2σ Guide

示談書に必ず入れるべき条項と
書いてはいけない条項

示談書の条項は、紛争を終わらせる力と、将来の請求を制限する力を同時に持ちます。必要な条項と避けるべき条項を、一般情報として分野別・手順別に整理します。

23必要条項
15避ける条項
5実務手順
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示談書に必ず入れるべき条項と 書いてはいけない条項

示談書の条項は、紛争を終わらせる力と、将来の請求を制限する力を同時に持ちます。

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示談書に必ず入れるべき条項と 書いてはいけない条項
示談書の条項は、紛争を終わらせる力と、将来の請求を制限する力を同時に持ちます。
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  • 示談書に必ず入れるべき条項と 書いてはいけない条項
  • 示談書の条項は、紛争を終わらせる力と、将来の請求を制限する力を同時に持ちます。

POINT 1

  • 示談書に必要な条項と避ける条項の全体像
  • まず、条項が持つ効果とリスクをまとめて確認します。
  • 必ず検討する条項
  • 書いてはいけない条項
  • 事案別に調整する条項

POINT 2

  • 1. 示談書とは何か
  • 重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。
  • 1-1. 示談とは、話し合いで紛争を終わらせる合意である
  • 1-3. 通常の示談書、調停調書、公正証書の違い
  • 「示談」とは、当事者が話し合いにより紛争を解決することをいいます。

POINT 3

  • 2. 示談書作成の法的前提
  • 重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。
  • 2-1. 「合意したから何でも有効」ではない
  • 2-2. 示談書は「権利を失う文書」でもある
  • 2-3. 非弁行為にも注意する

POINT 4

  • 3. 示談書に必ず入れるべき条項
  • 重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。
  • 3-1. 当事者表示条項
  • 3-2. 紛争・事件の特定条項
  • 3-3. 事実関係・責任の確認条項

POINT 5

  • 4. 示談書に書いてはいけない条項
  • 1. 対象範囲が限定されているか:「本件紛争に関し」など、清算範囲を示す文言を確認します。
  • 2. 支払完了を条件にしているか:支払前に請求放棄だけが先に発生しない設計かを確認します。
  • 3. 正当な相談や手続まで禁止していないか:専門家、医療、税務、警察、裁判所、行政、保険会社への必要な説明を残します。

POINT 6

  • 5. 事案別の注意点
  • 交通事故
  • 症状固定、後遺障害、過失割合、人身・物損の切り分けを確認します。
  • 刑事事件
  • 宥恕、告訴・被害届、接触禁止、刑事処分の保証禁止を確認します。

POINT 7

  • 6. 示談書作成の実務プロセス
  • 1. 支払者・受領者・金額を特定:誰が誰にいくら支払うのかを、名目と内訳を含めて整理します。
  • 2. 期限・方法・手数料を明記:年月日、振込先、振込手数料、領収証、支払確認後の義務を定めます。
  • 3. 公正証書や和解調書を検討:高額・分割・資力不安がある場合は、強制執行認諾文言付き公正証書などを検討します。

POINT 8

  • 7. 示談書チェックリスト
  • 重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。

まとめ

  • 示談書に必ず入れるべき条項と 書いてはいけない条項
  • 示談書に必要な条項と避ける条項の全体像:まず、条項が持つ効果とリスクをまとめて確認します。
  • 1. 示談書とは何か:重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。
  • 2. 示談書作成の法的前提:重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

示談書に必要な条項と避ける条項の全体像

まず、条項が持つ効果とリスクをまとめて確認します。

示談書の条項は、必要なものを並べるだけでは足りません。範囲、条件、例外、履行確保を読まないと、必要な請求まで失ったり、効力が問題になる文言を置いたりする可能性があります。次の重要ポイントから、必要条項と避ける条項の違いを読み取ってください。

NEED

必ず検討する条項

当事者、事件特定、支払、清算、守秘、署名押印など、ほとんどの示談書で確認する基本条項です。

AVOID

書いてはいけない条項

刑事処分の保証、証拠隠滅、専門家相談の禁止、将来損害の無条件放棄など、効力や適法性が問題になりやすい条項です。

DESIGN

事案別に調整する条項

交通事故、刑事、労働、SNS、消費者など、分野ごとに残すべき請求と避けるべき文言が変わります。

次の強調部分は、条項設計の中心を示しています。重要なのは、条項の数ではなく、権利放棄と履行確保の均衡です。読者は、見た目の整った文言よりも、署名後に生じる効果を読み取ってください。

条項設計の核

示談書は、紛争を終わらせる文書であると同時に、将来の紛争を作ってしまう文書にもなり得ます。

Section 01

1. 示談書とは何か

重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。

1-1. 示談とは、話し合いで紛争を終わらせる合意である

「示談」とは、当事者が話し合いにより紛争を解決することをいいます。法律用語としては、民法上の「和解」に近い概念です。民法695条は、和解を、当事者が互いに譲歩して争いをやめることを約する契約として定めています。つまり、示談書は、多くの場合、和解契約の内容を文書化したものです。

ただし、文書の表題が「示談書」「和解契約書」「合意書」「確認書」のどれであるかによって効力が自動的に決まるわけではありません。重要なのは、当事者が何に合意したのか、どの権利義務を発生・変更・消滅させたのかです。

1-2. 示談書の4つの機能

示談書には、少なくとも次の4つの機能があります。

次の比較表は、1. 示談書とは何かを整理したものです。項目ごとの違いを先に把握することが重要で、左から順に分類、内容、注意点を読み取り、該当する行を重点的に確認してください。

機能内容典型的な条項
紛争解決機能どの紛争を、どの条件で終わらせるかを決める事件特定、清算条項、請求放棄
証拠化機能後日「言った・言わない」を防ぐ当事者表示、署名押印、日付
履行確保機能支払・削除・返還などを実行させる支払期限、期限の利益喪失、違約金、公正証書化
リスク遮断機能再発・口外・接触・追加請求を管理する守秘義務、接触禁止、誹謗中傷禁止、将来損害留保

示談書を「金額だけを書く紙」と考えると失敗します。示談書は、紛争の出口を設計し、将来の火種を減らすための法的文書です。

1-3. 通常の示談書、調停調書、公正証書の違い

当事者同士で作成した通常の示談書は、重要な証拠にはなります。しかし、原則として、それだけで直ちに相手の預金や給与を差し押さえられるわけではありません。

次の比較表は、1. 示談書とは何かを整理したものです。項目ごとの違いを先に把握することが重要で、左から順に分類、内容、注意点を読み取り、該当する行を重点的に確認してください。

種類作成主体・場面強制執行との関係
私的な示談書当事者同士、または代理人を通じて作成証拠にはなるが、通常それだけでは差押えできない
裁判上の和解調書裁判所の訴訟手続内で成立確定判決と同様に強制執行の根拠になり得る
調停調書民事調停・家事調停等で成立確定判決と同様の効力を持つ場合がある
強制執行認諾文言付き公正証書公証人が作成し、債務者が強制執行を受ける旨を認める金銭債務等について裁判を経ず強制執行の根拠になり得る

高額な示談金、分割払い、相手方の支払能力に不安がある事案では、「払ってもらえなかったらどうするか」を示談書作成時点で考える必要があります。

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Section 02

2. 示談書作成の法的前提

重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。

2-1. 「合意したから何でも有効」ではない

示談書は契約の一種ですが、当事者が署名したからといって、どのような条項でも有効になるわけではありません。民法90条は、公の秩序または善良の風俗に反する法律行為を無効としています。犯罪行為を助長する合意、証拠隠滅を目的とする合意、違法行為を隠すための合意、過度に人身の自由を拘束する合意などは、効力が問題になり得ます。

また、錯誤、詐欺、強迫、説明不足、代理権の欠缺、消費者契約法上の不当条項などがあれば、示談書の有効性が争われることがあります。

2-2. 示談書は「権利を失う文書」でもある

示談書で最も注意すべきものが、清算条項です。清算条項とは、示談書に定めたもの以外に、当事者間の債権債務が存在しないことを確認する条項です。

たとえば、次のような文言です。

文例甲および乙は、本件紛争に関し、本示談書に定めるほか、相互に何らの債権債務が存在しないことを確認する。

この条項は、紛争を終わらせるために非常に有用です。しかし、範囲を誤ると、まだ判明していない後遺障害、未払賃金、別件の貸金、将来発生する損害まで失う可能性があります。

示談書は「請求するための文書」であると同時に、「請求しないことを約束する文書」でもあります。この二面性を理解することが重要です。

2-3. 非弁行為にも注意する

弁護士でない者が、報酬を得る目的で、法律事件について代理、和解、法律相談などを業として取り扱うことは、弁護士法上問題となる場合があります。企業の法務・広報担当者が自社の案件について社内文書を整えることと、第三者の法律事件を報酬目的で扱うことは、法的に意味が異なります。

この記事をもとに記事を公開する場合も、「個別事件の示談書を作成します」「相手と交渉します」といった表示は、業務内容や資格との関係で慎重に確認する必要があります。

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Section 03

3. 示談書に必ず入れるべき条項

重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。

以下は、ほとんどの示談書で検討すべき基本条項です。ただし、すべての事案に同じ文言を入れればよいわけではありません。重要なのは、「この事案で何を確定し、何を留保するか」を考えることです。

3-1. 当事者表示条項

目的

誰と誰の合意なのかを明確にする条項です。

入れるべき内容

  • 個人の場合 ― 氏名、住所、生年月日など
  • 法人の場合 ― 法人名、本店所在地、代表者名
  • 代理人がいる場合 ― 代理人名、資格、代理権の根拠
  • 未成年者の場合 ― 親権者・法定代理人の関与
  • 会社担当者の場合 ― 会社を代表する権限の有無
  • 相続人・成年後見人・破産管財人などが関係する場合 ― 権限資料

注意点

当事者表示が曖昧だと、後日「その人と合意した覚えはない」「会社ではなく担当者個人の合意だ」「代理人に権限がなかった」と争われます。

刑事事件、性被害、ストーカー、DV、ハラスメントなどでは、被害者の住所や勤務先を相手方に知られたくない場合があります。その場合は、弁護士など代理人を通じて、本人の住所を文書に出さない設計が検討されます。

3-2. 紛争・事件の特定条項

目的

どの紛争を解決する示談なのかを明確にする条項です。

入れるべき内容

  • 発生日または対象期間
  • 発生場所
  • 当事者・関係者
  • 事故、投稿、契約、貸付、行為などの概要
  • 警察、裁判所、保険会社、社内調査などの事件番号
  • 「本件」「本件事故」「本件投稿」などの定義

危険な例

文例甲乙は、甲乙間の一切の問題について示談する。

この文言は広すぎます。別件まで含むのか、過去のすべてのやり取りを含むのか、将来判明する損害を含むのかが分かりません。

修正例

文例甲および乙は、2026年4月1日午後3時頃、東京都内の〇〇交差点付近において発生した甲運転車両と乙運転車両の接触事故(以下「本件事故」という。)に関し、本示談書を締結する。

事件特定は、清算条項、請求放棄、守秘義務、再発防止条項の範囲を決める基礎です。ここが曖昧な示談書は、後で必ず弱くなります。

3-3. 事実関係・責任の確認条項

目的

どの事実を前提に合意するのか、法的責任を認めるのか否かを整理する条項です。

入れるべき内容

  • 争いのない事実
  • 争いが残る事実
  • 責任を認めるか
  • 責任を認めないが解決金を支払うか
  • 謝罪の有無
  • 将来の手続で使われ得る事実確認か

文例 ― 責任を認める場合

文例乙は、本件行為により甲に精神的苦痛を与えたことを認め、甲に対し謝罪する。

文例 ― 責任認定を留保する場合

文例乙は、法的責任の有無についての主張を留保しつつ、本件紛争を早期かつ円満に解決するため、甲に対し解決金を支払う。

「責任を認めるかどうか」は、民事責任、刑事手続、社内処分、保険、レピュテーションに影響します。曖昧にすると、支払側・受取側の双方に火種が残ります。

3-4. 示談金・解決金の支払条項

目的

いくらを、誰が、誰に、いつ、どの方法で支払うのかを明確にする条項です。

入れるべき内容

  • 金額
  • 支払名目
  • 支払期限
  • 支払方法
  • 振込先
  • 振込手数料の負担者
  • 分割払いの場合の各回支払日と金額
  • 源泉徴収、消費税、税務処理が問題になる場合の扱い

文例

文例乙は、甲に対し、本件紛争の解決金として金50万円を、2026年6月30日限り、甲が別途指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。

「速やかに支払う」「できるだけ早く支払う」という文言は避けます。支払期限は、年月日で特定します。

3-5. 分割払い・期限の利益喪失・遅延損害金条項

目的

相手が約束どおり支払わなかった場合に備える条項です。

用語の定義

「期限の利益」とは、支払期限が来るまでは支払わなくてよいという債務者側の利益です。「期限の利益喪失」とは、分割払いを怠った場合などに、残額全部を直ちに支払わなければならなくすることです。

文例

文例乙が前条の分割金の支払を1回でも怠り、その未払額が金5万円以上となったときは、乙は当然に期限の利益を失い、甲に対し、未払残額全額およびこれに対する期限の利益喪失日の翌日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金を直ちに支払う。

注意点

遅延損害金や違約金は高ければよいわけではありません。消費者契約、利息制限、過大な制裁、公序良俗などの問題を確認する必要があります。

3-6. 債務承認条項

目的

相手方が支払義務を認めていることを明確にする条項です。

文例

文例乙は、甲に対し、本件紛争の解決金として金50万円を支払う義務を負うことを認める。

単に「乙は50万円を支払う」と書くよりも、「支払義務を負うことを認める」と明記した方が、後日「任意の見舞金だった」「義務ではなかった」と争われるリスクを下げられます。

3-7. 清算条項

目的

示談書に定めたもの以外に、当事者間に請求関係が残らないことを確認する条項です。

標準例

文例甲および乙は、本件紛争に関し、本示談書に定めるほか、相互に何らの債権債務が存在しないことを確認する。

危険例

文例甲および乙は、相互に一切の債権債務が存在しないことを確認する。

危険例には「本件紛争に関し」という限定がありません。別の貸金、未払賃金、売買代金、将来損害まで含むのかが争点になります。

3-8. 将来損害留保条項

目的

示談時点では判明していない損害を、後日請求できる余地として残す条項です。

文例

文例前条にかかわらず、本示談書締結時点で当事者が通常予見し得なかった後遺障害その他の損害が後日判明した場合には、甲は当該損害について別途協議または請求することができる。

特に必要になりやすい事案

  • 交通事故
  • 医療事故
  • 暴行・傷害
  • 労災
  • ハラスメントによる精神疾患
  • 継続的な健康被害
  • 建築・設備の瑕疵
  • 情報漏えいによる二次被害

示談時点で損害が確定していない場合、清算条項を入れる前に、将来損害を留保すべきか慎重に検討します。

3-9. 請求放棄・不提訴条項

目的

同じ紛争について、追加請求や訴訟提起をしないことを定める条項です。

文例

文例甲は、乙が本示談書に定める義務をすべて履行したことを条件として、本件紛争に関し、乙に対して民事上の追加請求をしない。

注意点

請求放棄は、支払完了を条件にするのが安全です。支払われていないのに請求放棄だけが先に発生する文言は、受取側に非常に不利です。

危険な文言は次のようなものです。

文例甲は、本示談書締結と同時に、乙に対する一切の請求を放棄する。

この文言では、相手が支払わなくても、すでに請求を放棄したと主張される余地があります。

3-10. 既存手続の処理条項

目的

すでに進行している裁判、調停、被害届、告訴、保険請求、社内通報などをどう扱うかを定める条項です。

入れるべき内容

  • 民事訴訟を取り下げるか
  • 調停申立てを取り下げるか
  • 仮差押え・仮処分を取り下げるか
  • 被害届・告訴・告発についてどのような対応をするか
  • 社内通報・行政申告・保険請求をどう扱うか
  • 取下げや対応の時期を支払完了後にするか

刑事事件での注意点

被害者が「宥恕する」、つまり加害者を許す、または厳重処罰を望まない意思を表明することはあります。しかし、私人間の示談によって、検察官の起訴・不起訴や裁判所の量刑を拘束することはできません。

したがって、次のような文言は避けます。

文例甲は、乙が不起訴になることを保証する。
文例甲は、乙が刑事処分を受けないようにする。

修正文例は次のようになります。

文例甲は、乙が本示談書に定める義務を履行した場合、乙に対する厳重処罰を求めない意思を有することを表明する。ただし、本条は捜査機関、検察官または裁判所の判断を拘束するものではない。

3-11. 守秘義務条項

目的

示談内容、交渉経過、紛争の事実を第三者に開示しないことを定める条項です。

入れるべき内容

  • 秘密情報の範囲
  • 開示禁止の対象者
  • 例外的に開示できる相手
  • 例外的に開示できる場面
  • 守秘義務の期間
  • 違反時の効果

文例

文例甲および乙は、本件紛争の存在、本示談書の内容および示談交渉の経過を、相手方の事前の書面による承諾なく第三者に開示しない。ただし、弁護士、税理士、医師、カウンセラー、保険会社、同居家族その他合理的に相談を必要とする者への開示、法令に基づく開示、裁判所・捜査機関・行政機関からの要請に基づく開示、権利行使または防御のために必要な開示はこの限りでない。

守秘義務で最も危険なのは、「一切誰にも話してはならない」とすることです。弁護士相談、医療相談、税務申告、警察・裁判所・行政機関への説明、公益通報、保険請求、家族への必要な相談まで封じる文言は、無効・不当・公序良俗違反の問題を生じさせる可能性があります。

守秘義務は、秘密を守るための条項であって、正当な相談や法的手続を妨害する条項ではありません。

3-12. 誹謗中傷禁止・名誉信用毀損禁止条項

目的

示談後のSNS投稿、口コミ、職場内拡散、再炎上を防ぐ条項です。

文例

文例甲および乙は、本件紛争に関し、インターネット、SNS、掲示板、口コミサイトその他媒体のいかんを問わず、相手方の名誉、信用または社会的評価を不当に低下させる投稿、発言、配信その他の行為をしない。

注意点

公益目的の通報、法令上必要な説明、裁判上の主張、被害回復のための正当な相談まで禁止する趣旨にしてはいけません。「不当に」「本件紛争に関し」など、範囲を適切に限定します。

3-13. 接触禁止・再発防止条項

目的

ストーカー、ハラスメント、近隣トラブル、学校・職場トラブルなどで、示談後の接触や再発を防ぐ条項です。

文例

文例乙は、甲に対し、面会、電話、電子メール、SNS、第三者を介した伝達その他方法のいかんを問わず、甲の事前の書面による承諾なく接触しない。ただし、法令上または業務上必要な連絡は、双方が別途定める窓口を通じて行うものとする。

注意点

職場や学校などで完全な接触禁止が現実的でない場合は、窓口、業務上必要な接触、緊急時の対応、第三者同席などを具体的に定めます。

3-14. 資料返還・データ削除・投稿削除条項

目的

個人情報、写真、動画、録音、業務資料、顧客情報、SNS投稿、口コミなどを適切に処理する条項です。

入れるべき内容

  • 返還・削除対象
  • 期限
  • 削除方法
  • バックアップの扱い
  • 削除証明の方法
  • 証拠保全の例外
  • 法令上保存義務がある資料の扱い

文例

文例乙は、別紙記載の投稿を、2026年〇月〇日限り削除し、削除完了後速やかに甲へ報告する。ただし、法令上保存義務のある資料および権利行使または防御のために合理的に必要な証拠の保存を妨げるものではない。

証拠隠滅を目的とする削除条項は危険です。裁判、捜査、行政調査、税務、社内調査で保存が必要な資料まで「すべて破棄する」と書くべきではありません。

3-15. 謝罪条項

目的

金銭だけでは解決しにくい紛争で、加害者側の謝罪や再発防止意思を明確にする条項です。

文例

文例乙は、本件行為により甲に精神的苦痛を与えたことについて、甲に対し謝罪する。

注意点

謝罪文言は、感情面の解決に役立つ一方で、責任を認める証拠として利用される可能性があります。支払側は「謝罪」と「法的責任の認否」をどう整理するか、受取側は「謝罪だけで終わるのか」「再発防止や金銭支払も必要か」を検討します。

3-16. 違反時の効果・違約金条項

目的

守秘義務、接触禁止、分割払い、投稿削除などに違反した場合の効果を定める条項です。

文例

文例乙が第〇条の接触禁止義務に違反した場合、乙は甲に対し、違反1回につき金10万円の違約金を支払う。ただし、甲にこれを超える損害が発生した場合、甲は乙に対し、その超過損害の賠償を請求することができる。

注意点

違約金は、履行確保のための条項です。脅し文句ではありません。過大な違約金、制裁目的だけの違約金、消費者に一方的に不利な違約金は、効力が争われる可能性があります。

3-17. 公正証書化条項

目的

金銭支払義務の履行を確保するため、強制執行認諾文言付き公正証書の作成に協力することを定める条項です。

文例

文例乙は、甲から請求があったときは、本示談書に基づく金銭支払債務について、強制執行認諾文言付き公正証書の作成に協力する。公正証書作成費用は乙の負担とする。

注意点

公正証書にすれば何でも強制執行できるわけではありません。金銭支払など一定の債務について、債務者が直ちに強制執行に服する旨を陳述する文言が必要です。接触禁止や謝罪そのものを、公正証書だけで直接強制することには限界があります。

3-18. 費用負担条項

目的

弁護士費用、公正証書作成費用、振込手数料、印紙代、交通費、鑑定費、保険手続費用などの負担を明確にする条項です。

文例

文例本示談書の作成および履行に要する費用は、本示談書に別段の定めがある場合を除き、各自の負担とする。ただし、振込手数料および公正証書作成費用は乙の負担とする。

費用負担を明確にしないと、少額でも後日争いになります。

3-19. 税務・印紙に関する確認条項

目的

示談金の税務処理、領収書、印紙税などの問題を整理する条項です。

注意点

損害賠償金や慰謝料は、性質によって税務上の扱いが変わります。身体的・精神的損害に対する損害賠償金は非課税となる場面が多い一方、事業収入の補償、営業損害、給与相当額、解決金名目などでは税務判断が必要になることがあります。

また、印紙税は文書のタイトルではなく、記載内容によって課税文書該当性が判断されます。示談書、領収書、債務承認書、売買代金の受領書などは、内容に応じて印紙税の確認が必要です。

3-20. 合意管轄条項

目的

将来紛争が再燃した場合に、どの裁判所で争うかを定める条項です。

文例

文例甲および乙は、本示談書に関して紛争が生じた場合、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

注意点

消費者を相手にする契約では、事業者に一方的に有利な管轄条項が問題になる可能性があります。遠方の裁判所を指定して相手の権利行使を事実上困難にする条項は、慎重に検討します。

3-21. 完全合意条項

目的

示談書に書かれた内容が、最終的な合意内容であることを確認する条項です。

文例

文例本示談書は、本件紛争に関する甲乙間の完全な合意を構成し、本示談書締結前の口頭または書面による協議、提案、申入れその他の合意に優先する。

注意点

完全合意条項を入れる場合、書き漏れがあると「示談書に書かれていない以上、合意内容ではない」と扱われるリスクがあります。重要な約束は必ず本文に明記します。

3-22. 任意性・理解確認条項

目的

後日、強迫、錯誤、説明不足などを理由に争われるリスクを減らす条項です。

文例

文例甲および乙は、本示談書の内容を十分に読み、理解し、必要に応じて専門家に相談する機会を得たうえで、自由な意思に基づき本示談書を締結する。

この条項を書いただけで強迫や詐欺が治癒されるわけではありません。実際に、全文を読ませる、説明する、考える時間を与える、専門家相談を妨げないことが重要です。

3-23. 署名押印・電子署名・原本保管条項

紙の示談書の場合

  • 署名または記名押印
  • 実印と印鑑登録証明書の利用
  • 身分証の確認
  • 各ページへの契印
  • 2通作成し、各自1通保管

電子契約の場合

電子署名サービスを使う場合は、本人確認、署名時刻、改ざん防止、監査ログ、契約データの保存方法を確認します。

文例

文例本示談書は2通作成し、甲乙各自署名押印のうえ、各1通を保有する。

または、

文例甲および乙は、本示談書を電磁的記録として作成し、電子署名を行う方法により締結することができる。この場合、当該電子署名済み電磁的記録は、本示談書の原本として取り扱う。

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Section 04

4. 示談書に書いてはいけない条項

重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。

次の判断の流れは、清算や守秘の条項をそのまま受け入れてよいかを確認する順番を表しています。分岐の順番が重要なのは、範囲、条件、例外のどれかが欠けると重大な権利放棄につながるためです。上から下へ、危険度が高まる箇所を読み取ってください。

条項リスクの判断の流れ

対象範囲が限定されているか

「本件紛争に関し」など、清算範囲を示す文言を確認します。

支払完了を条件にしているか

支払前に請求放棄だけが先に発生しない設計かを確認します。

正当な相談や手続まで禁止していないか

専門家、医療、税務、警察、裁判所、行政、保険会社への必要な説明を残します。

ここからは、示談書に書いてはいけない、または強く避けるべき条項を解説します。

4-1. 範囲が広すぎる「一切清算」条項

危険な文言

文例甲および乙は、相互に一切の債権債務がないことを確認する。

なぜ危険か

「本件紛争に関し」という限定がないため、別件の貸金、未払賃金、売買代金、損害賠償請求、将来判明する後遺障害まで含むのかが問題になります。

修正文例

文例甲および乙は、本件事故に関し、本示談書に定めるほか、相互に何らの債権債務が存在しないことを確認する。ただし、本示談書締結時点で通常予見し得なかった後遺障害が後日判明した場合はこの限りでない。

4-2. 支払前に請求放棄させる条項

危険な文言

文例甲は、本示談書締結と同時に、乙に対する請求をすべて放棄する。

なぜ危険か

乙が示談金を支払わなかった場合でも、甲が請求放棄をしたと主張されるおそれがあります。

修正文例

文例甲は、乙が本示談書に基づく支払義務をすべて履行したことを条件として、本件紛争に関する追加請求をしない。

4-3. 「誰にも一切話してはならない」条項

危険な文言

文例甲は、本件について、家族、弁護士、警察、裁判所、行政機関、医師、報道機関その他一切の第三者に話してはならない。

なぜ危険か

弁護士相談、医療相談、行政申告、警察・裁判所への説明、税務申告、保険請求、公益通報、権利行使、防御活動まで妨げる可能性があります。

修正文例

文例ただし、弁護士、税理士、医師、カウンセラー、保険会社、同居家族、裁判所、捜査機関、行政機関その他法令上または権利行使・防御上必要な相手方への開示はこの限りでない。

4-4. 刑事処分の結果を保証する条項

危険な文言

文例甲は、乙が不起訴処分となることを保証する。
文例甲は、乙が逮捕されないようにする。
文例甲は、乙が刑罰を受けないことを約束する。

なぜ危険か

私人間の示談は、検察官や裁判所の判断を拘束できません。被害者が処罰感情を和らげることや、告訴の取下げを検討することはありますが、刑事処分の結論を保証することはできません。

4-5. 事実と異なる内容を認めさせる条項

危険な文言

文例甲は、実際には被害を受けていないことを認める。
文例乙の行為は一切存在しなかったことを確認する。

なぜ危険か

示談のために虚偽の事実を文書化すると、後日、詐欺、強迫、名誉毀損、証拠隠滅、虚偽説明などの問題に発展する可能性があります。事実に争いがあるなら、「当事者間に争いがあるが、早期解決のために合意する」と整理します。

4-6. 将来の全損害を無条件に放棄させる条項

危険な文言

文例甲は、現在および将来発生する一切の損害について、乙に何ら請求しない。

なぜ危険か

交通事故、医療事故、暴行、労災、ハラスメント、健康被害などでは、示談時点で後遺障害や精神疾患が明らかになっていないことがあります。将来損害を無条件に放棄すると、後で重大な症状が判明しても請求できないと主張されるおそれがあります。

4-7. 消費者の権利を一方的に奪う条項

危険な文言

文例事業者は、いかなる理由があっても一切責任を負わない。
文例消費者は、事業者に対して一切の損害賠償請求をしない。
文例事業者に故意または重大な過失がある場合でも、事業者は責任を負わない。

なぜ危険か

消費者契約では、事業者と消費者の情報量・交渉力の格差を踏まえ、不当な勧誘による契約取消しや不当条項の無効が問題になります。事業者側が消費者との示談書を作成する場合、免責条項、過大な違約金、キャンセル禁止、管轄条項、守秘義務は特に慎重に設計します。

4-8. 過大な違約金・制裁金条項

危険な文言

文例甲が本示談書に少しでも違反した場合、甲は乙に対し1億円を支払う。

なぜ危険か

違約金は履行確保に役立ちますが、金額が過大だと、公序良俗、消費者契約法、権利濫用などの問題が生じます。違反の内容、予想される損害、当事者の属性、交渉過程に照らして合理的な金額にする必要があります。

4-9. 弁護士相談を禁止する条項

危険な文言

文例甲は、本示談書の内容について、弁護士その他専門家に相談してはならない。

なぜ危険か

このような条項は、当事者の適切な意思決定や権利行使を妨げます。むしろ後日の紛争予防という観点では、必要に応じて専門家相談の機会を与えたうえで締結する方が安全です。

4-10. 公益通報・行政申告を妨げる条項

危険な文言

文例甲は、本件について、監督官庁、労働基準監督署、消費生活センターその他行政機関に一切通報または申告してはならない。

なぜ危険か

公益通報者保護制度や各種行政手続は、法令違反の是正や被害防止のための制度です。示談書で正当な通報・申告を一律に禁止しようとする条項は、無効・不当と評価される可能性があります。

4-11. 証拠隠滅・虚偽説明を求める条項

危険な文言

文例甲は、本件に関する録音、写真、診断書、メール、チャット履歴をすべて破棄し、今後いかなる機関にも提出しない。

なぜ危険か

資料の返還・削除は必要な場合がありますが、証拠隠滅や法的手続の妨害を目的とする条項は危険です。犯罪、ハラスメント、労災、医療事故、消費者被害、企業不祥事などでは、証拠保全の必要性があります。

4-12. 第三者の行為を勝手に保証する条項

危険な文言

文例甲は、甲の家族、勤務先、友人、報道機関が本件について一切発言しないことを保証する。

なぜ危険か

契約は原則として当事者を拘束するものであり、第三者を当然に拘束するものではありません。本人がコントロールできない第三者の行為まで保証すると、履行不能や過大な責任を負うおそれがあります。

4-13. 住所や個人情報を過度に開示させる条項

危険な文言

文例被害者は、加害者に対し、自宅住所、勤務先、電話番号、家族構成を開示する。

なぜ危険か

性被害、ストーカー、DV、ハラスメント、刑事事件などでは、被害者の住所や勤務先を相手に知らせること自体が二次被害や再接触リスクを生みます。本人特定のために必要な情報と、安全確保のために秘匿すべき情報は分けて考えるべきです。

4-14. 労働法上の権利を包括的に放棄させる条項

危険な文言

文例労働者は、未払賃金、残業代、退職金、労災、ハラスメントその他会社に対する一切の請求を放棄する。

なぜ危険か

労働関係では、賃金、残業代、解雇、退職、労災、ハラスメント、社会保険、税務など複数の問題が絡みます。包括的な権利放棄は、労働者の真意、情報格差、強迫性、法令違反との関係で争われやすい領域です。

4-15. 「違反したら逮捕される」など虚偽の法的効果を書く条項

危険な文言

文例甲が本示談書に違反した場合、甲は直ちに逮捕される。

なぜ危険か

私人間の契約で、逮捕や刑罰を直接発生させることはできません。違反時の効果として書けるのは、主に違約金、損害賠償、解除、期限の利益喪失、差止請求の検討などです。刑事手続を脅し文句として使う条項は避けるべきです。

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Section 05

5. 事案別の注意点

重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。

次の一覧は、分野ごとに見落としやすい要素を整理したものです。事案ごとに失う権利が違うため重要で、各項目から、自分の紛争に近い領域で追加確認すべき論点を読み取ってください。

交通事故

症状固定、後遺障害、過失割合、人身・物損の切り分けを確認します。

刑事事件

宥恕、告訴・被害届、接触禁止、刑事処分の保証禁止を確認します。

労働・消費者

未払賃金、退職、公益通報、行政相談、消費者契約法上の不当条項を確認します。

5-1. 交通事故

交通事故では、損害項目が多く、症状固定や後遺障害の有無によって金額が大きく変わります。症状固定とは、治療を続けても大幅な改善が見込めない状態をいいます。後遺障害が疑われる場合、示談は特に慎重に行う必要があります。

入れるべき条項

  • 事故日時・場所・車両・事故態様
  • 過失割合
  • 人身損害と物損の範囲
  • 治療費、休業損害、慰謝料、後遺障害の扱い
  • 既払金の控除
  • 保険会社の支払との関係
  • 将来損害留保

書いてはいけない条項

  • 症状固定前に後遺障害をすべて放棄する条項
  • 物損だけの示談なのに人身損害まで清算する条項
  • 後日判明した損害を一切請求できない条項

5-2. 刑事事件・被害弁償

刑事事件の示談では、被害弁償、謝罪、宥恕、接触禁止、被害者情報の秘匿、被害届・告訴の扱いが問題になります。

入れるべき条項

  • 事件の特定
  • 被害弁償額
  • 支払期限
  • 謝罪の有無
  • 宥恕の有無
  • 被害届・告訴の取下げを検討するか
  • 接触禁止
  • 被害者情報の秘匿
  • 守秘義務と例外

書いてはいけない条項

  • 不起訴、無罪、逮捕回避を保証する条項
  • 被害者に虚偽の供述を求める条項
  • 被害者の住所・勤務先を不必要に開示する条項
  • 警察・検察・裁判所への説明を一律に禁止する条項

5-3. ハラスメント・労働紛争

職場のハラスメント、退職、解雇、未払賃金、残業代、労災などの紛争では、示談書が労働者の生活やキャリアに大きく影響します。

入れるべき条項

  • 対象行為・対象期間
  • 謝罪・再発防止
  • 異動、接触禁止、連絡窓口
  • 未払賃金や残業代の処理
  • 退職日、退職理由、離職票
  • 社会保険、源泉徴収票、貸与品返還
  • 守秘義務の例外
  • 公益通報・行政申告の扱い

書いてはいけない条項

  • 労働基準監督署、労働局、弁護士、医師への相談を禁止する条項
  • 未払賃金を曖昧に放棄させる条項
  • 退職理由を虚偽にする条項
  • 会社側の再発防止義務を一切書かず、労働者だけに守秘義務を負わせる条項

5-4. SNS・名誉毀損・口コミトラブル

SNS投稿や口コミトラブルでは、投稿削除、謝罪、再投稿禁止、発信者情報、スクリーンショット、検索結果、拡散先などが問題になります。

入れるべき条項

  • 対象投稿のURL、投稿日時、アカウント名
  • 削除期限
  • 再投稿禁止
  • 同趣旨投稿の禁止
  • 謝罪文の文案と掲載期間
  • 検索キャッシュや転載先への対応
  • 違反時の違約金

書いてはいけない条項

  • 正当なレビューや公益目的の告発まで無差別に禁止する条項
  • 第三者の投稿削除を本人に保証させる条項
  • 「インターネット上のすべての情報を消す」といった履行不能な条項

5-5. 消費者トラブル

消費者と事業者の示談では、消費者契約法、特定商取引法、景品表示法、個人情報保護法などが絡むことがあります。

事業者側が注意すべき点

  • 全面免責条項を置かない
  • 消費者の解除権、取消権、損害賠償請求権を不当に制限しない
  • 過大な違約金を設定しない
  • 消費者が理解できない専門用語だけでまとめない
  • クレーム封じのために過度な守秘義務を置かない
  • 行政機関や消費生活センターへの相談を妨げない

消費者側が注意すべき点

  • 返金条件と返金期限
  • 商品返還やサービス停止の扱い
  • クレジット、ローン、サブスクリプションの解約処理
  • 個人情報の削除・利用停止
  • 守秘義務の範囲

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Section 06

6. 示談書作成の実務プロセス

重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。

次の時系列は、支払条件を設計してから不履行時の手段を検討するまでの順番を表しています。支払われなかった場合の備えを先に読むことが重要で、上から下へ、合意前の確認、支払条件、履行確保の順番を読み取ってください。

合意前

支払者・受領者・金額を特定

誰が誰にいくら支払うのかを、名目と内訳を含めて整理します。

支払条件

期限・方法・手数料を明記

年月日、振込先、振込手数料、領収証、支払確認後の義務を定めます。

履行確保

公正証書や和解調書を検討

高額・分割・資力不安がある場合は、強制執行認諾文言付き公正証書などを検討します。

6-1. 雛形にすぐ書き込まない

示談書作成で多い失敗は、インターネット上の雛形に名前と金額だけ入れてしまうことです。雛形は便利ですが、事案の違いを吸収してくれません。

最初に、次の事項を整理します。

  1. 何の紛争か
  2. 誰と誰の紛争か
  3. 何を認めるのか
  4. 何を争っているのか
  5. いくら支払うのか
  6. いつ支払うのか
  7. 支払われなかったらどうするのか
  8. 支払後に何を終わらせるのか
  9. 何を秘密にするのか
  10. 何を例外として残すのか

6-2. 証拠と資料を整理する

示談書は、証拠と無関係に作るものではありません。

交通事故なら、事故証明、診断書、診療明細、修理見積、休業損害証明、後遺障害診断書などが関係します。

ハラスメントなら、メール、チャット、録音、勤怠記録、診断書、社内相談記録、就業規則などが関係します。

SNSトラブルなら、投稿URL、スクリーンショット、発信日時、アカウント情報、削除状況などが必要です。

資料がないまま示談すると、金額や責任範囲が不正確になります。

6-3. 交渉経過を残す

示談交渉では、後から「強引に署名させられた」「そんな説明は受けていない」と言われることがあります。そのため、次のような記録を残すことが重要です。

  • 提案日
  • 提案内容
  • 修正履歴
  • 回答期限
  • 説明内容
  • 専門家相談の機会
  • 支払証憑
  • 署名押印の日時

6-4. 署名前に読み合わせを行う

署名前には、次の確認が重要です。

  • 当事者本人が全文を読んだか
  • 金額、期限、清算条項を理解したか
  • 支払前の請求放棄になっていないか
  • 将来損害の扱いを理解したか
  • 守秘義務の例外を理解したか
  • 専門家に相談する機会があったか
  • 署名日と効力発生日が明確か

6-5. 支払確認と履行管理をする

示談書は、署名して終わりではありません。支払が完了して初めて実質的に解決することも多いです。

  • 支払期限
  • 入金確認
  • 領収書の発行
  • 分割払いの履行状況
  • 投稿削除の確認
  • 貸与品返還
  • 接触禁止違反の有無
  • 公正証書化の進捗

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Section 07

7. 示談書チェックリスト

重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。

次の比較表は、7. 示談書チェックリストを整理したものです。項目ごとの違いを先に把握することが重要で、左から順に分類、内容、注意点を読み取り、該当する行を重点的に確認してください。

項目確認質問危険サイン
当事者誰と誰の合意か明確か屋号、ニックネーム、SNS名だけで記載
事件特定どの紛争を解決するか明確か「一切の問題」など広すぎる
金額金額・名目・期限・方法が明確か「速やかに支払う」だけ
分割払い支払遅延時の処理があるか期限の利益喪失がない
清算条項何を清算するか限定されているか本件限定がない
将来損害後遺障害などを留保すべきか将来損害を無条件放棄
守秘義務例外が明記されているか弁護士・医師・行政への相談まで禁止
刑事事件処罰意思の表明にとどまっているか不起訴や逮捕回避を保証
違約金金額が合理的か違反1回で過大な金額
署名押印本人確認・権限確認があるか代理権不明、会社権限不明
公正証書強制執行が必要か検討したか高額分割なのに私文書のみ
税務・印紙課税・印紙を確認したか名目だけで判断している

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Section 08

8. 使いやすい条項例

重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。

以下は一般的な条項例です。個別事案では、事案に合わせて調整してください。

8-1. 件名特定条項

文例甲および乙は、2026年〇月〇日、〇〇において発生した〇〇に関する紛争(以下「本件紛争」という。)について、以下のとおり合意する。

8-2. 支払条項

文例乙は、甲に対し、本件紛争の解決金として金〇〇円を、2026年〇月〇日限り、甲指定の銀行口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。

8-3. 期限の利益喪失条項

文例乙が分割金の支払を1回でも怠り、その未払額が金〇〇円以上となったときは、乙は当然に期限の利益を失い、甲に対し未払残額全額を直ちに支払う。

8-4. 清算条項

文例甲および乙は、本件紛争に関し、本示談書に定めるほか、相互に何らの債権債務が存在しないことを確認する。

8-5. 将来損害留保条項

文例前条にかかわらず、本示談書締結時点で通常予見し得なかった後遺障害その他の損害が後日判明した場合、甲は当該損害について乙に対し別途協議を求めることができる。

8-6. 守秘義務条項

文例甲および乙は、本件紛争の存在、本示談書の内容および交渉経過を、相手方の事前承諾なく第三者に開示しない。ただし、弁護士、税理士、医師、カウンセラー、保険会社、同居家族、裁判所、捜査機関、行政機関その他法令上または権利行使・防御上必要な相手方への開示はこの限りでない。

8-7. 誹謗中傷禁止条項

文例甲および乙は、インターネット、SNS、掲示板、口コミサイトその他媒体のいかんを問わず、本件紛争に関して相手方の名誉、信用または社会的評価を不当に低下させる投稿、発言、配信その他の行為をしない。

8-8. 接触禁止条項

文例乙は、甲の事前の書面による承諾なく、面会、電話、電子メール、SNS、第三者を介した伝達その他方法のいかんを問わず、甲に接触しない。ただし、法令上または業務上必要な連絡は、双方が別途定める窓口を通じて行う。

8-9. 公正証書化条項

文例乙は、甲から請求があった場合、本示談書に基づく金銭支払債務について、強制執行認諾文言付き公正証書の作成に協力する。公正証書作成費用は乙の負担とする。

8-10. 任意性確認条項

文例甲および乙は、本示談書の内容を十分に読み、理解し、必要に応じて専門家に相談する機会を得たうえで、自由な意思に基づき本示談書を締結する。

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Section 09

9. よくある質問

重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。

Q1. 示談書は手書きでも有効ですか。

一般的には、手書きでも、当事者、対象事件、合意内容、日付、署名などが明確であれば、有効な合意として扱われ得ます。ただし、読みやすさ、改ざん防止、保管性、証拠性の観点から、通常は印字した文書を作成し、署名押印する方法が望ましいです。 ただし、事案の内容、証拠、時期、契約条項によって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. 認印でも大丈夫ですか。

一般的には、認印でも直ちに無効になるわけではありません。しかし、本人が署名押印したことを後で争われるリスクを考えると、重要な示談では実印と印鑑登録証明書、本人確認書類、公正証書、電子署名などを検討します。 ただし、事案の内容、証拠、時期、契約条項によって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q3. 示談金を受け取ったら、必ず追加請求できなくなりますか。

一般的には、示談書の文言によります。清算条項や請求放棄条項がある場合、追加請求が制限されることがあります。支払を受ける前に、何を放棄するのか、将来損害をどう扱うのかを確認すべきです。 ただし、事案の内容、証拠、時期、契約条項によって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q4. 示談書を作ったのに相手が払わない場合はどうなりますか。

一般的には、通常の私的な示談書だけでは、直ちに差押えできないことがあります。支払われない場合は、訴訟、支払督促、調停、公正証書に基づく強制執行などを検討します。高額または分割払いの示談では、事前に強制執行認諾文言付き公正証書を検討する価値があります。 ただし、事案の内容、証拠、時期、契約条項によって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q5. 相手が「弁護士に相談するな」と言っています。従うべきですか。

一般的には、弁護士相談を禁止する条項や要求は、非常に危険です。示談書は権利義務を大きく左右する文書です。内容に不安がある場合は、署名前に専門家へ相談すべきです。 ただし、事案の内容、証拠、時期、契約条項によって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q6. 示談書に「今後一切口外しない」と書かれていたら、警察や裁判所にも話せませんか。

一般的には、文言によりますが、警察、裁判所、行政機関、弁護士、医師などへの正当な相談・説明まで一律に禁止する条項は問題があります。守秘義務条項には、法令上必要な開示や権利行使・防御のための開示を例外として入れるべきです。 ただし、事案の内容、証拠、時期、契約条項によって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q7. 示談書に署名した後でも取り消せますか。

一般的には、錯誤、詐欺、強迫、公序良俗違反、消費者契約法上の無効、不当な条項などがある場合、効力を争える可能性があります。ただし、簡単に取り消せるとは限らず、証拠や事情の検討が必要です。 ただし、事案の内容、証拠、時期、契約条項によって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q8. 示談書は弁護士に依頼しないと作れませんか。

一般的には、当事者自身が示談書を作ること自体は可能です。しかし、高額、分割払い、後遺障害、刑事事件、ハラスメント、消費者契約、会社間取引、労働紛争、守秘義務、将来損害、強制執行が絡む場合は、弁護士相談の必要性が高くなります。 ただし、事案の内容、証拠、時期、契約条項によって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

一般的には、--- ただし、事案の内容、証拠、時期、契約条項によって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Section 10

10. 実務上の結論

重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。

「示談書に必ず入れるべき条項と書いてはいけない条項」を検討するとき、重要なのは次の3点です。

第一に、「何を解決するのか」を明確にすることです。事件の特定が曖昧な示談書は、後日の紛争を防ぐ力が弱くなります。

第二に、「何を終わらせ、何を残すのか」を明確にすることです。清算条項、請求放棄、不提訴、将来損害の留保は、示談書の中核です。

第三に、「書いてはいけない条項」を避けることです。過度な守秘義務、刑事処分の保証、将来損害の無条件放棄、消費者の権利を奪う条項、弁護士相談や行政通報の禁止、証拠隠滅条項は、示談書の効力そのものを危うくします。

示談書は、紛争を終わらせる文書であると同時に、将来の紛争を作ってしまう文書にもなり得ます。雛形の空欄を埋めるのではなく、当事者、事件、損害、支払、清算、例外、履行確保、強制執行、税務、守秘、将来損害を一つずつ確認することが必要です。

迷う場合は、署名する前に弁護士などの専門家へ相談してください。示談書は、署名してから直すより、署名前に確認する方がはるかに安全です。

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Reference

参考情報・参照先

重要な確認点を、本文・表・注意点に分けて整理します。

  • e-Gov法令検索「民法」
  • Japanese Law Translation「Civil Code」
  • 法テラス「合意書(示談書)を作成する際には、どのようなことに気をつけたらよいでしょうか
  • 裁判所「民事調停」
  • 法務省「公正証書によって強制執行をするには」
  • 日本公証人連合会「公正証書」
  • e-Gov法令検索「民事執行法」
  • 消費者庁「消費者契約法」
  • e-Gov法令検索「消費者契約法」
  • 消費者庁「公益通報者保護法」
  • e-Gov法令検索「公益通報者保護法」
  • 法務省「電子署名及び認証業務に関する法律関係」
  • デジタル庁「電子署名」
  • 国税庁「No.7105 金銭又は有価証券の受取書、領収書」
  • 国税庁「No.7117 契約書の意義」
  • 国税庁「No.1700 加害者から治療費、慰謝料及び損害賠償金などを受け取ったとき」
  • 国土交通省「交通事故にあったときには」
  • 公益財団法人日弁連交通事故相談センター
  • 日本弁護士連合会「隣接士業・非弁活動・非弁提携対策」