会社と親会社、子会社、主要株主、役員、近親者、支配会社との取引について、誰が対象となり、どの取引を承認・開示・証跡化すべきかを実務目線で整理します。
禁止かどうかではなく、識別、承認、公正性、開示、証跡を一体で管理する論点です。
禁止かどうかではなく、識別、承認、公正性、開示、証跡を一体で管理する論点です。
次の一覧は、関連当事者取引の管理で最初に押さえる5つの行動を整理したものです。各項目は承認・開示・監査対応の入口になるため、どの作業が自社で弱いかを読み取ることが重要です。
親会社、子会社、主要株主、役員、近親者、支配会社、退任創業者などを実質で確認します。
売買、委託、貸付、保証、担保、無償提供、第三者経由取引まで確認します。
価格比較、鑑定、稟議、議事録、契約書、監査人との協議記録を保存します。
関連当事者取引とは、会社とその親会社、子会社、主要株主、役員、役員の近親者、役員等が支配する会社など、会社の意思決定に影響を及ぼし得る者との取引をいいます。会計基準上は、対価の有無を問わず、資源・債務の移転または役務の提供があれば、関連当事者との取引になり得ます。さらに、形式上は第三者との取引であっても、実質上の相手方が関連当事者である場合や、関連当事者が当該取引に重要な影響を及ぼしている場合も射程に入ります。
関連当事者取引は、それ自体が違法というわけではありません。グループ会社間の資金貸借、親会社による保証、役員所有会社への業務委託、創業者からの不動産賃借、関連会社への販売、子会社への経営指導料、役員親族会社との仕入取引など、企業経営上必要な取引も多くあります。しかし、通常の独立第三者間取引とは異なり、価格・条件・意思決定過程が会社や少数株主、債権者、投資者に不利になりやすい構造を持ちます。そのため、制度の核心は次の5点にあります。
とりわけ実務上重要なのは、「関連当事者取引の開示対象」と「会社法上の利益相反承認対象」は一致しないという点です。たとえば、主要株主との取引は会計上の関連当事者取引になり得ますが、直ちに会社法356条の取締役利益相反取引になるとは限りません。反対に、取締役が個人で会社と取引する場合や、会社が取締役の債務を保証する場合は、会社法上の利益相反承認が問題となるだけでなく、会計・開示上も関連当事者取引になり得ます。
このページでは、関連当事者取引の範囲と開示義務を、会計基準、会社法、金融商品取引法、上場会社実務、税務、監査、内部統制の観点から体系的に解説します。
契約上の相手方だけでなく、意思決定や条件形成に影響する関係者を見ます。
関連当事者取引が特別に扱われる理由は、会社と相手方が常に対等な交渉力を持つとは限らないためです。通常の取引では、価格、数量、支払条件、保証、担保、契約解除、損害賠償などの条件が市場競争や相互交渉によって形成されます。ところが、関連当事者との取引では、親会社、創業者、主要株主、役員、役員親族、グループ会社などが、会社の意思決定や取引条件に影響を及ぼす可能性があります。
企業会計基準第11号は、関連当事者との取引は対等な立場で行われているとは限らず、会社の財政状態や経営成績に影響を及ぼすことがあると説明しています。また、直接の取引がない場合でも、関連当事者の存在そのものが会社の財政状態や経営成績に影響を及ぼすことがあります。したがって、関連当事者開示は、財務諸表利用者がその影響を把握できるように情報提供することを目的とします。
この制度趣旨から、関連当事者取引の判断では、単に「契約書上の相手方が誰か」だけでは不十分です。実務では、以下のような観点から実質判断を行う必要があります。
関連当事者取引の範囲と開示義務を理解するには、「会計開示のための制度」と「会社法上の取締役規制」と「上場会社のガバナンス規律」を分けて理解することが不可欠です。
会計、会社法、金商法、上場規則の目的を分けると、判断漏れを防ぎやすくなります。
関連当事者取引は、単一の法律だけで完結しません。実務上は、次の4つのレイヤーが重なります。
次の比較表は、関連当事者取引を取り巻く制度の役割を整理したものです。根拠ごとに関心と担当者が違うため、どの場面で誰が確認すべきかを読み取ることが重要です。
| レイヤー | 主な根拠 | 中心的な関心 | 実務上の担当者 |
|---|---|---|---|
| 会計・財務諸表注記 | 企業会計基準第11号、企業会計基準適用指針第13号、財務諸表等規則、連結財務諸表規則 | 財務諸表利用者に対し、関連当事者との取引・残高・条件・存在を開示する | 経理、財務、会計士、監査法人、法務 |
| 会社法・会社計算規則 | 会社法、会社計算規則112条 | 計算書類注記、取締役の利益相反取引承認、取締役の責任 | 取締役会事務局、商事法務、弁護士、監査役、会計監査人 |
| 金融商品取引法・開示規制 | 金融商品取引法、有価証券報告書、有価証券届出書、EDINET | 投資者保護、重要な事項の適時・正確・公平な開示 | 上場会社、IPO準備会社、証券法務、監査法人、主幹事証券 |
| 上場会社ガバナンス | コーポレートガバナンス・コード、上場規程、適時開示、支配株主規制 | 会社・株主共同の利益、少数株主保護、独立性、公正な意思決定 | 取締役会、社外取締役、独立役員、法務、IR、証券代行 |
このほか、海外子会社や外国親会社との取引がある場合には、税務上の移転価格税制が重なります。国外関連者との取引は、会計上の関連当事者開示とは別に、独立企業間価格、移転価格文書、ローカルファイル、国際税務調査の問題を生じさせます。
親会社、子会社、主要株主、役員、近親者、支配会社などを実質で確認します。
企業会計基準第11号は、関連当事者を、ある当事者が他の当事者を支配している場合、または他の当事者の財務上・業務上の意思決定に重要な影響力を有している場合の当事者等として定義し、具体的に11類型を掲げています。
以下は、日本基準を前提にした実務上の整理です。
次の比較表は、関連当事者に当たり得る類型と確認ポイントを整理したものです。形式的な肩書だけで除外すると漏れが出るため、実質支配、近親者、議決権、影響力を横断して読み取ることが重要です。
| 類型 | 典型例 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|---|
| 親会社 | 直接・間接に会社を支配する会社 | 議決権、実質支配、連結範囲、支配力 |
| 子会社 | 会社が支配する会社 | 連結子会社、非連結子会社、SPC、海外子会社 |
| 同一親会社を持つ会社 | 兄弟会社、姉妹会社 | グループ内取引、共通親会社、資金集中管理 |
| その他の関係会社等 | 会社が他社の関連会社である場合の当該他社等 | 20%前後の持分、重要な影響力、役員派遣 |
| 関連会社およびその子会社 | 持分法適用関連会社など | 持分法、事業提携、共同支配に近い関係 |
| 主要株主および近親者 | 議決権10%以上の株主、創業家株主等 | 名義株、信託、共同保有、親族保有 |
| 会社の役員および近親者 | 取締役、監査役、執行役、会計参与、実質的役員等 | 役員兼務、親族会社、退任後顧問 |
| 親会社の役員および近親者 | 親会社取締役、親会社CEO等 | 親会社からの指示、グループ方針、出向者 |
| 重要な子会社の役員および近親者 | 重要子会社の代表取締役等 | 子会社経由の取引、不正・資金流出リスク |
| 上記個人が議決権過半数を所有する会社等 | 役員の資産管理会社、親族会社 | 形式的には法人間取引でも個人支配を確認 |
| 従業員のための企業年金 | 掛金拠出以外の重要取引がある場合 | 年金資産の運用、資産売買、サービス契約 |
関連当事者の判定では、単に登記上の役員、株主名簿上の株主、連結範囲表だけを見るのでは足りません。特に主要株主、役員等、役員近親者、役員等が支配する会社については、名義、実質支配、親族関係、議決権保有、顧問・相談役・退任創業者の影響力を確認する必要があります。
関連当事者開示における主要株主は、保有態様を勘案したうえで、自己または他人名義をもって総株主の議決権の10%以上を保有している株主をいいます。
この10%基準は、単に株主名簿の直接保有割合だけで判断するものではありません。実務上は、次のような点を確認します。
関連当事者開示における「役員」は、取締役、会計参与、監査役、執行役だけに限定されません。企業会計基準適用指針第13号は、相談役、顧問、執行役員その他これらに類する者で、会社内の地位や職務等から実質的に会社の経営に強い影響を及ぼしていると認められる者を「これらに準ずる者」に含めています。創業者等で役員を退任した者についても、実質的に判定するとされています。
したがって、次のような人物は、肩書だけで除外しないことが重要です。
実務では、役員アンケートに「取締役・監査役のみ」を記載させるだけでは不十分です。顧問、相談役、執行役員、退任役員、創業家、親会社関係者まで確認対象に入れるべきです。
企業会計基準第11号では、近親者は二親等内の親族と定義されています。 二親等内には、配偶者、父母、子、祖父母、孫、兄弟姉妹などが含まれます。関連当事者判定では、本人が直接取引していなくても、近親者や近親者が支配する会社を通じた取引が問題になります。
たとえば、会社が取締役の配偶者が代表を務める会社に広告業務を委託した場合、形式上は法人間取引であっても、取締役・近親者・支配会社という観点から関連当事者取引に該当し得ます。
企業会計基準第11号は、連結財務諸表上の「会社」を連結会社、すなわち連結財務諸表作成会社および連結子会社とし、個別財務諸表上の「会社」を財務諸表作成会社としています。
この違いは重要です。連結財務諸表では、連結会社間取引は相殺消去されるため、連結財務諸表上の関連当事者取引開示の対象外となります。これに対し、個別財務諸表では、親会社・子会社・兄弟会社との取引が注記対象となり得ます。ただし、日本基準上、連結財務諸表で関連当事者開示を行っている場合、個別財務諸表での開示を要しないとされています。
ここで誤りやすいのは、「連結消去されるから会社法の計算書類でも不要」「連結では注記しないから社内管理も不要」と考えることです。会計開示上の相殺消去と、会社法上の承認、取引条件の公正性、税務、内部統制、少数株主保護は別問題です。
有償取引だけでなく、無償、低廉、保証、担保、第三者経由取引も射程に入ります。
関連当事者取引は、売買、賃貸借、業務委託、資金貸借のような有償取引だけではありません。企業会計基準第11号は、対価の有無にかかわらず、資源もしくは債務の移転、または役務の提供を関連当事者との取引としています。
そのため、以下のような取引も対象になり得ます。
次の比較表は、関連当事者に当たり得る類型と確認ポイントを整理したものです。形式的な肩書だけで除外すると漏れが出るため、実質支配、近親者、議決権、影響力を横断して読み取ることが重要です。
| 取引類型 | 具体例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 売買取引 | 親会社への製品販売、役員支配会社からの仕入れ | 価格、粗利率、返品、リベート |
| 役務提供 | 経営指導料、業務委託、広告、システム保守、出向負担金 | 役務の実在性、対価水準、成果物 |
| 賃貸借 | 役員所有不動産の賃借、親会社所有設備の使用 | 賃料水準、敷金、原状回復、契約期間 |
| 資金貸借 | 親会社借入、子会社貸付、役員貸付 | 利率、返済期限、担保、回収可能性 |
| 債務保証 | 会社が役員借入を保証、親会社が子会社借入を保証 | 偶発債務、保証料、公正性 |
| 担保提供 | 役員・関連会社債務のための不動産担保提供 | 利益相反承認、担保評価 |
| 資産譲渡 | 不動産、株式、知的財産、事業の売買 | 鑑定、DD、第三者評価 |
| 債務免除・弁済猶予 | 関連会社への債権放棄、返済猶予 | 貸倒、寄附金、税務、取締役責任 |
| 無償提供 | 無償保証、無償使用、無償役務 | 独立第三者間価格の見積り |
| 低廉・高額取引 | 市場価格より低い譲渡、高い業務委託料 | 差額の経済的利益、税務リスク |
| 株式・資本取引 | 第三者割当、自己株式処分、MBO、親子上場会社間再編 | 少数株主保護、特別委員会、開示 |
無償取引や低廉な価格での取引については、独立第三者間取引であったと仮定した場合の金額を見積もったうえで、重要性を判断し、開示対象かどうかを決定します。
たとえば、会社が役員個人の借入を無償で保証した場合、会計帳簿上の保証料収入はゼロかもしれません。しかし、独立第三者に保証を依頼すれば保証料が発生するはずです。また、会社が関連会社に無償でオフィスを使用させている場合も、通常であれば賃料が発生します。したがって、帳簿上の取引金額がゼロであることは、関連当事者取引の開示不要を当然には意味しません。
企業会計基準第11号は、形式的・名目的に第三者を経由した取引で、実質上の相手先が関連当事者であることが明確な場合には、開示対象に含めるとしています。
実務上問題になりやすいのは、次のような取引です。
税務上の移転価格でも、国外関連者との取引を非関連者経由で行う一定の場合に、国外関連取引とみなされることがあります。国税庁資料は、契約等により国外関連者に販売等されることがあらかじめ定まっており、対価の額が法人と国外関連者との間で実質的に決定されていると認められる場合などに、みなし国外関連取引が問題になると説明しています。
すべての関連当事者取引が必ず注記されるわけではありません。企業会計基準第11号は、重要な取引を開示対象としたうえで、一般競争入札による取引、預金利息・配当の受取りその他取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引、役員報酬等を開示対象外としています。
会社計算規則112条も、一般競争入札による取引、預金利息・配当金の受取りその他取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引、役員報酬等の給付、さらに市場価格その他公正な価格を勘案して一般の取引条件と同様のものを決定していることが明白な取引について、関連当事者注記を要しないとしています。
ただし、「通常条件だから不要」と判断するには、通常条件であることが明白でなければなりません。実務では、次の証拠を残すべきです。
注記項目、重要性基準、EDINET開示、IFRS適用会社の違いを整理します。
次の重要ポイントは、開示義務を軽く見た場合の影響を示すものです。金額基準だけでなく、投資者保護や開示責任に直結する点を読み取ることが重要です。
2025年2月の勧告事例では、役員等との取引の関連当事者注記漏れ等が問題となり、課徴金額は6億2,984万円とされています。
企業会計基準第11号は、すべての会社の連結財務諸表または個別財務諸表における関連当事者の開示に適用されます。連結財務諸表で関連当事者開示を行っている場合は、個別財務諸表での開示を要しないとされています。
開示対象となる関連当事者取引がある場合、原則として個々の関連当事者ごとに、以下の項目を開示します。
次の比較表は、関連当事者取引を開示する際に確認する主な項目を示しています。取引金額だけでなく、関係、条件、期末残高、条件変更まで並べて見ることで、注記漏れや説明不足を防ぎやすくなります。
| 開示項目 | 内容 |
|---|---|
| 関連当事者の概要 | 名称、所在地、資本金、事業内容、議決権所有割合等 |
| 会社との関係 | 親会社、主要株主、役員支配会社、役員近親者等 |
| 取引の内容 | 売買、貸付、借入、保証、担保、役務提供、賃貸借等 |
| 取引金額 | 取引種類ごとの金額 |
| 取引条件および決定方針 | 価格決定方法、利率、保証料、第三者比較、交渉過程 |
| 期末残高 | 債権、債務、貸付金、借入金、未収入金、未払金等 |
| 条件変更 | 変更の有無、内容、財務諸表への影響 |
| 貸倒懸念債権等 | 貸倒引当金繰入額、貸倒損失等 |
また、親会社または重要な関連会社が存在する場合には、親会社の名称等、重要な関連会社の名称および要約財務情報の開示も求められます。
関連当事者取引は、重要な取引が開示対象です。企業会計基準適用指針第13号は、重要性判断について、関連当事者を法人・個人、支配・被支配、影響力の度合いなどに基づいてグループ化し、取引種類ごとに判断基準を定めています。
法人グループとの取引では、たとえば売上高、売上原価、販売費及び一般管理費に係る取引について、売上高または売上原価と販売費及び一般管理費の合計額の10%を超える取引が開示対象とされています。また、営業外収益・営業外費用では合計額の10%超、特別利益・特別損失では1,000万円超の損益に係る取引が基準となります。
一方、関連当事者が個人グループの場合には、関連当事者との取引が連結損益計算書項目および連結貸借対照表項目等のいずれに係る取引であっても、1,000万円を超える取引はすべて開示対象とされています。
ただし、実務上は「数値基準を下回ったから常に開示不要」と機械的に判断すべきではありません。関連当事者取引は、不正、利益移転、少数株主不利益、資金流出、粉飾、架空取引、債務保証などと結びつく場合があります。重要性判断では、金額だけでなく、取引の性質、相手方、反復性、通常条件との乖離、ガバナンス上の重要性、投資者の判断への影響も考慮すべきです。
会社法上の計算書類注記では、会社計算規則112条が関連当事者との取引に関する注記を定めています。同条は、株式会社と関連当事者との間に取引がある場合における重要な事項を注記対象とし、第三者との取引であっても株式会社と関連当事者との間の利益が相反するものを含めています。注記事項には、関連当事者の名称または氏名、議決権割合、会社との関係、取引内容、取引金額、取引条件・決定方針、期末残高、条件変更の内容等が含まれます。会計監査人設置会社以外では、一部項目を省略できる場合があります。
会社計算規則上の注記は、会社法上の計算書類・個別注記表に関わるため、非上場会社でも問題になります。特に、オーナー会社、中小企業、同族会社、親族経営企業では、役員・親族・資産管理会社・関連会社との取引が日常的に存在します。上場会社ほど開示実務が整備されていない場合でも、計算書類の作成、監査役監査、会計監査人監査、金融機関説明、M&A、事業承継、株主間紛争の場面で、関連当事者取引の整理が重要になります。
上場会社や一定の有価証券報告書提出会社では、金融商品取引法に基づく継続開示・発行開示が問題になります。有価証券報告書、有価証券届出書等は、EDINETを通じて提出・公衆縦覧されます。金融庁は、EDINETについて、有価証券報告書、有価証券届出書、大量保有報告書等の開示書類について、提出から公衆縦覧等に至る手続を電子化するシステムであり、発行者の財務内容・事業内容を正確、公平かつ適時に開示し、投資者に投資判断の機会を与え、投資者保護を図ることを目的とするものと説明しています。
関連当事者取引の注記漏れは、単なる形式ミスでは済まないことがあります。証券取引等監視委員会は、2025年2月、ある上場会社について、当社または連結子会社と役員等との取引を関連当事者との取引として連結財務諸表に注記しなかったこと等を理由に、有価証券報告書等の虚偽記載等に係る課徴金納付命令勧告を行いました。同件では、重要な事項につき虚偽の記載または記載すべき重要な事項の記載欠缺が問題とされ、課徴金額は6億2,984万円とされています。
この事例からも、関連当事者取引の開示は「経理注記の細目」ではなく、金商法上の開示責任、監査対応、投資者保護、資本市場の信頼に関わる重要論点であることがわかります。
IFRS適用会社では、IAS 24 Related Party Disclosures が関連当事者開示を定めます。IAS 24は、関連当事者の存在、取引、未決済残高、コミットメントにより、企業の財政状態または損益が影響を受けた可能性に財務諸表利用者の注意を向けるための開示を求めています。また、関連当事者取引を、対価の有無にかかわらず、報告企業と関連当事者との間の資源、サービスまたは義務の移転と説明しています。
日本基準とIFRSでは、用語、定義、開示範囲、開示様式に差異があり得ます。IFRS任意適用会社、海外上場会社、外資系日本法人、日本親会社の海外子会社などでは、グループ会計方針、連結パッケージ、監査人指示、親会社基準との整合を確認する必要があります。
会計上の関連当事者取引と会社法上の利益相反取引は、重なる部分と異なる部分があります。
会社法上の利益相反取引規制は、主として取締役が会社の利益と自己または第三者の利益を対立させる取引を規制するものです。典型例は、取締役が会社と直接取引する場合、会社が取締役の債務を保証する場合、取締役が支配する会社と会社が取引する場合などです。
一方、会計上の関連当事者取引は、親会社、子会社、主要株主、役員、役員近親者、役員等支配会社など、より広い関係者との取引を財務諸表利用者に開示する制度です。したがって、両者の関係は次のように整理できます。
次の比較表は、会計上の関連当事者取引と会社法上の利益相反承認の違いを整理したものです。両制度は完全には一致しないため、各取引例でどちらの検討が必要になるかを分けて読み取ることが重要です。
| 取引例 | 会計上の関連当事者取引 | 会社法上の利益相反承認 |
|---|---|---|
| 会社が取締役個人から不動産を賃借 | 該当し得る | 該当し得る |
| 会社が取締役の債務を保証 | 該当し得る | 該当し得る |
| 会社が親会社に製品を販売 | 該当し得る | 取締役の利害関係がなければ直ちには該当しない |
| 会社が主要株主法人に業務委託 | 該当し得る | 取締役関与がなければ直ちには該当しない |
| 会社が役員の配偶者支配会社から仕入れ | 該当し得る | 取締役のため・第三者のための取引として該当可能性 |
| 子会社が親会社の指示で不利な資産譲渡 | 該当し得る | 取締役の忠実義務・善管注意義務、支配株主問題も検討 |
会社法上、取締役が自己または第三者のために会社と取引しようとするとき、または会社が取締役の債務を保証するなど会社と取締役の利益が相反する取引をしようとするときは、重要な事実を開示して承認を受ける必要があります。取締役会設置会社では取締役会承認が中心となり、取締役会非設置会社では株主総会承認が問題になります。取締役会設置会社では、取引後に遅滞なく重要な事実を取締役会に報告する義務にも留意が必要です。
実務上の要点は以下のとおりです。
利益相反取引により会社に損害が生じた場合、取締役の任務懈怠責任、損害額の推定、無過失責任の問題が生じ得ます。特に、取締役が自己のために会社と直接取引をした場合は、責任追及が厳しくなります。
そのため、会社法上の承認を形式的に取得しただけでは足りません。取締役会は、取引の必要性、条件の公正性、会社にとっての合理性、代替手段、第三者比較、利益相反の管理方法を実質的に審査する必要があります。社外取締役、監査役、監査等委員、監査委員、外部弁護士、公認会計士、不動産鑑定士、株式価値算定機関などの関与が必要になることもあります。
支配株主や親会社との取引では、少数株主保護と独立した意思決定過程が重要です。
上場会社では、関連当事者取引は会計注記だけでなく、コーポレートガバナンス上の重要論点です。東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード原則1-7は、上場会社が役員や主要株主等との取引を行う場合、会社や株主共同の利益を害することがないよう、またその懸念を惹起することがないよう、取締役会があらかじめ取引の重要性や性質に応じた適切な手続を定め、その枠組みを開示し、手続に基づく監視、取引の承認を含む監視を行うべきであるとしています。
この原則の実務的な意味は、関連当事者取引について、単に年度末に経理部が注記を作るだけでは不十分ということです。取締役会は、事前手続、承認基準、モニタリング、開示、独立社外役員の関与を制度として整備する必要があります。
親会社や支配株主が存在する上場会社では、少数株主保護が重要です。支配株主は、議決権、役員選任、事業方針、グループ内取引、人事、資金調達、M&Aに強い影響を持ちます。そのため、支配株主との取引では、次のようなリスクが生じます。
このような取引では、独立社外取締役、独立委員会、特別委員会、第三者算定機関、フェアネス・オピニオン、外部弁護士による手続設計が重要になります。特に、上場子会社、親子上場、MBO、支配株主によるTOB、グループ内再編では、少数株主にとって不利益でないことを示すプロセスが不可欠です。
東京証券取引所は2026年4月10日、コーポレートガバナンス・コード改訂に関する上場制度見直し案を公表し、改訂後のコード内容を踏まえたコーポレート・ガバナンス報告書を2027年7月末までに提出するものとする予定を示しました。実施時期は2026年7月を目途とされています。
関連当事者取引そのものの実務では、現行の原則1-7を踏まえつつ、今後のコード改訂、東証上場規程、CG報告書記載要領、投資家・議決権行使助言会社の期待水準の変化にも注意する必要があります。
国外関連者、移転価格、国内税務上の時価・寄附金・役員給与の問題を併せて確認します。
税務上の移転価格税制では、国外関連者との取引が問題になります。国税庁資料では、国外関連者とは、法人との間に50%以上の株式等の保有関係、実質的支配関係、またはそれらが連鎖する関係のある外国法人をいうと説明されています。また、国外関連取引とは、法人が国外関連者との間で行う資産販売、資産購入、役務提供その他の取引をいいます。
会計上の関連当事者と税務上の国外関連者は重なる部分がありますが、同一ではありません。たとえば、会計上は主要株主10%、役員近親者、役員支配会社などが問題になりますが、移転価格税制では国外関連者の特殊関係、独立企業間価格、文書化義務が中心です。
移転価格税制では、一定の国外関連取引について、独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類、いわゆるローカルファイルの作成・保存が問題になります。国税庁FAQは、ローカルファイルの同時文書化義務について、一の国外関連者との国外関連取引の対価の額が50億円未満、かつ無形資産取引の対価の額が3億円未満である場合には、その一の国外関連者との国外関連取引について免除されると説明しています。
ただし、同時文書化義務の免除は、移転価格リスクがないことを意味しません。税務調査では、契約書、請求書、会計帳簿、経営会議資料、稟議書、価格決定プロセス、契約手続、機能・リスク分析などが確認されます。 関連当事者取引の範囲と開示義務を検討する際には、会計注記だけでなく、税務上の価格設定・文書化も同時に確認すべきです。
国内の関連当事者取引でも、税務上は次のような論点が生じます。
税務上の適正性は、会計上の開示要否や会社法上の承認要否とは別に検討する必要があります。税務上問題がないとしても、会計開示が必要な場合があります。逆に、会計注記の対象外であっても、税務上の時価・寄附金・移転価格が問題になることがあります。
監査、内部統制、不正調査では、相手方の実質と取引条件の異常性を追います。
日本公認会計士協会の監査実務指針体系には、監査基準報告書550「関連当事者」が含まれています。 関連当事者取引は、通常の取引よりも発見が難しく、不正や利益調整、架空取引、循環取引、資金流出と結びつくことがあります。
監査人は通常、次のような手続を通じて関連当事者を把握・検証します。
関連当事者取引を適切に管理するには、年度末に経理部がアンケートを配るだけでは不十分です。次のような内部統制が必要です。
次の比較表は、関連当事者取引を内部統制で管理する領域と実務対応を整理したものです。年度末の注記作業だけでは把握が遅れるため、登録、契約、稟議、経理、監査対応のどこで検知するかを読み取ることが重要です。
| 統制領域 | 実務対応 |
|---|---|
| 関連当事者マスター | 親会社、子会社、関連会社、主要株主、役員、近親者、支配会社を一覧化する |
| 役員・主要株主アンケート | 年次だけでなく、就任時、退任時、株式変動時、組織再編時に更新する |
| 取引先登録統制 | 新規取引先登録時に関連当事者該当性を確認する |
| 契約審査 | 契約書レビュー時に関連当事者・利益相反チェック欄を設ける |
| 稟議・決裁 | 関連当事者取引は通常決裁より上位承認・法務確認を要求する |
| 取締役会付議 | 利益相反・重要取引・支配株主取引は取締役会または特別委員会へ付議する |
| 価格証跡 | 見積り、鑑定、第三者評価、価格比較、移転価格分析を保存する |
| 経理照合 | 取引先マスター、総勘定元帳、残高、保証、担保を照合する |
| 開示判定 | 会計基準・会社計算規則・金商法・上場規則ごとに判定表を作る |
| 監査対応 | 監査法人、監査役、内部監査、法務、経理の情報共有を制度化する |
関連当事者取引に関して、内部監査や不正調査で警戒すべき兆候には、次のものがあります。
このような兆候がある場合には、法務、経理、内部監査、監査役、外部弁護士、フォレンジック会計士、デジタルフォレンジック専門家が連携し、証拠保全、関係者ヒアリング、取引実在性確認、資金流向分析、開示訂正要否の検討を行う必要があります。
相手方、取引種類、重要性、承認、開示、証跡を順番に確認します。
次の判断の流れは、関連当事者取引の範囲と開示義務を初期判定する順番を示しています。前半で相手方と取引内容を固め、後半で承認・開示・証跡へ進む構成を読み取ることが重要です。
契約書、請求書、支払先、保証契約、担保契約を確認します。
役員、主要株主、近親者、親会社、創業者、SPC、海外法人の関与を見ます。
会計基準、会社計算規則、IFRS、税務の定義を分けて確認します。
金額、性質、反復性、利益相反性、投資者判断への影響を確認します。
会社法承認、開示書類、価格資料、議事録、監査対応を具体化します。
関連当事者取引の判定は、次の順序で進めると実務上整理しやすくなります。
まず、取引の形式上の相手方を確認します。契約書、請求書、注文書、稟議書、支払先、入金先、保証契約、担保設定契約を確認します。
形式上の相手方だけでなく、実質的な支配者・受益者・指示者を確認します。役員、主要株主、親会社、創業者、近親者、資産管理会社、ファンド、SPC、海外法人が関与していないかを確認します。
企業会計基準第11号、会社計算規則112条、IFRS適用会社ではIAS 24、税務では国外関連者の定義に照らして分類します。
売買、役務提供、賃貸借、貸付、借入、保証、担保、債務免除、資産譲渡、株式取引、事業譲渡、無償取引、低廉取引など、取引種類を特定します。
企業会計基準適用指針第13号の数値基準を確認し、金額、性質、反復性、利益相反性、投資者判断への影響を踏まえて重要性を判断します。
取締役、取締役のための第三者、取締役支配会社、取締役債務保証、取締役個人との取引など、会社法356条・365条の利益相反承認が必要かを確認します。
公正性を示す資料を整備します。特に、役員・支配株主・親会社・M&A・不動産・知的財産・債権放棄・保証では、第三者評価や比較資料が重要です。
承認議事録、稟議、契約書、価格資料、メール、監査法人との協議メモ、開示判定表、社外役員説明資料を保存します。
創業者、親族会社、役員保証、上場子会社、海外親会社、子会社債権の例で確認します。
次の一覧は、関連当事者取引で問題になりやすい6つの場面を整理したものです。相手方の肩書や契約名ではなく、誰が利益を受け、誰が条件に影響したかを読み取ることが重要です。
顧問・相談役として影響力が残る場合、役員に準ずる者と支配会社の確認が必要です。
実質影響力近親者と支配会社の観点に加え、取締役の関与と価格比較資料を確認します。
近親者保証料がゼロでも、偶発債務、保証料相当額、会社法上の承認が問題になります。
保証支配株主取引、少数株主保護、特別委員会、第三者評価の設計が重要です。
少数株主保護会計上の開示に加え、役務実在性、移転価格、ローカルファイルとの整合を確認します。
国際税務回収可能性、事業再生計画、寄附金、貸倒処理、取締役会の判断資料が問題になります。
債権評価創業者が取締役を退任していても、顧問・相談役として実質的に経営へ強い影響を及ぼしている場合、役員に準ずる者として関連当事者に該当する可能性があります。創業者の資産管理会社が議決権過半数を所有されている会社であれば、当該会社も関連当事者になり得ます。
この場合、業務委託契約の内容、報酬水準、成果物、契約期間、解除条件、取締役会承認、会社法上の利益相反該当性、注記要否を検討します。実務上は、「退任しているから対象外」と判断するのは危険です。
配偶者は近親者です。配偶者が支配する会社との仕入取引は、関連当事者取引に該当し得ます。取締役が当該取引の決定に関与している場合や、当該会社が取締役のために利益を受ける構造であれば、会社法上の利益相反取引も検討します。
確認すべき資料は、仕入価格の市場比較、複数見積り、品質・納期・代替性、当該会社を選定した理由、取締役の関与有無、承認議事録です。
会社が役員個人の借入を保証する場合、関連当事者取引の開示対象となり得るだけでなく、会社法上の利益相反取引として取締役会承認等が必要となる可能性が高い取引です。保証は会計上の取引金額がゼロに見えても、保証債務・偶発債務・保証料相当額・会社のリスク負担が問題になります。
証券取引等監視委員会の2025年の勧告事例でも、役員等との取引を関連当事者取引として注記しなかったことや、役員個人借入の連帯保証を偶発債務として注記しなかったことが問題とされました。
上場子会社が親会社から事業、不動産、株式、知的財産を買い取る場合、関連当事者取引、支配株主取引、少数株主保護、適時開示、M&A公正性が問題になります。
この場合、特別委員会の設置、独立社外取締役の関与、第三者算定機関の評価、デューデリジェンス、価格交渉記録、少数株主への説明、取締役会の審議プロセスが重要です。親会社の利益ではなく、上場子会社および少数株主の利益を基準に判断する必要があります。
海外親会社から日本子会社に対して経営指導料、ブランド使用料、ITサービス料、シェアードサービス費用が請求される場合、会計上の関連当事者取引、税務上の国外関連取引、移転価格、源泉税、消費税、契約実在性が問題になります。
特に、サービスの実在性、役務内容、便益、費用配賦基準、マークアップ率、契約書、請求根拠、グループポリシー、ローカルファイルとの整合性を確認する必要があります。
親会社が子会社に貸し付けた資金について、返済期限を延長し、利息を免除し、最終的に債権放棄する場合、関連当事者取引、貸倒引当金、債権評価、税務上の寄附金・貸倒損失、取締役責任が問題になります。
返済猶予や債権放棄は、単なる会計処理ではなく、誰の利益のための判断か、回収可能性をどのように評価したか、事業再生計画があるか、他の債権者との関係はどうか、取締役会がどの資料に基づいて判断したかが問われます。
連結消去、通常条件、少額、承認済みといった思い込みが管理漏れにつながります。
次の一覧は、関連当事者取引の管理で起きやすい誤解を整理したものです。どの誤解も承認漏れ、注記漏れ、証跡不足に直結し得るため、自社の運用で同じ思い込みがないかを読み取ることが重要です。
連結消去と会社法、税務、内部統制、少数株主保護は別問題です。
通常条件であることが明白だと説明できる資料が必要です。
背後に役員、近親者、主要株主の支配があれば関連当事者性を確認します。
保証、担保、債務免除、利益移転は金額だけで判断できません。
連結財務諸表で相殺消去される取引は、連結上の関連当事者取引開示対象外となる場合があります。しかし、個別財務諸表、会社法計算書類、税務、会社法上の承認、内部統制、少数株主保護、資金流出リスクは別問題です。
市場価格または公正価格を勘案して一般取引条件と同様であることが明白であれば、注記不要となり得ます。しかし、明白性を裏付ける資料がなければ、監査・調査・紛争時に説明できません。
役員、役員近親者、主要株主等が議決権過半数を所有する会社およびその子会社は、関連当事者に該当し得ます。法人間取引であっても、背後の個人支配を確認する必要があります。
実質的に経営へ強い影響を及ぼしている顧問、相談役、執行役員、退任創業者は、役員に準ずる者として扱われ得ます。
数値基準は重要ですが、関連当事者取引では取引の性質が重要です。保証、担保、債務免除、架空取引、役員個人への利益移転、支配株主取引では、金額だけでなく性質を重視すべきです。
会社法上の承認と会計上の注記は別制度です。承認済みであっても、重要な関連当事者取引であれば開示が必要です。
関連当事者取引は、契約、取締役会承認、利益相反、少数株主保護、税務、開示、内部統制を横断します。経理だけ、監査法人だけ、法務だけでは管理できません。
定義、リスト更新、申請、価格検証、開示判定、モニタリング、証跡保存を制度化します。
次の時系列は、関連当事者取引管理規程を運用に乗せる順番を示しています。定義だけを作っても実効性は出ないため、更新、申請、検証、開示、監視、保存まで続けて読み取ることが重要です。
関連当事者、主要株主、役員、近親者、支配会社、利益相反取引の関係を明確にします。
取引先登録、契約審査、稟議で関連当事者該当性と承認要否を確認します。
見積り、鑑定、算定書、移転価格分析、保証料・利率の合理性を保存します。
四半期ごとの実績、残高、回収状況、保証、担保、条件変更を確認します。
関連当事者取引管理規程を整備する場合、少なくとも次の事項を含めるべきです。
法務、経理、監査、税務、取締役会、社外役員がそれぞれの空白を埋めます。
関連当事者取引の管理は、複数部門・専門家の協働が必要です。
次の比較表は、関連当事者取引管理に関与する部門・専門家の役割を整理したものです。担当範囲の空白が開示漏れや承認漏れにつながるため、誰が何を確認するかを読み取ることが重要です。
| 役割 | 主な担当 |
|---|---|
| 法務担当・企業内弁護士 | 契約、利益相反、取締役会承認、規程整備、紛争予防 |
| 外部弁護士 | 会社法、金商法、M&A、支配株主取引、第三者委員会、開示訂正 |
| 経理・財務 | 取引金額、残高、注記作成、会計基準適用、監査対応 |
| 公認会計士・監査法人 | 監査手続、関連当事者の識別、注記妥当性、内部統制評価 |
| 税理士 | 時価、寄附金、移転価格、役員給与、組織再編税制 |
| 商事法務・取締役会事務局 | 取締役会付議、議事録、CG報告書、株主総会対応 |
| コンプライアンス担当 | 規程、研修、利益相反管理、内部通報対応 |
| 内部監査担当 | 取引先マスター、承認逸脱、証跡、実在性の監査 |
| 社外取締役・監査役 | 独立監督、少数株主保護、取締役責任の監視 |
| M&A法務・経営企画 | グループ再編、親子会社取引、特別委員会対応 |
| フォレンジック専門家 | 不正調査、資金流向、デジタル証拠保全 |
この役割分担を明確にしないと、経理は「法務が承認を見ているはず」、法務は「経理が注記を見ているはず」、監査役は「監査法人が見ているはず」という空白が生じます。関連当事者取引の失敗は、この空白から発生することが多いのです。
よくある疑問を、一般的な制度説明として整理します。
一般的には、関連当事者取引それ自体が直ちに違法となるものではないと整理されています。ただし、会社に不利な条件、利益相反承認の欠落、開示漏れ、税務上の時価との乖離、少数株主への不利益などがあると、法務・会計・税務上の問題になる可能性があります。具体的な対応は、取引資料を整理したうえで弁護士、公認会計士、税理士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、企業会計基準第11号では役員に対する報酬、賞与および退職慰労金の支払いは関連当事者取引の開示対象外とされています。ただし、会社法、金商法、コーポレートガバナンス、役員報酬開示、税務上の役員給与規制は別に問題となる可能性があります。具体的な整理は、会社形態や開示書類に応じて専門家へ確認する必要があります。
一般的には、重要な親会社取引は開示対象になり得るとされています。一方で、連結財務諸表上、連結会社間取引として相殺消去される取引は、連結財務諸表では開示対象外となる場合があります。ただし、個別財務諸表、会社法計算書類、税務、上場規則の観点では結論が変わる可能性があるため、資料を整理して確認する必要があります。
一般的には、訂正報告書、監査上の指摘、内部統制上の不備、課徴金、投資者・株主からの責任追及、取締役責任、上場審査・IPO審査への影響、金融機関・取引先からの信用低下が問題となる可能性があります。実際の影響は、取引の重要性、開示書類、会社の属性、証拠関係で変わります。具体的な見通しは、弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、少額取引であっても関連当事者リスト、取引先マスター、役員アンケートでは把握対象に含める運用が望ましいとされています。開示対象になるかは重要性基準や取引の性質により変わりますが、会社法上の利益相反、税務、内部統制、不正リスクの観点は別に確認する必要があります。
一般的には、役員、創業者、親族、資産管理会社、関連会社との取引を早期に洗い出し、解消、条件見直し、承認整備、規程化、開示方針の確定を行うことが重要とされています。上場審査では、合理性、継続必要性、少数株主保護、内部管理体制、取締役会の牽制機能が確認される可能性があります。
一般的には、包括承認を使う場合でも、対象取引、期間、金額上限、価格決定方法、条件変更時の再承認、実績報告、例外処理を明確にする必要があるとされています。年度末だけでなく、四半期または月次で実績を確認する体制が有効です。具体的な制度設計は、会社規模や取引内容に応じて専門家へ相談する必要があります。
初期確認では、識別、取引把握、承認、公正性、開示の順に抜けを確認します。
以下のチェックリストは、関連当事者取引の範囲と開示義務を初期確認するためのものです。
取引開始前からのガバナンス設計として扱うことが、最も実効的なリスク管理です。
関連当事者取引の範囲と開示義務は、単なる会計注記の技術論ではありません。会社と関係者の間に通常の市場規律が働きにくい場面で、会社財産、投資者、少数株主、債権者、取引先、従業員を保護するための総合的な管理制度です。
実務で最も重要なのは、次の3つです。
第一に、範囲を狭く見ないことです。役員本人だけでなく、近親者、支配会社、退任創業者、顧問、主要株主、親会社、兄弟会社、第三者経由取引まで確認しなければなりません。
第二に、制度を混同しないことです。会計上の関連当事者開示、会社法上の利益相反承認、金商法上の開示責任、上場会社のガバナンス手続、税務上の移転価格・時価は、目的も範囲も異なります。
第三に、証跡を残すことです。関連当事者取引では、後から「なぜその相手方なのか」「なぜその価格なのか」「誰が承認したのか」「少数株主に不利益ではないのか」「開示しない判断は妥当か」が問われます。契約書、稟議、取締役会議事録、価格資料、鑑定書、監査法人との協議記録、開示判定表を保存することが、最も実効的なリスク管理です。
関連当事者取引は、適切に管理すれば、グループ経営、資金効率、事業承継、M&A、海外展開を支える有用な取引になり得ます。しかし、管理を誤れば、開示違反、取締役責任、税務否認、不正会計、少数株主紛争、上場審査上の重大問題に発展します。企業法務に関わる実務家は、関連当事者取引を「年度末の注記作業」ではなく、「取引開始前からのガバナンス設計」として捉えるべきです。
関連当事者取引の範囲と開示義務を確認する際の主要資料です。