2σ Guide

医療ADRで医療過誤トラブルを
解決する手続き

裁判外で説明、資料開示、再発防止、損害賠償、関係調整を目指す手続を一般情報として整理します。

5-6か月平均期間
3-4回期日目安
24.7か月医事訴訟
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医療ADRで医療過誤トラブルを 解決する手続き

裁判外で説明、資料開示、再発防止、損害賠償、関係調整を目指す手続を一般情報として整理します。

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医療ADRで医療過誤トラブルを 解決する手続き
裁判外で説明、資料開示、再発防止、損害賠償、関係調整を目指す手続を一般情報として整理します。
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2σ GUIDE ・ VIDEO

  • 医療ADRで医療過誤トラブルを 解決する手続き
  • 裁判外で説明、資料開示、再発防止、損害賠償、関係調整を目指す手続を一般情報として整理します。

POINT 1

  • 医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続きの全体像
  • 1. 資料整理:診療経過、診療録、損害、疑問点を整理します。
  • 2. 申立て:ADR機関の様式に合わせて書類を提出します。
  • 3. 参加確認:相手方が応じるか確認されます。
  • 4. 合意検討:説明、資料開示、再発防止、金銭解決などを話し合います。

POINT 2

  • 医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― まず押さえるべき用語の定義
  • 制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。
  • 2.1 ADR
  • 2.2 医療ADR
  • 2.3 医療事故

POINT 3

  • 医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 申立て前に行うべき準備
  • 制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。
  • 6.1 事実経過表を作る
  • 6.2 診療録・検査結果・画像を確保する
  • 6.3 「知りたいこと」と「求める解決」を分ける

POINT 4

  • 医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRの申立書に書くべき内容
  • 制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。
  • 7.1 当事者
  • 7.2 紛争の概要
  • 7.3 申立ての趣旨

POINT 5

  • 医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRの期日はどのように進むか
  • 制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。
  • 8.1 相手方の参加確認
  • 8.2 あっせん人・調停人の役割
  • 8.3 第1段階 ― 対話と相互理解

POINT 6

  • 医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRで合意できる内容
  • 制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。
  • 9.1 説明合意
  • 9.2 資料開示合意
  • 9.3 謝罪・遺憾表明・弔意表明

POINT 7

  • 医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRの費用
  • 制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。
  • 費用はADR機関によって異なります。
  • また、相談内容によっては鑑定料、出張交通費、日当等の実費が別途必要になる場合があるとされています。
  • 医療ADRを検討する際の費用項目は、次のとおりです。

POINT 8

  • 医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRと医事関係訴訟の現実的比較
  • 制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。
  • 医療過誤トラブルでは、最終的に訴訟を選択する事案もあります。
  • 医療ADRを選ぶか訴訟を選ぶかは、医事関係訴訟の負担と見通しを理解したうえで検討する必要があります。
  • これは、医事訴訟が専門性の高い分野であることを示しています。

まとめ

  • 医療ADRで医療過誤トラブルを 解決する手続き
  • 医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続きの全体像:裁判外で対話と合意形成を目指す制度を整理します。
  • 医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― まず押さえるべき用語の定義:制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。
  • 医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 申立て前に行うべき準備:制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続きの全体像

裁判外で対話と合意形成を目指す制度を整理します。

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続きとは、医療事故や医療過誤をめぐる患者側・医療機関側の対立について、裁判所の判決ではなく、中立的な第三者が関与する話合いにより、説明、資料開示、謝罪・遺憾表明、再発防止、損害賠償、関係調整などの合意を目指す手続です。

ADRは、一般に「裁判外紛争解決手続」と呼ばれます。医療ADRは、そのうち医療紛争に焦点を当てた専門的な手続です。医療紛争は、医学的専門性、診療録の読み解き、医療水準、過失、因果関係、損害評価、患者・家族の心理的負担、医療者側の説明責任や業務負担が複雑に絡みます。そのため、単に「病院が悪いか」「患者が勝てるか」だけで整理すると、実際の解決から遠ざかることがあります。

医療ADRの特徴は、法的責任の有無だけを判定するのではなく、当事者の対話と相互理解を通じて、現実的な解決を探る点にあります。日弁連も、医療ADRについて、医療行為の過失の有無という責任判定のみに終始せず、患者側・医療機関側双方の話合いの中で適切妥当な解決を目指すものと説明しています。

一方で、医療ADRには限界もあります。相手方の参加を強制できないこと、金銭支払を当然に命じられないこと、法的責任の確定をする手続ではないこと、時効完成猶予や執行力の扱いが機関・手続・認証の有無により異なり得ることなどです。したがって、医療ADRは「裁判より必ず有利な手段」ではなく、紛争の目的・証拠状況・相手方の姿勢・時効・費用・精神的負担を総合して選択する選択肢と理解する必要があります。

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続きは、おおむね次の流れで進みます。

  1. 医療事故・医療過誤の疑いについて、事実経過、診療録、説明内容、損害、疑問点を整理する。
  2. 医療ADRを扱う弁護士会・認証ADR機関・専門ADR機関を調べる。
  3. 申立書、証拠資料、委任状、法人資料など、各機関が指定する書類を準備する。
  4. 申立手数料を納付し、ADR機関へ申立てを行う。
  5. ADR機関が相手方に参加を打診する。
  6. 相手方が応諾すれば、あっせん人・調停人等が選任される。
  7. 期日で、診療経過、争点、説明希望、資料開示、金銭請求、再発防止策などを話し合う。
  8. 合意ができれば、和解契約書・合意書等を作成する。
  9. 合意できなければ、手続は不成立または終了となり、訴訟、民事調停、交渉、証拠保全、専門相談など別の手段を検討する。

政府広報オンラインが説明するADR一般の流れも、申立て、相手方への連絡、相手方の合意、調停人・あっせん人等を介した話合い、合意または不成立という構造です。

ただし、医療ADRは一般的な近隣トラブルや金銭貸借トラブルと違い、医学的な論点が入りやすい点に注意が必要です。たとえば、患者側が「手術ミスだ」と感じていても、法的には、当時の医療水準に照らして注意義務違反があったか、その違反と死亡・後遺障害・悪化との間に相当因果関係があるか、どの範囲の損害が認められるか、という形で論点が整理されます。

そのため、医療ADRの成功は、感情を抑えることだけで決まるわけではありません。むしろ重要なのは、感情を無視せず、同時に、事実・医学・法律・交渉条件を分けて整理することです。

次の判断の流れは、医療ADRの大まかな順番です。準備、申立て、参加確認、期日、合意または不成立の順に読むことで、どの段階で資料や時効を確認すべきかが分かります。

基本手順

資料整理

診療経過、診療録、損害、疑問点を整理します。

申立て

ADR機関の様式に合わせて書類を提出します。

参加確認

相手方が応じるか確認されます。

合意検討

説明、資料開示、再発防止、金銭解決などを話し合います。

Section 01

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― まず押さえるべき用語の定義

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

2.1 ADR

ADRとは、Alternative Dispute Resolution の略で、日本語では「裁判外紛争解決手続」と訳されます。裁判所の判決による解決だけではなく、あっせん、調停、仲裁など、第三者が関与して話合いまたは判断により紛争解決を図る手続を広く含みます。

ADRには、裁判所が行う民事調停などの司法型ADR、行政機関・行政関連機関が行う行政型ADR、弁護士会や各種団体など民間事業者が行う民間型ADRがあります。政府広報オンラインも、民間ADR事業者には弁護士会などの士業団体、業界団体、消費者団体、NPO法人などがあり、各分野の専門的知見を利用できることを特徴として説明しています。

2.2 医療ADR

医療ADRとは、医療事故、医療過誤、診療経過の説明、カルテ開示、死亡原因・後遺障害原因の説明、損害賠償、医療機関と患者の関係調整など、医療に関する紛争を対象とするADRです。

たとえば東京三弁護士会では、2007年9月から、医療に関するトラブルについて、医療紛争の経験が豊富な弁護士があっせん人となる医療ADRを実施していると案内しています。患者側代理人経験が豊富な弁護士、医療側代理人経験が豊富な弁護士が関与する体制も紹介されていますが、これらの弁護士は患者側・医療側の味方としてではなく、中立・公正な第三者として話合いの交通整理や調整を行うものとされています。

2.3 医療事故

医療事故は、医療の過程で患者に予期しない死亡、傷害、後遺障害、悪化等が生じた事象を広く指す言葉として使われます。ただし、医療事故という言葉には、医療者に法的過失がある場合だけでなく、不可避の合併症、偶発的な経過、説明不足、組織的な安全管理上の問題などが含まれ得ます。

2.4 医療過誤

医療過誤は、一般に、医療者または医療機関に注意義務違反があり、その違反によって患者に損害が生じた場合を指す言葉として使われます。法律上は、損害賠償請求の根拠として、不法行為責任や債務不履行責任が問題になります。

法務省の民法改正に関する資料も、損害賠償責任には、不法行為責任と債務不履行責任という二つの枠組みがあることを説明し、病院での手術ミスで後遺症が残った場合を債務不履行責任の例として挙げています。

2.5 医療紛争

医療紛争とは、医療行為をめぐって患者側と医療機関側の認識・評価・要求が対立している状態をいいます。医療過誤が法的に認められる場合もあれば、法的過誤までは認められないが説明不足や感情的対立が深刻化している場合もあります。

医療ADRが対象にしやすいのは、まさにこの「医療紛争」の段階です。まだ訴訟にするか決めきれていない、医療機関の説明を聞きたい、カルテを開示してほしい、金銭請求も検討しているがまず争点を整理したい、という場面で利用が検討されます。

2.6 あっせん、調停、仲裁

あっせん・調停は、中立的第三者が当事者の話合いを支援し、合意形成を促す手続です。第三者が当事者に解決を強制するものではありません。

仲裁は、当事者があらかじめ仲裁判断に従うことを合意し、第三者である仲裁人が判断を示す手続です。医療ADRと呼ばれる手続の中でも、機関によって「あっせん」「調停」「仲裁」の位置づけや名称が異なります。申立て前に、その機関の手続規程を確認する必要があります。

2.7 認証ADR・かいけつサポート

「かいけつサポート」とは、法務大臣の認証を受けた民間ADR事業者が行うADRの案内制度です。政府広報オンラインは、かいけつサポートについて、ADR法で定められた基準をクリアしているかを法務省が審査し、基準を満たす事業者を法務大臣が認証する制度と説明しています。

法務省の「かいけつサポート」サイトは、認証ADRについて、調停人・あっせん人が中立的第三者として仲介し、トラブル解決について合意できるよう話合いや交渉を促進し、利害を調整する手続と説明しています。また、認証ADR事業者による調停・あっせんには、時効の完成猶予や、成立した和解合意への執行力付与といったメリットがあると案内していますが、一部例外があり、詳細は認証ADR事業者に問い合わせる必要があるとされています。

ここで重要なのは、すべての医療ADRに同じ法的効果が自動的に生じるわけではないということです。認証の有無、対象業務の範囲、具体的な手続、和解の内容、改正法の適用関係などを確認しなければなりません。

Section 02

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRと裁判・民事調停・医療事故調査制度の違い

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

医療紛争の解決手段は、医療ADRだけではありません。混同されやすい制度を整理します。

次の比較表は、この章の情報を項目ごとに整理したものです。違いを横並びで確認すると、どの点を優先して見るべきかを読み取れます。

手段主な目的第三者強制力・判断向いている場面注意点
医療ADR話合いによる合意形成あっせん人・調停人等原則として合意が必要説明、カルテ開示、損害賠償、再発防止、関係調整相手方が参加しないと進まない。法的責任の確定手続ではない。
民事訴訟権利義務の判断裁判官判決に強制力損害賠償責任を法的に確定したい時間・費用・立証負担が大きい。
裁判所の民事調停裁判所での話合い調停委員会合意すれば調停成立裁判所関与の下で合意したい医療専門性の確保は事案により異なる。
直接交渉当事者間の解決なし、または代理人合意が必要関係が比較的良好、争点が明確感情的対立や情報格差が大きいと停滞しやすい。
医療事故調査制度医療事故の原因分析・再発防止医療事故調査・支援センター等損害賠償を決める制度ではない医療法上の対象事故、死亡事例等患者側の賠償請求手続ではない。
医療安全支援センター等への相談苦情・相談・情報提供行政・相談機関仲裁判断ではないまず相談したい、窓口を知りたい損害賠償交渉の代理は通常しない。

3.1 医療ADRと訴訟の違い

訴訟では、証拠に基づいて事実認定が行われ、法的責任、損害額、因果関係が審理されます。判決が確定すれば強制執行の基礎となります。

一方、医療ADRは、証拠に基づいて法的責任の有無を明確に認定する手続ではありません。東京弁護士会のQ&Aも、訴訟では証拠に基づいて事実や法的責任の有無を審理・認定するのに対し、医療ADRでは損害賠償以外の事項についても話し合うことができ、当事者間の自主的な紛争解決を支援すると説明しています。

この違いは非常に重要です。患者側が「病院の過失を公的に認定してほしい」と考える場合、医療ADRだけでは目的を達成できない可能性があります。逆に、「裁判で白黒をつける前に、医師から説明を聞きたい」「病院側の認識を知りたい」「一定の金銭解決も含めて話し合いたい」という場合には、医療ADRが実務的に適することがあります。

3.2 医療ADRと医療事故調査制度の違い

医療事故調査制度は、医療法に基づき、医療事故の再発防止を目的として設けられた制度です。厚生労働省は、医療事故調査制度について、医療機関が院内調査を行い、第三者機関である医療事故調査・支援センターが報告を収集・分析することで再発防止につなげる制度と説明しています。

したがって、医療事故調査制度は、患者側と医療機関側の損害賠償額を決める手続ではありません。死亡事故などの原因究明や再発防止に関係する制度であり、民事上の賠償・謝罪・和解条件を調整する医療ADRとは目的が違います。

3.3 医療ADRと医療安全支援センターの違い

医療安全支援センターは、患者・家族からの苦情や相談に対応し、医療機関への助言、情報提供、研修などを行う機能を持ちます。医療安全に関する相談窓口として有用ですが、一般に、患者側の代理人として損害賠償請求を行ったり、法的判断を示したりする機関ではありません。

「まずどこに相談すればよいかわからない」という段階では、医療安全支援センターや自治体相談窓口が入口になり得ます。しかし、医療過誤として損害賠償、時効、証拠保全、ADR申立てを検討する段階では、弁護士相談やADR機関への確認が必要になります。

Section 03

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療過誤トラブルで争点になりやすい法律問題

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

4.1 医療過誤の損害賠償請求の基本構造

医療過誤で損害賠償を求める場合、典型的には次の要素が問題になります。

  1. 医療機関・医師等に注意義務があったか。
  2. 当時の医療水準に照らし、その注意義務に違反したか。
  3. 注意義務違反と死亡、後遺障害、症状悪化、追加治療、精神的苦痛などの損害との間に因果関係があるか。
  4. 損害額をどのように算定するか。
  5. 時効が完成していないか。

患者側から見ると、「あの治療の後に悪くなった」「説明と結果が違う」「別の病院では違うと言われた」という経験が出発点になります。しかし、法律上は、悪い結果が出たことだけで直ちに医療過誤とはなりません。医療には不確実性があり、合併症や偶発的経過も存在します。

他方、医療機関側から見ると、「結果は残念だったが医学的には標準的な対応だった」「説明はしていた」「記録上も問題はない」という認識があることも珍しくありません。この認識差を、第三者の前で整理するのが医療ADRの実務的価値です。

4.2 過失と医療水準

医療過誤の判断では、「結果が悪かったか」ではなく、「その時点で、当該医療機関・医療者に期待される医療水準に照らして、すべきことをしなかった、またはしてはならないことをしたか」が問題になります。

たとえば、検査を行うべきだったか、鑑別診断を尽くすべきだったか、専門医へ紹介すべきだったか、手術適応の判断が妥当だったか、術前説明が十分だったか、術後管理・急変対応が適切だったか、薬剤投与量や禁忌確認に問題がなかったか、という形で整理されます。

4.3 因果関係

医療過誤事件で特に難しいのが因果関係です。仮に医療機関側の対応に問題があったとしても、その問題がなければ死亡や後遺障害を避けられたのか、症状悪化を防げたのか、どの程度の可能性があったのかが争われます。

医療ADRでは、厳密な証拠認定を行う手続ではないため、因果関係が完全に立証できない段階でも話合いは可能です。ただし、金銭解決を求める場合には、因果関係の見通しが弱いと、医療機関側が支払に応じにくくなります。

4.4 損害

損害には、治療費、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料、休業損害、逸失利益、介護費用、葬儀費用、弁護士費用相当額などが含まれ得ます。ただし、どの損害がどの範囲で認められるかは、過失、因果関係、年齢、職業、収入、後遺障害の程度、死亡との関係、既往症、基礎疾患などにより大きく変わります。

医療ADRでは、訴訟基準どおりの損害額を機械的に計算するだけでなく、説明、再発防止、資料開示、謝罪・遺憾表明、一定額の解決金などを組み合わせた柔軟な解決が検討されることがあります。

4.5 時効

医療ADRを検討するうえで、時効は最重要論点の一つです。法務省の資料によれば、2020年4月1日施行の民法改正により、人の生命または身体が侵害された場合の損害賠償請求権について、不法行為責任と債務不履行責任の双方で、権利行使期間を長くする特例が設けられました。具体的には、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権について、不法行為・債務不履行のいずれでも、損害及び加害者を知った時、または権利を行使できることを知った時から5年、不法行為の時または権利を行使できる時から20年と説明されています。

しかし、個別事件では、いつ「損害及び加害者を知った」といえるか、改正民法の適用関係、死亡・後遺障害・再治療・説明時期との関係、未成年者・相続人・代理人の問題、催告や交渉の影響、認証ADRの時効完成猶予の有無などが絡みます。

特に注意すべきなのは、医療ADRの申立てだけで常に時効が止まるとは限らないことです。東京弁護士会の医療ADR Q&Aでは、裁判所の手続とは異なり、医療ADRの申立てには時効中断の効力がない旨が案内されています。 なお、現在の民法では「時効中断」ではなく「時効の完成猶予・更新」という用語整理がされていますが、実務上は、利用予定のADR機関の最新規程と認証状況を確認する必要があります。

認証ADR一般については、法務省のかいけつサポートが、一定の場合に時効の完成猶予等の法的効果が付与されると説明しています。 しかし、これは「すべての医療ADRで、すべての請求について、申立てさえすれば安全」という意味ではありません。時効が近い場合は、ADR申立て前に弁護士へ相談し、訴訟提起、民事調停、催告、認証ADRの活用、和解書の作成方法などを含めて時効管理を行うべきです。

Section 04

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRが向いているケース・向いていないケース

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

5.1 医療ADRが向いているケース

医療ADRが比較的向いているのは、次のようなケースです。

  • 患者側が、まず診療経過や死亡・後遺障害の原因について、第三者立会いの場で説明を受けたい。
  • カルテ、検査記録、画像、看護記録、説明同意書などの開示を求めたい。
  • 金銭請求も考えているが、裁判を始める前に相手方の見解を確認したい。
  • 医療機関側が、法的責任を認めるかは別として、説明や関係調整の必要性を感じている。
  • 患者側・医療機関側の双方に、話合いに応じる余地がある。
  • 過失や因果関係の認定よりも、現実的な解決条件の調整を優先したい。
  • 非公開の場で、感情面・説明面・再発防止面も含めて整理したい。
  • 訴訟に比べて、時間・費用・心理的負担を抑えた解決を目指したい。

東京弁護士会の患者・家族向けQ&Aでも、医療ADRは金銭請求だけでなく、診療経過や死因・後遺障害の原因について説明を求める申立て、カルテ開示を求める申立てにも利用できると説明されています。

5.2 医療ADRが向いていない、または慎重に検討すべきケース

一方、次のようなケースでは、医療ADRだけに頼ると危険です。

  • 相手方が話合いに応じる可能性が低い。
  • 時効完成が迫っている。
  • カルテ改ざん、記録散逸、重要証拠の消失が強く懸念される。
  • 法的責任の公的判断、判決、強制執行可能な債務名義を重視している。
  • 高額賠償が見込まれ、過失・因果関係・損害が全面的に争われている。
  • 医療機関側が一切の説明・資料開示・支払意思を否定している。
  • 感情的対立が極めて強く、第三者を入れても対話の成立が見込めない。
  • 刑事責任、行政処分、免許問題などを主目的としている。

医療ADRは、当事者に参加や解決を強制する手続ではありません。東京弁護士会の医療機関・医師向けQ&Aも、医療ADRは参加や解決を強制する手続ではなく、話合いにより紛争解決を目指す機会であると説明しています。

また、患者側向けQ&Aでも、相手方に出席を強制することはできず、それでも出席しないときはそれ以上手続を進めることはできないとされています。

Section 05

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 申立て前に行うべき準備

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続きでは、申立書を出す前の準備が結果を大きく左右します。準備不足のまま「とにかく病院に謝ってほしい」「賠償してほしい」と申し立てると、争点がぼやけ、相手方も対応しにくくなります。

6.1 事実経過表を作る

最初に作るべき資料は、事実経過表です。形式は複雑でなくて構いませんが、次の項目を時系列で整理します。

次の比較表は、この章の情報を項目ごとに整理したものです。違いを横並びで確認すると、どの点を優先して見るべきかを読み取れます。

日時場所・診療科関与者出来事説明された内容患者側の疑問関連資料
例 ― 2025年4月1日A病院 救急外来医師B発熱と腹痛で受診胃腸炎の疑いと説明CT検査が必要だったのではないか診療明細、処方箋
例 ― 2025年4月2日A病院医師C症状悪化、再受診経過観察と説明入院判断が遅れたのではないか診療録、検査結果

事実経過表では、感情的な表現よりも、日時、発言、検査、処方、説明、同意、症状変化、転院、後遺障害、死亡、医療機関とのやり取りを分けて記載します。

よくない書き方は、「最初から病院は隠蔽していた」「医師は絶対にミスをした」と断定する形です。もちろん患者側が強い疑念を持つことは自然ですが、申立書では、断定よりも「どの事実について、どのような説明を求めるのか」「どの点が当時の医療水準に照らして疑問なのか」を明確にした方が、ADRでの話合いが進みやすくなります。

6.2 診療録・検査結果・画像を確保する

カルテ、看護記録、検査結果、画像、紹介状、退院サマリー、説明同意書、手術記録、麻酔記録、投薬記録などは、医療ADRでも重要です。

東京弁護士会の患者・家族向けQ&Aは、医療ADRの申立てにカルテのコピーが必須ではないとしつつ、診療内容を知るために有益な資料であり、入手している場合には提出されることが多いと説明しています。

資料を集める際には、次の点に注意します。

  • 原本は医療機関にあるため、患者側は写しを取得する。
  • 画像データはCD-R等で交付されることがある。
  • 他院へ転院している場合、転院先の記録も重要になる。
  • 死亡事案では死亡診断書、死体検案書、解剖関係資料、病理解剖報告書等の有無を確認する。
  • 医療機関との面談メモ、録音、書簡、メール、説明資料も整理する。
  • 取得できていない資料は、ADRで開示を求める対象として整理する。

6.3 「知りたいこと」と「求める解決」を分ける

医療ADRの申立てでは、次の三層を分けると整理しやすくなります。

  1. 知りたいこと ― 何が起きたのか。なぜ死亡・後遺障害・悪化が起きたのか。どの検査や処置が行われ、どの検査や処置が行われなかったのか。
  2. 問題だと考えること ― 説明義務違反、検査遅れ、診断遅れ、手技ミス、術後管理不備、薬剤管理ミス、転送遅れなど。
  3. 求める解決 ― 説明、資料開示、謝罪・遺憾表明、再発防止策、損害賠償、医療費返還、書面回答、面談など。

たとえば、「母が急変して死亡した。お金が目的ではなく、第三者立会いの場で死因について説明を受けたい」という申立ては、金銭請求を中心としない医療ADRの典型例です。東京弁護士会のQ&Aも、医療ADRでは診療経過や死因・後遺障害の原因について説明を求めて申し立てることができると説明しています。

6.4 弁護士に相談するタイミング

医療ADRは、本人申立てが想定される場合もあります。しかし、次のような場合は、申立て前に弁護士相談を強く検討すべきです。

  • 死亡、重度後遺障害、重大な機能障害がある。
  • 高額な損害賠償請求を検討している。
  • 時効が近い、または時効の起算点が不明である。
  • カルテ改ざんや資料不足が疑われ、証拠保全を検討すべき可能性がある。
  • 医療機関からすでに弁護士名の文書が届いている。
  • 和解書に「今後一切請求しない」などの清算条項を入れる可能性がある。
  • 医学的評価に協力医師の意見が必要である。
  • 相続人間で意見が分かれている。

弁護士相談では、「医療ADRを使うべきか」だけでなく、「先に証拠保全をすべきか」「カルテ開示請求をどう行うか」「時効完成猶予をどう確保するか」「医療機関側の説明をどう評価するか」「申立書に何を書くべきか」を確認します。

Section 06

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRの申立書に書くべき内容

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

申立書の様式は、ADR機関ごとに異なります。東京弁護士会では、医療ADRの申立てについて、申立書、証拠資料、法人の場合の代表者事項証明書または履歴事項全部証明書、個人情報の取扱いに関する書面、代理人が就く場合の委任状などを必要書類として案内しています。

一般に、申立書には次の内容を記載します。

7.1 当事者

患者本人、相続人、家族、医療機関、医師、法人名、住所、連絡先などを記載します。患者が死亡している場合は、誰が申立人となるか、相続人全員の関係はどうなっているかを確認する必要があります。

7.2 紛争の概要

紛争の概要は、短く、客観的に書きます。

例 ―

文例申立人の母Aは、2025年4月1日、腹痛を訴えて相手方病院の救急外来を受診した。翌4月2日に症状が悪化し、同病院へ再受診したが、同日夜に敗血症性ショックで死亡した。申立人は、初診時および再診時の検査・診断・入院判断・説明内容について疑問を有しており、第三者立会いの下で診療経過と死亡原因の説明、診療録等の開示、再発防止策の説明を求める。

7.3 申立ての趣旨

何を求めるのかを明確にします。

例 ―

  • 診療経過、診断判断、検査実施の有無、死亡原因について説明を求める。
  • カルテ、看護記録、検査結果、画像、手術記録、説明同意書の写しの開示を求める。
  • 医療機関としての見解を文書で示すことを求める。
  • 再発防止策の説明を求める。
  • 損害賠償または解決金の支払について協議を求める。
  • 謝罪、遺憾表明、弔意表明、説明不足の認識表明などについて協議を求める。

7.4 事実経過

事実経過は、できるだけ時系列で書きます。医療記録と患者側の記憶が違う場合は、両者を分けて記載します。

例 ―

  • 診療録上の記載 ― 午後3時10分、腹痛軽度、発熱なし。
  • 家族の認識 ― 午後2時頃から強い腹痛を訴え、歩行困難であった。

このように分けると、ADR期日で確認すべきポイントが明確になります。

7.5 疑問点・争点

疑問点は、医学的・法的に評価しやすい形に分解します。

例 ―

  • 初診時に血液検査、CT検査、入院管理を行うべきだったのではないか。
  • 再診時に敗血症の可能性を考慮すべきだったのではないか。
  • 家族に急変リスクについて十分な説明がされたのか。
  • 抗菌薬投与の時期に遅れがなかったか。
  • 転院搬送の判断に遅れがなかったか。

7.6 証拠資料

資料名、作成日、作成者、証明したい内容を一覧化すると有用です。

次の比較表は、この章の情報を項目ごとに整理したものです。違いを横並びで確認すると、どの点を優先して見るべきかを読み取れます。

資料名作成日作成者関連する争点
救急外来診療録2025年4月1日A病院初診時症状、検査実施の有無
血液検査結果2025年4月2日A病院感染兆候、炎症反応
家族の面談メモ2025年4月5日申立人医師説明の内容

7.7 求める期日の進め方

患者側が口頭説明に不安を感じる場合、あっせん人に配慮を求めることも検討できます。東京弁護士会のQ&Aは、あっせん人が、申立人・相手方双方が自分の意見を適切に述べられるよう配慮すると説明しています。

Section 07

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRの期日はどのように進むか

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

8.1 相手方の参加確認

ADR機関は、申立てを受理すると、相手方へ手続開始を連絡します。相手方が参加に合意しなければ、手続は実質的に進みません。政府広報オンラインも、ADR一般について、相手方が手続開始に応じないとADR手続は行われないと説明しています。

医療ADRでも同じです。相手方の参加が任意である以上、申立書は相手方が「出席して説明した方がよい」「第三者を入れて話し合う意味がある」と感じる内容に整える必要があります。

8.2 あっせん人・調停人の役割

あっせん人・調停人は、裁判官のように一方的な判決を下す役割ではありません。中立的な立場で、争点整理、発言の交通整理、資料の確認、合意可能性の探索、解決案の調整を行います。

東京三弁護士会の医療ADRでは、患者側代理人経験が豊富な弁護士、医療側代理人経験が豊富な弁護士が関与する体制が説明されていますが、いずれかの当事者を助けるものではなく、中立・公正な立場で調整を行うとされています。

この点は、患者側にも医療機関側にも重要です。患者側代理人経験者がいるから患者側の味方になるわけではなく、医療側代理人経験者がいるから医療機関側の味方になるわけでもありません。

8.3 第1段階 ― 対話と相互理解

医療ADRの期日では、まず、患者側が何に納得できていないのか、医療機関側がどのような認識を持っているのかを整理します。

東京弁護士会のQ&Aは、期日の進め方について、まず両当事者の「対話の促進とそれによる相互理解」に向けて話合いの交通整理を行い、その後、解決に向けた機運が生まれれば、具体的な合意形成の調整を行うと説明しています。

この第1段階では、患者側が「謝罪してほしい」と考えていても、その前に、医療機関側の診療経過説明、検査判断、治療選択、説明内容、記録の意味を確認することが多くなります。

8.4 第2段階 ― 具体的な合意形成

対話により、一定の共通認識が形成されると、具体的な解決条件を話し合います。

合意条件には、次のようなものがあります。

  • 医療機関からの追加説明。
  • 診療録・画像・検査記録等の開示。
  • 医療機関による調査結果の説明。
  • 再発防止策の説明または実施。
  • 謝罪、遺憾表明、弔意表明。
  • 解決金、損害賠償金、医療費返還等の支払。
  • 支払期限、支払方法。
  • 守秘義務。
  • 清算条項。
  • 今後の問い合わせ窓口。
  • 合意不履行時の対応。

8.5 期日の回数・期間

東京弁護士会のQ&Aでは、和解解決事件の統計として、平均期間5〜6か月、期日回数3〜4回の話合いで解決していると説明されています。 ただし、これは特定機関の説明であり、事案の複雑さ、相手方の対応、資料量、医学的争点、関係者数、相続人間の調整、保険会社対応などで変わります。

医療ADRを利用する際は、「1回で終わる説明会」でも「何年も続く裁判」でもなく、数回の期日を通じて合意可能性を探る手続だと理解しておくと現実的です。

8.6 オンライン期日

近年は、Zoom等を利用したオンライン期日に対応するADR機関もあります。東京弁護士会も、医療ADRについてオンライン期日に対応していると案内しています。

オンライン期日は、遠方の患者家族、勤務医、代理人、保険会社担当者が参加しやすい利点があります。他方で、感情的な説明、死亡事案、複数人の発言整理には対面の方が適する場合もあります。

Section 08

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRで合意できる内容

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

医療ADRの大きな利点は、判決では命じにくい内容も含めて、柔軟な合意が可能な点です。

9.1 説明合意

患者側が最も求めているのは、金銭よりも説明であることがあります。たとえば、次の事項です。

  • なぜその診断に至ったのか。
  • なぜ検査をしなかったのか。
  • なぜ手術を選択したのか。
  • なぜ合併症が起きたのか。
  • なぜ死亡・後遺障害に至ったのか。
  • どの時点で別の選択肢があったのか。
  • 当時の医療水準から見て妥当だったのか。

説明合意では、口頭説明だけでなく、文書回答、資料添付、再面談の実施、専門用語を避けた説明などを定めることがあります。

9.2 資料開示合意

カルテ、看護記録、検査結果、画像、説明同意書、手術記録、麻酔記録などの開示が合意されることがあります。

ただし、医療機関内部のインシデントレポート、事故調査資料、医療安全管理資料などは、開示対象や法的性質について争いが生じやすい資料です。どの資料をどこまで開示するかは、個別に整理が必要です。

9.3 謝罪・遺憾表明・弔意表明

医療ADRでは、医療機関が法的責任を全面的に認める「謝罪」だけでなく、説明不足への遺憾表明、患者の苦痛への弔意・お見舞い、再発防止への姿勢表明など、さまざまな文言が検討されることがあります。

医療機関側は、謝罪文言が法的責任の承認、保険対応、将来の訴訟資料になることを懸念する場合があります。患者側は、責任を曖昧にした形式的な文言では納得できない場合があります。この文言調整は、医療ADRの重要な実務ポイントです。

9.4 再発防止策

再発防止策として、次のような内容が合意されることがあります。

  • 院内マニュアルの見直し。
  • 説明同意書式の改善。
  • 急変時対応流れの確認。
  • 検査実施基準の再確認。
  • 研修実施。
  • カンファレンスでの共有。
  • 患者家族への再発防止策の説明。

再発防止策は、患者側にとって「同じことを繰り返してほしくない」という思いに応える重要な要素です。ただし、医療機関の内部管理事項であり、具体的な実施可能性、個人情報、医療安全資料の扱いに配慮する必要があります。

9.5 金銭解決

金銭解決では、損害賠償金、解決金、見舞金、医療費返還、葬儀費用相当額、交通費、休業損害等の名目が問題になることがあります。

法的責任を認めるか否か、支払名目をどうするか、税務上の扱い、保険会社の承認、支払期限、遅延損害金、分割払い、振込手数料など、細部まで詰める必要があります。

9.6 清算条項

和解書では、「本件に関し、当事者間に本和解条項に定めるほか何らの債権債務がないことを相互に確認する」という清算条項が入ることがあります。

これは解決を確定させるためには重要ですが、患者側にとっては将来の追加請求を放棄する重大な意味を持ちます。後遺障害の程度が確定していない、将来治療費が不明、相続人全員の同意がない、別の医療機関の責任も疑われる、といった場合は慎重な検討が必要です。

9.7 守秘義務

医療ADRは非公開で行われることが多く、和解条項に守秘義務が入ることがあります。医療機関側は、風評被害や個人情報保護の観点から守秘義務を求めることがあります。患者側は、家族、主治医、弁護士、税理士、社会保険関係、行政機関など、必要な範囲で情報共有できるよう例外を設ける必要があります。

9.8 執行力

ADRで和解が成立しても、和解書だけで直ちに強制執行できるとは限りません。認証ADRにおける特定和解、仲裁手続、公正証書、裁判上の和解、調停調書など、強制執行可能性を確保する方法は複数あります。

法務省のかいけつサポートは、認証ADR事業者による調停・あっせんには、成立した和解合意への執行力付与といったメリットがあると説明していますが、一部例外があるとしています。 一方、東京弁護士会の医療ADR Q&Aは、医療ADRの和解契約書に執行力を付すためには仲裁手続とする必要があると案内しています。

したがって、支払額が高額な場合、分割払いの場合、履行不安がある場合は、和解成立前に「この和解書で不履行時にどう回収できるのか」を必ず確認してください。

Section 09

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRの費用

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

費用はADR機関によって異なります。東京弁護士会の例では、手続費用として申立手数料、期日手数料、成立手数料が必要とされ、申立手数料11,000円、期日手数料は申立人・相手方それぞれ5,500円、成立手数料は解決額に応じて算定されると案内されています。また、相談内容によっては鑑定料、出張交通費、日当等の実費が別途必要になる場合があるとされています。

医療ADRを検討する際の費用項目は、次のとおりです。

  • ADR機関の申立手数料。
  • 期日手数料。
  • 成立手数料。
  • 弁護士に依頼する場合の相談料、着手金、報酬金、日当、実費。
  • カルテ開示費用、謄写費用、画像取得費用。
  • 協力医師の意見料、文献調査費用。
  • 交通費、宿泊費。
  • 公正証書作成費用、郵送費、証明書取得費用。

「裁判より安い」と言われることがありますが、医療事件では資料収集や医学的検討に費用がかかることがあります。特に高額賠償を求める場合、弁護士費用や医学意見の取得費用が必要になる可能性があります。

Section 10

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRと医事関係訴訟の現実的比較

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

医療過誤トラブルでは、最終的に訴訟を選択する事案もあります。医療ADRを選ぶか訴訟を選ぶかは、医事関係訴訟の負担と見通しを理解したうえで検討する必要があります。

最高裁判所は、医事関係訴訟について、平成13年7月に医事関係訴訟委員会を設置し、鑑定人候補者の早期選定や医事紛争事件に関する意見聴取などを目的としていると説明しています。 これは、医事訴訟が専門性の高い分野であることを示しています。

最高裁判所の医事関係訴訟統計では、令和6年(2024年)速報値として、医事関係訴訟事件の新受件数は661件とされています。 また、医事関係訴訟事件の平均審理期間は令和6年速報値で24.7か月、同年の地裁民事第一審通常訴訟事件は9.2か月と示されています。

同統計では、令和6年速報値の医事関係訴訟事件における終局区分として、和解51.0%、判決37.2%、その他11.7%が示されています。 さらに、認容率について、令和6年速報値では医事関係訴訟事件の認容率17.5%が示されています。ここでいう認容率は、判決総数に対して認容(一部認容を含む)件数が占める割合です。

これらの数字は、患者側に「訴訟は勝てない」と言うためのものではありません。むしろ、医療訴訟では、専門的な立証、時間、費用、心理的負担、和解可能性を踏まえ、訴訟とADRのどちらが目的に合うかを冷静に検討する必要があることを示しています。

次の横棒グラフは、医事関係訴訟統計の主要な割合を整理したものです。割合の大きさを見比べることで、訴訟とADRの使い分けを考える材料になります。

和解
51.0%
判決
37.2%
その他
11.7%
認容率
17.5%
令和6年速報値に関する説明用の整理です。
Section 11

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 患者側から見た医療ADRの実務戦略

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

12.1 目的を一つに絞りすぎない

患者側は、「謝罪してほしい」「真実を知りたい」「お金を払ってほしい」「再発防止をしてほしい」という複数の思いを持つことがあります。医療ADRでは、それらを全部同じ強さで主張すると、話合いが散漫になります。

まずは、目的を次のように分けます。

  • 最低限必要な目的 ― 例、診療経過の説明、カルテ開示。
  • 重要な目的 ― 例、再発防止策の説明、一定の金銭解決。
  • できれば実現したい目的 ― 例、謝罪文、担当医との面談。
  • 譲れない条件 ― 例、将来請求を全面放棄する和解には応じない。

この整理をしておくと、ADR期日であっせん人が合意可能性を探りやすくなります。

12.2 感情を排除しないが、申立書では事実化する

医療紛争では、患者側の怒り、悲しみ、不信感は当然に生じ得ます。しかし、申立書で感情だけを前面に出すと、医療機関側は防御的になり、話合いが進みにくくなることがあります。

感情を事実化するとは、次のように書き換えることです。

  • 「ひどい対応だった」→「4月2日の説明では、死亡リスクについて説明がなかったと家族は理解している」
  • 「隠蔽している」→「診療録のうち、看護記録と検査結果の写しがまだ開示されていない」
  • 「絶対にミスだ」→「初診時の症状から、CT検査または血液検査を行うべきだったのではないかという疑問がある」

この書き方は、医療機関側に甘い態度を取るという意味ではありません。第三者が論点を把握し、相手方が回答しやすい形にするための技術です。

12.3 「説明だけで終わる」可能性に備える

医療ADRに出席した医療機関が、必ず賠償金を支払うわけではありません。東京弁護士会の患者側Q&Aも、相手方が診療経過や適切な医療であったことを説明したいだけで、金銭を支払う意向がない場合、申立人が説明だけでは納得できず相手方の意向も変わらなければ、手続は終了すると説明しています。

したがって、患者側は、次の分岐をあらかじめ考えておく必要があります。

  • 説明を聞いて納得できたら終了するのか。
  • 説明不足は残るが金銭請求はしないのか。
  • 説明に納得できなければ訴訟や弁護士交渉に進むのか。
  • 一定額未満なら和解しないのか。
  • 医学意見を取得してから再検討するのか。

12.4 「謝罪」の意味を明確にする

患者側が求める謝罪には、複数の意味があります。

  • つらい結果になったことへの共感・弔意。
  • 説明不足への謝罪。
  • 対応遅れへの謝罪。
  • 医療過誤を認める謝罪。
  • 再発防止を約束する謝罪。

医療機関側が応じやすいのは、共感、弔意、説明不足への遺憾表明です。法的責任を認める謝罪は、保険、訴訟リスク、院内責任、行政対応に関係するため慎重になります。

患者側は、「どの意味の謝罪を求めているのか」を明確にすることで、合意可能性を高めることができます。

Section 12

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療機関側から見た医療ADRの実務対応

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

医療ADRは、患者側だけの手続ではありません。東京弁護士会の医療機関・医師向けQ&Aも、医療機関側から申立てをすることができるとし、過失の存在自体は争わずに適切な損害賠償額について話し合う目的、第三者立会いの下で医療行為の説明を行う目的、患者との関係調整の目的などを挙げています。

13.1 参加するかどうかの判断

医療機関側がADR申立てを受けた場合、参加するかどうかは重要な経営・法務判断です。参加のメリットは、次のとおりです。

  • 訴訟化前に説明機会を持てる。
  • 患者側の疑問点を把握できる。
  • 中立第三者のもとで感情的対立を整理できる。
  • 解決金、説明、再発防止策など柔軟な解決が可能になる。
  • 非公開の場で対応できる。

一方、参加のリスクや注意点もあります。

  • 発言内容や提出資料が後日の紛争に影響する可能性がある。
  • 担当医や職員に心理的負担がかかる。
  • 説明内容が不十分だと、かえって不信感が強まる。
  • 保険会社、顧問弁護士、院内医療安全部門との調整が必要になる。
  • 支払意思がない場合、患者側の期待とのギャップが大きくなる。

13.2 担当医の出席

担当医が必ず出席しなければならないわけではありません。東京弁護士会の医療機関・医師向けQ&Aも、担当医の出席は必須ではないが、担当医が直接説明する方が適している場合など、事案に応じて担当医が出席した方が解決に資する場合があると説明しています。

実務上は、担当医、診療科責任者、医療安全管理者、事務部門、代理人弁護士、保険会社担当者の誰が出席するかを、事案ごとに検討します。

13.3 説明準備

医療機関側は、ADR期日に先立ち、次の事項を準備します。

  • 診療経過の客観的整理。
  • 患者側の疑問点への回答。
  • 当時の判断根拠。
  • 検査・治療を行った理由、行わなかった理由。
  • 説明同意の状況。
  • 急変時対応。
  • 再発防止策の検討状況。
  • 開示可能資料と開示困難資料の整理。
  • 法的責任に関する見解。
  • 金銭解決の可否、上限、保険対応。

医療機関側が「医学的には問題ない」とだけ説明しても、患者側の疑問が解消されないことがあります。患者側が知りたいのは、医学的結論だけでなく、「なぜその時点でそう判断したのか」「他の選択肢はなかったのか」「リスクは説明されたのか」です。

13.4 非公開性と記録管理

東京弁護士会の医療機関・医師向けQ&Aは、医療ADRは裁判とは異なり非公開の手続であり、傍聴人がいることはなく、医療ADRが行われていること自体も非公開であると説明しています。

ただし、非公開であることと、当事者が入手した資料・発言が後日どのように扱われるかは別問題です。後日の訴訟、院内調査、保険対応、行政対応を見据え、議事メモ、提出資料、説明文書、和解案の管理を慎重に行う必要があります。

Section 13

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRで弁護士に相談・依頼する意味

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

このページの想定読者には、「医療ADRを使うべきか」「弁護士に相談すべきか」「どんな弁護士を選ぶべきか」を知りたい人が含まれます。

医療ADRは本人でも利用し得る手続ですが、弁護士が関与する意味は大きいです。特に医療過誤事件では、医学的論点と法的論点を区別しなければ、話合いの焦点が定まりません。

14.1 弁護士が行う主な支援

医療ADRにおける弁護士の支援は、次のようなものです。

  • 事案の法的見通しを整理する。
  • 医療過誤として問題になり得る論点を抽出する。
  • 時効リスクを確認する。
  • 証拠保全やカルテ開示の要否を判断する。
  • 申立書を作成またはレビューする。
  • 診療録、説明同意書、検査結果を法的観点から整理する。
  • 協力医師への相談要否を判断する。
  • ADR期日に同席し、発言を補助する。
  • 和解条件、清算条項、守秘義務、執行力を確認する。
  • 不成立時の訴訟・交渉方針を検討する。

14.2 医療ADRに詳しい弁護士を選ぶ視点

医療ADRや医療過誤に関する相談では、次のような点を確認するとよいでしょう。

  • 医療過誤事件、医療機関側事件、患者側事件、医療ADRの経験があるか。
  • 医療記録を読み解く体制があるか。
  • 協力医師や医学文献調査の進め方を説明できるか。
  • 勝敗や賠償額を断定せず、不確実性を説明してくれるか。
  • ADRと訴訟の違いを説明できるか。
  • 時効、証拠保全、カルテ開示を具体的に検討してくれるか。
  • 費用体系を明確に説明してくれるか。
  • 患者側の感情と法的主張を分けて整理してくれるか。
  • 医療機関側の場合、保険会社、医療安全部門、院内説明との整合性を考えられるか。

14.3 相談時に持参すべき資料

弁護士相談には、可能な範囲で次の資料を持参します。

  • 時系列表。
  • 診療録、看護記録、検査結果、画像データ。
  • 退院サマリー、紹介状、診療情報提供書。
  • 説明同意書、手術記録、麻酔記録。
  • 医療機関との面談メモ、録音、メール、書簡。
  • 死亡診断書、死体検案書、解剖関係資料。
  • 後遺障害診断書、障害者手帳、介護認定資料。
  • 診療費領収書、交通費、休業損害資料、収入資料。
  • すでに届いている病院・保険会社・弁護士からの文書。
  • ADR機関の申立書様式。

14.4 弁護士に聞くべき質問

相談時には、次の質問をすると実務的です。

  • この事案で医療ADRは適していますか。それとも先に証拠保全や訴訟を検討すべきですか。
  • 法的に問題になり得る注意義務違反はどこですか。
  • 因果関係の見通しはどの程度ですか。
  • 必要な追加資料は何ですか。
  • 時効完成のリスクはありますか。
  • 認証ADRによる時効完成猶予の適用可能性を確認すべきですか。
  • ADRで求めるべき解決条件は何ですか。
  • 和解する場合、清算条項や守秘義務で注意すべき点は何ですか。
  • 不成立なら次に何をしますか。
  • 弁護士費用と実費はどの程度ですか。
Section 14

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRで提出・準備する資料チェックリスト

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

15.1 患者側チェックリスト

  • 申立書。
  • 事実経過表。
  • 患者本人の基本情報。
  • 申立人が家族・相続人の場合、関係を示す資料。
  • 診療録、看護記録。
  • 検査結果、画像データ。
  • 診療情報提供書、紹介状、退院サマリー。
  • 手術記録、麻酔記録、説明同意書。
  • 処方内容、薬剤情報。
  • 医療機関との面談メモ、録音、メール、書簡。
  • 死亡診断書、死体検案書、解剖資料。
  • 後遺障害診断書、障害者手帳、介護資料。
  • 領収書、診療明細、交通費資料。
  • 収入資料、休業損害資料。
  • 質問事項一覧。
  • 求める解決条件案。
  • 代理人がいる場合の委任状。

15.2 医療機関側チェックリスト

  • 申立書の内容分析メモ。
  • 診療経過表。
  • 関係診療録、看護記録、検査結果、画像。
  • 説明同意書、手術記録、麻酔記録。
  • 担当医・関係職員からの聞き取り結果。
  • 当時の院内マニュアル、診療体制資料。
  • 患者側への説明履歴。
  • 開示済み資料・未開示資料一覧。
  • 医療安全部門の見解。
  • 保険会社・顧問弁護士との協議記録。
  • ADR期日で説明する内容案。
  • 金銭解決の可否・範囲。
  • 再発防止策の案。
  • 守秘義務・清算条項の方針。
Section 15

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 和解書・合意書で特に注意すべき条項

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

医療ADRで和解が成立する場合、最終的には文書化が重要です。口頭で「これで終わりにしましょう」と合意しただけでは、後日トラブルになりやすいからです。

16.1 当事者の特定

患者本人、相続人、医療法人、病院、医師個人、保険会社の関係を正確に整理します。医療法人が相手なのか、医師個人も当事者に含むのか、相続人全員が合意しているのかを確認します。

16.2 対象事案の特定

「本件医療事故」「本件診療契約」などの表現だけでは曖昧な場合があります。対象となる診療日、診療科、入院期間、手術、急変、死亡、後遺障害を特定します。

16.3 支払条項

支払金額、名目、支払期限、振込先、振込手数料負担、遅延時の扱い、分割払いの場合の期限の利益喪失条項などを定めます。

16.4 説明・資料開示条項

どの資料を、いつ、どの形式で開示するかを定めます。口頭説明を行う場合は、日時、場所、参加者、説明対象、録音の可否、議事録作成の有無を検討します。

16.5 謝罪・遺憾表明条項

謝罪文言は、法的責任を認めるものか、説明不足への遺憾表明か、弔意・お見舞いかを明確にします。曖昧な文言は、後日の解釈争いを生む可能性があります。

16.6 再発防止条項

再発防止策を定める場合は、抽象的に「再発防止に努める」とするのか、具体的に「院内研修を実施する」「説明文書を改訂する」などとするのかを検討します。

16.7 守秘義務条項

守秘義務には例外を設けることが重要です。たとえば、弁護士、税理士、医師、行政機関、裁判所、保険会社、家族、相続人、法令上開示が必要な場合などです。

16.8 清算条項

清算条項は、紛争を終局させるために重要です。しかし、患者側にとっては、将来の請求を制限する強い効果があります。後遺障害が未確定の場合や、将来治療費が不明な場合には、留保条項の要否を検討します。

16.9 不履行時の対応

支払がされない、資料が開示されない、説明が行われない場合にどうするかを定めます。強制執行可能性を確保する必要がある場合は、認証ADRの特定和解、仲裁、公正証書、裁判上の和解などを検討します。

Section 16

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRを成功に近づけるための実務上の視点

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

18.1 「勝ち負け」だけでなく「到達点」を設計する

医療ADRでは、裁判のような勝敗だけでなく、到達点を設計することが重要です。

到達点の例 ―

  • 診療経過の説明を受け、一定の疑問が解消される。
  • カルテ・検査結果が開示される。
  • 医療機関が説明不足を認め、遺憾表明する。
  • 再発防止策が説明される。
  • 一定額の解決金が支払われる。
  • 将来の問い合わせ窓口が定められる。
  • 訴訟に進む前に争点が整理される。

18.2 争点を広げすぎない

医療紛争では、不満が多岐にわたりがちです。しかし、すべてを同時に争点化すると、ADRが停滞します。まずは、主要争点を3〜5個程度に絞ることが実務的です。

例 ―

  1. 初診時の検査判断。
  2. 再診時の入院判断。
  3. 急変リスクの説明。
  4. 死亡原因の説明。
  5. 再発防止策。

18.3 医学的論点と感情的論点を分ける

医学的論点は、検査、診断、治療、説明、因果関係です。感情的論点は、不信感、怒り、悲しみ、納得できなさです。どちらも重要ですが、混ぜると相手方が回答しにくくなります。

「医療機関の態度が許せない」という感情は、具体的には「説明が遅かった」「質問に答えなかった」「記録を開示しなかった」「謝罪がなかった」という事実に分解できます。

18.4 早期解決と十分な検討のバランス

医療ADRの利点は、訴訟より柔軟かつ迅速な解決を目指せる点です。しかし、早く終わらせたいあまり、資料がそろっていない、損害が確定していない、後遺障害の見通しが不明な段階で清算条項に署名すると、後で取り返しがつかないことがあります。

特に、後遺障害が残る事案、将来治療が必要な事案、死亡事案、相続人が複数いる事案では、早期解決と権利保全のバランスを慎重に考える必要があります。

Section 17

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続きの申立てモデル文例

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

以下は、実際の申立書そのものではなく、記載方針を示すための簡略モデルです。各ADR機関の指定様式に合わせ、個別事情に応じて修正してください。

19.1 説明請求中心のモデル

文例申立人は、患者Aの長男である。Aは、2025年4月1日、腹痛および発熱を訴えて相手方病院救急外来を受診した。その後、同月2日に症状が悪化し、同日夜に死亡した。申立人は、初診時および再診時の検査、診断、入院判断、急変リスクの説明、死亡原因について十分な説明を受けていないと考えている。 申立人は、相手方に対し、第三者であるあっせん人の立会いの下で、診療経過、検査判断、治療方針、死亡原因、再発防止策について説明することを求める。また、診療録、看護記録、検査結果、画像データ、説明同意書の写しの開示について協議を求める。

19.2 金銭解決を含むモデル

文例申立人は、相手方病院における2025年6月10日の手術および術後管理について、術前説明、手技、術後出血への対応に疑問を有している。申立人は、再手術、長期入院、後遺障害により、治療費、休業損害、慰謝料等の損害を被った。 申立人は、相手方に対し、診療経過および術後管理の説明、関連資料の開示、再発防止策の説明を求めるとともに、損害賠償または解決金の支払について協議を求める。

19.3 医療機関側申立てのモデル

文例申立人である医療法人Bは、患者Aの診療経過について、患者家族から強い疑問と不信が示されていることを受け、第三者であるあっせん人の関与の下で、診療経過、検査判断、治療内容、説明状況を説明し、患者家族との関係調整を図るため、本申立てを行う。 申立人は、法的責任の有無については現時点で争点があると考えているが、患者家族の疑問を整理し、必要な資料開示、説明、再発防止策、解決条件について誠実に協議する意思がある。
Section 18

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続き ― 結論

制度・準備・争点・合意条件を一般情報として整理します。

医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続きは、医療紛争を裁判だけに委ねず、専門性を持つ中立的第三者の関与のもとで、対話、説明、資料開示、再発防止、損害賠償、関係調整を組み合わせて解決を目指す制度です。

医療過誤トラブルでは、患者側の疑問や苦痛は深刻です。一方で、医療機関側にも、医療の不確実性、専門性、説明責任、職員の負担、保険対応、法的責任の有無といった複雑な事情があります。医療ADRは、この対立を単純な勝敗に還元せず、第三者の場で整理する手段として意味があります。

しかし、医療ADRは万能ではありません。相手方の参加は任意であり、賠償金の支払を当然に命じるものではなく、法的責任を確定するものでもありません。時効、証拠保全、カルテ開示、和解書の清算条項、執行力の有無を誤ると、重大な不利益が生じる可能性があります。

したがって、医療ADRを検討する人は、まず事実経過と目的を整理し、必要資料を確保し、利用予定のADR機関の手続・費用・認証状況を確認し、重大事案では早期に弁護士へ相談することが重要です。

医療ADRの本質は、「裁判を避けるための妥協」ではありません。適切に使えば、医療紛争における情報格差、感情的対立、医学的専門性、法的リスクを整理し、当事者が納得可能な解決に近づくための、実務的で専門的な選択肢になり得ます。

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医療ADRで医療過誤トラブルを解決する手続きのFAQ

参加・賠償・時効のよくある疑問を整理します。

裁判より有利ですか。

一般的には、説明や資料開示、再発防止の点で有用な可能性があります。ただし、法的責任を判決として確定する手続ではありません。

病院は必ず出席しますか。

一般的には任意参加の手続とされています。相手方が応じない場合、別の手段を検討する必要があります。

時効は止まりますか。

常に止まるとは限りません。認証ADRの扱いや請求内容によって異なるため、時効が近い場合は弁護士等へ相談する必要があります。

Reference

この記事の参考情報源

制度理解に用いた公的・中立的資料です。

  • 日本弁護士連合会「医療ADR」
  • 政府広報オンライン「法的トラブル解決には、『ADR(裁判外紛争解決手続)』」
  • 東京弁護士会「医療ADRについて」
  • 法務省「事件や事故に遭われた方へ 2020年4月1日から事件や事故によって発生する損害賠償請求権に関するルールが変わります」
  • 法務省「かいけつサポート」
  • 東京弁護士会「医療ADRについて|紛争解決センターQ&A」
  • 厚生労働省「医療事故調査制度について」
  • 法務省「かいけつサポート|制度について」
  • 東京弁護士会「医療ADRよくある質問-患者・ご家族から」
  • 東京弁護士会「医療ADRよくある質問-医療機関・医師から」
  • 東京弁護士会「紛争解決費用」
  • 最高裁判所「医事関係訴訟委員会について」
  • 最高裁判所「医事関係訴訟事件の統計」