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株主間契約で決めておくべき重要事項

企業法務・M&A・スタートアップ投資・中小企業承継の実務を横断して、株主間契約で決めておくべき重要事項を専門的かつ平易に整理する論文型解説。

15検討領域
3層契約・会社法・周辺法務
10最終確認ポイント
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株主間契約で決めておくべき重要事項

企業法務・M&A・スタートアップ投資・中小企業承継の実務を横断して、株主間契約で決めておくべき重要事項を専門的かつ平易に整理する論文型解説。

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株主間契約で決めておくべき重要事項
企業法務・M&A・スタートアップ投資・中小企業承継の実務を横断して、株主間契約で決めておくべき重要事項を専門的かつ平易に整理する論文型解説。
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  • 株主間契約で決めておくべき重要事項
  • 企業法務・M&A・スタートアップ投資・中小企業承継の実務を横断して、株主間契約で決めておくべき重要事項を専門的かつ平易に整理する論文型解説。

POINT 1

  • 株主間契約で決めておくべき重要事項の全体像
  • 会社の支配権、資金調達、譲渡制限、出口戦略まで横断して確認します。
  • 株主間契約で決めておくべき重要事項は、単に「株式を誰に譲ってよいか」を定めるだけではありません。
  • 契約がない、または条項が粗い場合、次のような問題が起こりやすくなります。

POINT 2

  • 株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 株主間契約とは何か
  • 名称よりも、誰を拘束し、何を会社法手続に反映させるかが重要です。
  • 1-1. 定義
  • 1-2. 定款・投資契約・株式譲渡契約との違い
  • 1-3. 「契約に書けばすべて実現できる」わけではない

POINT 3

  • 株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 法的基礎 ―会社法と契約法の交差点
  • 契約上の義務と会社法上の効力を分けて設計します。
  • 2-1. 株主の基本的権利
  • 2-2. 株式譲渡の原則と制限
  • 2-3. 株券発行会社では株券の問題を軽視しない

POINT 4

  • 株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 株主間契約で決めておくべき重要事項の全体像
  • 当事者、ガバナンス、株式移動、資金調達、出口まで主要論点を一覧します。
  • 株主間契約で決めておくべき重要事項を、企業法務の実務で使いやすいように整理すると、次の15領域に分けられます。
  • 条項の役割や注意点を分けて把握することが重要で、各行から自社で検討すべき論点を読み取れます。
  • 以下、各項目を詳述します。

POINT 5

  • 株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 当事者・目的・前提事実
  • 全株主、主要株主、会社、親会社、資産管理会社のどこまでを当事者にするかを決めます。
  • 4-1. 誰を契約当事者にするか
  • 4-2. 契約の目的を明確にする
  • 4-3. 前提となる株式数・持株比率を確認する

POINT 6

  • 株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 経営体制・役員指名・ガバナンス
  • 役員指名権、オブザーバー権、重要事項承認権を過不足なく設計します。
  • 5-1. 取締役・監査役の指名権
  • 5-2. 取締役会オブザーバー権
  • 5-3. 重要事項の事前承認・拒否権

POINT 7

  • 株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 議決権行使に関する条項
  • 株主総会での協力義務と、会社法上の決議効力を混同しないよう整理します。
  • 6-1. 議決権拘束合意の目的
  • 6-2. 条項設計上の注意点
  • 6-3. 委任状・代理行使・議決権信託

POINT 8

  • 株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 株式譲渡制限・先買権・共同売却権
  • 想定外の第三者、競合、相続人へ株式が移るリスクを制御します。
  • 7-1. 株式譲渡制限の基本設計
  • 7-2. 先買権(Right of First Refusal)
  • 7-3. 優先交渉権・先買交渉権(Right of First Offer)

まとめ

  • 株主間契約で決めておくべき重要事項
  • 株主間契約で決めておくべき重要事項の全体像:会社の支配権、資金調達、譲渡制限、出口戦略まで横断して確認します。
  • 株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 株主間契約とは何か:名称よりも、誰を拘束し、何を会社法手続に反映させるかが重要です。
  • 株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 法的基礎 ― 会社法と契約法の交差点:契約上の義務と会社法上の効力を分けて設計します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

株主間契約で決めておくべき重要事項の全体像

会社の支配権、資金調達、譲渡制限、出口戦略まで横断して確認します。

株主間契約で決めておくべき重要事項は、単に「株式を誰に譲ってよいか」を定めるだけではありません。実務上は、会社の支配権、資金調達、役員選任、重要事項の拒否権、少数株主保護、創業者の離脱、M&A、IPO、相続、紛争解決、情報管理、独占禁止法上のリスク、税務・会計上の影響まで含む、企業統治の設計図です。

特に、非上場会社、スタートアップ、合弁会社、ファミリービジネス、M&A後の共同保有会社、役員・従業員持株制度を持つ会社では、株主間契約の有無と内容が、経営の安定性を大きく左右します。契約がない、または条項が粗い場合、次のような問題が起こりやすくなります。

  • 創業者、投資家、共同事業者の間で、誰が取締役を指名できるのか不明確になる。
  • 株式を第三者、競合会社、反社会的勢力、相続人、離婚時の財産分与先などに移されるリスクを制御できない。
  • 新株発行やM&Aの場面で、既存株主の希薄化、拒否権、売却参加権、売却強制権をめぐり紛争になる。
  • 50対50の合弁会社で意思決定が止まり、事業が動かなくなる。
  • 退職した創業者や役員が株式を持ち続け、経営上の利害が一致しなくなる。
  • 契約違反があっても、損害額、買取価格、履行強制、解除、差止めの方法が曖昧になる。

このページは、日本法を前提に、弁護士、企業内弁護士、外部弁護士、商事法務担当、司法書士、公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、M&A法務担当、コンプライアンス担当、内部監査担当、知財法務担当などの実務観点を統合して構成した専門的解説です。個別案件では、会社の規模、機関設計、資本政策、税務、会計、業法、投資契約、定款、登記、過去の株主総会決議、株主名簿、株券発行会社該当性、反社チェック、取引先との契約制限を確認する必要があります。

なお、このページは一般的な情報提供であり、個別事案についての法的助言ではありません。

前提このページは日本法を前提にした一般的な情報提供です。会社の規模、機関設計、定款、投資契約、登記、税務、会計、業法、過去の決議、株主名簿、株券発行会社該当性などで結論は変わります。
Section 01

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 株主間契約とは何か

名称よりも、誰を拘束し、何を会社法手続に反映させるかが重要です。

1-1. 定義

株主間契約とは、会社の株主、創業者、投資家、親会社、合弁パートナーなどが、株式の保有・譲渡・議決権行使・経営関与・資金調達・出口戦略・紛争解決などについて締結する契約です。

英語では一般に shareholders' agreement と呼ばれます。日本の実務では、次のような名称で呼ばれることもあります。

  • 株主間契約
  • 株主契約
  • 出資者間契約
  • 創業者間契約
  • 合弁契約
  • 投資家間契約
  • 株主間合意書
  • 株式管理契約

名称よりも重要なのは、「誰を拘束するか」「何を会社法上の手続に反映させるか」「違反時に何ができるか」です。

1-2. 定款・投資契約・株式譲渡契約との違い

株主間契約は、定款、投資契約、株式譲渡契約と混同されがちです。しかし、それぞれの法的機能は異なります。

次の比較表は、株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 株主間契約とは何かで確認すべき項目を整理したものです。条項の役割や注意点を分けて把握することが重要で、各行から自社で検討すべき論点を読み取れます。

文書主な機能実務上の注意点
定款会社の基本規則。機関設計、株式の内容、譲渡制限、公告方法などを定める。会社法上の効力を持たせたい事項は定款化が必要な場合がある。登記が必要な事項もある。
株主間契約株主相互の権利義務、議決権行使、譲渡制限、拒否権、出口などを定める。原則として契約当事者を拘束する。会社や第三者を拘束するには当事者化、定款化、会社法上の手続が重要。
投資契約投資家が会社へ出資する条件、表明保証、クロージング条件、誓約事項などを定める。投資実行前後の義務を規律する。株主間契約と重複・矛盾しない設計が必要。
株式譲渡契約既存株主から買主へ株式を譲渡する売買条件を定める。株式譲渡承認、株主名簿書換、株券発行会社の場合の株券交付などを確認する。
種類株式要項優先配当、残余財産分配、取得請求権、拒否権、役員選任権などを株式内容として設計する。株主間契約だけではなく、会社法に従い定款・登記・発行手続に反映する必要がある。

1-3. 「契約に書けばすべて実現できる」わけではない

株主間契約で最も誤解されやすい点は、「契約したのだから、会社法上も当然にそのとおりになる」という発想です。実際には、契約上の義務と会社法上の効力は区別されます。

たとえば、株主Aと株主Bが「取締役Xを必ず選任する」と約束しても、その約束だけでXが取締役になるわけではありません。株主総会決議、候補者の就任承諾、登記など、会社法上の手続が必要です。また、契約に違反した議決権行使があった場合に、相手方に対して損害賠償を請求できるのか、議決権行使の履行を強制できるのか、株主総会決議の効力に影響するのかは、条項の文言、当事者の範囲、会社の機関設計、他の株主への影響、公序良俗、強行法規との関係を踏まえて個別に判断されます。

したがって、株主間契約で決めておくべき重要事項を検討する際は、次の三層構造で考える必要があります。

  1. 契約上の合意として定める事項
  2. 定款、種類株式、株主総会決議、取締役会決議、登記に反映すべき事項
  3. 税務、会計、独占禁止法、労務、知財、業法、金融商品取引法など周辺法務で追加検討すべき事項
Section 03

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 株主間契約で決めておくべき重要事項の全体像

当事者、ガバナンス、株式移動、資金調達、出口まで主要論点を一覧します。

株主間契約で決めておくべき重要事項を、企業法務の実務で使いやすいように整理すると、次の15領域に分けられます。

次の比較表は、株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 株主間契約で決めておくべき重要事項の全体像で確認すべき項目を整理したものです。条項の役割や注意点を分けて把握することが重要で、各行から自社で検討すべき論点を読み取れます。

領域重要事項主なリスク
1当事者・目的・前提事実誰が拘束されるか不明確になる。
2株式・資本構成持株比率、種類株式、希薄化、潜在株式が争点になる。
3経営体制・役員指名取締役選任、代表権、監査、オブザーバー権が不明確になる。
4重要事項の承認・拒否権事業譲渡、増資、借入、M&A、予算などを誰が止められるか曖昧になる。
5議決権行使株主総会で想定外の投票が行われる。
6株式譲渡制限競合、相続人、第三者、敵対的取得者へ株式が移る。
7先買権・売却参加権・売却強制権出口局面で少数株主・多数株主の利害が衝突する。
8資金調達・希薄化防止追加出資、優先引受権、アンチダイリューションで紛争になる。
9情報権・監査権投資家や少数株主が経営状況を把握できない。
10創業者・役員の離脱退職者が株式を持ち続ける。買取価格が争点になる。
11デッドロック50対50または拒否権により意思決定不能になる。
12競業避止・秘密保持・知財ノウハウ流出、過度な制限、独禁法リスクが生じる。
13表明保証・誓約事項過去の株式移転、反社、税務、知財、労務問題が後から発覚する。
14契約違反時の救済損害賠償、株式買取、差止め、解除の実効性が不足する。
15準拠法・裁判管轄・仲裁・通知国際案件や遠隔株主間で紛争処理が混乱する。

以下、各項目を詳述します。

Section 04

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 当事者・目的・前提事実

全株主、主要株主、会社、親会社、資産管理会社のどこまでを当事者にするかを決めます。

4-1. 誰を契約当事者にするか

最初に決めるべきことは、誰を契約当事者にするかです。株主間契約は原則として当事者を拘束します。そのため、重要な株主が契約当事者になっていなければ、その株主には契約上の義務を直接課すことができません。

実務上の選択肢は次のとおりです。

次の比較表は、株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 当事者・目的・前提事実で確認すべき項目を整理したものです。条項の役割や注意点を分けて把握することが重要で、各行から自社で検討すべき論点を読み取れます。

当事者構成適する場面注意点
全株主のみ小規模会社、創業者間契約、合弁会社新株発行・譲渡で新株主が入るたびに加入手続が必要。
主要株主のみVC投資、複数株主のスタートアップ少数株主や従業員株主に譲渡制限を及ぼせない可能性。
会社+主要株主投資契約、情報権、承認事項、会社の誓約が必要な場合会社の機関決定、利益相反、取締役の善管注意義務に注意。
親会社・保証人を含む合弁会社、大企業出資、グループ支配親会社保証、競業、情報共有、グループ再編時の承継を定める。
創業者個人+資産管理会社創業者が持株会社を通じて保有する場合個人と資産管理会社の双方を拘束しなければ実効性が落ちる。

新たな株主が入る場合には、「加入契約書」を提出させる条項が不可欠です。株式譲渡を承認する条件として、譲受人が株主間契約に加入することを定めるのが通常です。

4-2. 契約の目的を明確にする

目的条項は軽視されがちですが、契約解釈に影響します。次のような目的を明記すると、後の紛争で条項の趣旨を説明しやすくなります。

  • 会社の持続的成長と企業価値向上
  • 株主間の権利義務の明確化
  • 安定的な経営体制の確保
  • 株式譲渡・資金調達・出口戦略の予見可能性確保
  • 少数株主・投資家・創業者・合弁パートナーの利害調整
  • 紛争の予防と迅速な解決

目的条項は、過度に一方当事者の利益だけを掲げないことが重要です。特にスタートアップ投資や合弁会社では、「出資者保護」だけでなく、「会社の成長」「事業機会の確保」「公正な利害調整」を入れると、契約全体のバランスが取りやすくなります。

4-3. 前提となる株式数・持株比率を確認する

株主間契約では、締結時点の発行済株式総数、自己株式、種類株式、新株予約権、潜在株式、株主名簿、譲渡制限、株券発行会社該当性を確認し、別紙に資本構成表を添付します。

資本構成表に含めるべき項目は、次のとおりです。

  • 株主名
  • 住所または所在地
  • 保有株式の種類
  • 株式数
  • 議決権数
  • 持株比率
  • 希薄化後比率
  • 新株予約権、ストックオプション、転換社債型新株予約権付社債の有無
  • 譲渡制限の有無
  • 株券発行の有無
  • 担保設定、質権、信託、名義株の有無

ここを曖昧にすると、将来の拒否権、優先引受権、タグ・アロング、ドラッグ・アロング、買取価格の算定で争いが生じます。

Section 05

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 経営体制・役員指名・ガバナンス

役員指名権、オブザーバー権、重要事項承認権を過不足なく設計します。

5-1. 取締役・監査役の指名権

株主間契約の中心的事項の一つが、役員指名権です。特定株主が、取締役候補者、監査役候補者、社外取締役候補者、代表取締役候補者、委員会委員候補者を指名できるかを定めます。

実務上は、次のような条項が検討されます。

  • 創業者株主が1名または複数名の取締役候補者を指名する権利
  • 投資家株主が一定の持株比率以上を保有する限り、1名の取締役候補者を指名する権利
  • 合弁当事者双方が同数の取締役を指名する権利
  • 独立社外取締役を共同で指名する仕組み
  • 監査役または監査等委員の指名権
  • 指名権者が一定比率を下回った場合の権利喪失
  • 指名候補者に必要な資格、反社排除、競業禁止、利益相反の基準

ただし、契約上の指名権は、株主総会における選任決議を不要にするものではありません。したがって、株主間契約では、指名候補者を選任するために各株主が議決権を行使する義務、会社が議案を提出する義務、候補者の就任承諾、辞任・解任時の後任指名を一体として定めます。

5-2. 取締役会オブザーバー権

投資家や少数株主に、取締役会へのオブザーバー参加権を与えることがあります。オブザーバーは取締役ではないため、議決権はありませんが、情報収集と経営監視の機能を持ちます。

定めるべき事項は次のとおりです。

  • 出席できる会議の範囲
  • 発言権の有無
  • 資料提供の時期と範囲
  • 秘密保持義務
  • 利益相反議題からの退席
  • 競合投資家への情報遮断
  • インサイダー情報管理
  • 取締役会議事録への記載の有無
  • オブザーバー権の喪失事由

上場準備会社では、オブザーバー権がガバナンス、情報管理、証券法務上の論点を生じさせることがあります。IPOを見据える場合、情報権・オブザーバー権は早期に整理すべきです。

5-3. 重要事項の事前承認・拒否権

重要事項の事前承認権は、投資家保護や合弁会社の共同支配に有効です。しかし、範囲が広すぎると経営が停滞し、狭すぎると保護機能を果たしません。

典型的な承認事項は次のとおりです。

次の比較表は、株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 経営体制・役員指名・ガバナンスで確認すべき項目を整理したものです。条項の役割や注意点を分けて把握することが重要で、各行から自社で検討すべき論点を読み取れます。

分野具体例
資本政策新株発行、新株予約権発行、自己株式取得、株式分割、株式併合、種類株式発行
組織再編合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡、重要資産譲渡
経営方針事業計画、予算、中期経営計画、重要な事業転換
財務一定額以上の借入、保証、担保提供、設備投資、リース、債務免除
人事代表取締役、CFO、重要役員の選任・解任、報酬制度、ストックオプション
契約重要契約、独占契約、関連当事者取引、競業取引、知財ライセンス
コンプライアンス反社対応、不祥事調査、重大紛争、行政処分対応
出口M&A、IPO申請、上場市場変更、セカンダリー売却

承認事項を定める際の実務ポイントは、金額基準、例外、緊急時対応、承認期限、無回答時の扱い、承認拒絶の合理性、会社法上の機関決定との関係を明確にすることです。

5-4. 取締役の義務との緊張関係

株主間契約で特定株主の意向を強く反映させると、取締役の会社に対する善管注意義務・忠実義務との関係が問題になります。取締役は、指名した株主の代理人ではなく、会社のために職務を行う者です。

そのため、契約では「指名取締役は、指名株主の利益のみを優先して行動する」といった表現を避けるべきです。むしろ、取締役の法令上の義務を尊重しつつ、株主間では候補者指名・議決権行使・情報共有の範囲を調整する構造が望ましいです。

Section 06

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 議決権行使に関する条項

株主総会での協力義務と、会社法上の決議効力を混同しないよう整理します。

6-1. 議決権拘束合意の目的

株主間契約では、株主総会で一定の議案に賛成または反対する義務を定めることがあります。これを一般に議決権拘束合意と呼びます。

典型例は次のとおりです。

  • 指名権者が指名した取締役候補者に賛成する。
  • 定款変更、種類株式発行、ストックオプション発行に賛成する。
  • 競合会社への株式譲渡を承認しない。
  • M&A承認議案に一定条件で賛成する。
  • デッドロック解消手続に従って議決権を行使する。

6-2. 条項設計上の注意点

議決権拘束合意は、株主の議決権行使の自由、会社法の機関設計、他の株主の利益、公序良俗との関係で慎重に設計する必要があります。

実務上は、次の点を明確にします。

  • 対象議案を具体的に特定する。
  • 義務の存続期間を定める。
  • 持株比率低下時の終了条件を定める。
  • 会社法上必要な決議要件を満たすための手続を定める。
  • 違反時の救済を定める。
  • 反対すべき合理的理由がある場合の例外を定める。
  • 取締役としての判断と株主としての議決権行使を混同しない。

6-3. 委任状・代理行使・議決権信託

契約の実効性を高めるため、委任状、議決権代理行使、エスクロー、信託などを組み合わせることがあります。ただし、これらは形式的に作ればよいものではありません。株主総会招集通知、議案、委任状の有効期間、撤回可能性、代理権の範囲、本人確認、電子委任状の可否を検討します。

特に、包括的・長期的・撤回不能の委任状は、実効性や有効性をめぐる紛争の原因となり得ます。必要な議案ごとに、手続と証拠を整えることが重要です。

Section 07

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 株式譲渡制限・先買権・共同売却権

想定外の第三者、競合、相続人へ株式が移るリスクを制御します。

7-1. 株式譲渡制限の基本設計

株主間契約の中核は、株式を誰に、どのような条件で譲渡できるかです。ここが不十分だと、会社の支配権が想定外の者へ移転します。

定めるべき事項は次のとおりです。

  • 譲渡の定義 ― 売買、贈与、交換、信託、担保設定、合併・会社分割による移転、株主の支配権変更を含めるか。
  • 譲渡禁止期間 ― ロックアップ期間を設けるか。
  • 譲渡承諾権者 ― 会社、他株主、投資家、取締役会、株主総会のいずれか。
  • 許容譲渡 ― 親会社・子会社・資産管理会社・相続人・ファンドの関連ファンドへの譲渡を認めるか。
  • 禁止譲渡先 ― 競合、反社、信用不安者、制裁対象者、業法上不適格者。
  • 譲渡手続 ― 通知、価格、買主情報、譲渡契約書案、承諾期限、承諾拒絶時の扱い。
  • 契約加入 ― 譲受人に株主間契約へ加入させること。

7-2. 先買権(Right of First Refusal)

先買権とは、ある株主が第三者に株式を売却しようとするとき、他の株主が同条件または一定条件で先に買い取る権利です。

先買権で決めるべき事項は次のとおりです。

  • 売却株主が通知すべき情報
  • 第三者提案の真実性確認
  • 買付価格と支払条件
  • 複数株主が行使した場合の按分方法
  • 一部行使の可否
  • 行使期限
  • 行使後のクロージング期限
  • 税金・手数料負担
  • 行使されなかった場合の第三者譲渡可能期間
  • 第三者譲渡条件が変更された場合の再通知義務

価格だけでなく、支払時期、表明保証、補償、アーンアウト、非金銭対価がある場合の扱いを決めておく必要があります。

7-3. 優先交渉権・先買交渉権(Right of First Offer)

先買交渉権は、売却希望株主が第三者へ売る前に、既存株主へ売却提案を行う制度です。先買権よりも柔軟ですが、価格発見機能は弱くなります。

合弁会社やファミリービジネスでは、まず既存株主間で買い取る機会を作るために有効です。一方、スタートアップ投資では、投資家の出口を過度に妨げると次回資金調達に悪影響が出るため、VC保有株式には例外を設けることがあります。

7-4. 売却参加権(Tag-along Right)

売却参加権とは、大株主が第三者へ株式を売却する場合に、少数株主も同じ条件で売却に参加できる権利です。支配株主だけが有利な価格で退出し、少数株主が望まない新支配株主の下に取り残されることを防ぐ機能があります。

定めるべき事項は次のとおりです。

  • 何%以上の売却で発動するか。
  • 売却参加できる株式数の計算方法。
  • 同条件の意味。
  • 買主が全株式を買えない場合の按分方法。
  • 表明保証・補償責任の上限。
  • 創業者やVCなど株主属性ごとの適用差。

7-5. 売却強制権(Drag-along Right)

売却強制権とは、一定条件を満たすM&Aが成立した場合に、多数株主または一定の株主グループが、他の株主にも売却を強制できる権利です。M&Aで少数株主が反対して売却が止まることを防ぎます。

ドラッグ・アロングは強力な権利であるため、発動条件を慎重に定める必要があります。

  • 発動できる株主または賛成比率
  • 最低売却価格または評価方法
  • 買主が独立第三者であること
  • 関連当事者取引の場合の特別手続
  • 対価の種類
  • 表明保証・補償の範囲
  • 役員退任、競業避止、雇用契約の扱い
  • 税務負担
  • 少数株主保護手続

安易なドラッグ条項は、少数株主の財産権を過度に制限する、関連当事者取引で不公正になる、M&A価格の算定で紛争になるなどの問題を生みます。

Section 08

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 資金調達・希薄化・優先引受権

成長資金を確保しながら、希薄化と投資家保護のバランスを取ります。

8-1. 資金調達方針

株主間契約では、将来の資金調達方針を定めることがあります。特にスタートアップでは、追加増資は成長に不可欠です。一方で、既存株主にとっては持株比率の希薄化を意味します。

定めるべき事項は次のとおりです。

  • 資金調達の承認手続
  • 発行価格の決定方法
  • 第三者割当の条件
  • 既存株主の優先引受権
  • 投資家の持株比率維持権
  • ダウンラウンド時の調整
  • ストックオプションプール
  • 転換証券の扱い
  • 将来ラウンドでの契約優先順位

8-2. 優先引受権

優先引受権とは、会社が新株や新株予約権を発行する場合に、既存株主が持株比率に応じて引き受ける機会を持つ権利です。

優先引受権は、既存株主の希薄化を防ぐ一方で、資金調達の機動性を低下させる可能性があります。したがって、次の例外を設けることが多いです。

  • ストックオプション発行
  • M&A対価としての株式発行
  • 事業提携先への戦略的発行
  • 少額発行
  • 既存投資家が期限内に行使しない場合
  • IPO準備上必要な資本政策

8-3. アンチダイリューション条項

アンチダイリューション条項は、会社が過去の投資価格より低い価格で新株を発行する場合に、既存投資家の経済的損失を調整する条項です。

代表的な方式には、フルラチェット方式と加重平均方式があります。フルラチェット方式は投資家保護が強い一方、創業者・従業員・後続投資家への影響が大きく、次回資金調達を難しくすることがあります。加重平均方式は、発行株式数と価格を踏まえて調整するため、よりバランス型です。

アンチダイリューションは、税務、会計、種類株式の内容、投資家間の公平性、J-KISSや転換社債型新株予約権付社債との整合性を確認する必要があります。

Section 09

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 情報権・監査権・報告義務

投資家のモニタリングと、秘密保持、個人情報、競合情報の管理を両立させます。

9-1. 情報権の必要性

株主間契約では、会社が株主に対してどのような情報を、いつ、どの形式で提供するかを定めます。会社法上の閲覧権や計算書類提供だけでは、投資家や合弁パートナーの実務上のモニタリングに不足する場合があります。

典型的な情報提供事項は次のとおりです。

  • 月次試算表
  • 四半期・年次財務諸表
  • 事業計画・予算
  • KPIレポート
  • 取締役会資料
  • 株主総会資料
  • 資金繰り表
  • 重要契約一覧
  • 紛争・行政処分・事故・情報漏えいの報告
  • 知財出願状況
  • 労務・コンプライアンス問題

9-2. 情報権と秘密保持のバランス

情報権は投資家保護に必要ですが、情報漏えい、競合投資家、インサイダー情報、個人情報保護の問題を生じさせます。

契約では次の制限を設けます。

  • 受領者の範囲
  • 利用目的
  • 再開示先
  • グループ会社への共有可否
  • 投資委員会、LP、監査人、弁護士、税理士への開示可否
  • 競合関係にある場合の情報遮断
  • 個人情報・営業秘密の取扱い
  • 上場準備・上場後の情報管理
  • 返却・削除義務

9-3. 監査権・立入権

一定の株主に、帳簿閲覧、会計監査、業務監査、施設立入、経営陣ヒアリングの権利を与えることがあります。ただし、頻繁な監査権行使は会社の業務負担となるため、合理的な範囲に限定します。

  • 事前通知期間
  • 営業時間内の実施
  • 年間回数の上限
  • 外部専門家の同行可否
  • 費用負担
  • 営業秘密・個人情報の保護
  • 競合株主による濫用防止
Section 10

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 創業者・役員・従業員株主の離脱

退職、解任、死亡、競業、重大違反が起きたときの株式処理を定めます。

10-1. なぜ離脱条項が重要か

スタートアップや中小企業では、創業者や役員が株式を保有します。しかし、退職、解任、死亡、病気、競業、重大な契約違反が起きた場合、その者が株式を持ち続けることは会社の成長を妨げることがあります。

そこで、株主間契約では、離脱時の株式買取や権利制限を定めます。

10-2. ベスティング

ベスティングとは、一定期間の勤務・貢献に応じて、株式または新株予約権の経済的利益が確定していく仕組みです。創業者が早期に離脱しても大量の株式を保有し続けることを防ぎます。

定めるべき事項は次のとおりです。

  • ベスティング期間
  • クリフ期間
  • 月次・年次の確定方法
  • 退職時の未確定株式の扱い
  • M&A時の加速ベスティング
  • 正当理由のない退職と正当理由ある退職の区別
  • 死亡・障害時の扱い
  • 税務上の評価と課税関係

10-3. Good Leaver / Bad Leaver

退職者を一律に扱うと不公平になるため、Good Leaver と Bad Leaver を区別することがあります。

次の比較表は、株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 創業者・役員・従業員株主の離脱で確認すべき項目を整理したものです。条項の役割や注意点を分けて把握することが重要で、各行から自社で検討すべき論点を読み取れます。

区分株式処理の考え方
Good Leaver死亡、病気、定年、会社都合退職、正当理由ある辞任公正価額または一定の優遇価格で買取。
Bad Leaver横領、背任、重大な契約違反、競業、秘密漏えい、無断退職低い価格、簿価、取得価額、または未確定部分の無償取得を検討。
Neutral Leaver双方合意退職、職務不適合、業績不振中間的な価格算定を設定。

ただし、過度に低い価格での強制買取は、無効・課税・会計・労務紛争のリスクがあります。買取価格の合理性、手続の透明性、退職の原因認定、反論機会を設計することが重要です。

10-4. 相続・離婚・破産への対応

株主が個人である場合、相続、離婚、破産、成年後見、差押えにより、株式が予期しない者へ移転する可能性があります。

定めるべき事項は次のとおりです。

  • 死亡時に会社または他株主が買い取る権利
  • 相続人への契約加入義務
  • 相続人が複数いる場合の代表者指定
  • 遺言・家族信託・種類株式との整合性
  • 離婚時財産分与への対応
  • 破産・差押え時の通知義務
  • 反社・競合に該当する相続人等への譲渡制限

中小企業の事業承継では、会社法、相続法、税法、信託法、種類株式、遺留分、納税猶予制度を横断的に検討する必要があります。

Section 11

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― デッドロック条項

50対50や強い拒否権で会社が止まる場面を想定し、段階的な解消手続を置きます。

11-1. デッドロックとは

デッドロックとは、株主や取締役の意見が対立し、重要事項を決定できない状態です。特に50対50の合弁会社や、投資家に強い拒否権を与えた会社で発生します。

デッドロックが起きると、予算承認、代表者選任、資金調達、重要契約、M&A、清算が止まり、会社価値が毀損します。

11-2. 段階的解決手続

実務的には、いきなり売却・清算に進むのではなく、段階的な手続を設計します。

  1. 担当役員間協議
  2. 代表取締役・投資責任者間協議
  3. 親会社・創業者・投資委員会レベルの協議
  4. 第三者専門家による調停
  5. 一定期間内に解決しない場合の売買手続
  6. 事業売却、清算、会社分割などの最終手段

11-3. 売買型の解決方法

代表的な売買型デッドロック解決条項には次のものがあります。

次の比較表は、株主間契約で決めておくべき重要事項 ― デッドロック条項で確認すべき項目を整理したものです。条項の役割や注意点を分けて把握することが重要で、各行から自社で検討すべき論点を読み取れます。

方式内容注意点
ロシアンルーレット一方が価格を提示し、相手が売るか買うかを選ぶ。資金力の差が大きい場合は不公平になり得る。
テキサスシュートアウト双方が買付価格を提示し、高値提示者が買い取る。入札設計と秘密保持が重要。
共同売却第三者へ会社全体を売却する。買主探索、価格、表明保証負担を定める。
清算事業継続が困難な場合に清算する。従業員、取引先、債権者、税務の影響が大きい。

デッドロック条項は、経営権争いの最終兵器です。発動条件が曖昧だと、相手に圧力をかける手段として濫用されます。対象事項、協議期間、通知方法、評価基準、資金調達期間、クロージング、違反時の効果を細かく定めるべきです。

Section 12

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― M&A・IPO・出口戦略

IPO、M&A、セカンダリー売却、買戻し、清算を見据えて協力義務を定めます。

12-1. Exitの種類

株主間契約では、どのような出口を想定するかを明確にします。

  • IPO
  • 事業会社へのM&A
  • 投資ファンドへの売却
  • 創業者または会社による買戻し
  • セカンダリー売却
  • 合弁相手への売却
  • 清算

出口戦略を決めずに投資や合弁を始めると、数年後に投資家は売りたい、創業者は売りたくない、事業会社は競合へ売却されたくない、少数株主は価格が低いと感じる、という対立が起こります。

12-2. IPO時の契約終了・修正

IPOを目指す場合、上場審査上、特定株主に過度な拒否権や情報権を与える契約は見直しが必要になることがあります。上場会社では、株主の権利・平等性、情報開示、公正な意思決定が重視されます。

そのため、株主間契約では、次の事項を定めます。

  • IPO申請時または上場承認時に終了する条項
  • 上場後も存続する秘密保持・ロックアップ・補償条項
  • 上場準備に必要な定款変更への協力
  • 種類株式の普通株式転換
  • 反社・コンプライアンス調査への協力
  • 資本政策整理への協力

12-3. M&A時の協力義務

M&Aでは、買主が全株取得を求めることが多く、少数株主の協力が必要です。株主間契約では、M&A手続への協力義務を定めます。

  • 株式譲渡契約への署名
  • 表明保証の範囲
  • 補償責任の上限
  • 競業避止義務の範囲
  • デューデリジェンス資料提供
  • 株主総会での賛成
  • 種類株式の転換
  • ストックオプション処理
  • 役員退任・雇用継続

少数株主に過大な表明保証や補償責任を負わせると不公平です。株主の関与度、保有比率、経営関与の有無に応じて責任範囲を分けるべきです。

Section 13

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 秘密保持・競業避止・知的財産

情報漏えい、過度な競業制限、知財帰属の不明確さを防ぎます。

13-1. 秘密保持

株主は、会社の財務情報、技術情報、取引先情報、事業計画、M&A情報、個人情報にアクセスする可能性があります。そのため、秘密保持条項は不可欠です。

定めるべき事項は次のとおりです。

  • 秘密情報の定義
  • 除外情報
  • 利用目的
  • 開示可能な専門家・関連会社・投資家・金融機関
  • 情報管理措置
  • 返却・削除
  • 存続期間
  • 漏えい時の報告・損害賠償
  • インサイダー取引防止
  • 個人情報保護法対応

13-2. 競業避止・取引先制限

競業避止条項は、創業者や合弁パートナーが会社と競合する事業を行うことを制限する条項です。ただし、範囲が広すぎると、職業選択の自由、独占禁止法、労働法、公序良俗との関係で問題となります。

特にスタートアップ投資では、出資者がスタートアップの研究開発活動、取引先、資金調達先を過度に制限することは、競争政策上の問題を生じ得ます。公正取引委員会・経済産業省の指針は、研究開発活動の制限や取引先の制限、最恵待遇条件などについて、独占禁止法上問題となり得る場面を具体的に示しています。

競業避止条項では、次を限定することが重要です。

  • 対象事業
  • 地域
  • 期間
  • 対象者
  • 例外
  • 正当な保護利益
  • 違反時の救済
  • 労務法務上の有効性

13-3. 知的財産権

株主間契約では、知的財産権の帰属と利用を定めることがあります。特に、創業者が個人で発明・著作物・ソースコード・商標・ノウハウを保有している場合、会社へ適切に譲渡またはライセンスされているかを確認します。

定めるべき事項は次のとおりです。

  • 既存知財の帰属
  • 会社への譲渡・ライセンス
  • 共同開発成果の帰属
  • 出資者・合弁相手の利用権
  • 退職者の発明・著作物
  • オープンソースソフトウェア
  • 商標・ドメイン管理
  • 知財侵害紛争の対応
Section 14

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 表明保証・誓約事項

過去の株式移転、反社、税務、知財、労務問題の後発リスクに備えます。

14-1. 表明保証の役割

表明保証とは、契約締結時またはクロージング時点の事実について、当事者が真実・正確であることを約束する条項です。株主間契約では、会社、創業者、既存株主が次の事項を表明保証することがあります。

  • 株式の有効発行
  • 株式の所有権
  • 担保・質権・譲渡制限違反の不存在
  • 株主名簿の正確性
  • 定款・議事録・登記の正確性
  • 税務申告・会計処理
  • 知的財産権
  • 労務問題
  • 訴訟・紛争
  • 反社会的勢力との関係不存在
  • 法令遵守

14-2. 誓約事項

誓約事項は、契約締結後に当事者が守るべき行動義務です。

  • 定款変更への協力
  • 株主総会・取締役会決議への協力
  • 契約加入の確保
  • 情報提供
  • 法令遵守
  • 反社排除
  • 秘密保持
  • 競業避止
  • 株式譲渡制限遵守
  • 資本政策への協力
  • IPO・M&Aへの協力

誓約事項は、抽象的な努力義務だけでなく、期限、手続、提出書類、違反時の効果を定めることで実効性が高まります。

Section 15

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 契約違反時の救済

損害賠償、違約金、差止め、株式買取、権利停止、解除の使いどころを整理します。

15-1. 救済を明確にしない契約は弱い

株主間契約は、違反時の救済が曖昧だと実効性を失います。特に、株式譲渡制限違反、議決権行使違反、秘密保持違反、競業違反、表明保証違反、資金調達協力義務違反について、何ができるかを明確にすべきです。

15-2. 主な救済手段

次の比較表は、株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 契約違反時の救済で確認すべき項目を整理したものです。条項の役割や注意点を分けて把握することが重要で、各行から自社で検討すべき論点を読み取れます。

救済手段内容注意点
損害賠償違反により生じた損害を請求する。損害額の立証が難しい場合がある。
違約金・損害賠償予定あらかじめ金額または算定式を定める。過大な金額は争われる可能性。税務上の扱いにも注意。
差止め譲渡、競業、情報漏えいなどを止める。仮処分を見据え、保全の必要性・権利性を整理する。
株式買取請求違反株主の株式を会社または他株主が買い取る。自己株式取得規制、財源規制、価格、税務に注意。
権利停止指名権、情報権、拒否権を停止する。会社法上の株主権を直接奪う設計は慎重に。
解除契約関係を終了させる。株主である地位は契約解除だけでは当然に消えない。
強制履行合意した行為を求める。会社法上の機関決定や第三者への影響を踏まえ慎重に設計。

15-3. 株式買取条項の危険性

株式買取条項は有効な救済手段ですが、濫用されると一方当事者への過度な圧力になります。公正取引委員会・経済産業省の指針も、スタートアップに対し、出資者が株式買取請求権を背景として知的財産権の無償譲渡等の不利益な要請を行う事例について、優越的地位の濫用として問題となるおそれを指摘しています。

したがって、株式買取請求権は、次のように限定的に設計することが望ましいです。

  • 発動事由を重大な契約違反に限定する。
  • 軽微な違反については是正期間を設ける。
  • 買取価格の算定方法を明確にする。
  • 独立第三者評価を利用する。
  • 会社による自己株式取得の場合は財源規制を確認する。
  • 会社に過大な資金流出を生じさせない。
  • 出資者が不利益な要求を通す交渉材料として使わない。
Section 16

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 価格算定・バリュエーション

退職、違反、デッドロック、M&A、清算の場面で争われる価格算定を具体化します。

16-1. 株式買取価格をどう決めるか

株主間契約では、退職、死亡、契約違反、デッドロック、先買権、ドラッグ、タグ、M&A、清算など、多くの場面で株式価格が問題になります。

価格算定方法には次のものがあります。

次の比較表は、株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 価格算定・バリュエーションで確認すべき項目を整理したものです。条項の役割や注意点を分けて把握することが重要で、各行から自社で検討すべき論点を読み取れます。

方法内容適する場面
公正市場価値独立第三者間で成立する価格を評価する。M&A、退職、相続、一般的な買取。
純資産価額貸借対照表上の純資産を基準にする。資産管理会社、不動産保有会社。
EBITDA倍率利益指標に倍率を掛ける。収益性ある事業会社。
DCF法将来キャッシュフローを割引く。成長企業、投資案件。
直近ラウンド価格直近増資価格を基準にする。スタートアップ。
取得価額当初取得価格を基準にする。Bad Leaver、創業者株式。
簿価会計上の帳簿価額を基準にする。中小企業、役員持株。

16-2. 評価手続を定める

価格算定では、評価方法だけでなく手続が重要です。

  • 評価人の選任方法
  • 評価基準日
  • 評価資料の範囲
  • 複数評価人の場合の調整
  • 価格に異議がある場合の手続
  • 評価費用の負担
  • 税務上の時価との関係
  • 少数株主ディスカウント・非流動性ディスカウントの扱い
  • 債務超過時の扱い

特に同族会社では、税務上の株価評価と契約上の買取価格が乖離し、贈与税・所得税・法人税の問題が生じることがあります。税理士・公認会計士の関与が不可欠です。

Section 17

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 税務・会計・登記・規制対応

法務文書としてだけでなく、税務、会計、登記、業法規制まで確認します。

17-1. 税務

株主間契約は、法務文書であると同時に税務リスクを伴います。

検討すべき税務論点は次のとおりです。

  • 低額譲渡・高額譲渡
  • みなし贈与
  • 役員・従業員への株式付与課税
  • ストックオプション税制
  • 自己株式取得の課税
  • 種類株式の評価
  • 組織再編税制
  • 相続税・贈与税
  • 事業承継税制
  • 国際税務・源泉税

17-2. 会計

会計上は、株式報酬、自己株式、種類株式、転換証券、デリバティブ性、金融負債・資本分類、連結範囲、持分法、減損、IFRSとの相違が問題になります。

特に、買取義務、プットオプション、強制償還、優先配当、清算優先権がある場合、会計処理が複雑化します。

17-3. 登記・定款

株主間契約に基づき、定款変更、種類株式発行、役員変更、本店移転、募集株式発行、資本金の額の変更などが必要になる場合は、司法書士と連携して登記手続を進めます。

契約だけ締結して、定款・登記・議事録に反映していない場合、実務上の実効性が大きく低下します。

17-4. 業法・金融商品取引法

金融、医療、通信、放送、建設、不動産、運送、電力、教育、暗号資産、保険、投資運用などの規制業種では、株主構成や支配権変更が許認可・届出・適格性に影響することがあります。

また、ファンド、投資勧誘、社債、新株予約権、クラウドファンディング、トークン等が関係する場合は、金融商品取引法や関連規制の検討が必要です。

Section 18

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― スタートアップ投資に特有の注意点

投資家保護と会社の成長可能性を両立させる条項設計が重要です。

18-1. 投資契約・株主間契約・種類株式要項の三点セット

スタートアップ投資では、次の三文書がセットで用いられることがあります。

  1. 投資契約
  2. 株主間契約
  3. 種類株式要項または定款変更案

投資契約は投資実行条件や表明保証を中心に、株主間契約は投資実行後の関係を中心に、種類株式要項は株式そのものの権利内容を中心に定めます。

18-2. 成長を阻害しない設計

経済産業省のスタートアップ投資契約ガイドラインは、投資契約等の意義や契約当事者が留意すべき事項を解説し、投資環境や個社の事情を踏まえた活用を促しています。スタートアップ投資の契約は、投資家保護だけでなく、会社の成長可能性を阻害しないことが重要です。

特に注意すべき条項は次のとおりです。

  • 過度な拒否権
  • 過度な買取請求権
  • 広すぎる競業避止
  • 研究開発活動の制限
  • 取引先・資金調達先の制限
  • 最恵待遇条項
  • 創業者個人保証
  • 無限定の表明保証
  • 過大な補償責任
  • IPO時に解除できない権利

18-3. CVC・事業会社出資の論点

事業会社やCVCが出資する場合、純粋な財務投資家と異なり、事業提携、顧客情報、共同開発、独占販売、知財ライセンス、競合制限が問題になります。

この場合、株主間契約だけでなく、業務提携契約、共同研究契約、ライセンス契約、NDA、PoC契約を整合させます。出資者の競争上の利益を守る必要がある一方で、スタートアップの自由な成長・資金調達・顧客開拓を過度に制限しないバランスが必要です。

Section 19

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 合弁会社に特有の注意点

合弁目的、役割分担、50対50の危険、合弁終了時の処理を整理します。

19-1. 合弁目的と事業範囲

合弁会社では、株主間契約が合弁事業の根本契約になります。まず、合弁目的、事業範囲、地域、製品、技術、顧客、出資比率、役割分担を明確にします。

定めるべき事項は次のとおりです。

  • 各当事者の出資義務
  • 技術・人材・設備・販路の提供義務
  • 事業計画
  • 予算
  • 取締役指名
  • 代表者
  • 重要事項拒否権
  • 競業避止
  • 知財帰属
  • 取引条件
  • 親会社保証
  • 追加資金負担
  • デッドロック
  • 終了時の事業・知財・顧客の扱い

19-2. 50対50の危険

50対50の合弁会社は公平に見えますが、意思決定不能に陥りやすいです。特に、取締役会も同数、株主総会も同数、拒否権も広範囲だと、どちらか一方の反対で全てが止まります。

50対50を採用する場合は、デッドロック条項、議長裁決、第三者取締役、段階的協議、売買型解決手続を必ず設計すべきです。

19-3. 合弁終了時の処理

合弁解消時に最も争われるのは、知財、顧客、従業員、在庫、商号、データ、許認可、債務、保証、継続中の契約です。

契約では、終了後の処理を事前に定めます。

  • どちらが株式を買い取るか
  • 事業を継続するか清算するか
  • 知財を誰が利用できるか
  • 顧客契約を移転できるか
  • 従業員をどちらが引き受けるか
  • 親会社保証を解除できるか
  • ブランドを使用できるか
  • 競業避止が存続するか
Section 20

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 中小企業・同族会社・事業承継に特有の注意点

名義株、相続未了、株主名簿、過去の譲渡承認を確認してから合意します。

20-1. 名義株・過去の株式譲渡の確認

中小企業や同族会社では、名義株、未整備の株主名簿、未発行株券、相続未了、古い譲渡承認決議の不存在が問題になります。

株主間契約を作る前に、次の資料を確認します。

  • 原始定款
  • 現行定款
  • 株主名簿
  • 株券発行の有無
  • 株式申込証・払込記録
  • 過去の株式譲渡契約
  • 譲渡承認議事録
  • 相続関係書類
  • 登記簿
  • 税務申告書別表二
  • 株主総会議事録

20-2. 後継者への集中と非後継者株主の保護

事業承継では、経営権を後継者に集中させる一方、非後継者株主の経済的利益をどう保護するかが重要です。

  • 議決権株式と無議決権株式の活用
  • 配当方針
  • 退職金・役員報酬
  • 会社による買取資金
  • 相続税納税資金
  • 遺留分対策
  • 家族間紛争予防
  • 株式分散防止

20-3. 家族間合意と会社法手続

家族会議で合意しても、株式移転、定款変更、種類株式発行、役員変更、自己株式取得には会社法上の手続が必要です。契約書、議事録、登記、税務申告が一貫していなければ、後に相続人間で争われます。

Section 21

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 条項作成時の実務チェックリスト

基本情報、会社法手続、譲渡制限、ガバナンス、出口、周辺法務を順に確認します。

21-1. 基本情報

  • 契約当事者は全員正しく表示されているか。
  • 会社も契約当事者にすべきか検討したか。
  • 資産管理会社、親会社、相続人、関連ファンドをどう扱うか。
  • 締結権限、取締役会承認、利益相反承認は必要か。
  • 英文契約と日本語契約の優先関係は明確か。

21-2. 会社法手続

  • 定款変更が必要な事項はないか。
  • 種類株式設計が必要な事項はないか。
  • 株主総会・取締役会決議が必要か。
  • 登記が必要か。
  • 株主名簿書換手続を定めたか。
  • 株券発行会社か確認したか。

21-3. 譲渡制限

  • 譲渡の定義は十分広いか。
  • 先買権、売却参加権、売却強制権の優先順位は明確か。
  • 許容譲渡先と禁止譲渡先を定めたか。
  • 譲受人の契約加入義務を定めたか。
  • 相続・合併・支配権変更を処理したか。

21-4. ガバナンス

  • 取締役指名権を定めたか。
  • 重要事項承認権の範囲は過不足ないか。
  • 取締役の会社法上の義務との整合性はあるか。
  • オブザーバー権と秘密保持を整合させたか。
  • 情報権の範囲・期限・利用目的を定めたか。

21-5. 出口・紛争解決

  • IPO時に終了すべき条項を定めたか。
  • M&A時の協力義務を定めたか。
  • デッドロック条項を定めたか。
  • 買取価格の算定方法を定めたか。
  • 裁判管轄、仲裁、調停、準拠法を定めたか。

21-6. 周辺法務

  • 税務上の時価と課税関係を確認したか。
  • 会計処理を確認したか。
  • 独占禁止法上の競争制限リスクを確認したか。
  • 労務上の退職・競業避止リスクを確認したか。
  • 知財の帰属を確認したか。
  • 個人情報・営業秘密の管理を確認したか。
  • 業法上の株主規制・許認可を確認したか。
Section 22

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 典型条項の設計例

条項の考え方を把握し、個別案件では専門家確認を前提に具体化します。

以下は、実務で検討される条項の考え方を示すものであり、そのまま使用するための雛形ではありません。個別案件では必ず専門家による確認が必要です。

22-1. 譲渡制限条項の骨子

  • 株主は、他の株主または会社の事前承諾なく株式を譲渡、担保設定、信託、その他処分してはならない。
  • 譲渡希望株主は、譲渡予定先、株式数、価格、支払条件、譲渡予定日を通知する。
  • 他株主は一定期間内に先買権を行使できる。
  • 承認された譲受人は、譲渡実行前に株主間契約加入書を提出する。
  • 反社会的勢力、競合会社、制裁対象者、信用不安者への譲渡は禁止する。

22-2. 重要事項承認条項の骨子

  • 会社は、一定の重要事項について、事前に特定株主または株主会の承認を得る。
  • 承認事項は別紙で列挙する。
  • 承認請求には必要資料を添付する。
  • 承認権者は一定期間内に合理的に判断する。
  • 緊急時には事後報告を認める例外を設ける。
  • 法令上取締役会または株主総会の決議が必要な事項については、当該手続を別途履践する。

22-3. デッドロック条項の骨子

  • 重要事項について一定期間合意できない場合、デッドロックが発生する。
  • まず担当役員間協議、次に代表者間協議、次に親会社または主要株主間協議を行う。
  • それでも解決しない場合、調停、第三者評価、売買手続、共同売却、清算のいずれかに進む。
  • デッドロック発動中も、会社は通常業務を継続する。
  • 濫用的なデッドロック主張を禁止する。

22-4. 退職時買取条項の骨子

  • 創業者または役員株主が退職、解任、死亡、競業、重大違反等に該当した場合、会社または他株主は株式を買い取ることができる。
  • Good Leaver、Bad Leaver、Neutral Leaverを区別する。
  • 買取価格は、区分に応じて公正価額、取得価額、簿価、または独立評価により算定する。
  • 自己株式取得を行う場合は、会社法上の手続と財源規制に従う。
  • 税務上の取扱いを確認する。
Section 23

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 専門家別の確認ポイント

法務、登記、税務、会計、知財、労務、コンプライアンスの連携ポイントを整理します。

株主間契約は、弁護士だけで完結するとは限りません。案件に応じて、次の専門家が連携することが望ましいです。

次の比較表は、株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 専門家別の確認ポイントで確認すべき項目を整理したものです。条項の役割や注意点を分けて把握することが重要で、各行から自社で検討すべき論点を読み取れます。

専門家・担当者確認ポイント
弁護士契約全体、会社法、M&A、紛争解決、独禁法、労務、知財、個人情報、業法。
企業内弁護士・法務担当社内意思決定、契約管理、既存契約との整合性、実行可能性。
商事法務担当株主総会、取締役会、議事録、定款、公告、株主名簿。
司法書士定款変更、役員変更、種類株式、募集株式、登記。
税理士株式評価、譲渡税、贈与税、相続税、自己株式取得、組織再編税制。
公認会計士会計処理、監査、内部統制、資本性・負債性、IPO準備。
弁理士・知財法務特許、商標、著作権、ライセンス、共同開発成果。
社会保険労務士・労務法務退職、競業避止、役員・従業員持株、懲戒、雇用契約。
コンプライアンス担当反社、贈収賄、通報制度、規程整備、研修。
内部監査担当契約遵守、証跡管理、決裁統制、情報管理。
M&A法務担当デューデリジェンス、PMI、売却協力、表明保証、補償。
金融・証券法務担当資金調達、金融商品取引法、IPO、適時開示。
Section 24

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― よくある失敗例

定款との矛盾、譲渡定義の狭さ、価格算定の曖昧さなどを事前に潰します。

24-1. 定款と契約が矛盾している

契約では投資家に拒否権を与えているのに、定款や種類株式に反映されていないため、会社法上の手続で争いになることがあります。契約、定款、議事録、登記、株主名簿は一体で管理すべきです。

24-2. 譲渡の定義が狭すぎる

「売買」だけを禁止しても、贈与、信託、担保設定、合併、会社分割、持株会社の支配権変更を通じて実質的に株式が移転することがあります。譲渡制限条項では、直接・間接の移転を広く定義します。

24-3. デッドロック条項がない

50対50の会社でデッドロック条項がないと、会社が停止します。合弁契約では、デッドロック解消手段を必ず設計すべきです。

24-4. 価格算定が曖昧

「適正価格」「時価」「協議により決定」とだけ書くと、最も重要な場面で合意できません。評価基準日、評価方法、評価人、異議手続を定めるべきです。

24-5. 退職者株式を処理できない

創業者・役員・従業員が退職した後も株式を持ち続け、会社の重要事項に影響を与えることがあります。ベスティング、離脱時買取、契約加入、相続対応を事前に定めます。

24-6. 独占禁止法・競争法を見落とす

出資者がスタートアップの研究開発、取引先、資金調達、販売先を過度に制限すると、独占禁止法上問題となる可能性があります。事業会社出資、CVC、業務提携を伴う出資では特に注意が必要です。

24-7. IPO時に契約が残りすぎる

上場後も特定株主だけが強い拒否権や情報権を持つ契約が残ると、上場審査や上場会社としてのガバナンスに支障が出る場合があります。IPO時終了条項を設計します。

Section 25

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 交渉プロセスの実務

論点表を作り、契約、定款、議事録、登記を同時に設計します。

25-1. まず論点表を作る

株主間契約は、いきなり条文を作るよりも、論点表を作って合意形成する方が効率的です。論点表には、各項目について「会社案」「投資家案」「妥協案」「法務コメント」「税務コメント」「未決事項」を記載します。

25-2. 契約・定款・議事録・登記を同時に設計する

株主間契約だけ先に作り、後から定款や登記を考えると、矛盾が起こります。次の文書を同時に準備します。

  • 株主間契約
  • 投資契約または株式譲渡契約
  • 定款変更案
  • 種類株式要項
  • 株主総会議事録案
  • 取締役会議事録案
  • 株主名簿書換書類
  • 登記書類
  • 契約加入書
  • 委任状
  • 反社確認書

25-3. 署名後の運用が重要

株主間契約は締結して終わりではありません。定期的に契約遵守状況を確認します。

  • 株主名簿を更新する。
  • 新株主加入書を取得する。
  • 重要事項承認の証跡を残す。
  • 情報提供期限を管理する。
  • 取締役指名権の持株比率を確認する。
  • IPO、M&A、資金調達時に契約を見直す。
  • 退職・相続・組織再編時に通知義務を確認する。

リーガルオペレーションの観点では、契約管理システム、期限管理、承認フロー、電子署名、議事録管理、資本政策表の更新を組み合わせることが有効です。

Section 26

株主間契約で決めておくべき重要事項 ― 結論

順調な時期にこそ、将来の対立を想定して実行可能なルールを文書化します。

株主間契約で決めておくべき重要事項は、株式譲渡制限だけではありません。むしろ本質は、会社の将来に関する重要な意思決定を、どの株主が、どの条件で、どの手続により行うかを事前に設計することにあります。

実務上、特に重要なのは次の10点です。

  1. 誰を契約当事者にし、新株主をどう加入させるか。
  2. 定款・種類株式・議事録・登記に反映すべき事項を切り分けること。
  3. 役員指名権、重要事項承認権、情報権を過不足なく設計すること。
  4. 株式譲渡制限、先買権、売却参加権、売却強制権を整合的に定めること。
  5. 資金調達、希薄化、優先引受権、アンチダイリューションを将来ラウンドまで見据えること。
  6. 創業者・役員・従業員株主の離脱、相続、競業、退職を処理すること。
  7. デッドロック解消手続を設けること。
  8. 契約違反時の救済、買取価格、評価手続を明確にすること。
  9. 秘密保持、知財、競業避止、独占禁止法、個人情報、業法を確認すること。
  10. IPO、M&A、事業承継など出口戦略をあらかじめ契約に織り込むこと。

株主間契約は、会社の平時の運営にも、有事の紛争にも、出口局面にも影響する基幹文書です。専門性の高い企業法務では、契約書の文言だけでなく、会社法上の手続、税務・会計、登記、知財、労務、独禁法、コンプライアンス、上場審査、M&A実務まで見通して設計する必要があります。

最も実務的な結論は明快です。株主間契約は、会社が順調なときにこそ作るべきです。紛争が起きてから合意しようとしても、各当事者の利害はすでに対立しています。早い段階で、将来起こり得る対立を想定し、合理的で実行可能なルールを文書化しておくことが、株主、経営者、投資家、従業員、取引先、そして会社そのものを守ることにつながります。

Reference

参考資料・根拠資料

  • e-Gov法令検索「会社法」
  • 最高裁判所 令和6年4月19日第二小法廷判決(令和4年(受)第1266号、各株券引渡請求及び独立当事者参加事件)
  • 経済産業省「スタートアップ投資契約ガイドライン」
  • 公正取引委員会・経済産業省「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」
  • 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」