刑事事件の示談金は、全国共通の定価ではなく、罪名ごとの被害構造と個別事情で変わります。暴行、傷害、財産犯、性犯罪、名誉毀損まで、実務上の目安と金額が動く理由を一般情報として整理します。
刑事事件の示談金は、全国共通の定価ではなく、罪名ごとの被害構造と個別事情で変わります。
まず、法定の定価表ではなく、損害の種類と示談条件から金額が組み立てられることを押さえます。
「被害者との示談金の相場は罪名によってどう違うか」という問いへの結論は、示談金には法律で定められた全国共通の定価表がなく、罪名ごとに被害の構造が違うため、実務上の目安も大きく異なるということです。
窃盗や詐欺のような財産犯では、まず被害額そのものの弁償が出発点になります。暴行や傷害では治療費、通院交通費、休業損害、慰謝料が中心になります。痴漢、盗撮、不同意わいせつ、不同意性交等のような性犯罪では、身体侵襲だけでなく、羞恥心、恐怖、プライバシー侵害、継続的な精神的苦痛が重く評価されやすく、金額が高くなりやすい傾向があります。
次の重要ポイントは、このページ全体で読むべき結論を短く整理したものです。相場だけを見ると金額表に見えますが、読者にとって重要なのは、その金額が何の損害を回復するためのものか、どの事情で上下するのかを読み分けることです。
「この罪名なら必ずいくら」と断定するのは正確ではありません。罪名ごとの算定ロジックに、被害結果、悪質性、時期、被害者の処罰感情、示談条項、履行確保の事情が上乗せされます。
示談金の見方は、主に3つの観点に分けると理解しやすくなります。下の一覧は、それぞれの類型で何が金額の出発点になり、どこを重点的に読むべきかを示しています。
示談、被害弁償、慰謝料、宥恕を分けると、罪名別の金額差が見えやすくなります。
刑事事件における示談とは、典型的には、加害者側と被害者側が事件に関する民事上の損害賠償や謝罪条件について合意し、紛争を終了させる合意をいいます。示談は民事上の合意ですが、被害の軽重、被害感情、謝罪、弁償、示談の有無などは、検察官の訴追判断や裁判所の量刑判断で考慮され得る事情です。
次の比較表は、混同されやすい用語の違いを整理したものです。読者にとって重要なのは、示談金という一語の中に、客観的な損害の補填と精神的苦痛への評価が同時に含まれ得る点を読み取ることです。
| 用語 | 意味 | 金額への影響 |
|---|---|---|
| 被害弁償 | 盗まれた金銭、壊された物の修理代、治療費、休業損害など、客観的な損害の補填です。 | 財産犯では出発点になりやすく、傷害では治療費や休業損害として上乗せされます。 |
| 慰謝料 | 精神的苦痛に対する金銭評価です。 | 暴行、脅迫、性犯罪、名誉毀損などで中心的な要素になります。 |
| 示談金 | 実務では、被害弁償、慰謝料、迷惑料、将来請求を終局化する調整額などをまとめて指すことがあります。 | 罪名ごとに内訳が違うため、同じ金額でも意味が異なります。 |
| 宥恕 | 被害者が加害者を許す意思を表明することです。示談書に記載されることがあります。 | 量刑上考慮され得ますが、不起訴や刑の軽減を保証するものではありません。 |
財産犯の示談金は「被害額に一定の上乗せ」という形になりやすい一方、傷害や性犯罪の示談金は「実損害に精神的苦痛への評価が厚く加わる」形になりやすいです。宥恕条項がある場合でも、事件の悪質性、常習性、重大性、社会的影響によって刑事手続上の評価は変わります。
示談は民事上の合意ですが、刑事手続でどの場面に影響し得るかを押さえる必要があります。
被害者がいる事件では、示談成立や被害弁償が検察官の処分判断に影響することがあります。ただし、悪質性が高い事件、常習性がある事件、被害が重大な事件、社会的影響の大きい事件では、示談成立後でも起訴されることがあります。
次の判断の流れは、示談が刑事手続で考慮され得る主な場面を順番に示しています。読者にとって重要なのは、示談が一つの有利事情になり得ても、どの段階でも結果を保証するものではないと読み取ることです。
被害弁償、慰謝料、謝罪、再発防止策などが整理されます。
被害の軽重、被害感情、弁償、示談の有無が考慮され得ます。
示談成立後でも、悪質性や社会的影響により手続が進むことがあります。
損害賠償、示談、宥恕が刑を軽くする方向の事情として扱われ得ます。
財産犯では実損害の回復との結び付きが強い一方、性犯罪や生命身体犯では、金銭賠償だけでは法益侵害そのものは回復しないため、示談の意味付けが異なります。また、被告人と被害者が示談できた場合、共同申立てにより刑事裁判の公判調書に内容を記載できる制度や、殺人、傷害など一定事件で損害賠償命令制度を利用できる場面もあります。
罪名の重さだけではなく、損害の性質と条件設計の違いが金額差を生みます。
示談金のレンジが罪名ごとに違って見えるのは、単に「罪が重いほど高い」からではありません。次の4つの要素を分けて見ると、どの点が金額を押し上げるのかが分かります。
財産犯は被害額が数字で出やすく、傷害は治療費や休業損害が増え、性犯罪は精神的損害の比重が大きくなります。
盗品返還で相当部分が回復する事件もあれば、性被害や名誉侵害のように金銭で元に戻せない事件もあります。
同じ10万円の被害でも、偶発的な万引きと執拗な痴漢や盗撮では、心理的評価がまったく異なります。
性犯罪や名誉毀損では、接触禁止、秘密保持、投稿削除、画像消去、再発防止、謝罪方法が重要になります。
この構造を踏まえると、罪名別の相場とは、実際には「被害類型別の算定構造の違い」を数値化したものだと分かります。金額だけでなく、示談書に何を入れるか、被害者側が何を重視しているかも、交渉の中心になります。
2025年から2026年時点の公表実務解説を踏まえた一般的な目安です。
次の比較表は、罪名・類型ごとの目安レンジ、金額算定の中心、注意すべき変動要因を横に並べたものです。読者にとって重要なのは、右端の留意点を見て、同じ罪名でも被害結果、悪質性、人数、時期、代理人の有無で大きく変わると読むことです。
| 罪名・類型 | 実務上の目安 | 金額算定の中心 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 暴行 | 10万〜30万円程度 | 慰謝料中心 | 傷害結果がないため、精神的苦痛の評価が中心になります。 |
| 傷害 | 軽傷で20万〜40万円前後、中程度で50万〜100万円前後、重傷は100万円超も | 治療費、通院、休業損害、慰謝料 | 全治期間、入院、後遺障害で大きく増減します。 |
| 脅迫 | 10万〜30万円程度、事案により10万〜50万円程度 | 精神的苦痛への慰謝料 | 反復性、具体性、畏怖の程度で増額しやすいです。 |
| 窃盗・万引き | 被害額+数万円〜50万円程度 | 被害品の返還・弁償+慰謝料・迷惑料 | 少額万引きは商品代+数万円〜30万円程度に収まる例もあります。 |
| 詐欺 | 被害額+10万〜50万円程度が一応の目安 | 被害金全額弁償+慰謝料 | 被害額が大きい、被害者多数、悪質な勧誘なら高額化しやすいです。 |
| 横領・業務上横領 | 被害額+20万円前後を一応の出発点 | 被害金返還+慰謝料 | 業務上横領は信頼侵害が重く、勤務先被害では厳しくなりやすいです。 |
| 恐喝 | 被害額+20万円前後を一応の目安 | 被害金弁償+慰謝料 | 暴行や脅迫を伴うため、恐怖感の強さで上振れしやすいです。 |
| 器物損壊 | 修理費または時価+数万円〜10万円程度、平均20万円前後の解説も | 修理費、買替費、迷惑料 | 営業損害や思い入れの強い物では増額することがあります。 |
| 痴漢 | 10万〜50万円程度、20万〜40万円が多いとされます | 慰謝料中心 | 接触の程度、反復性、被害者の年齢で増減します。 |
| 盗撮 | 30万〜50万円程度が一つの目安 | 慰謝料中心 | 未遂・既遂、撮影内容、保存・拡散の有無で大きく変動します。 |
| 不同意わいせつ | 50万〜100万円程度、悪質事案では100万〜200万円以上も | 慰謝料中心 | 行為態様、暴行脅迫性、年齢、継続性、PTSD等で増額します。 |
| 不同意性交等 | 100万〜300万円程度が目安 | 慰謝料中心+付随損害 | 重大な人格侵害として高額化しやすい類型です。 |
| 名誉毀損・侮辱 | 10万〜100万円程度を目安に語られることが多い | 精神的苦痛、信用回復費用、拡散防止対応 | ネット投稿は拡散範囲、削除・開示費用、検索残存性で振れ幅が大きいです。 |
同じ金額でも、財産回復なのか、治療費なのか、人格権侵害への評価なのかで意味が異なります。
次の一覧は、罪名を被害類型で分け、どの損害が中心になるかを整理したものです。読者にとって重要なのは、金額の高低だけでなく、回復すべき被害の中身と非金銭条件の重さを読み取ることです。
窃盗、詐欺、横領、恐喝では、被害額の回復が出発点です。迷惑料や信頼侵害への評価も問題になります。
修理費または時価が中心ですが、営業損害、代替取得費用、データ喪失が加わることがあります。
脅迫は恐怖や不安、恐喝は財産移転と恐怖感の両方が金額に影響します。
羞恥心、恐怖、自己決定権侵害、プライバシー侵害が重く評価されやすく、金銭で回復しにくい類型です。
暴行は、殴る、押す、物を投げ付けるなどの暴行があっても、傷害結果が立証できない場合を含みます。そのため、基本的には慰謝料中心で、10万〜30万円程度が目安とされる実務解説が多いです。
これに対し、傷害では治療費、通院交通費、休業損害、後遺障害、入院雑費など、客観損害が乗ってきます。軽傷なら20万〜40万円程度にとどまる場合があっても、全治1か月前後なら50万〜100万円程度、入院や後遺障害があればさらに大きくなります。傷害の示談金は暴行の延長線ではなく、民事損害賠償の構造が入るため急に跳ね上がることがあります。
窃盗、詐欺、横領、恐喝は、いずれも財産的損害が核心にあるため、示談金は被害額の弁償が大前提です。その上で、迷惑料や慰謝料が上乗せされます。少額で偶発的な事案なら被害額相当や少額の上乗せでまとまることもありますが、通常は捜査対応や再発不安、信頼侵害への配慮として、被害額+数万円〜数十万円という構造になりやすいです。
詐欺や業務上横領は、単なる金銭喪失以上に、信頼を利用して奪ったという要素が強いため、同額の単純窃盗よりも被害者の感情が厳しくなりやすい点に注意が必要です。
器物損壊は、基本的には修理費または時価相当額に、数万円程度の迷惑料が上乗せされることが多いとされています。平均20万円前後とする解説もありますが、物の価値や損壊態様による振れ幅が大きいです。
壊された物が営業用機材、スマートフォン、パソコン、自動車などであれば、単なる物の価格だけでなく、営業損害、代替取得費用、データ喪失、移動制約などが問題になり得ます。
脅迫では、暴行や財産被害が目に見えない場合でも、被害者の恐怖や不安自体が損害として評価されます。内容が具体的、執拗、反復的である場合や、家族、勤務先、SNS拡散などに言及した場合は上振れしやすいです。
恐喝は、脅迫に財産移転が伴うため、被害額弁償に加え、恐怖感への慰謝料が付く構造になります。単純な窃盗より重くなりやすく、悪質性が強いと目安を超えることがあります。
2023年7月13日施行の法改正により、強制わいせつは不同意わいせつ、強制性交等は不同意性交等に改められ、同日に性的姿態撮影等処罰法も施行されました。2025年6月1日からは刑名も拘禁刑に一本化されています。
性犯罪の示談金は、どの罪名かだけでなく、身体接触の程度、撮影か接触か、侵入の深さ、画像の保存・提供・拡散の有無で大きく分かれます。
名誉毀損や侮辱は、身体的被害も財産的被害も見えにくいため、相場が掴みにくい類型です。一般に10万〜100万円程度の範囲で語られることが多く、ネット投稿のように拡散性が高い事案では増額しやすいとされています。
この類型では、削除対応、発信者情報開示、検索結果対策、謝罪文、再投稿禁止、第三者への説明など、信用回復措置そのものが示談条件に入りやすいです。名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪として扱われるため、告訴の有無、維持、取下げをどう扱うかも中核になります。
同じ罪名でも、被害結果、属性、悪質性、人数、時期、接触リスクで2倍、3倍と変わることがあります。
次の一覧は、同じ罪名でも金額が大きく動く典型事情を整理したものです。読者にとって重要なのは、表の目安を固定額として読むのではなく、どの事情があれば上振れしやすいかを確認することです。
傷害なら全治日数、入院、後遺障害。性犯罪なら身体侵襲や継続的通院。財産犯なら被害額。名誉毀損なら拡散範囲と検索残存性が重要です。
未成年者、高齢者、障害のある人、学校や職場の上下関係がある相手では、被害感情や社会的影響が重く評価されやすいです。
1回限りか、執拗か、計画的か、証拠隠滅や口止めがあったかは、罪名を問わず大きな要素です。
示談金は通常、被害者ごとに考えるのが原則です。被害者が複数なら、その合計額は大きくなります。
早期の謝罪・弁償は条件調整につながることがあります。事件化が進み、診断書や意見書の整理が進んだ後では条件が厳しくなりやすいです。
性犯罪、DV、ストーカー、名誉毀損では、本人からの直接連絡自体が二次被害や威迫と受け取られることがあります。
特に直接接触の危険がある類型では、金額の問題より先に、連絡方法や代理人を通じた調整が重要になります。被害者がいる事件では、自分一人で示談交渉を進めることが困難な場合が少なくありません。
相場論だけでは不十分です。支払方法、清算、接触禁止、告訴、履行確保まで確認する必要があります。
次の比較表は、金額算定がしやすい類型と、金額以外の条件面が難しい類型を分けたものです。読者にとって重要なのは、財産的な計算ができる事件でも示談条件が不要になるわけではなく、性犯罪や名誉侵害では非金銭条件が交渉の中心になりやすいと読むことです。
| 類型 | 代表例 | 交渉で問題になりやすい点 |
|---|---|---|
| 比較的、金額算定がしやすい類型 | 窃盗、詐欺、横領、器物損壊、軽微な傷害 | 実損額を起点にしやすい一方、迷惑料、支払時期、清算範囲の確認が必要です。 |
| 金額より条件面が難しい類型 | 性犯罪、名誉毀損・侮辱、脅迫・恐喝、交際関係や職場関係を背景にする事件 | 接触禁止、謝罪方法、データ消去、告訴対応、秘密保持、再発防止策が重要です。 |
次の一覧は、罪名を問わず示談書で確認すべき条項を順番に示しています。読者にとって重要なのは、金額の合意だけでは紛争が終わらない場合があり、支払後の接触、秘密保持、告訴、履行確保まで読む必要がある点です。
治療費なのか、慰謝料なのか、包括一括なのかを確認します。
金額一括か分割か、遅延時にどう扱うかを明確にします。
履行事件に関して、当事者間に他に債権債務がないことを確認するかが問題になります。
注意性犯罪や人間関係事件では、二次被害防止の観点から特に重要です。
重要名誉毀損、職場事件、性犯罪では、情報の扱いが問題になりやすいです。
条件親告罪では特に重く、非親告罪でも厳罰を求めない旨の条項が交渉対象になることがあります。
刑事手続公判調書記載制度や、一定事件における損害賠償命令制度も視野に入ります。
制度示談拒否、企業方針、贖罪寄付、よくある誤解、専門家相談が必要な場面を整理します。
次の時系列は、示談が成立しない、または金額だけでは整理できない場合の考え方を示しています。読者にとって重要なのは、示談は合意契約であり、拒否されたときに無理な接触を重ねるのではなく、別の情状資料や制度を検討する場面があると読み取ることです。
示談は合意契約なので、被害者が拒否すれば成立しません。性犯罪、ストーカー、執拗な脅迫では、申出自体を受けてもらえないこともあります。
被害者がいない事件や、被害者との示談ができない事件では、日弁連・弁護士会の贖罪寄付が反省を示す一方法として案内されています。ただし、示談の代替物ではありません。
相場論だけで判断しない方がよい場面には、被害者が未成年である、診断書・後遺障害・長期通院がある、盗撮画像やSNS投稿などデータ削除・拡散防止が争点になる、会社や学校など組織が相手方である、複数被害者がいる、逮捕・勾留中で連絡が取れない、親告罪で告訴の維持・取下げが重大論点である、示談拒否が強く別の情状資料を考える必要がある、といった場合があります。個別の見通しや対応方針は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
相場は出発点であり、最終的な金額と条件は事件ごとの事情で決まります。
被害者との示談金の相場は罪名によって違いますが、最も実務的で正確な理解は、次のように整理できます。
公的資料と、罪名別の実務解説を照合して一般情報として整理しています。