手続です。医療分野でも弁護士会等が医療ADRを設けている地域があります。ただし、相手方が応じなければ進みにくく、強制的な証拠調べには限界があります。

次の時系列は、医療訴訟を検討してから解決に至るまでの代表的な段階を表しています。手続ごとの目的を理解することは、時間と費用の見通しを立てるうえで重要です。読者は、訴訟提起前の調査が大きな比重を占める点を読み取ってください。

STEP 1

初期相談

時系列、被害内容、疑問点、医療機関からの説明、保有資料を整理します。

STEP 2

診療記録の取得

カルテ、画像、検査結果、看護記録、説明同意書などを取得します。

STEP 3

医学的調査

弁護士が協力医や専門家の意見を得ながら、過失、因果関係、損害を検討します。

STEP 4

交渉・通知

医療機関へ説明や損害賠償を求め、保険会社や代理人の関与を含めて回答を確認します。

STEP 5

ADR・調停

話し合いによる解決を目指す手続を検討しますが、合意に至らない場合もあります。

STEP 6

訴訟提起

地方裁判所へ訴状を提出し、当事者、請求額、事故経過、義務違反、因果関係、損害を記載します。

STEP 7

争点整理・証拠調べ

準備書面、尋問、専門家証人、鑑定などにより医学的・法的争点を整理します。

STEP 8

和解・判決・控訴

途中で和解が勧告されることがあり、和解しない場合は判決、不服があれば控訴等が検討されます。

Section 13

医療訴訟の統計 ― 件数・審理期間・和解・認容率

裁判所統計は個別事件の結論ではなく、全体傾向を理解するための材料です。

裁判所の医事関係訴訟事件統計によれば、令和5年の医事関係訴訟事件は、新受610件、既済764件、平均審理期間26.4か月でした。令和5年の終局区分では、既済764件のうち、判決276件、和解416件、取下33件、その他38件で、割合は判決36.1%、和解54.5%でした。

また、地裁民事第一審通常訴訟事件と医事関係訴訟事件の認容率を比較した裁判所統計では、令和5年の医事関係訴訟の認容率は20.0%です。ここでいう認容率は判決総数に対する一部認容を含む請求認容件数の割合であり、和解で終了した事件は含まれません。

次の割合の比較は、令和5年統計の主要数値を示しています。統計は個別事件の見通しそのものではありませんが、医療訴訟の時間や解決方法を考えるうえで重要です。読者は、和解が多いこと、認容率は判決になった事件だけの数値であることを読み取ってください。

和解で終了
54.5%
判決で終了
36.1%
請求認容
20.0%
和解・判決の割合は既済事件に対する数値、請求認容は判決総数に対する数値です。母数が異なるため単純比較ではなく、解決傾向を把握するために見ます。

診療科目別既済件数の統計では、内科24.9%、外科14.0%、歯科13.0%、整形外科10.8%などが示されています。ただし、これは訴訟として終局した件数の分類であり、各診療科における医療事故発生率を示すものではありません。

Section 14

医療事故調査制度と医療訴訟の違い

医療安全・再発防止の制度と、法的責任を問う訴訟は目的が異なります。

医療事故調査制度は、医療訴訟とは目的が異なります。医療に起因し、または起因すると疑われる予期しなかった死亡・死産を対象に、医療機関が調査し、医療事故調査・支援センターへ報告する制度です。厚生労働省は、この制度の対象となる医療事故について、過誤の有無は問わないと説明しています。

一方、医療訴訟は、患者側が医療機関等の法的責任を追及し、損害賠償などを求める手続です。医療事故調査制度の対象になったからといって直ちに医療過誤が認められるわけではなく、対象外であっても民事上の責任が問題になることがあります。

次の比較表は、医療事故調査制度と医療訴訟の違いを整理したものです。目的の違いを理解することは、調査報告書をどう扱うかを考えるうえで重要です。読者は、再発防止のための制度と損害賠償請求の手続を分けて読む必要があります。

項目医療事故調査制度医療訴訟
目的医療安全と再発防止を重視します。法的責任と損害賠償などを審理します。
対象医療に起因し、または起因すると疑われる予期しなかった死亡・死産です。死亡、後遺障害、治療機会喪失、説明義務違反など幅広い医療紛争が対象になり得ます。
過誤の扱い対象判断では過誤の有無を問いません。注意義務違反、因果関係、損害などの法的要件を検討します。
資料の意味調査報告書は重要資料になり得ます。報告書だけで結論が決まるわけではなく、診療記録や医学的評価と併せて検討します。
Section 15

医療訴訟の損害賠償で問題になる項目

治療費、逸失利益、将来介護費、慰謝料などを、因果関係の範囲とあわせて検討します。

医療訴訟で請求される損害は、事案により異なります。典型的には、治療費・入院費、付添費・交通費、休業損害、後遺障害逸失利益、将来介護費、慰謝料、葬儀費用、死亡逸失利益、近親者慰謝料などが問題になります。

損害額は、交通事故のように比較的定型化された計算が参考にされる場合もありますが、医療訴訟では因果関係の範囲が争われやすいため、請求額と認められる額が大きく異なることがあります。

次の比較表は、医療訴訟で問題になりやすい損害項目を整理したものです。損害資料は後から補充しにくいものもあるため、早い段階で把握することが重要です。読者は、損害の種類ごとに必要な資料が異なる点を読み取ってください。

損害項目内容確認資料の例
治療費・入院費不適切な医療行為により追加治療が必要になった場合の費用。領収書、診療明細書、入院記録。
付添費・交通費入院や通院で家族の付添いが必要になった場合の費用。交通費記録、付添状況メモ、通院記録。
休業損害治療や症状により仕事を休んだ場合の収入減少。給与資料、休業証明、確定申告資料。
逸失利益後遺障害や死亡により将来得られたはずの収入が失われた場合の損害。収入資料、後遺障害資料、就労状況資料。
将来介護費重い後遺障害により将来にわたる介護が必要な場合の費用。介護計画、医師意見、介護費用資料。
慰謝料・葬儀費用精神的苦痛、死亡、後遺障害、入通院、説明義務違反などに関する損害。診断書、死亡関係資料、葬儀費用資料。
Section 16

医療訴訟における弁護士の役割

法的構成、医学的調査、証拠収集、交渉・訴訟対応、期待値調整を担います。

医療訴訟では、弁護士の役割は単に訴状を書くことにとどまりません。患者側の不満をそのまま法的主張にできるわけではないため、診療経過を整理し、どの時点のどの判断が問題か、義務違反として構成できるか、因果関係をどう主張するかを検討します。

また、どの診療科の専門医に意見を求めるか、どの医学文献を確認するか、どの画像を読影すべきかも重要です。弁護士は、協力医との連携を通じて医学的争点を整理し、診療記録の開示請求、証拠保全、資料整理、時系列表の作成、損害資料の収集などを進めます。

次の一覧は、医療訴訟における弁護士の主な役割を整理したものです。役割を理解することは、相談時に何を依頼できるかを判断するうえで重要です。読者は、法的構成と医学的調査の設計が一体で進む点を読み取ってください。

STRUCTURE

事案の法的構成

診療経過を時系列で整理し、注意義務違反、説明義務違反、因果関係、損害を法的主張として組み立てます。

MEDICAL

医学的調査の設計

協力医、専門家、医学文献、画像読影の必要性を整理し、医学的争点を絞ります。

EVIDENCE

証拠収集と手続対応

診療記録の開示、証拠保全、交渉、ADR、訴訟、尋問準備、和解交渉を進めます。

REALITY

見通しとリスクの説明

勝訴可能性、費用、時間、和解可能性、費用倒れのリスクを説明し、現実的な判断を支援します。

Section 17

医療訴訟で弁護士相談を検討するタイミング

重い結果、説明の矛盾、カルテ不安、時効、示談書、公表リスクがあるときは早期整理が重要です。

医療訴訟は準備に時間がかかります。死亡または重い後遺障害が生じた場合、医療機関の説明が変遷している場合、診療録の開示に不安がある場合、説明同意書の内容と実際の説明が異なる場合などは、早い段階で弁護士等へ相談することが望ましいといえます。

また、診断や治療の遅れが疑われる、事故後の医療機関の対応に疑問がある、時効が近い可能性がある、医療事故調査制度の対象になった、示談書への署名を求められている、SNSや報道で公表する前に法的リスクを確認したい場合も、資料の取得と時系列整理を早めに進める必要があります。

次の一覧は、医療訴訟で相談を検討する代表的な場面を示しています。タイミングを逃すと資料取得や時効の問題が生じる可能性があるため重要です。読者は、重い結果が出た場合だけでなく、説明の変遷や示談書提示も相談のきっかけになる点を読み取ってください。

死亡・重い後遺障害

損害が大きく、因果関係や損害額の専門的検討が必要になりやすい場面です。

説明の変遷・同意書との不一致

医療機関の説明内容、同意書、実際の説明が食い違う場合は、説明義務が問題になる可能性があります。

診療記録への不安

開示拒否、資料不足、記載の不自然さ、改ざん疑いなどがある場合は、取得方法を慎重に検討します。

時効・示談書

時効が近い、清算条項付きの示談書を提示された場合は、署名前の確認が重要です。

公表前の法的リスク

SNSや報道で医師名、病院名、個人情報を公表する前に、名誉毀損やプライバシー侵害のリスクを確認します。

Section 18

医療訴訟の相談前に準備する資料

時系列と資料を整理すると、過失、因果関係、損害の検討が進みやすくなります。

相談時には、完璧な資料がなくても構いません。ただし、患者の氏名、生年月日、既往歴、通院歴、問題となる医療機関名、診療科、担当医、受診から現在までの時系列、医療機関から受けた説明内容、診療録、検査結果、画像、退院サマリーなどがあると検討が進みやすくなります。

同意書、説明書、パンフレット、領収書、診療明細書、事故後の症状・後遺障害に関する資料、仕事や収入への影響を示す資料、医療機関とのやり取りの記録、疑問点を箇条書きにしたメモも有用です。特に重要なのは時系列です。

次の比較表は、弁護士相談前に整理したい資料を目的別にまとめたものです。相談時間を有効に使い、争点を早く把握するために重要です。読者は、医療資料、損害資料、やり取りの記録、疑問点を分けて準備すると伝わりやすい点を読み取ってください。

資料の種類具体例相談での使い方
基本情報患者情報、既往歴、通院歴、医療機関名、診療科、担当医。当事者と診療経過の前提を確認します。
時系列受診日、症状、説明内容、検査、治療、急変、転院、現在の状態。どの時点の判断が問題かを整理します。
医療資料診療録、検査結果、画像、退院サマリー、同意書、説明書。過失、説明義務、因果関係を検討します。
損害資料領収書、診療明細、後遺障害資料、収入資料、仕事への影響。損害項目と金額の検討に使います。
やり取りの記録医療機関とのメール、メモ、録音、説明の変遷、疑問点リスト。説明内容や対応経過を補います。
Section 19

医療訴訟に対応する弁護士を選ぶ視点

経験、専門家連携、説明、費用、利益相反を確認します。

医療訴訟は専門性が高いため、弁護士選びも重要です。医療事件の取扱経験、協力医・専門家との連携、説明のわかりやすさ、費用体系の明確さ、患者側・医療機関側の立場や利益相反の有無を確認するとよいでしょう。

医療事件では、患者側を主に扱う弁護士、医療機関側を主に扱う弁護士、双方の経験がある弁護士がいます。どの立場の経験があるかは、それ自体で優劣を決めるものではありませんが、利益相反や方針の相性を確認する必要があります。

次の一覧は、医療訴訟に対応する弁護士を選ぶときの確認視点をまとめたものです。専門的な事件ほど、担当体制や費用の見通しを事前に確認することが重要です。読者は、実績の名称だけでなく、医学的調査をどう進めるかまで確認する点を読み取ってください。

医療事件の取扱経験

医療過誤事件、医療事故調査、医療ADR、協力医意見書の取得などの経験を確認します。

協力医・専門家との連携

弁護士だけで医学的判断を行うことは困難なため、専門家へ意見を求める体制が重要です。

説明のわかりやすさ

過失、因果関係、損害、見通し、費用を一般読者にも分かる言葉で説明できるかを確認します。

費用体系の明確さ

相談料、調査費用、着手金、報酬金、実費、協力医意見書費用、鑑定費用を確認します。

利益相反の確認

患者側、医療機関側、双方の経験がある場合を含め、相手方との関係や受任可否を確認します。

Section 20

医療訴訟の費用と時間の目安

調査費、弁護士費用、鑑定費用、審理期間を踏まえ、費用倒れの可能性も検討します。

医療訴訟には、法律相談料、診療記録の開示費用・コピー費用、画像データ取得費用、協力医意見書費用、弁護士着手金、裁判所へ納める印紙代・郵券、鑑定費用、弁護士報酬金、交通費・日当等の実費がかかることがあります。

医療訴訟は、事前調査に数か月から1年以上かかることもあります。訴訟提起後も、裁判所統計上、令和5年の平均審理期間は26.4か月です。控訴・上告まで進めばさらに長期化します。損害額が比較的小さい事案では、医学調査費や訴訟費用とのバランスを慎重に検討する必要があります。

次の比較表は、医療訴訟で発生し得る費用と時間の要素を整理したものです。費用倒れのリスクを避けるためにも、事前に見通しを確認することが重要です。読者は、弁護士費用だけでなく医学調査や鑑定の費用も検討対象になる点を読み取ってください。

項目内容確認ポイント
資料取得費診療記録の開示、コピー、画像データ取得。どの資料を、どの形式で取得するかを確認します。
医学調査費協力医意見書、画像読影、医学文献調査。専門医の分野、意見書の範囲、費用見込みを確認します。
裁判費用印紙代、郵券、鑑定費用、尋問関連費用。請求額や鑑定の有無で変わります。
弁護士費用相談料、着手金、報酬金、実費、日当。費用体系、追加費用、和解時の扱いを確認します。
時間事前調査、交渉、ADR、訴訟、控訴・上告。訴訟提起後の平均審理期間だけでなく、事前調査期間も見込みます。
Section 21

医療訴訟で避けたい行動

資料を守り、断定的な発信や安易な署名を避け、冷静に事実を整理します。

医療訴訟を検討する場合、感情的な文書を送る、SNSで断定的に発信する、証拠を捨てる、独自の医学判断だけで決めつける、安易に示談書へ署名する、といった行動には注意が必要です。

怒りや不信感は自然な感情ですが、医療機関へ感情的な文書を送ると、後の交渉や訴訟で不利に働くことがあります。医師名や病院名を挙げてミスや隠蔽を断定すると、名誉毀損・プライバシー侵害の問題が生じる可能性もあります。

次の一覧は、医療訴訟を検討する際に避けたい行動と理由をまとめたものです。初動の対応は後の証拠評価や交渉に影響し得るため重要です。読者は、事実と疑問点を冷静に整理し、署名や公表の前に専門家へ確認する必要がある点を読み取ってください。

感情的な文書

怒りを含む抗議文は、後の交渉や訴訟で不利に評価されることがあります。事実、疑問点、求める資料を冷静に整理します。

SNSでの断定発信

医師名や病院名を挙げた断定は、名誉毀損やプライバシー侵害の問題を生む可能性があります。

証拠の廃棄

領収書、薬袋、説明資料、予約票、メモ、写真、メールなどは後から重要になることがあります。

独自判断での決めつけ

インターネット情報や別患者の体験談だけで医療ミスと断定するのは危険です。診療当時の個別事情を評価します。

安易な示談書署名

清算条項により追加請求が難しくなる可能性があります。署名前に内容を確認する必要があります。

Section 22

医療訴訟と医療安全 ― 責任追及だけではない意義

事実解明、説明、再発防止、医療安全とのバランスを理解します。

医療訴訟は、金銭賠償だけを目的とするものではありません。患者や遺族にとっては、事実経過の解明、説明の獲得、再発防止、医療機関との対話の回復が重要な目的になることもあります。

一方で、医療には不確実性があり、すべての悪い結果を過失として扱うことはできません。重要なのは、患者側の救済と医療安全、医療者の適正な防御権のバランスです。医療事故情報収集等事業のように、個別事例から学び、分析結果を医療現場へ還元する仕組みは、医療安全の観点から重要です。

次の重要ポイントは、医療訴訟と医療安全の関係をまとめたものです。責任追及と再発防止は目的が異なるものの、どちらも事実に基づく検討が不可欠です。読者は、個別救済と制度改善の両面から手続の意味を読み取ってください。

個別救済と再発防止の両立

医療訴訟が適切に運用されれば、患者側の損害回復や説明の獲得だけでなく、医療安全上の課題の発見と再発防止にもつながる可能性があります。

Section 23

医療訴訟のよくある質問

制度や統計の一般的な見方を整理します。個別の結論は資料と証拠関係によって変わります。

Q1. 医療事故が起きたら常に医療訴訟になりますか。

一般的には、医療事故は過失の有無を問わない広い概念として使われることがあります。合併症や不可避の悪化も含まれ得ます。ただし、医療訴訟で損害賠償が認められるかは、注意義務違反、因果関係、損害などによって変わる可能性があります。具体的な見通しは、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. 医師が謝罪したら、医療過誤を認めたことになりますか。

一般的には、医療者が遺憾の意や共感を示すことと、法的責任を認めることは別に扱われます。ただし、発言内容、文書、経緯によって評価が変わる可能性があります。具体的には、録音、面談記録、説明文書などを整理し、弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q3. 同意書に署名していたら、説明義務違反は問題になりませんか。

一般的には、署名があることは重要な証拠になり得ますが、それだけで説明義務違反が常に否定されるわけではありません。説明の内容、時期、患者の理解、代替治療や重大リスクの説明の有無によって結論が変わる可能性があります。具体的な検討は、同意書と説明経過を整理して弁護士等へ相談する必要があります。

Q4. カルテ開示を求めると病院との関係が悪くなりますか。

一般的には、診療情報の提供は患者の自己決定や信頼関係の観点から重要なものとされています。ただし、将来の通院関係、請求方法、表現の仕方によって受け止められ方が変わる可能性があります。必要資料と目的を整理し、冷静な手続として進めることが望まれます。

Q5. 医療訴訟はどれくらい時間がかかりますか。

一般的には、裁判所統計で令和5年の医事関係訴訟事件の平均審理期間は26.4か月とされています。ただし、これは訴訟提起後の平均であり、事前調査、交渉、ADR、控訴等を含めると期間は変わる可能性があります。個別の見通しは、事案の複雑さと証拠関係により異なります。

Q6. 医療訴訟は患者側が勝ちにくいのですか。

一般的には、令和5年の医事関係訴訟の認容率は20.0%とされています。ただし、これは判決になった事件の認容率であり、和解で終了した事件は含まれません。統計は個別事件の見通しを直接示すものではないため、医学的争点、証拠、損害、因果関係を個別に検討する必要があります。

Q7. 医療ADRと訴訟はどちらがよいですか。

一般的には、ADRは柔軟で話し合いに向いた手続とされ、訴訟は裁判所の判断を得る手続です。ただし、ADRは相手方が応じなければ進みにくく、強制的な証拠調べにも限界があります。目的、証拠状況、相手方の姿勢によって選択が変わるため、弁護士等へ相談する必要があります。

Q8. 医療事故調査制度の報告書があれば有利になりますか。

一般的には、調査報告書は重要な資料になり得ます。ただし、医療事故調査制度は過誤の有無を問わず、医療安全・再発防止を目的とする制度です。民事責任の有無は、別途、過失、因果関係、損害を検討する必要があります。

Q9. 患者本人が亡くなっている場合、遺族は訴訟できますか。

一般的には、死亡事案では相続人が患者本人の損害賠償請求権を相続して請求する場合があり、近親者固有の慰謝料が問題になることもあります。ただし、請求権者や請求範囲は相続関係や家族関係により変わる可能性があります。具体的には、戸籍、相続関係、損害資料を整理して弁護士等へ相談する必要があります。

Q10. どの時点で弁護士に相談するのがよいですか。

一般的には、診療記録を取得したい、説明内容に矛盾がある、重い後遺症や死亡が発生した、時効が心配、示談書を提示されたといった段階では、早期に相談を検討する必要があります。ただし、優先すべき対応は事案により異なるため、保有資料と時系列を整理したうえで弁護士等へ相談する必要があります。

Section 24

医療訴訟とは何かのまとめ

証拠、医学的調査、法的構成を冷静に整理することが出発点です。

医療訴訟とは、医療事故や医療過誤の疑いについて、裁判所で医療機関・医師等の法的責任を問う手続です。中心になるのは、当時の医療水準に照らした注意義務違反、説明義務違反、因果関係、損害の立証です。

医療訴訟は、医学と法律が交差する高度に専門的な分野です。患者側にとっては、医療機関が資料を持っているという証拠面の不利があり、因果関係の立証も容易ではありません。一方で、適切な証拠収集、医学的調査、弁護士による法的構成によって、真相解明や損害回復、再発防止につながる可能性があります。

医療訴訟を検討する際に重要なのは、感情的に断定することではなく、診療記録を取得し、時系列を整理し、医学的・法的な争点を冷静に見極めることです。疑問や不安がある場合は、医療事件に対応できる弁護士等へ早めに相談し、証拠と見通しを確認することが実務上の第一歩になります。

Reference

参考資料

公的機関、裁判所、法令、医療安全関係資料を中心に整理しています。

裁判所・公的機関

  • 最高裁判所「医事関係訴訟委員会について」
  • 最高裁判所「医事関係訴訟事件統計1 医事関係訴訟事件の処理状況及び平均審理期間(平成11年~令和5年)」
  • 最高裁判所「医事関係訴訟事件統計2 医事関係訴訟事件の終局区分別既済件数及びその割合(平成11年~令和5年)」
  • 最高裁判所「医事関係訴訟事件統計3 地裁民事第一審通常訴訟事件・医事関係訴訟事件の認容率(平成11年~令和5年)」
  • 最高裁判所「医事関係訴訟事件統計4 医事関係訴訟事件(地裁)の診療科目別既済件数(平成29年~令和5年)」
  • 厚生労働省「医療事故調査制度に関するQ&A(Q2)」
  • 厚生労働省「医療事故情報収集等事業について」
  • 厚生労働省「診療情報の提供等に関する指針の策定について」
  • 政府広報オンライン「法的トラブル解決には、『ADR(裁判外紛争解決手続)』」

法令・医療安全・裁判例資料

  • 日本法令外国語訳データベース「民法」
  • 日本法令外国語訳データベース「民事訴訟法」
  • 公益財団法人日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」
  • 医療安全推進者ネットワーク「未熟児網膜症に関する最高裁判決。医療水準についての判断基準を示す」
  • 医療安全推進者ネットワーク「乳がん手術にあたり未確立の乳房温存療法についても医師の説明義務を認めた最高裁判決」
  • NDLサーチ「医療過誤 重要裁判例紹介(最高裁判所第二小法廷平成12.9.22判決)」