正当なストライキなら、会社に損害が出ても労働組合や組合員は原則として賠償責任を負いません。民事免責の理由、違法ストライキの境界、損害の範囲を整理します。
正当なストライキなら、会社に損害が出ても労働組合や組合員は原則として賠償責任を負いません。
正当な争議行為なら、会社の損害について労働組合や組合員は原則として賠償責任を負いません。
次の一覧は、賠償責任を三つの層で整理したものです。読者にとって重要なのは、正当な労務不提供、正当性を欠く争議行為、別個の違法行為を読み分けることです。
会社損害について原則として賠償責任を負いません。
手続や態様に重大な問題があれば責任が問題になります。
暴力、破壊、占拠などは別に責任が問題になり得ます。
「ストライキで会社に損害が出た場合に賠償責任を負うか」という問いへの基本的な答えは、次のとおりです。
正当な争議行為としてのストライキであれば、会社に売上減少、営業停止、代替要員費用、顧客対応費用などの損害が発生しても、使用者は労働組合や組合員に対して、その損害の賠償を請求できません。 これは、労働組合法8条が「正当な争議行為」による損害について、使用者から労働組合または組合員への損害賠償請求を否定しているためです。
ただし、この結論には重要な限定があります。保護されるのは、あくまで「正当な」争議行為です。ストライキという名称が付いていれば常に免責されるわけではありません。主体、目的、手続、態様、予告、労働協約、安全配慮、暴力・威迫・施設占拠の有無などを総合して、正当性を欠くと判断される場合には、労働組合や関与者が損害賠償責任を負う可能性があります。
したがって、実務上の整理は次の三層で考えるのが正確です。
会社の損害について、労働組合・組合員は原則として賠償責任を負わない。
不法行為、債務不履行、労働協約違反などの構成により、損害賠償責任が問題となる。
暴力、器物損壊、違法な占拠、脅迫、業務妨害、安全設備の停止・妨害などは、ストライキ参加中であっても免責されない可能性が高い。
この違いを理解しないと、「ストライキは権利だから何をしてもよい」または「会社に損害が出たら必ず賠償しなければならない」という、どちらも不正確な理解に陥ります。労働法の核心は、労働者の団体行動権と、使用者の営業・施設管理・安全確保・第三者対応の利益を、どの範囲で調整するかにあります。
会社損害、損害賠償責任、ノーワーク・ノーペイはそれぞれ別の論点です。
ストライキとは、一般に、労働者が労働条件の維持・改善などを求めて、集団的に労務提供を拒否する行為をいいます。法律用語では「同盟罷業」と呼ばれ、争議行為の典型例です。
労働関係調整法7条は、争議行為を、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他、労働関係の当事者が主張を貫徹する目的で行う行為またはこれに対抗する行為で、業務の正常な運営を阻害するものと定義しています。
ここで重要なのは、争議行為は、会社の業務に影響を与えること自体を予定した制度であるという点です。ストライキは、使用者に一定の経済的圧力を与えることで、団体交渉を実効化するための手段です。そのため、会社に損害が出ることだけを理由に、直ちに違法とはいえません。
ストライキで会社に生じ得る損害には、例えば次のようなものがあります。
ただし、法的な損害賠償の場面では、「損害が発生したら何でも請求できる」というわけではありません。損害賠償を請求する側は、違法性、故意・過失、損害の発生、因果関係、損害額の立証などを求められます。さらに、正当な争議行為であれば、労働組合法8条によって、使用者から労働組合・組合員への賠償請求は遮断されます。
ストライキ中の法律関係でよく混同されるのが、損害賠償責任と賃金の問題です。
正当なストライキであれば、労働組合や組合員は会社の損害について賠償責任を負いません。しかし、ストライキに参加して現実に労務を提供しなかった労働者については、通常、その不就労部分の賃金請求権は発生しません。これは「ノーワーク・ノーペイ」の問題であり、損害賠償責任とは別です。公的な労働相談資料でも、争議行為に参加して現実に就労しなかった組合員については、その不就労部分の賃金は生じないと整理されています。
つまり、会社は「働いていない時間の賃金を払わない」ことはあり得ますが、それは「ストライキによる会社損害を労働者に賠償させる」こととは異なります。この区別は実務上きわめて重要です。
憲法28条、労働組合法8条、刑事免責の考え方から民事免責を整理します。
日本国憲法28条は、勤労者の団結権、団体交渉権、団体行動権を保障しています。 団体行動権の中核にあるのが、争議権、すなわちストライキを含む集団的な圧力行使です。
個々の労働者は、使用者との交渉力において構造的に弱い立場に置かれやすいとされます。そこで、労働者が団結し、集団として交渉し、必要な場合には労務提供を拒否することで、労使の実質的な対等性を確保しようとするのが、労働三権の制度的趣旨です。
労働組合法8条は、使用者が、正当な同盟罷業その他の争議行為によって損害を受けたことを理由として、労働組合または組合員に賠償を請求することができないと定めています。
この規定は、単なる手続規定ではありません。ストライキは、形式的に見れば、労働者が労働契約上の労務提供を行わない行為です。通常の契約関係であれば、債務不履行や不法行為の問題が生じ得ます。しかし、憲法28条が団体行動権を保障している以上、正当な争議行為についてまで通常の債務不履行責任や不法行為責任を問うと、争議権は実質的に機能しなくなります。
そのため、労働組合法8条は、正当な争議行為について、使用者からの民事上の損害賠償請求を排除しています。これが「民事免責」です。
労働組合法1条2項は、労働組合の団体交渉その他の行為で、同法の目的を達成するためにした正当なものについて、刑法35条の正当行為として扱われることを定めています。ただし、同条は、いかなる場合でも暴力の行使は労働組合の正当な行為と解釈されないと明記しています。
民事免責と刑事免責は別の制度ですが、発想は共通しています。正当な争議行為は、使用者に経済的損害を与え得る行為であっても、労働基本権の行使として法的保護を受ける。他方で、暴力や不当な業務妨害など、正当性を逸脱する行為は保護されない。この線引きが、ストライキ法理の中心です。
主体、目的、手続、態様を総合して、正当な争議行為かを見ます。
次の判断の流れは、確認事項の順番を表しています。上から下へ、最初の前提、目的や手続、最後の分岐を読み取ることが重要です。
根拠資料と事実関係を確認します。
記録、通告、平穏性、安全配慮を確認します。
懲戒、解雇、賠償責任が争点になります。
不利益取扱いや民事免責を確認します。
ストライキの賠償責任を考えるうえで、最も重要なのは「正当性」です。正当性は、単一の要素ではなく、一般に次の4つの観点から総合的に判断されます。公的資料でも、争議行為の正当性は、主体、目的、開始時期・手続、態様の4側面から検討する必要があると整理されています。
まず、争議行為の主体が問題になります。典型的には、労働組合が、組合としての意思決定に基づいてストライキを行う場合です。
問題となりやすいのは、次のような場合です。
労働組合法5条2項8号は、同盟罷業の開始には組合員または代議員の直接無記名投票による過半数決定を要する旨を、組合規約に定めるべき事項として掲げています。 実際のストライキが規約・機関決定・投票手続を踏んでいるかは、正当性判断の重要な資料になります。
正当なストライキの目的は、基本的に、労働条件その他労働者の経済的地位に関する事項、または労使関係上、使用者が処理し得る事項である必要があります。
典型的に正当性が認められやすい目的は、次のようなものです。
一方で、正当性が問題になりやすい目的には、次のようなものがあります。
もっとも、現実のストライキ目的は単純ではありません。賃上げ要求と人員配置、安全問題、組合活動妨害への抗議、労働委員会命令の履行要求などが混在することがあります。その場合には、目的全体の主たる性質、労働条件との関連性、使用者が交渉・対応し得る事項かどうかが検討されます。
手続面では、次の点が問題になります。
一般の民間企業において、法律上すべてのストライキに事前予告義務があるわけではありません。予告なしのストライキが直ちに違法となるわけでもありません。しかし、労働協約で予告手続が定められている場合、公益事業で法定予告が必要な場合、または事業の性質・安全性・公共性・従前の労使慣行から一定の予告が信義則上求められる場合には、手続違反が正当性を否定する方向に働きます。
公益事業については、労働関係調整法37条により、争議行為をしようとする日の少なくとも10日前までに、労働委員会および厚生労働大臣または都道府県知事に通知する必要があります。厚生労働省・中央労働委員会の案内でも、運輸、郵便・信書便・電気通信、水道・電気・ガス、医療・公衆衛生などの公益事業では、少なくとも10日前までの通知が必要であると説明されています。
正当なストライキの中心は、労務提供の拒否です。これに対して、次のような態様は正当性を失わせる可能性があります。
労働関係調整法36条は、工場事業場における安全保持施設の正常な維持・運行を停廃し、または妨げる行為は、争議行為としてでもできないと定めています。 また、労働組合法1条2項ただし書は、暴力の行使は正当な行為と解釈されないとしています。
平和的な説得、ビラ配布、示威、団結の表明は、正当な組合活動・争議行為として評価され得ます。しかし、相手の自由意思を奪う実力行使や、使用者の操業活動を物理的に封じる行為は、正当性を大きく損ないます。
違法な争議行為、不法行為、債務不履行、個人責任と組合責任を分けます。
会社が労働組合または組合員に対して損害賠償を請求し得るのは、典型的には、ストライキが正当性を欠き、民事免責の保護を受けられない場合です。
違法性が問題となる典型例は次のとおりです。
もっとも、違法性の判断は個別具体的です。単に「会社が損をした」「顧客が迷惑した」「従業員が働かなかった」というだけでは、損害賠償請求は成立しません。
民法709条は、故意または過失により他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者が、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。
ストライキが正当性を欠く場合、会社は不法行為に基づく損害賠償請求を検討することがあります。この場合、会社側は、違法な行為、故意・過失、損害、相当因果関係、損害額を具体的に立証しなければなりません。
違法なストライキで会社の損害賠償請求が認められた裁判例として、鉄道会社に対するストライキ前倒し実施が争われた事件があります。東京高裁は、当初通告した開始時刻を突如繰り上げ、わずか5分前に正式通告した後に実施された前倒しストライキについて、重大な混乱が生じることを予測していたとし、手続・手段・態様において正当性を欠くと判断しました。そのうえで、違法な争議行為として損害賠償義務を認めました。
この裁判例は、「ストライキで損害が出たら賠償」ではなく、「正当性を欠く争議行為であり、損害との因果関係が立証された場合には賠償があり得る」という点を示しています。
労働者個人との関係では、労働契約上、労働者には労務提供義務があります。民法415条は、債務者が債務の本旨に従った履行をしない場合などに、債権者が損害賠償を請求できる旨を定めています。
しかし、正当なストライキについては、労働組合法8条の民事免責により、使用者は組合員に対して損害賠償を請求できません。したがって、「労働契約上の義務に違反して休んだのだから賠償せよ」という単純な構成は、正当な争議行為には通りません。
一方で、労働協約上の平和条項、争議予告条項、争議手続条項に違反した場合には、労働組合の債務不履行責任が問題となることがあります。ただし、労働協約違反があるからといって、直ちにストライキ全体の正当性が否定されるとは限らず、違反の性質、重大性、損害との関係が検討されます。
ストライキに関する損害賠償では、誰に責任を問うのかを分けて考える必要があります。
組合として違法な争議行為を決定・指令・実施した場合、組合自体の責任が問題となる。
違法行為を企画・指揮した役員について、個人責任が問題となる場合がある。
単に正当なストライキに参加しただけでは責任を負わない。もっとも、暴力、器物損壊、脅迫、違法な占拠など、個別の違法行為を行った場合には個人責任が問題となる。
外部支援者が違法な妨害行為をした場合、その者自身の不法行為責任が問題となる。
実務では、組合の組織的判断と、個々の参加者の行為を丁寧に分ける必要があります。会社側が一律に全組合員へ賠償請求するような対応は、かえって不当労働行為や報復的対応と評価されるリスクを高めます。
直接損害、間接損害、損害軽減、正当部分と違法部分の切り分けを整理します。
違法なストライキで損害賠償請求が可能となる場合でも、会社が主張するすべての損害が認められるわけではありません。必要なのは、違法行為と相当因果関係のある損害です。
認められやすい可能性がある損害は、例えば次のようなものです。
一方で、認められにくい、または立証が難しい損害には次のようなものがあります。
東京高裁の前倒しストライキ事件でも、損害額について、対策員人件費、代替輸送費、払戻費などが検討されましたが、会社側の一部人件費については証拠不足が問題となり、最終的に損害額が整理され、さらに過失相殺が行われました。
違法な争議行為があったとしても、会社側の対応が損害拡大に寄与した場合には、過失相殺が問題となります。民法722条2項は、不法行為による損害賠償額を定める際、被害者側の過失を考慮できるとしています。
前倒しストライキ事件の東京高裁判決でも、会社側が前倒しの可能性をまったく予測できなかったとは言い難い事情があるとして、損害について3割の過失相殺が認められました。
これは、使用者側にも、争議行為が予想される局面では、顧客・安全・代替体制・労使交渉の観点から合理的な対応策を検討すべき義務があることを示唆しています。会社が「組合が悪い」として何も準備せず、損害が拡大した場合、その全額を組合に転嫁できるとは限りません。
正当なストライキであっても、会社には損害が出ます。違法な要素が一部にある場合、どこまでが正当なストライキによる通常損害で、どこからが違法部分による損害かを分ける必要があります。
例えば、ストライキ自体は予告どおり合法的に開始されたが、一部の参加者が施設を損壊した場合、会社は施設損壊による損害を請求できる可能性があります。しかし、合法的な労務不提供により生じた売上減少まで当然に請求できるわけではありません。
逆に、ストライキ全体が手続・手段・態様において正当性を欠くと評価される場合には、その違法ストライキ全体から生じた損害が問題となります。この区別は、損害額に大きく影響します。
感情的な対抗ではなく、事実の固定、慎重な広報、専門家相談が中心になります。
正当なストライキに対して、会社は損害賠償請求や懲戒で対抗することはできませんが、すべての対応が禁止されるわけではありません。会社として可能な対応には、次のようなものがあります。
会社の対応は、労働基本権の尊重と、顧客・安全・事業継続の保護を両立させるものである必要があります。
正当なストライキに対して、会社が行うと違法となり得る対応には、次のようなものがあります。
労働組合法7条は、使用者による不当労働行為を禁止しています。厚生労働省・中央労働委員会の資料でも、不当労働行為救済制度は、不利益取扱い、正当な理由のない団体交渉拒否、支配介入などを対象とする制度として説明されています。
会社がストライキ対応を誤ると、損害賠償請求どころか、労働委員会で不当労働行為救済申立てを受ける可能性があります。特に、ストライキ直後の懲戒、報復的人事、個別切り崩しは、慎重な法的検討が必要です。
ストライキにより会社に損害が出ると、経営側には強い不満が生じます。しかし、法的に重要なのは、怒りではなく証拠です。違法性を主張する場合、会社は、後日の裁判・労働委員会・交渉に備えて、客観資料を整える必要があります。
保全すべき資料には、次のようなものがあります。
ただし、撮影・録音・監視は、プライバシー、個人情報保護、労使関係上の相当性を踏まえて行う必要があります。証拠保全を名目とする過剰監視は、支配介入や不当労働行為と評価されるリスクがあります。
会社が顧客・取引先・従業員に向けて発信する場合、内容は事実ベースに限定するべきです。例えば、ストライキを一方的に「違法」「反社会的」「営業妨害」と断定する表現は、名誉毀損、不当労働行為、労使関係悪化のリスクを伴います。
広報上は、次のような構成が望ましい場合があります。
「違法ストライキ」と断定する前に、法的評価と事実の裏付けを確認する必要があります。
次のような場合は、早期に労働法、とくに集団的労使関係に詳しい弁護士へ相談する必要性が高いといえます。
弁護士に相談する際は、「ストライキを止めたい」「賠償させたい」という結論だけを持ち込むのではなく、事実経過、交渉経緯、労働協約、損害資料、会社側対応を時系列で整理して持参することが重要です。
正当性を維持し、過激な付随行為と個人責任を避けることが重要です。
労働組合側にとっても、ストライキの正当性を守ることは極めて重要です。正当性を維持できれば、会社損害についての民事免責、刑事免責、不利益取扱いからの保護が期待できます。逆に、正当性を失えば、損害賠償、懲戒、刑事事件、社会的信用低下のリスクが生じます。
組合側が確認すべき事項は次のとおりです。
ストライキ自体が正当でも、付随行為が違法であれば、その部分について責任を問われる可能性があります。
例えば、労務提供を拒否すること自体は正当でも、会社の入口を物理的に封鎖したり、代替要員を取り囲んで威迫したり、設備を操作不能にしたり、会社所有物を破損したりすれば、ストライキの保護範囲を超える可能性があります。
組合は、争議参加者に対し、現場での行動ルールを明確に伝えるべきです。特に、怒号、撮影、追跡、SNS投稿、顧客対応、施設立入り、車両・商品への接触は、後日争点化しやすい領域です。
労働者個人は、正当なストライキに参加するだけで会社損害を賠償する責任を負うものではありません。しかし、次のような個別行為については、個人責任が問題となる可能性があります。
したがって、労働者個人にとっても、ストライキの正当性と現場行動の相当性を理解することは重要です。
10日前通知、安全保持施設、公務員、顧客・取引先との関係を確認します。
運輸、郵便・信書便・電気通信、水道・電気・ガス、医療・公衆衛生など、公衆の日常生活に欠くことのできない公益事業では、争議行為をしようとする日の少なくとも10日前までに通知する必要があります。
この制度は、公益事業のストライキを全面的に禁止するものではありません。しかし、法定予告を怠った場合には、正当性判断や罰則の問題が生じ得ます。公益事業では、会社損害だけでなく、利用者、患者、住民、社会インフラへの影響が大きいため、手続面の慎重さが強く求められます。
労働関係調整法36条は、安全保持施設の正常な維持・運行を停廃し、または妨げる行為を、争議行為としてでも行うことはできないと定めています。
これは、労働基本権の保障があっても、人命・身体・重大な安全を危険にさらす行為は保護されないという考え方です。工場、交通、医療、インフラ、化学設備、電力、ガス、情報通信などでは、ストライキ計画時に安全維持体制を設計する必要があります。
国家公務員・地方公務員については、民間労働者とは異なる争議行為制限があります。国家公務員法98条2項、地方公務員法37条1項などにより、争議行為は禁止されています。
したがって、公務員のストライキについては、民間企業における労働組合法8条の民事免責の議論とは別に、特別法上の禁止・懲戒・刑事罰の問題を検討する必要があります。
ストライキにより、顧客や取引先に納期遅延、サービス停止、輸送不能などの損害が生じることがあります。この場合、顧客・取引先は、会社との契約に基づいて会社に請求する可能性があります。
会社が顧客に責任を負うかは、契約条項、不可抗力条項、免責条項、納期条項、代替履行可能性、事前通知、損害軽減措置などによって判断されます。ストライキが社内労使紛争である場合、契約上当然に不可抗力となるとは限りません。契約実務では、ストライキ、ロックアウト、労働争議を不可抗力に含めるかどうかを明示することがあります。
会社が顧客・取引先に賠償した場合、それを労働組合や組合員に求償できるかは、ストライキの正当性に左右されます。
正当な争議行為であれば、会社が外部対応費用を負担したとしても、それを労働組合や組合員に転嫁することは困難です。労働組合法8条の趣旨からすれば、正当なストライキに伴う会社側の経済的不利益を組合側に賠償させることは、争議権を空洞化させるためです。
一方、違法な争議行為や、ストライキと別個の違法行為によって顧客対応費用が発生した場合には、相当因果関係の範囲で求償・損害賠償が検討される可能性があります。
労働組合法8条は、条文上、使用者から労働組合・組合員への賠償請求を制限する規定です。第三者が直接請求する場合には、別途、民法上の不法行為責任、正当行為性、違法性阻却、因果関係などが問題になります。
第三者との関係では、会社との契約関係、組合行為の態様、第三者への直接侵害の有無が重要です。例えば、平和的な労務不提供によって会社のサービスが止まっただけの場合と、第三者の身体・財産を直接侵害した場合では、法的評価は大きく異なります。
前倒しストライキ事件の教訓と、相談前に整理すべき資料を確認します。
前述の鉄道会社に関する前倒しストライキ事件では、労働組合が、当初3月19日午前0時から予定していたストライキを、3月18日正午から前倒し実施しました。原審の千葉地裁は、前倒し実施に違法性があるとし、損害賠償を認めました。
東京高裁も、公益事業である旅客鉄道において、当初通告した開始時刻を突如繰り上げれば、代替乗務員確保が困難となり、業務遂行に重大な混乱をもたらし、ストライキを予測できなかった乗客にも不利益を与えることを組合が認識していたと評価しました。その結果、手続・手段・態様において正当性を欠き、違法な争議行為であるとして、損害賠償義務を認めました。
ただし、東京高裁は、会社側にも前倒しの可能性を予測し、影響を最小限にする対応策を検討する余地があったなどとして、3割の過失相殺を認めています。
この裁判例から読み取れるポイントは、次のとおりです。
使用者には、会社施設を管理する権限があります。労働組合が会社施設内で活動する場合、掲示板、組合事務所、集会、ビラ配布、入構などについて、労使慣行・労働協約・施設管理権との関係が問題になります。
裁判例では、使用者の所有・管理する物的施設を、許諾なく利用して組合活動または争議行為を行うことは、使用者の権利濫用と認められる特段の事情がない限り、施設管理権を侵害し、企業秩序を乱すものとして正当な組合活動に当たらないと判断されることがあります。前倒しストライキ事件の原審でも、この考え方が引用されています。
ただし、会社が施設管理権を名目に、組合活動を不当に妨害することは許されません。施設管理権の行使が不当労働行為に当たるかどうかは、目的、必要性、過去の慣行、代替手段、差別的取扱いの有無などを総合して判断されます。
ストライキでは、ピケッティング、説得活動、ビラ配布、街宣が行われることがあります。これらは、平和的・相当な範囲であれば、争議行為または組合活動として保護され得ます。
しかし、次のような行為は、平和的説得の範囲を超え、違法な妨害と評価される可能性があります。
裁判では、単なる掛け声や抗議ではなく、相手の自由意思や会社の操業活動をどの程度実力で制約したかが重視されます。
ストライキをめぐる損害賠償の相談では、「違法かどうか」より先に、事実関係と証拠を整理することが重要です。法律相談では、抽象的な不安よりも、いつ、誰が、何を、どの根拠で、どのように行い、その結果どの損害が発生したのかが検討対象になります。
会社側は、少なくとも次の資料を準備すると、弁護士相談の精度が上がります。業種・事業の公益性、労働組合の構成、労働協約・争議協定・平和条項の有無、要求書・回答書・団体交渉記録、ストライキ通告、公益事業の10日前通知の要否、組合規約・投票・機関決定に関する情報、現場での行為態様、損害額を示す請求書・領収書・勤務記録・払戻記録、会社側の損害軽減措置、不当労働行為と評価され得る対応の有無です。
労働者・組合側は、要求事項が労働条件や労使関係上の事項に関連すること、団体交渉の経過、組合規約上の手続、投票・決議資料、通告書、現場行動ルール、参加者への指示、会社からの警告・懲戒・賠償請求、会社側の不当労働行為と考えられる事情を整理します。
双方に共通して重要なのは、ストライキを「評価」する前に、証拠を散逸させないことです。議事録、メール、チャット、録音、写真、勤務記録、運行記録、顧客対応記録、広報文、社内通知は、紛争化した後に核心資料となります。ただし、証拠収集の過程で秘密情報、個人情報、プライバシー、社内規程、刑事法規に触れないよう注意が必要です。
「ストライキで会社に損害が出た場合に賠償責任を負うか」は、次の順序で検討すると整理しやすくなります。
労働関係の当事者が、主張を貫徹する目的で行い、業務の正常な運営を阻害する行為か。
労働組合または団体交渉主体が、規約・機関決定に基づいて行っているか。
労働条件、経済的地位、労使関係上の事項に関するものか。
団体交渉、投票、組合規約、労働協約、法定予告、信義則に反していないか。
労務不提供にとどまるか。暴力、脅迫、占拠、器物損壊、安全妨害がないか。
認められれば、労働組合法8条により会社損害の賠償請求は原則不可。
違法性、故意・過失、損害、因果関係、損害額の立証が必要。
会社側の対応、準備、交渉姿勢、損害拡大防止策を確認する。
会社の懲戒、賠償請求、個別面談、広報が組合活動妨害にならないか。
損害賠償、仮処分、労働委員会、公益事業、安全問題が絡む場合は、早期相談が望ましい。
ストライキは、会社に損害を与え得る行為です。しかし、その損害発生こそが、直ちに違法性や賠償責任を意味するわけではありません。憲法28条が労働三権を保障し、労働組合法8条が正当な争議行為について民事免責を定めているため、正当なストライキであれば、会社は労働組合や組合員に損害賠償を請求できません。
他方で、ストライキという名称を使えば何でも許されるわけでもありません。主体、目的、手続、態様のいずれかに重大な問題があり、正当性を欠く場合には、労働組合や関与者が損害賠償責任を負う可能性があります。特に、暴力、器物損壊、施設占拠、代替要員への威迫、安全保持施設の妨害、公益事業における突然の重大混乱などは、法的リスクが高い領域です。
会社側は、ストライキによる損害を感情的に組合へ転嫁するのではなく、正当性、違法性、損害、因果関係、証拠、不当労働行為リスクを慎重に検討する必要があります。労働組合側も、ストライキの正当性を維持するために、目的、手続、現場行動を丁寧に設計する必要があります。
最終的に、「ストライキで会社に損害が出た場合に賠償責任を負うか」は、単純な二択ではありません。正当な争議行為として保護されるか、保護範囲を逸脱した違法行為と評価されるかが、結論を分ける核心です。
賠償責任、賃金、予告、個人責任、第三者損害を一般情報として整理します。
一般的には、正当なストライキであれば、使用者はその損害を理由として労働組合や組合員に賠償請求できないとされています。ただし、主体、目的、手続、態様や個別行為によって結論は変わります。
一般的には、現実に労務を提供しなかった部分について賃金請求権は発生しないとされています。これは損害賠償ではなく、労務提供と賃金の対価関係の問題です。
一般的には、すべての民間企業のストライキに法定の事前予告義務があるわけではありません。ただし、労働協約、公益事業の通知、事業の安全性や公共性、従前の慣行によって正当性が問題になる可能性があります。
一般的には、違法なストライキであっても、会社は損害の発生、金額、違法行為との相当因果関係を立証する必要があります。また、会社側の対応が損害拡大に寄与した場合、過失相殺が問題になることがあります。
一般的には、正当なストライキに参加しただけの組合員に賠償請求することはできません。ただし、暴力、器物損壊、脅迫、違法な占拠などの個別行為がある場合、その行為について責任が問題になる可能性があります。
一般的には、正当なストライキによる会社業務の停止や遅延について、当然に組合が顧客損害を賠償するわけではありません。ただし、顧客の身体、財産、営業を直接侵害する違法行為がある場合は別に責任が問題になり得ます。