2σ Guide

親族内承継の実務体系
相続・遺留分・自社株を横断整理

親族内承継は、事業を親族へ渡すだけでなく、株式、事業用資産、遺言、遺留分、税務、登記、金融機関対応を同時に設計する実務です。

60歳以上 経営者年齢の重要層
約3割 法人企業の親族内承継意向
3年以内 相続登記の基本期限
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親族内承継の実務体系 相続・遺留分・自社株を横断整理

親族内承継は、事業を親族へ渡すだけでなく、株式、事業用資産、遺言、遺留分、税務、登記、金融機関対応を同時に設計する実務です。

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親族内承継の実務体系 相続・遺留分・自社株を横断整理
親族内承継は、事業を親族へ渡すだけでなく、株式、事業用資産、遺言、遺留分、税務、登記、金融機関対応を同時に設計する実務です。
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  • 親族内承継の実務体系 相続・遺留分・自社株を横断整理
  • 親族内承継は、事業を親族へ渡すだけでなく、株式、事業用資産、遺言、遺留分、税務、登記、金融機関対応を同時に設計する実務です。

POINT 1

  • 親族内承継 ― 要旨
  • 主要な論点を読みやすく整理します。
  • 事業を後継者へ集中させる
  • 非後継者の納得を設計する
  • 死亡前から準備する

POINT 2

  • 親族内承継とは何か
  • 主要な論点を読みやすく整理します。
  • 1.1 定義
  • 1.2 親族内承継と他の承継類型
  • ここで注意すべき点は、親族内承継が「親の財産を子が相続すること」と同義ではないことです。

POINT 3

  • 親族内承継が相続問題になりやすい理由
  • 主要な論点を読みやすく整理します。
  • 2.1 経営権と相続分が一致しない
  • 2.2 自社株式は分けにくく、価額も分かりにくい
  • 2.3 後継者の努力が「贈与」か「寄与」かで争われる

POINT 4

  • 親族内承継の基礎法務
  • 主要な論点を読みやすく整理します。
  • 3.1 相続、贈与、遺贈、死因贈与の違い
  • 3.2 遺言の役割
  • 3.3 遺留分の基礎

POINT 5

  • 親族内承継の期限管理
  • 主要な論点を読みやすく整理します。
  • 4.1 主要期限一覧
  • 親族内承継では、相続開始後の期限を見落とすと、税務、登記、裁判手続、金融機関対応に重大な影響が出ます。
  • 判断材料を見落とさないために重要で、各行を横に読みながら、項目ごとの違いと注意点を確認してください。

POINT 6

  • 親族内承継における税務の全体像
  • 主要な論点を読みやすく整理します。
  • 5.1 相続税の基礎控除
  • 5.2 暦年贈与と相続時精算課税
  • 5.3 小規模宅地等の特例

POINT 7

  • 親族内承継 ― 遺留分対策としての経営承継円滑化法
  • 主要な論点を読みやすく整理します。
  • 親族内承継では、後継者に自社株式を集中させる必要があります。
  • しかし、非後継者の遺留分を侵害すると、後継者が多額の金銭請求を受ける可能性があります。
  • そこで、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律には、遺留分に関する民法の特例が設けられています。

POINT 8

  • 会社法と親族内承継
  • 主要な論点を読みやすく整理します。
  • 7.1 株式の分散防止
  • 7.2 種類株式の活用と限界
  • 7.3 経営者保証と金融機関対応

まとめ

  • 親族内承継の実務体系 相続・遺留分・自社株を横断整理
  • 親族内承継 ― 要旨:主要な論点を読みやすく整理します。
  • 親族内承継とは何か:主要な論点を読みやすく整理します。
  • 親族内承継が相続問題になりやすい理由:主要な論点を読みやすく整理します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

親族内承継 ― 要旨

主要な論点を読みやすく整理します。

次の要点一覧は、このページで最初に押さえるべき判断軸をまとめたものです。全体像を早くつかむために重要で、各項目から後で深掘りする論点を読み取ってください。

POINT 1

事業を後継者へ集中させる

議決権、自社株式、事業用資産、取引先対応を後継者へ集めるほど、会社の意思決定は安定しやすくなります。

POINT 2

非後継者の納得を設計する

現金、生命保険、代償金、無議決権株式、不動産などで、遺留分と生活保障を同時に考えます。

POINT 3

死亡前から準備する

遺言、株式評価、税務試算、家族説明、金融機関対応は、相続開始後では選択肢が限られることがあります。

親族内承継とは、会社、個人事業、事業用不動産、自社株式、経営権、取引関係、許認可、従業員との関係などを、子、配偶者、兄弟姉妹、甥姪その他の親族に引き継ぐことをいいます。単なる相続手続ではありません。親族内承継は、相続法、会社法、税法、不動産登記、事業承継税制、遺言、公正証書、家族間交渉、金融機関対応、経営者保証、許認可、労務、知的財産、事業計画を同時に処理する総合実務です。

親族内承継で最も重要なのは、後継者に事業を集中させながら、非後継者の相続上の納得と最低限の権利をどう確保するかです。中小企業庁の2025年版中小企業白書は、中小企業経営者の年齢水準が依然として高く、60歳以上の経営者が過半数を占めると説明しています。また法人企業の約3割が親族内承継を考えているとしています。親族内承継は一部の資産家だけの問題ではなく、地域の雇用、取引先、技術、家族の生活を守るための社会的課題でもあります。

このページの結論は明確です。親族内承継は、相続開始後に話し合うだけでは遅いことが多いです。後継者、非後継者、配偶者、会社、金融機関、税務署、法務局、家庭裁判所の論点を、相続開始前から設計する必要があります。

Section 01

親族内承継とは何か

主要な論点を読みやすく整理します。

1.1 定義

親族内承継とは、現経営者または財産保有者の親族が、事業、経営権、株式、事業用資産、営業上の信用、技術、取引関係、ブランド、従業員との関係を引き継ぐ承継形態です。典型例は、父が創業した会社を長男または長女が継ぐケース、母が保有する賃貸不動産管理会社を子が継ぐケース、親が営む店舗、工場、クリニック、農業、士業事務所、建設業、製造業を親族が継ぐケースです。

ここで注意すべき点は、親族内承継が「親の財産を子が相続すること」と同義ではないことです。相続は死亡によって包括的に権利義務が移転する制度です。親族内承継は、死亡前の準備、生前贈与、遺言、株式移転、役員交代、事業計画、税務対策、金融機関説明、従業員説明、取引先説明を含みます。

1.2 親族内承継と他の承継類型

事業承継は、大きく次の三類型に分かれます。

次の比較表は、この章の論点を項目ごとに整理したものです。判断材料を見落とさないために重要で、各行を横に読みながら、項目ごとの違いと注意点を確認してください。

類型承継先主な特徴
親族内承継子、配偶者、兄弟姉妹、甥姪など家族関係と相続関係が重なり、遺留分、特別受益、寄与分、感情対立が中心問題になりやすい
従業員承継役員、従業員、番頭格の人材など経営能力はあるが株式取得資金、経営者保証、親族説明が課題になりやすい
M&A第三者企業、ファンド、個人買主など後継者不在に対応できるが、買主探索、企業価値評価、契約、PMIが必要になる

中小企業庁は、親族内承継、従業員承継、M&Aの類型別に、事業承継の進め方と支援策を整理しています。親族内承継については、経営状況の確認、関係者の理解、後継者育成、株式・事業用資産の相続・贈与、経営者保証解除、承継後の成長が主要ステップとされています。

Section 02

親族内承継が相続問題になりやすい理由

主要な論点を読みやすく整理します。

2.1 経営権と相続分が一致しない

相続法は、相続人間の公平を重視します。一方、事業承継は、経営の安定と意思決定の集中を重視します。この二つはしばしば衝突します。

たとえば、被相続人に子が3人おり、そのうち1人だけが会社を継ぐ場合、自社株式を3人で均等に相続すると、会社の意思決定が分散します。後継者が会社の代表者であっても、株式の過半数を持たなければ、重要事項で他の相続人の同意が必要になり得ます。逆に、後継者に自社株式を集中させると、非後継者は「自分の相続分が少ない」と感じやすくなります。

親族内承継の本質は、事業継続のための集中と、相続人間の公平の調整です。

2.2 自社株式は分けにくく、価額も分かりにくい

現金は分けやすい財産です。不動産や非上場株式は分けにくい財産です。特に非上場株式は市場価格がなく、相続税評価、会社法上の価値、売買交渉上の価値、家族の感覚上の価値が一致しません。

国税庁は、取引相場のない株式について、会社規模等に応じて類似業種比準方式、純資産価額方式、併用方式などで評価する仕組みを説明しています。類似業種比準方式は、類似業種の株価を基礎に、配当、利益、純資産価額の要素で比準する評価方法です。純資産価額方式は、会社の資産と負債を相続税評価に洗い替えて評価する方法です。

この評価は専門的です。会社が不動産を多く保有している、過去に多額の内部留保を積んでいる、オーナー個人と会社の貸借が複雑です、役員退職金を予定している、複数の株主がいる、といった事情があると、相続税評価と承継実務の設計はさらに難しくなります。

2.3 後継者の努力が「贈与」か「寄与」かで争われる

後継者が長年会社で働き、事業価値を高めてきた場合、後継者は「会社を大きくしたのは自分だ」と考えます。非後継者は「会社の株式は親の財産であり、相続財産だ」と考えます。この認識差が争いの火種になります。

後継者が低額給与で働いてきた、親の介護をしてきた、会社借入の保証をしてきた、個人資産を会社に貸し付けてきた、といった事情は、寄与分、特別寄与料、会社法上の役員報酬、貸付金、債務引受、求償関係など複数の法的論点に分解して検討する必要があります。

2.4 「使い込み疑い」が親族内承継を破壊する

相続では、預貯金の引き出し、会社資金と個人資金の混同、親名義口座の管理、親の認知機能低下後の財産移動が問題になります。後継者が親と同居し、会社経理にも関与している場合、非後継者から「親の財産を使い込んだのではないか」と疑われやすくなります。

使い込み疑いは、法的争点ですと同時に、信頼の問題です。領収書、振込記録、取締役会議事録、株主総会議事録、借用書、贈与契約書、介護費用記録、親本人の意思確認資料がないと、後から説明が困難になります。

Section 03

親族内承継の基礎法務

主要な論点を読みやすく整理します。

3.1 相続、贈与、遺贈、死因贈与の違い

親族内承継では、財産をどう移すかが最初の設計論点です。

次の比較表は、この章の論点を項目ごとに整理したものです。判断材料を見落とさないために重要で、各行を横に読みながら、項目ごとの違いと注意点を確認してください。

手段発生時期主な用途主な注意点
生前贈与生前後継者に株式や事業用資産を早めに移す贈与税、遺留分、特別受益、意思能力、贈与契約書
売買生前後継者が対価を払って株式や不動産を取得する適正価額、資金調達、譲渡所得税、低額譲渡課税
遺言による相続または遺贈死亡時死亡後に後継者へ資産を集中する遺留分、遺言の方式、遺言執行者、登記、税務
死因贈与死亡時契約により死亡時移転を定める契約性、撤回、執行、登記、遺留分
信託生前から死亡後まで財産管理と承継を連続させる信託契約、受益権評価、税務、信託口口座、専門設計

どの手段がよいかは、後継者の年齢、経営能力、会社の株価、相続税見込み、親の健康状態、非後継者の生活保障、金融機関の反応、許認可、事業計画によって異なります。

3.2 遺言の役割

親族内承継では、遺言は最重要ツールの一つです。遺言がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。相続人の一人が反対すれば、預貯金、不動産、自社株式の承継手続が止まることがあります。

政府広報は、遺言書がない場合は相続人全員の話し合いによって遺産の分け方を決める必要があり、不動産を特定の相続人に相続させたい、遺産分割で争いになるのを避けたい場合には遺言書が必要ですと説明しています。一般的に用いられる遺言には、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。

自筆証書遺言は、民法上、全文、日付、氏名を自書し、押印することが原則です。財産目録は自書でなくてもよい場合がありますが、その目録の各ページに署名押印が必要です。法務省の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、様式上のルールもあります。

公正証書遺言は、公証人が関与して作成する遺言です。日本公証人連合会は、公正証書遺言には証人2名の立会いが必要であり、遺言者の真意確認と手続の適式性を担保するものと説明しています。

親族内承継で遺言を作る場合は、単に「長男に株式を相続させる」と書くだけでは不十分なことがあります。次の事項を検討します。

  1. 後継者に承継させる株式の範囲
  2. 議決権のある株式と議決権のない株式の区別
  3. 事業用不動産を誰に承継させるか
  4. 会社への貸付金を誰に承継させるか
  5. 非後継者に代償財産として何を残すか
  6. 遺留分侵害額請求に備える資金をどう確保するか
  7. 遺言執行者を誰にするか
  8. 予備的遺言を置くか
  9. 税負担を誰が負うか
  10. 会社の代表者変更、株主名簿書換、登記、金融機関対応を誰が行うか

3.3 遺留分の基礎

遺留分とは、一定の相続人に保障される最低限の相続上の取り分です。兄弟姉妹には遺留分がありません。配偶者、子、直系尊属などが遺留分権利者になり得ます。民法は遺留分の割合、遺留分を算定するための財産価額、遺留分侵害額請求について定めています。

親族内承継では、遺留分が最大の法的制約になることがあります。たとえば、父が会社株式の大半を長男に遺言で承継させた場合、長女や次男が遺留分侵害額請求をする可能性があります。現在の遺留分侵害額請求は金銭請求として構成されます。したがって、自社株式そのものを取り戻されるリスクよりも、後継者が多額の金銭を支払うリスクが中心です。

遺留分対策は、節税対策とは異なります。相続税を減らすために株式を生前贈与しても、その贈与が遺留分算定に入る場合があります。後継者に株式を集中させるほど、非後継者への説明、代償財産、生命保険、遺留分に関する合意が重要になります。

3.4 特別受益と寄与分

特別受益とは、相続人が被相続人から受けた生前贈与や遺贈などの特別な利益を、相続分の計算に反映する制度です。寄与分とは、共同相続人の中に被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした者がいる場合、その貢献を相続分に反映する制度です。いずれも民法に定められています。

親族内承継では、次のような主張が典型です。

次の比較表は、この章の論点を項目ごとに整理したものです。判断材料を見落とさないために重要で、各行を横に読みながら、項目ごとの違いと注意点を確認してください。

主張実務上の焦点
特別受益後継者が生前に株式、土地、事業資金をもらった贈与の有無、価額、持戻し免除、遺留分算定
寄与分後継者が無償または低額で事業に従事した通常の家族協力を超える特別寄与か、財産増加との因果関係
使途不明金親の預金が後継者に移った贈与、貸付、生活費、介護費、使い込みの区別

近年の民法改正により、相続開始から長期間が経過した後の遺産分割について、特別受益や寄与分による具体的相続分の主張には時間的制約が置かれています。遺産分割を放置すると、証拠が散逸するだけでなく、法的主張の組み立ても難しくなります。

Section 04

親族内承継の期限管理

主要な論点を読みやすく整理します。

親族内承継では、相続開始後の期限を見落とすと、税務、登記、裁判手続、金融機関対応に重大な影響が出ます。

4.1 主要期限一覧

次の比較表は、この章の論点を項目ごとに整理したものです。判断材料を見落とさないために重要で、各行を横に読みながら、項目ごとの違いと注意点を確認してください。

期限内容主な担当専門職
死亡後速やかに死亡届、遺言の有無確認、戸籍収集、財産保全市区町村、司法書士、行政書士、弁護士
3か月以内相続放棄、限定承認の判断弁護士、司法書士
10か月以内相続税申告と納税税理士
相続で不動産取得を知った日から3年以内相続登記申請司法書士
遺産分割成立日から3年以内遺産分割内容に基づく追加的な相続登記司法書士
事業承継税制の各期限計画提出、認定申請、年次報告、継続届出税理士、中小企業診断士、公認会計士、認定支援機関

裁判所は、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の熟慮期間内に、単純承認、限定承認または相続放棄をしなければならないと案内しています。期間内に判断できない場合は、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることができます。

国税庁は、相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うものと説明しています。申告書の提出先は、原則として被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署です。

法務省は、相続により不動産所有権を取得した相続人は、相続開始を知り、かつ不動産所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があると説明しています。正当な理由なく申請を怠ると10万円以下の過料の対象となります。施行日は2024年4月1日で、施行前に開始した相続も対象となり得ます。

Section 05

親族内承継における税務の全体像

主要な論点を読みやすく整理します。

5.1 相続税の基礎控除

親族内承継では、事業用資産や非上場株式の評価額が高額になり、相続税負担が承継後の資金繰りを圧迫することがあります。

国税庁は、相続税の課税遺産総額を計算する際、課税価格の合計額から基礎控除額を差し引くと説明しています。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。

例として、法定相続人が配偶者と子2人の合計3人であれば、基礎控除額は4,800万円です。ただし、非上場株式、土地、建物、貸付金、死亡保険金、退職金、生前贈与加算などを含めた課税関係は複雑です。単に不動産の固定資産税評価額や会社の帳簿純資産だけを見て相続税の有無を判断するのは危険です。

5.2 暦年贈与と相続時精算課税

生前贈与は、親族内承継でよく使われる手段です。ただし、税務上の効果だけで判断すると失敗することがあります。

国税庁は、2024年1月1日以後の暦年課税に係る贈与について、相続税の課税価格に加算される対象期間が相続開始前7年以内となると説明しています。経過措置により、相続開始時期によって加算対象期間は異なります。

相続時精算課税を選択した場合、特定贈与者が死亡した時に、それまでに贈与を受けた相続時精算課税適用財産の価額と、相続または遺贈により取得した財産の価額を合計して相続税額を計算します。2024年1月1日以後の贈与については、年ごとの基礎控除額110万円に関する取扱いもあります。

親族内承継で贈与を使う場合は、次の順序で検討します。

  1. 株式や事業用不動産の税務評価額を把握する
  2. 贈与後の議決権割合を確認する
  3. 遺留分への影響を検討する
  4. 贈与契約書、株主名簿、取締役会承認、登記、会計処理を整える
  5. 贈与税申告、相続時精算課税届出、事業承継税制の適用可否を確認する
  6. 非後継者への説明資料を作る

5.3 小規模宅地等の特例

事業用または居住用の宅地がある場合、小規模宅地等の特例は重要です。国税庁は、相続や遺贈により取得した財産のうち、一定の事業用または居住用の宅地等について、一定面積まで相続税の課税価格に算入すべき価額を減額すると説明しています。特定事業用宅地等や特定同族会社事業用宅地等は400平方メートルまで80%減額、特定居住用宅地等は330平方メートルまで80%減額などの区分があります。

親族内承継では、会社に貸している土地、個人事業に使っている土地、自宅兼店舗、工場敷地、賃貸不動産の敷地が問題になります。適用要件には、取得者、事業継続、保有継続、貸付事業該当性などがあります。相続税申告期限までの保有と事業継続が問題になることもあるため、遺産分割が遅れると特例適用に影響する可能性があります。

5.4 法人版事業承継税制

法人版事業承継税制は、非上場株式等の承継に伴う贈与税または相続税の納税猶予・免除を通じて、後継者への株式移転を支援する制度です。中小企業庁は、法人版事業承継税制の特例措置について、特例承継計画を2027年9月30日までに申請し、2027年12月31日までに事業承継を行う必要があると案内しています。また、贈与税および相続税について、後継者が取得した対象株式等に係る税額の100%が猶予される制度として説明しています。

この制度は強力ですが、単なる節税制度ではありません。認定、申告、担保、年次報告、継続届出、代表者要件、株式継続保有、雇用確保要件、取消事由、猶予税額の納付リスクを理解する必要があります。

親族内承継で法人版事業承継税制を使うべきかは、次の観点で判断します。

次の比較表は、この章の論点を項目ごとに整理したものです。判断材料を見落とさないために重要で、各行を横に読みながら、項目ごとの違いと注意点を確認してください。

観点検討事項
株価株価が高く、通常の贈与や相続では税負担が大きいか
後継者代表者として長期的に経営する意思と能力があるか
会社事業継続性、雇用、資産保有型会社該当性、上場予定の有無
家族非後継者の遺留分、代償金、納得形成
資金取消時の納税リスク、担保、会社資金繰り
手続計画、認定、税務申告、年次報告、継続届出の管理体制

5.5 個人版事業承継税制

個人事業者の場合も、個人版事業承継税制があります。中小企業庁は、個人事業者の事業承継を促進するため、10年間限定で、多様な事業用資産の承継に係る相続税・贈与税を100%納税猶予する制度が創設されたと説明しています。また、個人事業承継計画の提出期限について、2028年9月30日までと案内しています。

個人版では、法人株式ではなく、事業用土地、建物、減価償却資産などが対象になり得ます。店舗、工場、農業、旅館、クリニック、士業事務所などでは重要ですが、青色申告、事業継続、対象資産、担保、取消事由の確認が必要です。

Section 06

親族内承継 ― 遺留分対策としての経営承継円滑化法

主要な論点を読みやすく整理します。

親族内承継では、後継者に自社株式を集中させる必要があります。しかし、非後継者の遺留分を侵害すると、後継者が多額の金銭請求を受ける可能性があります。そこで、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律には、遺留分に関する民法の特例が設けられています。e-Gov法令検索では、同法の第二章に「遺留分に関する民法の特例」が置かれています。

中小企業庁は、事業承継の支援策として、後継者が先代経営者の推定相続人との間で遺留分に関する各種の合意をすることができる制度を掲げています。

実務上は、除外合意と固定合意が中心です。

次の比較表は、この章の論点を項目ごとに整理したものです。判断材料を見落とさないために重要で、各行を横に読みながら、項目ごとの違いと注意点を確認してください。

合意概要主な効果
除外合意後継者が取得した株式等を遺留分算定の基礎財産から除外する合意自社株式を後継者に集中させやすい
固定合意株式等の遺留分算定上の価額を合意時価額に固定する合意後継者の努力による将来価値上昇分を遺留分問題から切り離しやすい

この特例は、家族会議で口約束をすれば足りる制度ではありません。推定相続人等の合意、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可など、厳格な手続が必要です。弁護士、税理士、公認会計士、司法書士、中小企業診断士等が連携して、株式評価、合意書、遺言、税務、会社法手続を同時に整えるべきです。

Section 07

会社法と親族内承継

主要な論点を読みやすく整理します。

7.1 株式の分散防止

親族内承継では、株式が相続人に分散することを防ぐ必要があります。株式が分散すると、次の問題が起こります。

  1. 後継者が株主総会を支配できない
  2. 役員選任に不安が残る
  3. 重要な組織再編や定款変更が難しくなる
  4. 配当、役員報酬、退職金をめぐる対立が起こる
  5. 非協力株主、所在不明株主が現れる
  6. M&Aや金融機関対応で支障が出る

会社法は、譲渡制限株式、種類株式、自己株式取得、株主名簿、定款、機関設計などを定めています。親族内承継では、定款に譲渡制限があるか、株主名簿が整っているか、過去の株式移動が適法か、名義株がないかを確認します。会社法上の制度を使う場合は、会社法、税法、相続法の三方向から検討します。

7.2 種類株式の活用と限界

種類株式は、親族内承継の設計で使われることがあります。たとえば、議決権を後継者に集中し、非後継者には配当優先株式を持たせる、先代経営者が拒否権付種類株式を持つ、後継者が段階的に議決権を取得する、といった設計です。

ただし、種類株式は万能ではありません。税務評価、会社の機動性、金融機関の見方、後継者の自由度、非後継者の不満、将来のM&Aの障害を検討する必要があります。定款変更や登記も必要になり得ます。

7.3 経営者保証と金融機関対応

中小企業では、先代経営者が会社借入の個人保証をしていることが多いです。後継者が経営を継ぐ際、金融機関から後継者保証を求められると、親族内承継が進まないことがあります。中小企業庁は、事業承継時の経営者保証解除に向けた支援策を掲げています。

実務では、次の資料を整えます。

  1. 直近3期の決算書と試算表
  2. 借入金一覧、担保一覧、保証一覧
  3. 事業計画と資金繰り表
  4. 役員体制と後継者育成計画
  5. 会社と経営者個人の資産分離状況
  6. 役員報酬、退職金、貸付金、未収入金の整理方針
Section 08

不動産がある親族内承継

主要な論点を読みやすく整理します。

8.1 事業用不動産と自社株式の関係

親族内承継で不動産がある場合、財産構成は複雑になります。会社が不動産を所有している場合は、自社株式の評価に反映されます。個人が不動産を所有し、会社に貸している場合は、不動産そのものと会社株式の両方を相続で扱います。

典型的な問題は次のとおりです。

次の比較表は、この章の論点を項目ごとに整理したものです。判断材料を見落とさないために重要で、各行を横に読みながら、項目ごとの違いと注意点を確認してください。

財産構成争点
親個人が土地を所有し、会社が工場を建てている借地権、使用貸借、地代、土地評価、後継者への承継
会社が土地建物を所有している自社株評価、不動産含み益、会社分割、M&A時の価格
自宅と店舗が一体居住用と事業用の区分、小規模宅地等の特例、配偶者居住権
共有不動産がある管理、売却、分筆、共有物分割、相続登記

不動産は「使う人」と「所有する人」を一致させる設計が基本です。後継者が事業を行う土地を非後継者が所有すると、賃料、更新、売却、担保提供で将来対立が起こります。

8.2 相続登記の義務化

2024年4月1日から相続登記の申請義務化が施行されています。法務省は、相続により不動産の所有権を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があると説明しています。遺産分割が成立した場合には、成立日から3年以内にその内容を踏まえた登記を申請する追加的義務もあります。

親族内承継では、相続登記を後回しにすると、次の不利益が起こります。

  1. 不動産売却ができない
  2. 融資担保設定ができない
  3. 会社の事業用不動産の権利関係が不安定になる
  4. 次の相続が発生して相続人が増える
  5. 共有関係が複雑化する
  6. 過料リスクが生じる

8.3 境界、分筆、評価

不動産を後継者と非後継者で分ける場合、境界確認、測量、分筆登記が必要になることがあります。土地家屋調査士は境界確認、表示登記、分筆登記で重要な役割を担います。不動産鑑定士は、遺産分割や調停で不動産価格が争点になる場合に重要です。

相続税評価額、固定資産税評価額、不動産鑑定評価額、売買査定額は一致しません。親族内承継で代償金を決めるときは、どの評価額を使うかを明示しないと紛争になります。

8.4 相続土地国庫帰属制度

事業に不要な土地、遠方の山林、管理困難な土地を相続する場合、相続土地国庫帰属制度が選択肢になることがあります。法務省は、相続等によって土地の所有権または共有持分を取得した者等が、法務大臣に対して、土地の所有権を国庫に帰属させることについて承認申請できると説明しています。ただし、建物がある土地、担保権等がある土地、土壌汚染地、境界不明地、管理処分に過分な費用や労力がかかる土地などは対象外になり得ます。審査手数料は土地一筆当たり14,000円で、承認後には10年分の標準的管理費用等を考慮した負担金の納付が必要です。

この制度は「不要な土地を何でも国に渡せる制度」ではありません。親族内承継で事業用不動産を整理する際は、売却、寄付、隣地譲渡、賃貸、管理委託、国庫帰属、相続放棄の違いを比較する必要があります。

Section 09

親族内承継の紛争類型と解決手続

主要な論点を読みやすく整理します。

9.1 よくある紛争類型

次の比較表は、この章の論点を項目ごとに整理したものです。判断材料を見落とさないために重要で、各行を横に読みながら、項目ごとの違いと注意点を確認してください。

紛争類型典型例初動対応
後継者選定争い長男と長女のどちらが継ぐか事業計画、能力、株式、親の意思を整理
遺留分争い後継者に株式が集中した遺留分試算、代償金、生命保険、合意形成
使い込み疑い親の預金が後継者に移った口座履歴、領収書、介護費用、贈与契約書を整理
株価争い非上場株式の評価に不満税務評価、鑑定、会社資料、純資産、収益力を検討
不動産評価争い工場土地の価値で対立鑑定評価、路線価、売買事例、収益性を整理
経営関与争い非後継者が役員や株主として関与を要求株主権、役員選任、配当、情報開示を整理
親の意思能力争い高齢時の贈与や遺言が争われる医療記録、面談記録、公正証書、動画記録を検討

9.2 遺産分割調停と審判

相続人間の話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の遺産分割調停または審判を利用できます。裁判所は、遺産分割について相続人間で話し合いがつかない場合、家庭裁判所の調停または審判を利用できると案内しています。調停では事情聴取、資料提出、鑑定などにより事情を把握し、解決案の提示や助言を通じて合意を目指します。調停不成立の場合は審判手続が開始されます。

親族内承継では、遺産分割調停だけで全ての問題が解決するとは限りません。使い込みは不当利得返還請求や損害賠償請求、遺言の有効性は遺言無効確認訴訟、株主権は会社法上の訴訟、役員責任は会社法上の責任追及、税務は税務署対応になります。弁護士が全体の訴訟リスクを整理し、司法書士、税理士、公認会計士、不動産鑑定士と連携することが重要です。

9.3 家族会議の設計

親族内承継で最も避けるべきことは、親と後継者だけで計画を進め、非後継者に相続開始後初めて知らせることです。これにより、非後継者は内容の合理性よりも「隠された」という感情で反発します。

家族会議では、次の順序が有効です。

  1. 会社または事業を継続する必要性を説明する
  2. 後継者を選んだ理由を説明する
  3. 株式や事業用資産を集中させる必要性を説明する
  4. 非後継者に残す財産や代償金を説明する
  5. 遺留分の試算を示す
  6. 親の生活費、配偶者の住居、介護費用を説明する
  7. 税金と納税資金を説明する
  8. 遺言、贈与、生命保険、会社法手続の全体像を説明する
  9. 質問時間を設ける
  10. 議事メモを残す
Section 10

親族内承継に関わる専門職

主要な論点を読みやすく整理します。

親族内承継は、単独の専門職で完結しにくい領域です。以下は、専門職の役割整理です。

次の比較表は、この章の論点を項目ごとに整理したものです。判断材料を見落とさないために重要で、各行を横に読みながら、項目ごとの違いと注意点を確認してください。

専門職主な役割相談すべき場面
弁護士遺留分、遺産分割、交渉、調停、審判、訴訟、使い込み疑い、株主間紛争相続人間の対立がある、対立が予想される
司法書士相続登記、商業登記、株式・不動産承継に関する登記、裁判所提出書類作成不動産や会社登記がある
税理士相続税、贈与税、事業承継税制、非上場株式評価、税務調査対応相続税や贈与税が発生しそうな場合
行政書士許認可承継、遺産分割協議書等の書類作成支援、相続人関係説明図紛争がなく、許認可や書類整理が中心の場合
公証人公正証書遺言、任意後見契約、契約公正証書遺言の確実性を高めたい場合
遺言執行者遺言内容の実現、株式や預貯金の承継手続遺言で後継者へ株式を集中させる場合
信託銀行等遺言信託、遺言保管、執行、資産管理金融資産が多く、執行体制を外部化したい場合
不動産鑑定士不動産評価、遺産分割、調停資料不動産価額が争点になる場合
土地家屋調査士境界確認、測量、分筆、表示登記土地を分ける、境界が不明な場合
宅地建物取引士、不動産仲介業者売却、重要事項説明、売買契約不動産を売って代償金や納税資金を作る場合
公認会計士財務分析、企業価値評価、内部統制、M&A非上場会社の価値評価、財務DDが必要な場合
中小企業診断士事業承継計画、後継者育成、経営改善承継後の成長計画を作る場合
弁理士特許、商標、知的財産の承継知的財産が事業価値の中核です場合
FP家計、保険、老後資金、相続資金の全体設計家族の生活資金と相続対策を統合したい場合
社会保険労務士遺族年金、労務、退職金、社会保険役員退職、従業員承継、死亡後手続がある場合

中小企業庁も、弁護士、税理士、公認会計士、司法書士、行政書士、中小企業診断士などが、事業承継に関する専門的支援を行うことを紹介しています。

Section 11

親族内承継の実務ロードマップ

主要な論点を読みやすく整理します。

11.1 第1段階 ― 現状把握

最初に行うべきことは節税ではなく、現状把握です。次の資料を集めます。

  1. 戸籍関係図
  2. 相続人候補一覧
  3. 会社の株主名簿
  4. 定款
  5. 登記事項証明書
  6. 直近3期の決算書
  7. 試算表
  8. 借入金一覧
  9. 担保、保証一覧
  10. 役員、従業員一覧
  11. 不動産登記簿
  12. 固定資産税課税明細書
  13. 生命保険契約一覧
  14. 預貯金、有価証券一覧
  15. 会社と経営者個人の貸借関係
  16. 許認可一覧
  17. 知的財産一覧
  18. 取引先、金融機関一覧
  19. 遺言の有無
  20. 過去の贈与履歴

11.2 第2段階 ― 承継方針の決定

次に、誰に何を承継させるかを決めます。方針は、経営権、財産権、生活保障の三層で設計します。

次の比較表は、この章の論点を項目ごとに整理したものです。判断材料を見落とさないために重要で、各行を横に読みながら、項目ごとの違いと注意点を確認してください。

問い
経営権誰が代表者になり、誰が議決権を支配するか
財産権株式、不動産、預貯金、保険、貸付金を誰が取得するか
生活保障配偶者、非後継者、先代経営者の生活をどう守るか

後継者に株式を集中させる場合、非後継者には現金、不動産、保険金、代償金、配当優先株式、退職金原資などを組み合わせます。

11.3 第3段階 ― 税務試算と遺留分試算

相続税試算と遺留分試算は別物です。相続税評価額で税額を計算しても、遺留分の交渉では別の評価が争われることがあります。税理士が相続税評価を行い、弁護士が遺留分リスクを評価し、必要に応じて不動産鑑定士や公認会計士が価格資料を作成します。

11.4 第4段階 ― 実行手段の選択

主な実行手段は次のとおりです。

  1. 公正証書遺言
  2. 自筆証書遺言書保管制度
  3. 生前贈与
  4. 相続時精算課税
  5. 法人版または個人版事業承継税制
  6. 生命保険
  7. 役員退職金
  8. 会社による自己株式取得
  9. 種類株式
  10. 民事信託
  11. 遺留分に関する民法特例
  12. 不動産売却または組換え
  13. 経営者保証解除交渉
  14. 家族会議と合意書

11.5 第5段階 ― 実行後のモニタリング

親族内承継は、書類を作った時点で終わりではありません。株価、税制、家族関係、後継者の能力、会社業績、借入金、健康状態は変わります。少なくとも年1回は、次の事項を確認します。

  1. 遺言の内容が現在の財産状況に合っているか
  2. 株主名簿が正確か
  3. 事業承継税制の届出期限を守っているか
  4. 借入金と保証の状況が変わっていないか
  5. 非後継者への説明が不足していないか
  6. 相続税納税資金が確保されているか
  7. 先代の認知能力低下に備えた任意後見や信託が必要か
  8. 会社の経営体制が後継者依存になり過ぎていないか
Section 12

親族内承継 ― ケーススタディ

主要な論点を読みやすく整理します。

12.1 ケース1 ― 製造業会社を長男が継ぐ

父が100%株主で、長男が専務、長女と次男は会社に関与していません。会社は黒字で土地建物を保有しており、株価が高い状態です。父は長男に会社を継がせたいと考えています。

このケースでは、長男への株式集中が必要です。しかし、長女と次男の遺留分対策が必要です。検討順序は次のとおりです。

  1. 非上場株式の相続税評価を行う
  2. 株式を長男に集中させた場合の遺留分侵害額を試算する
  3. 長女と次男への代償財産を検討する
  4. 生命保険を活用して長男の支払原資を作る
  5. 法人版事業承継税制の適用可否を検討する
  6. 経営承継円滑化法の遺留分特例を検討する
  7. 公正証書遺言を作成する
  8. 金融機関に後継計画を説明する
  9. 長女と次男に家族会議で説明する

12.2 ケース2 ― 親個人が工場土地を持ち、会社が建物を持つ

父が会社株式の大半を持ち、工場土地は父個人名義、工場建物は会社名義です。長女が後継者で、長男は会社に関与していません。

このケースでは、株式だけでなく土地の承継が重要です。長女が株式を承継しても、長男が工場土地を相続すると、会社の存続に支障が出る可能性があります。土地を長女または会社に承継させる設計、長男への代償金、地代設定、小規模宅地等の特例、相続登記を同時に検討します。

12.3 ケース3 ― 個人事業の店舗を配偶者と子が承継する

母が個人で飲食店を営み、店舗兼自宅を所有しています。配偶者は高齢で、子が店を継ぐ予定です。

このケースでは、個人版事業承継税制、小規模宅地等の特例、店舗設備、屋号、許認可、従業員、賃貸借、保健所手続、配偶者の居住保障を検討します。遺言で店舗部分を子に、自宅居住の安定を配偶者に配慮するなど、居住と事業の両立設計が必要です。

Section 13

親族内承継のチェックリスト

主要な論点を読みやすく整理します。

13.1 経営者向けチェックリスト

  1. 後継者候補は明確か
  2. 後継者は本当に継ぐ意思があるか
  3. 非後継者に説明しているか
  4. 株主名簿は正確か
  5. 名義株はないか
  6. 定款に譲渡制限があるか
  7. 会社の株価を試算したか
  8. 相続税を試算したか
  9. 遺留分を試算したか
  10. 遺言を作成したか
  11. 遺言執行者を指定したか
  12. 生命保険の受取人を確認したか
  13. 会社への貸付金を整理したか
  14. 役員退職金規程はあるか
  15. 借入金と保証を一覧化したか
  16. 金融機関に後継計画を説明したか
  17. 事業用不動産の名義を確認したか
  18. 相続登記未了の不動産はないか
  19. 境界不明の土地はないか
  20. 許認可の承継可否を確認したか
  21. 主要取引先への説明時期を決めたか
  22. 従業員への説明時期を決めたか
  23. 後継者育成計画を作ったか
  24. 事業承継税制の期限を確認したか
  25. 家族会議の記録を残したか

13.2 後継者向けチェックリスト

  1. 自分が取得する株式数と議決権割合を理解しているか
  2. 遺留分請求を受けた場合の支払原資はあるか
  3. 相続税や贈与税の納税資金はあるか
  4. 会社借入の保証を引き受ける可能性を理解しているか
  5. 非後継者への説明に参加しているか
  6. 先代の取引先、金融機関、人脈を引き継いでいるか
  7. 従業員の信頼を得ているか
  8. 経営計画を作っているか
  9. 会社と個人の財布を分けているか
  10. 使い込み疑いを招かない記録管理をしているか

13.3 非後継者向けチェックリスト

  1. 会社を継がない理由は明確か
  2. 後継者への株式集中の必要性を理解しているか
  3. 自分が取得する財産や代償金を把握しているか
  4. 遺留分の試算を確認したか
  5. 親の生活保障が確保されているか
  6. 相続税負担が誰に生じるか確認したか
  7. 会社の株主として残る場合の権利義務を理解しているか
  8. 共有不動産を持つリスクを理解しているか
  9. 感情的対立と法的権利を分けて検討しているか
  10. 必要に応じて弁護士に相談しているか
Section 14

よくある質問

主要な論点を読みやすく整理します。

Q1. 親族内承継では、必ず長男が継ぐのでしょうか。

いいえ。法律上、長男が当然に継ぐ制度はありません。後継者は、経営能力、意思、従業員や取引先との関係、株式取得可能性、家族の納得、税務負担を総合して決めます。長女、次男、配偶者、甥姪が継ぐこともあります。

Q2. 遺言があれば、遺留分の問題はなくなりますか。

なくなりません。遺言は遺産の承継先を指定する強力な手段ですが、遺留分権利者がいる場合、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。遺言と遺留分対策はセットで設計します。

Q3. 親が元気なうちに株式を贈与すれば安全ですか。

必ずしも安全ではありません。贈与税、相続時精算課税、暦年贈与加算、遺留分、特別受益、会社法上の譲渡承認、株主名簿、事業承継税制の要件を確認する必要があります。

Q4. 非上場株式は売れないのに、なぜ相続税がかかるのですか。

相続税では、取引相場のない株式も一定の評価方法で評価します。売却困難性があっても、会社の純資産や収益力に基づいて評価額が出る場合があります。納税資金対策が重要です。

Q5. 兄弟姉妹で会社株式を共有してもよいですか。

法的には可能ですが、事業承継では慎重に考えるべきです。株式が分散すると、重要な意思決定、配当、役員選任、売却、相続のたびに対立が起こりやすくなります。後継者に議決権を集中させ、非後継者には別財産で調整する設計が基本です。

Q6. 親族内承継でもM&Aを検討すべきですか。

後継者がいる場合でも、M&Aは比較対象として検討する価値があります。親族内承継が家族全体に過重な税負担や保証負担を生む場合、第三者承継の方が事業と雇用を守れることもあります。ただし、親族内承継とM&Aでは目的、手続、感情面の影響が異なります。

Q7. 相続登記をしないままでも事業は続けられますか。

短期的には続いているように見える場合があります。しかし、売却、担保設定、融資、建替え、代償分割、次の相続で支障が出ます。相続登記は2024年4月1日から義務化されています。

Q8. 家族だけで遺産分割協議書を作ってよいですか。

争いがなく、財産も単純であれば可能な場合があります。しかし、非上場株式、事業用不動産、相続税申告、遺留分、未成年者、認知症の相続人、海外居住者、使い込み疑いがある場合は、専門職の関与が望ましいです。

Section 15

親族内承継 ― 専門的結論

主要な論点を読みやすく整理します。

親族内承継の成否は、後継者を誰にするかだけで決まりません。むしろ、次の五つを同時に満たせるかで決まります。

  1. 後継者が事業を支配できる議決権と資産を取得すること
  2. 非後継者の遺留分と生活上の納得を確保すること
  3. 相続税、贈与税、納税猶予、登記、届出の期限を守ること
  4. 会社、金融機関、従業員、取引先が新体制を信頼すること
  5. 相続開始後に紛争化しても耐えられる証拠と手続を残すこと

親族内承継は、家族の情だけで進めると破綻しやすく、税務だけで進めても紛争を防げません。弁護士が遺留分と紛争を見立て、税理士が税額と評価を計算し、司法書士が登記と株式・不動産の名義を整え、公証人が遺言を確実化し、公認会計士や中小企業診断士が会社の価値と承継計画を見立て、不動産鑑定士や土地家屋調査士が不動産を整理します。これが親族内承継の本来の実務です。

最も重要な実務指針は、相続開始前に、財産目録、株式評価、相続税試算、遺留分試算、遺言、家族説明、事業承継計画を作ることです。親族内承継は、死亡後の相続手続ではなく、生前から始める経営と相続の統合設計です。

Guide

親族内承継で次に確認したいこと

目的に近い詳しい解説へ進めるよう、関連するテーマを整理しました。

知りたい内容を選ぶと、手続、費用、地域、具体的な論点などの詳しい解説に進めます。

このテーマから次に確認されやすい詳しい解説を8件表示しています。

Reference

親族内承継の参考資料

公的機関・法令・税務資料

  • 中小企業庁「2025年版 中小企業白書 第9節 事業承継」
  • 中小企業庁「事業承継を知る」
  • 中小企業庁「事業承継を実施する」
  • 中小企業庁「事業承継の支援策」
  • 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
  • 中小企業庁「個人版事業承継税制の前提となる認定」
  • 法務省「相続登記の申請義務化について」
  • 法務省「自筆証書遺言書保管制度 03 遺言書の様式等についての注意事項」
  • 法務省「自筆証書遺言書保管制度について」
  • 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」
  • 政府広報オンライン「知っておきたい遺言書のこと
  • 日本公証人連合会「2 遺言」
  • 裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」
  • 裁判所「遺産分割調停」
  • 国税庁「No.4152 相続税の計算」
  • 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」
  • 国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
  • 国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」
  • 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
  • 国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」
  • e-Gov法令検索「民法」
  • e-Gov法令検索「会社法」
  • e-Gov法令検索「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」