2σ Guide

高齢者の就労可能年数をめぐる
保険会社との争い

交通事故で高齢を理由に逸失利益や就労可能年数を短く提示されたとき、基礎収入、平均余命、年金、家事労働、既往症をどう分けて確認するかを整理します。

21年 65歳以上就業者数が連続増加
54.9% 65~69歳の労働力人口比率
3% 2026年4月以降の法定利率
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高齢者の就労可能年数をめぐる 保険会社との争い

年齢だけで逸失利益を否定されないために、最初に見るべき論点を整理します。

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高齢者の就労可能年数をめぐる 保険会社との争い
年齢だけで逸失利益を否定されないために、最初に見るべき論点を整理します。
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2σ GUIDE ・ VIDEO

  • 高齢者の就労可能年数をめぐる 保険会社との争い
  • 年齢だけで逸失利益を否定されないために、最初に見るべき論点を整理します。

POINT 1

  • 高齢者の就労可能年数をめぐる保険会社との争いの全体像
  • 年齢だけで逸失利益を否定されないために、最初に見るべき論点を整理します。
  • 年齢だけでは決まらない
  • 計算式を分解する
  • 67歳や平均余命は目安

POINT 2

  • 高齢者の就労可能年数で使う基本用語
  • 逸失利益の議論を読み違えないために、先に用語と計算式をそろえます。
  • なぜ重要かというと、保険会社の提示書では似た言葉が混在し、どの前提で金額が減っているのか見えにくいからです。
  • 左の用語と右の意味を対応させ、就労可能年数、労働能力喪失期間、平均余命を混同しないように読み取ってください。
  • なぜ重要かというと、年金や生活費控除の有無により、同じ高齢者事故でも争点が変わるためです。

POINT 3

  • 高齢者の就労可能年数が保険会社と争いになりやすい理由
  • 高齢期の働き方の多様化と医学的争点が、損害額の評価を難しくします。
  • 保険会社が就労可能年数を短く見積もりやすい背景には、高齢者の収入や健康状態の証明が複雑になりやすい事情があります。
  • 次の横棒グラフは、令和6年の高齢期就労の広がりを性別と年齢層で整理したものです。
  • なぜ重要かというと、高齢期の就労が例外ではないことを、個別事情を考える前提として理解できるためです。

POINT 4

  • 高齢者の就労可能年数で使われる67歳・平均余命2分の1・自賠責表
  • 目安の数値を知りつつ、機械的な結論にしないことが重要です。
  • 安定した就労実態
  • 契約更新や専門性
  • 事故前の健康と意思

POINT 5

  • 高齢者の就労可能年数で保険会社が出しやすい主張と反論
  • 1. 計算式を開示してもらう:基礎収入、年数、係数、喪失率、控除率を項目ごとに確認します。
  • 2. 事故前の稼働実態と照合する:勤務、家事、事業、年金、健康状態の資料と合っているか見ます。
  • 3. 年齢だけで短縮されていないか:67歳、平均余命の2分の1、自賠責表が機械的に使われていないか確認します。
  • 4. 資料と質問を追加:根拠資料、医学的根拠、職場資料の提出や説明を求めます。
  • 5. 個別事情で再検討:提示が妥当か、増額余地があるかを資料に基づいて検討します。

POINT 6

  • 高齢者の就労可能年数を争うための証拠戦略
  • 画像所見だけで判断しない
  • MRIやX線に変性があっても、事故前に勤務、家事、運転、地域活動をしていた事実と合わせて評価します。
  • 生活機能を第三者資料で示す
  • 健康診断、介護認定の不存在、運転免許更新、勤務表、写真、動画、位置情報などが補強資料になります。

POINT 7

  • 高齢者の就労可能年数と年金・死亡逸失利益・生活費控除
  • 1. 事故前の生活と活動を確認:高齢者が野菜作り、自動二輪車の運転、日常生活をしていた事実などが具体的に見られます。
  • 2. 活動が損害賠償上の稼働かを検討:庭仕事や自家消費に近い活動は、収入性や継続性の立証が問題になります。
  • 3. 年金等の死亡逸失利益を別に評価:老齢厚生年金などは、平均余命や生活費控除を踏まえて計算されることがあります。
  • 4. 既往症や事故との因果関係を検討:素因や因果関係がある場合、損害額が調整される可能性があります。

POINT 8

  • 高齢者の就労可能年数を保険会社提示と比較する計算例
  • 提示額を検算するため、金額・喪失率・係数を分けて見ます。
  • 検算の中心は、総額ではなく前提の妥当性です
  • なぜ重要かというと、保険会社が年数や基礎収入を短く置くと、最終額が大きく変わるためです。
  • 各行では、基礎収入、等級、喪失率、年数、係数のどれが争点になるかを読み取ってください。

まとめ

  • 高齢者の就労可能年数をめぐる 保険会社との争い
  • 高齢者の就労可能年数をめぐる保険会社との争いの全体像:年齢だけで逸失利益を否定されないために、最初に見るべき論点を整理します。
  • 高齢者の就労可能年数で使う基本用語:逸失利益の議論を読み違えないために、先に用語と計算式をそろえます。
  • 高齢者の就労可能年数が保険会社と争いになりやすい理由:高齢期の働き方の多様化と医学的争点が、損害額の評価を難しくします。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

高齢者の就労可能年数をめぐる保険会社との争いの全体像

年齢だけで逸失利益を否定されないために、最初に見るべき論点を整理します。

高齢者の就労可能年数をめぐる保険会社との争いでは、事故前の働き方、将来も働く蓋然性、基礎収入、労働能力喪失率、年金や家事労働の扱いを分けて確認することが重要です。高齢であること自体は大切な事情ですが、それだけで逸失利益や就労可能年数が当然にゼロになるわけではありません。

次の重要ポイントは、このページ全体で扱う判断要素をまとめたものです。保険会社の提示額が妥当かを読むうえでなぜ重要かというと、総額だけを見ても、どの要素で減額されているか分からないためです。まずは年齢、収入、年数、係数、証拠の5つに分解して読むことが出発点になります。

POINT 1

年齢だけでは決まらない

実際の勤務、家事、事業、健康状態、契約更新の見込みを総合して検討します。

POINT 2

計算式を分解する

基礎収入、喪失率、期間、ライプニッツ係数のどこが低く置かれたかを確認します。

POINT 3

67歳や平均余命は目安

67歳、平均余命の2分の1、自賠責表は重要ですが、個別事情で修正され得ます。

POINT 4

年金と就労収入は別

年金受給だけを理由に、賃金、事業収入、家事労働の経済価値は消えません。

POINT 5

証拠整理が核心

勤務資料、収入資料、医療記録、生活記録をつなげて、事故前後の差を示します。

逸失利益の判断で特に大切なのは、抽象的な気持ちではなく、事故がなければどの収入や経済的価値をどれくらい続けられたかを資料で示すことです。

核心高齢者の就労可能年数は、何歳かだけではなく、事故がなければその人がその仕事、家事、事業をどの程度の収入または経済価値でどれくらい続けられたかによって検討されます。
Section 01

高齢者の就労可能年数で使う基本用語

逸失利益の議論を読み違えないために、先に用語と計算式をそろえます。

次の比較表は、高齢者の就労可能年数をめぐる保険会社との争いで頻出する用語を整理したものです。なぜ重要かというと、保険会社の提示書では似た言葉が混在し、どの前提で金額が減っているのか見えにくいからです。左の用語と右の意味を対応させ、就労可能年数、労働能力喪失期間、平均余命を混同しないように読み取ってください。

用語意味と確認点
高齢者主に65歳以上を想定しますが、60代前半、67歳前後、70代、80代で争点は変わります。
就労可能年数事故がなければ働いて収入を得られたと評価される年数です。寿命そのものではありません。
労働能力喪失期間後遺障害で労働能力が低下すると評価される期間です。就労可能年数と重なることもありますが同一ではありません。
逸失利益事故がなければ将来得られたはずの利益です。後遺障害逸失利益と死亡逸失利益があります。
基礎収入年間収入の前提です。給与、事業所得、家事労働、年金などで資料が変わります。
症状固定医学的に大きな改善が見込めない状態です。後遺障害の内容や年齢を評価する起点になります。
労働能力喪失率後遺障害による労働能力低下の割合です。自賠責表では7級56%、10級27%、12級14%、14級5%などが示されます。
ライプニッツ係数将来収入を現在受け取る形で賠償する際の中間利息控除の係数です。法定利率の確認が必要です。
平均余命ある年齢の人が平均してあと何年生存すると見込まれるかを示す統計です。就労可能年数とは別に扱います。
生活費控除死亡逸失利益で、本人が生存していれば使った生活費部分を控除する考え方です。

次の2つの式は、後遺障害と死亡事故で逸失利益の構造がどう違うかを表します。なぜ重要かというと、年金や生活費控除の有無により、同じ高齢者事故でも争点が変わるためです。掛け算のどの要素が低く置かれたかを読み取ってください。

場面基本式読み方
後遺障害逸失利益基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数症状固定後にどれだけ働く力が減ったかを見ます。
死亡逸失利益基礎収入 ×(1 − 生活費控除率)× 就労可能年数または平均余命に対応するライプニッツ係数本人が生存していれば残せた経済的利益を見ます。
Section 02

高齢者の就労可能年数が保険会社と争いになりやすい理由

高齢期の働き方の多様化と医学的争点が、損害額の評価を難しくします。

保険会社が就労可能年数を短く見積もりやすい背景には、高齢者の収入や健康状態の証明が複雑になりやすい事情があります。定年後再雇用、嘱託、パート、シルバー人材センター、業務委託、自営業、農業、家事労働などは、若年の正社員より資料化が難しいことがあります。

次の横棒グラフは、令和6年の高齢期就労の広がりを性別と年齢層で整理したものです。なぜ重要かというと、高齢期の就労が例外ではないことを、個別事情を考える前提として理解できるためです。割合が長いほど同じ年齢層で働く人が多く、65歳や70歳を超えたことだけでは就労可能性を否定しにくいことを読み取れます。

60~64歳男性
84.0%
65~69歳男性
62.8%
70~74歳男性
43.8%
60~64歳女性
65.0%
65~69歳女性
44.7%
70~74歳女性
27.3%
内閣府の高齢社会白書で示される就業者割合をもとにした比較です。

次の一覧は、保険会社が短く見積もりやすい事情と、被害者側が確認すべき反論材料を対応させたものです。なぜ重要かというと、反論は感情的な主張ではなく、どの資料で将来収入の蓋然性を示すかにかかるからです。左の減額理由に対し、右の資料を集める方向で読み取ってください。

保険会社が見やすい事情確認すべき反論材料
定年後で契約更新が保証されない再雇用規程、更新実績、同年齢層の勤務実績、会社証明
収入が低額または不定期通帳、シフト、売上台帳、出荷記録、請求書、取引先証明
年金受給中である年金と就労収入を分け、実際の稼働や家事労働を示す資料
既往症や加齢性変化がある事故前の生活機能、勤務実態、事故後の変化、医療記録
本人の意思だけで将来就労を説明している契約、勤務表、職場評価、家族や同僚の陳述、健康診断

次の比較表は、交通事故賠償で使われる3つの基準を整理したものです。なぜ重要かというと、保険会社の提示が裁判で認められる上限ではないことを見落としやすいからです。自賠責、任意保険、裁判実務に近い評価の違いを読み取ってください。

区分性格高齢者の就労可能年数との関係
自賠責基準最低限の被害者救済機能を持つ強制保険の支払基準です。就労可能年数表、喪失率表、年金等受給者の死亡逸失利益の扱いがあります。
任意保険基準各保険会社が示談提示で用いる内部的な算定基準です。高齢を理由に就労可能年数を短く提示されることがあります。
裁判基準裁判例の蓄積を踏まえた損害評価です。年齢、職種、稼働実態、医学的制限、統計を個別に見ます。
Section 03

高齢者の就労可能年数で使われる67歳・平均余命2分の1・自賠責表

目安の数値を知りつつ、機械的な結論にしないことが重要です。

交通事故実務では、若年者や現役世代について67歳までを就労可能年齢の目安にすることがあります。高齢者ではすでに67歳を超えていることが多いため、平均余命の2分の1や自賠責の就労可能年数表が参照されます。ただし、これは絶対的な上限ではなく、職業、健康状態、契約、稼働実態で修正され得る目安です。

次の表は、令和6年簡易生命表の平均余命と自賠責表上の就労可能年数・ライプニッツ係数を並べたものです。なぜ重要かというと、平均余命そのものと就労可能年数は異なるため、保険会社の年数提示を検算する土台になるからです。年齢が上がるほど年数と係数が小さくなる一方、平均余命全体をそのまま働く期間とは読まない点に注意してください。

年齢男性平均余命女性平均余命自賠責表の就労可能年数ライプニッツ係数
65歳19.47年24.38年10年8.530
70歳15.60年19.97年8年7.020
75歳12.08年15.75年7年6.230
80歳8.96年11.83年5年4.580
85歳6.31年8.37年4年3.717
90歳4.27年5.55年3年2.829

次の一覧は、目安を超えて主張しやすい事情と、逆に短縮されやすい事情を対比したものです。なぜ重要かというと、同じ75歳でも、勤務継続の裏付けがある人と就労見込みが乏しい人では評価が変わるためです。左右を見比べ、どの事情が自分の資料で示せるかを読み取ってください。

伸ばす事情

安定した就労実態

事故前に安定して働き、職場に70歳以上や75歳以上の勤務実績がある場合は、短すぎる提示を争う材料になります。

伸ばす事情

契約更新や専門性

再雇用契約、業務委託、資格職、専門職、農業、個人事業などは、年齢だけで終了しないことがあります。

伸ばす事情

事故前の健康と意思

健康診断、通勤、運転、勤務表、本人の就労意思、周囲の証言がそろうと継続可能性を説明しやすくなります。

短縮事情

就労見込みが乏しい

事故前から働いておらず、求職活動もなく、重い既往症や介護状態がある場合は短縮または否定の可能性があります。

Section 04

高齢者の就労可能年数で保険会社が出しやすい主張と反論

典型的な減額理由を、証拠と計算の両面から検討します。

次の表は、保険会社が出しやすい主張と、反論で確認すべきポイントを対応させたものです。なぜ重要かというと、反論の方向を誤ると、年齢や年金の話だけで押し切られやすいからです。左の主張を受けたら、右の事情を資料で示せるかを読み取ってください。

保険会社の主張反論の組み立て
高齢だから逸失利益はない勤務日数、担当業務、給与、通勤、健康状態を時系列で示します。
定年後だから将来収入は不確実更新実績、再雇用規程、同年齢者の勤務実績、会社証明を確認します。
年金を受けているから収入損害はない年金と賃金・事業所得・家事労働は別に評価します。
赤字や低収入だから基礎収入はゼロ税務上の所得と労務価値を分け、売上、経費、本人の寄与を見ます。
高齢だから家事労働は認めにくい家事内容、頻度、同居家族、介護、代替負担を具体化します。
等級が低いから長期の喪失はない具体的業務への影響、配置転換、努力による減収回避を示します。
既往症や加齢性変化が原因である事故前後の生活機能差を、医療記録と勤務・家事記録で対比します。

次の判断の流れは、保険会社の提示額を受け取った後に、どの順番で検算するかを示しています。なぜ重要かというと、総額に納得できないだけでは、どの前提を争うべきか特定できないためです。上から順に、収入、年数、係数、喪失率、控除・減額の根拠を分けて確認してください。

提示額を検算する順番

計算式を開示してもらう

基礎収入、年数、係数、喪失率、控除率を項目ごとに確認します。

事故前の稼働実態と照合する

勤務、家事、事業、年金、健康状態の資料と合っているか見ます。

年齢だけで短縮されていないか

67歳、平均余命の2分の1、自賠責表が機械的に使われていないか確認します。

不明確
資料と質問を追加

根拠資料、医学的根拠、職場資料の提出や説明を求めます。

説明あり
個別事情で再検討

提示が妥当か、増額余地があるかを資料に基づいて検討します。

Section 05

高齢者の就労可能年数を争うための証拠戦略

職業・生活類型ごとに、集める資料は大きく変わります。

次の一覧は、給与所得者、自営業者、家事従事者、医療資料で集めるべき証拠を分けて示しています。なぜ重要かというと、就労可能年数は抽象的な希望ではなく、事故前後の具体的な差を資料で示す必要があるからです。自分の生活類型に近い行を中心に、資料の抜けを読み取ってください。

給与所得者・再雇用者

源泉徴収票、給与明細、雇用契約書、労働条件通知書、再雇用規程、勤怠記録、シフト表、職場証明を確認します。

収入更新実績

自営業者・農業者・会社役員

確定申告書、売上台帳、請求書、通帳、出荷伝票、作業日誌、役員報酬規程、本人の担当業務を整理します。

事業労務寄与

家事従事者

家事スケジュール、買物や通院付添いの頻度、同居家族、要介護状態、事故後の代替負担、ヘルパー利用記録を集めます。

家事代替負担

医療・リハビリ資料

診断書だけでなく、可動域、筋力、歩行、ADL、IADL、認知機能、主治医意見、復職訓練記録を業務と結びつけます。

医学業務影響

次の比較表は、医療分野ごとに見るべき資料と観点を整理しています。なぜ重要かというと、高齢者では既往症や加齢性変化が問題になりやすく、診断名だけでは事故後の就労制限を説明しきれないためです。どの専門領域が、どの身体機能や仕事への影響を示すのかを読み取ってください。

専門領域見るべき資料・観点
整形外科骨折、可動域、筋力、疼痛、歩行能力、荷重制限、変形、神経症状
脳神経外科頭部外傷、脳出血、脳挫傷、高次脳機能障害、認知機能、遂行機能
リハビリ科ADL、IADL、歩行、階段、持ち上げ、立位保持、復職訓練
精神科・心療内科PTSD、不眠、抑うつ、不安、運転恐怖、集中力低下
眼科・耳鼻科視力低下、複視、めまい、難聴、平衡機能障害
主治医意見就労制限、避けるべき動作、将来改善見込み

次の注意点一覧は、高齢者事案で事故前は元気だったという説明を資料化する際の落とし穴をまとめたものです。なぜ重要かというと、画像上の加齢変化があるだけで就労能力がなかったとはいえない一方、事故前からの制限も無視できないからです。事故前と事故後の差を示す資料を優先して読み取ってください。

画像所見だけで判断しない

MRIやX線に変性があっても、事故前に勤務、家事、運転、地域活動をしていた事実と合わせて評価します。

生活機能を第三者資料で示す

健康診断、介護認定の不存在、運転免許更新、勤務表、写真、動画、位置情報などが補強資料になります。

入院後の変化も見る

廃用、せん妄、筋力低下、嚥下機能低下、抑うつなどは、入院記録や退院支援記録と照合します。

Section 06

高齢者の就労可能年数と年金・死亡逸失利益・生活費控除

年金収入、就労収入、家事労働、生活費控除は分けて考えます。

高齢者事故では、年金と就労収入が同時に存在することがあります。死亡事故では年金逸失利益、生活費控除、平均余命が問題になり、後遺障害事案では慰謝料、介護費、家屋改造費なども重要です。年金を受けていることだけで、他の損害が消えるわけではありません。

次の表は、年金・就労収入・家事労働をどのように分けて見るかを整理したものです。なぜ重要かというと、保険会社が年金だけを見て、賃金や家事労働を見落とすことがあるためです。収入の種類ごとに、期間、控除、証拠が変わる点を読み取ってください。

利益の種類主な争点必要資料
就労収入何年働けたか、基礎収入はいくらか、事故後どの業務ができなくなったか。給与明細、雇用契約、シフト、確定申告、売上資料
年金拠出性のある年金か、平均余命、生活費控除、遺族年金との関係。年金通知書、振込記録、受給権の内容
家事労働同居家族への実質的な家事・介護・通院付添いの価値。家事分担表、介護資料、家族陳述、代替サービス記録
生活費控除死亡逸失利益から本人生活費として何%を控除するか。家計資料、扶養状況、同居家族の収入、医療費や介護費

次の時系列は、裁判例から読み取れる判断構造を、事実認定から損害評価までの順番で整理したものです。なぜ重要かというと、高齢だから一律にゼロではなく、稼働実態、収入性、年金、生活費控除、因果関係が別々に検討されるからです。順番を追って、どの段階で証拠が必要になるかを読み取ってください。

事実認定

事故前の生活と活動を確認

高齢者が野菜作り、自動二輪車の運転、日常生活をしていた事実などが具体的に見られます。

収入性

活動が損害賠償上の稼働かを検討

庭仕事や自家消費に近い活動は、収入性や継続性の立証が問題になります。

年金

年金等の死亡逸失利益を別に評価

老齢厚生年金などは、平均余命や生活費控除を踏まえて計算されることがあります。

調整

既往症や事故との因果関係を検討

素因や因果関係がある場合、損害額が調整される可能性があります。

次の一覧は、職種・生活類型ごとの実務ポイントをまとめたものです。なぜ重要かというと、同じ高齢者でも再雇用、農業、専門職、役員、家事、年金生活で証明すべき内容が違うためです。自分に近い類型で、収入性、継続性、代替困難性を読み取ってください。

雇用

会社員・再雇用・嘱託

再雇用の継続可能性、更新基準、勤務評価、同年代の勤務実績を確認します。

短時間

パート・アルバイト

短時間でも継続性があれば、勤務日数、時給、事故後の欠勤や退職が重要になります。

一次産業

農業・漁業・林業

農業・林業では65歳以上の就業者割合が高く、出荷記録や作業量が重要です。

専門

自営業・士業・専門職

資格、経験、顧客基盤、本人の労務寄与、事故後の売上や対応能力を示します。

役員

会社役員

役員報酬のうち労務対価部分と利益配当的部分を分けて検討します。

生活

家事従事者・介護担当者

食事管理、通院付添い、買物、介護補助などの実質的労働を具体化します。

Section 07

高齢者の就労可能年数を保険会社提示と比較する計算例

提示額を検算するため、金額・喪失率・係数を分けて見ます。

次の表は、3つの仮想例で逸失利益の計算要素を並べたものです。なぜ重要かというと、保険会社が年数や基礎収入を短く置くと、最終額が大きく変わるためです。各行では、基礎収入、等級、喪失率、年数、係数のどれが争点になるかを読み取ってください。

前提計算争点
72歳パート・後遺障害10級事故前年収180万円、喪失率27%、8年、係数7.020180万円 × 27% × 7.020 = 341万1,720円3年など短い提示の場合、勤務実績や更新制度を示します。
75歳自営業者・後遺障害7級基礎収入240万円、喪失率56%、7年、係数6.230240万円 × 56% × 6.230 = 837万3,120円基礎収入の立証、本人の労務価値、外注費増加が争点です。
80歳家事従事者・後遺障害12級基礎収入は年齢別平均賃金等をもとに検討、喪失率14%、5年、係数4.580基礎収入 × 14% × 4.580家事内容、同居家族、介護、事故後の代替負担が重要です。

次の強調表示は、計算例から共通して読み取れる注意点をまとめています。なぜ重要かというと、逸失利益はひとつの数字ではなく、複数の前提が掛け合わさって決まるからです。提示額が低い場合、どの前提が低いのかを分解して読む必要があります。

検算の中心は、総額ではなく前提の妥当性です

基礎収入、喪失率、就労可能年数、ライプニッツ係数、生活費控除、既払金控除を分けて確認すると、争うべき項目が見えやすくなります。

Section 08

高齢者の就労可能年数をめぐる示談交渉の進め方

示談前に計算根拠と証拠をそろえ、署名前に検算します。

保険会社から示談案が届いたら、総額だけで判断せず、計算過程を確認する必要があります。示談書に署名押印すると、原則として後から追加請求は難しくなるため、高齢者の就労可能年数や死亡逸失利益が争点になる場合は、署名前の検算が特に重要です。

次の手順図は、示談案を受け取ってから確認すべき順番を表しています。なぜ重要かというと、先に署名してしまうと、基礎収入や年数の誤りを後から直しにくいためです。上から順に、等級・因果関係、収入、年数、喪失率、控除、既往症を確認する流れを読み取ってください。

示談前の確認順序

後遺障害等級または死亡との因果関係

医学的評価が適切か確認します。

基礎収入と就労可能年数

事故前実態を反映しているか、年齢だけで短縮されていないか見ます。

喪失率と係数

等級表、事故日、法定利率に沿っているか確認します。

年金・生活費控除・素因減額

年金や既往症を理由に過度な減額がないか検討します。

必要に応じて専門家に相談

資料を持参し、増額余地や費用対効果を確認します。

次の表は、保険会社に文書で説明を求めたい項目を整理したものです。なぜ重要かというと、口頭説明だけでは後から検証できず、弁護士相談時の資料にもなりにくいからです。採用した金額、年数、係数、減額理由を文書で確認する点を読み取ってください。

求める説明確認したい内容
基礎収入採用金額と根拠資料、賃金センサスや実収入の扱い
就労可能年数何歳まで、何年分、どの表や統計を使ったか
ライプニッツ係数法定利率と事故日・症状固定日の関係
喪失率の修正等級表どおりでない場合の理由
既往症・素因減額医学的根拠、減額割合、事故前後の機能差
年金・生活費控除年金の種類、控除率、遺族年金や損益相殺の扱い
注意保険会社が高齢を理由に逸失利益をゼロまたは極端に低く提示している場合、67歳以上や75歳以上で年数が争われる場合、定年後再雇用、自営業、農業、会社役員、家事従事者、年金受給者の死亡事故では、早めの専門家相談が重要になります。
Section 09

高齢者の就労可能年数に関するよくある質問

個別の結論は資料で変わるため、一般的な考え方として整理します。

Q1. 70歳を超えていても逸失利益は認められますか。

一般的には、事故前に実際に働いていた、今後も働く見込みがあった、または家事労働を担っていた場合には、年齢だけで逸失利益が否定されるとは限らないとされています。ただし、就労可能年数、基礎収入、労働能力喪失率は、事故態様、収入資料、健康状態、職場制度によって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. 平均余命の半分までと言われた場合、争う余地はありますか。

一般的には、平均余命の2分の1は重要な目安とされています。ただし、長期継続が見込まれる職種、契約更新実績、職場制度、健康状態、専門性などによって評価が変わる可能性があります。具体的な見通しは、雇用資料や医療資料を確認して弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q3. 年金だけで生活していた場合、逸失利益はありませんか。

一般的には、死亡事案では拠出性のある年金等が死亡逸失利益として問題になる可能性があるとされています。ただし、本人の生活費控除、遺族年金、損益相殺、年金の種類によって結論が変わる可能性があります。後遺障害事案では、慰謝料や介護費など別の損害項目が中心になることもあるため、資料を整理して専門家へ相談する必要があります。

Q4. 事故後も働いていると逸失利益は否定されますか。

一般的には、事故後も働いていることだけで逸失利益が否定されるとは限らないとされています。本人の努力、家族や職場の配慮、配置転換、勤務時間短縮、収入減少、作業効率低下などが問題になります。ただし、事故後の収入状況や業務内容で評価は変わるため、具体的には専門家へ相談する必要があります。

Q5. 家族のための家事に収入がなくても損害になりますか。

一般的には、家族のための家事労働にも経済的価値があるとされています。ただし、家事内容、頻度、同居家族、介護や通院付添い、事故後の代替負担によって評価は変わる可能性があります。具体的な算定は、生活資料を整理したうえで専門家へ相談する必要があります。

Q6. 既往症があると就労可能年数は必ず短くなりますか。

一般的には、既往症があることだけで就労可能年数が必ず短くなるとは限らないとされています。事故前に通常就労していたか、既往症が実際に就労を制限していたか、事故後に何が変わったかで評価が変わります。医療記録と生活記録を整理し、具体的には専門家へ相談する必要があります。

Reference

この記事の参考情報源

法令・公的基準

  • 日本法令外国語訳DBシステム「民法」第709条・第722条・第417条の2・第404条
  • 金融庁・国土交通省「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」
  • 厚生労働省「高年齢者の雇用」
  • 厚生労働省「令和6年簡易生命表の概況」

統計・実務資料

  • 内閣府「令和7年版高齢社会白書」
  • e-Stat「賃金構造基本統計調査」
  • 大阪地方裁判所判決(裁判所ウェブサイト掲載の交通事故損害賠償事案)