非上場会社の株式を 相続 する場合、会社所有不動産の含み損は評価方式によって反映のされ方が変わります。
非上場会社の株式を相続する場合、会社所有不動産の含み損は評価方式によって反映のされ方が変わります。純資産価額方式、類似業種比準方式、土地保有特定会社、遺産分割や遺留分との違いを整理します。
相続で「不動産を持っている会社の株式」を取得する場合、相続人が直面する問題は、単に土地や建物の価値を調べるだけでは終わりません。相続財産は不動産そのものではなく、会社の株式です。そのため、会社が保有する不動産に含み損があるときでも、その含み損が株式評価にそのまま反映されるとは限りません。
このページは、「含み損のある不動産を保有している場合の株式評価への影響」を、相続税評価、遺産分割、遺留分、会社財務、不動産鑑定、裁判実務の各観点から整理する専門記事です。読者として想定しているのは、相続に関連して非上場会社の株式、自社株、同族会社株式、会社所有不動産の価値に不安を抱える方です。
このページは一般的な解説であり、個別案件についての税務意見書、鑑定評価書、法律意見書ではありません。実際の申告、交渉、調停、審判、訴訟では、税理士、弁護士、公認会計士、不動産鑑定士、司法書士その他の専門家による個別検討が必要です。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
会社が含み損のある不動産を保有している場合、株式評価への影響は次の順序で考えます。
次の重要ポイント一覧は、このページで最初に押さえるべき判断順序をまとめたものです。読み進める前に全体像をつかむために重要です。上から順に、株式評価や信託設計で確認すべき優先順位を読み取ってください。
相続人が取得する財産が「不動産」なのか「株式」なのかを分ける。
対象株式が上場株式なのか、取引相場のない株式、つまり非上場株式なのかを分ける。
相続税評価なのか、遺産分割上の時価評価なのか、遺留分算定上の評価なのかを分ける。
相続税評価であれば、株主区分、会社規模、特定の評価会社該当性、評価方式を判定する。
純資産価額方式が使われる場面では、不動産を相続税評価額または一定の場合には通常の取引価額へ洗い替えるため、含み損が株式評価に比較的直接反映される。
類似業種比準方式が中心となる場面では、比準要素のうち純資産価額は帳簿価額ベースであり、含み損が会計帳簿に反映されていない限り、影響は限定的になりやすい。
土地保有特定会社など特定の評価会社に該当すると、原則として純資産価額方式による評価となり、不動産の評価が株式評価に与える影響は大きくなる。
「評価差額に対する法人税額等相当額」は、相続税評価額による純資産価額が帳簿価額による純資産価額を上回る場合の控除であり、含み損があるからといってマイナスの税効果を株価から追加控除できるわけではない。
令和8年4月1日以後に相続、遺贈、贈与により取得した取引相場のない株式等については、純資産価額方式の法人税率等相当割合が38パーセントへ改正されているため、適用時期を確認する必要がある。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
含み損とは、資産の帳簿価額が、その資産の現在価値または評価上の価額を上回っている状態をいいます。たとえば、会社が1億円で取得した土地の現在の通常取引価格が7,000万円である場合、経済的には3,000万円の含み損があると説明されます。
ただし、相続税評価で重要なのは、「経済的な市場価格との差額」だけではありません。財産評価基本通達に基づく相続税評価額、法人税法上の帳簿価額、会計上の帳簿価額、不動産鑑定評価額、実際の売却見込額は、それぞれ別の概念です。したがって、「含み損が3,000万円ある」という表現だけでは、株式評価が3,000万円下がるとはいえません。
相続財産として個人が土地建物を直接相続する場合、相続人は不動産そのものを取得します。この場合には土地家屋の評価、相続登記、遺産分割協議、売却可能性などが直接問題になります。
これに対し、被相続人が会社株式を所有しており、その会社が不動産を所有している場合、相続人が取得するのは原則として株式です。不動産の所有者は会社であり、相続人個人ではありません。この構造を見落とすと、次のような誤解が生じます。
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 誤解 | 正しい整理 |
|---|---|
| 会社の土地に含み損があるから、相続人は土地の損失を直接相続する | 相続人が取得するのは株式であり、土地は会社財産である |
| 会社所有不動産にも個人の小規模宅地等の特例を直接使える | 会社株式の評価であり、個人所有宅地の評価特例とは別問題である |
| 不動産鑑定評価額が低ければ株価も自動的に同額下がる | どの株式評価方式を使うかにより反映の仕方が変わる |
| 銀行融資の担保評価が低いから相続税評価も低い | 担保評価、時価、相続税評価額は目的が異なる |
相続における株式評価には、少なくとも三つの局面があります。
第一に、相続税申告のための評価です。これは相続税法上の課税価格を計算するための評価であり、国税庁の財産評価基本通達に基づく取引相場のない株式の評価が中心になります。
第二に、遺産分割のための評価です。相続人間で「その株式を誰が取得し、他の相続人にいくら代償金を払うか」を決める場面では、税務上の評価額がそのまま合意額になるとは限りません。会社の実態、売却可能性、支配権、将来収益、配当可能性、不動産の実勢価格などが争点になります。
第三に、遺留分侵害額請求や使い込み疑いを含む紛争のための評価です。この場合、裁判所が鑑定人や専門委員を活用することもあり、相続税評価額だけでなく、民事上の客観的価値が問題となります。
このページで中心に扱うのは相続税評価ですが、実務では税務評価と民事評価がずれることを前提に、弁護士、税理士、公認会計士、不動産鑑定士の役割分担を設計する必要があります。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
次の判断の流れは、取引相場のない株式の評価方式を確認する順番を表します。不動産評価へ入る前に評価方式を誤らないために重要です。上から順に、株主区分、会社規模、特定会社該当性を読み取ってください。
同族株主等か、それ以外の株主かを判定します。
大会社、中会社、小会社で評価方法が変わります。
土地保有特定会社などに該当するかを確認します。
純資産価額方式が中心なら含み損の影響が大きくなります。
相続税法は、相続、遺贈、贈与により取得した財産の価額について、特別の定めがある場合を除き、取得時の時価によるという考え方を採っています。実務上は、国税庁の財産評価基本通達により各種財産の評価方法が具体化されています。
株式については、上場株式であれば市場価格を基礎に評価できます。しかし、中小企業や同族会社の株式のように取引相場がない株式では、客観的な市場価格が存在しないため、株主区分、会社規模、財産構成、収益状況に応じた評価方法が用いられます。
国税庁のタックスアンサーは、取引相場のない株式について、取得者が同族株主等かそれ以外の株主かにより、原則的評価方式または配当還元方式で評価すると説明しています。原則的評価方式では、会社を大会社、中会社、小会社に区分し、大会社は原則として類似業種比準方式、小会社は原則として純資産価額方式、中会社は両方式の併用方式で評価します。
ここで重要なのは、含み損のある不動産が株式評価に反映される程度は、どの評価方式が使われるかにより大きく変わるという点です。
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 評価方式 | 不動産含み損の反映度 | 実務上の見方 |
|---|---|---|
| 純資産価額方式 | 大きい | 不動産を相続税評価額等へ洗い替えるため、帳簿価額との差が反映されやすい |
| 類似業種比準方式 | 小さいことが多い | 比準要素の純資産は帳簿価額ベースであり、未実現の含み損は直接反映されにくい |
| 中会社の併用方式 | 中程度 | 純資産価額部分にのみ影響し、Lの割合により影響幅が変わる |
| 配当還元方式 | 原則として限定的 | 配当を基礎とするため、不動産含み損は配当実績等に反映されている範囲で影響する |
| 特定の評価会社の純資産価額方式 | 大きい | 土地保有特定会社などでは純資産価額方式が中心となる |
国税庁のタックスアンサーは、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社、開業前または休業中の会社、清算中の会社などを特定の評価会社として掲げています。これらのうち一定の会社は、原則として純資産価額方式により評価されます。
会社が不動産を多く保有している場合に特に重要なのが、土地保有特定会社です。会社の総資産価額に占める土地等の価額の割合が一定以上になると、一般の大会社、中会社として類似業種比準方式を中心に評価するのではなく、純資産価額方式を中心に評価する方向へ移ります。
したがって、不動産含み損の影響を論じるときは、まず土地保有特定会社に該当するかを判定する必要があります。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
純資産価額方式は、会社の資産と負債を評価し直し、株主に帰属する純資産を求める方式です。国税庁は、純資産価額方式について、会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替え、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残額により評価する方法と説明しています。
概念式で示すと、次のようになります。
1株当たり純資産価額
= {相続税評価額による総資産価額
- 負債の合計額
- 評価差額に対する法人税額等相当額}
÷ 課税時期現在の発行済株式数
令和8年の国税庁資料も、取引相場のない株式等を純資産価額方式で評価する場合の算式として、相続税評価額による総資産価額から負債合計額と評価差額に対する法人税額等相当額を控除し、発行済株式数で除する構造を示しています。
この方式では、会社が保有する土地建物を相続税評価額等に洗い替えるため、帳簿価額より評価額が低い不動産は、株式評価額を引き下げる方向に働きます。
たとえば、会社の貸借対照表上の土地帳簿価額が1億円で、相続税評価上の価額が7,000万円であれば、純資産価額方式では総資産価額が帳簿価額ベースより3,000万円低くなります。この差額は、株式評価額を下げる方向に働きます。
ただし、ここでいう「相続税評価上の価額」は、必ずしも実勢価格そのものではありません。土地は原則として地目ごとに評価され、宅地では路線価方式または倍率方式が用いられます。家屋は固定資産税評価額に1.0を乗じて評価するのが基本です。
したがって、含み損の判定で比較すべき価額は複数あります。
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 比較対象 | 意味 | 株式評価上の重要性 |
|---|---|---|
| 会計上の帳簿価額 | 決算書上の取得価額等 | 財務分析、減損、民事評価で重要 |
| 法人税法上の帳簿価額 | 税務上の帳簿価額 | 評価差額計算で重要 |
| 相続税評価額 | 財産評価基本通達に基づく価額 | 相続税申告の株式評価で中心 |
| 通常の取引価額 | いわゆる市場取引価格に近い概念 | 3年以内取得不動産などで重要 |
| 不動産鑑定評価額 | 不動産鑑定士による鑑定評価 | 紛争、売却、時価主張で重要 |
| 実際の売却価格 | 売買契約で成立した価格 | 参考資料になり得るが、時点と事情の検討が必要 |
純資産価額方式でよく誤解されるのが、「評価差額に対する法人税額等相当額」です。
この控除は、相続税評価額による純資産価額が帳簿価額による純資産価額を上回る場合に、その含み益が将来実現したと仮定した法人税等負担を考慮して控除するものです。令和8年3月の国税庁資料では、従来の取扱いとして、評価差額に対する法人税額等相当額は、相続税評価額による純資産価額から帳簿価額による純資産価額を控除した残額に法人税率等の合計割合を乗じて計算すると説明されています。
ここで大切なのは、含み損の場合には通常、「相続税評価額による純資産価額」が「帳簿価額による純資産価額」を下回るため、プラスの評価差額が存在しないという点です。つまり、含み損があるからといって、将来の節税効果を見込んだマイナスの法人税額等相当額を追加控除する構造ではありません。
表にすると次のとおりです。
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 状況 | 相続税評価額による純資産価額 | 帳簿価額による純資産価額 | 評価差額に対する法人税額等相当額 |
|---|---|---|---|
| 含み益 | 1億3,000万円 | 1億円 | 差額3,000万円に所定割合を乗じて控除 |
| 含み損 | 7,000万円 | 1億円 | プラスの評価差額がないため、原則として控除なし |
含み損は、資産価額の洗い替えによって総資産価額を下げる方向に反映されます。一方で、含み損に対応する法人税等の将来軽減効果をさらに上乗せして株価から差し引くわけではありません。
令和7年度税制改正により防衛特別法人税が創設されたことを受け、国税庁は、純資産価額方式における評価差額に対する法人税額等相当額の算定に用いる法人税率等の合計割合を37パーセントから38パーセントへ改正しました。国税庁資料によれば、この改正は令和8年4月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した取引相場のない株式等の評価に適用されます。
したがって、評価実務では次の確認が必要です。
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 課税時期 | 評価差額控除割合の確認 |
|---|---|
| 令和8年3月31日以前の相続、遺贈、贈与 | 従前の取扱いを確認 |
| 令和8年4月1日以後の相続、遺贈、贈与 | 改正後の38パーセントを確認 |
ただし、これは含み益がある場合の控除割合の問題です。含み損そのものについて、38パーセント分を追加で控除できるという意味ではありません。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
相続税や贈与税を計算する場合、土地は原則として地目ごとに評価されます。宅地については、路線価が定められている地域では路線価方式、路線価が定められていない地域では倍率方式が用いられます。路線価方式は、路線価に奥行価格補正率などを適用し、面積を乗じて評価する方法です。倍率方式は、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じる方法です。
会社が土地を保有している場合でも、純資産価額方式ではその土地を評価通達に従って評価するため、土地の形状、接道、奥行、不整形、がけ地、私道、貸宅地、貸家建付地、土壌汚染、都市計画上の制限などが株式評価に影響することがあります。
家屋は、原則として固定資産税評価額に1.0を乗じて評価します。国税庁は、家屋の相続税評価について、固定資産税評価額に1.0を乗じるため、評価額は固定資産税評価額と同じであると説明しています。
会計上、建物は取得価額から減価償却累計額を控除した簿価で計上されます。固定資産税評価額と帳簿価額が大きく異なることがあるため、建物の含み損または含み益も純資産価額方式に影響します。
会社が賃貸アパート、貸ビル、貸店舗、貸宅地を所有している場合、単純な自用地、自用家屋とは評価が異なります。土地や家屋が賃貸されている場合には、借地権、借家権、賃貸割合など権利関係に応じて評価額が調整されます。
この点は、含み損の有無を判断するうえで重要です。外観上は「時価が低い」と見えても、相続税評価では賃貸関係により評価が下がる場合があります。逆に、賃貸借契約の内容、空室率、同族関係者への低額賃貸、契約書の不備によって、期待した評価減が認められにくいこともあります。
純資産価額方式では、評価会社が課税時期前3年以内に取得または新築した土地等や家屋等について、原則的な路線価や固定資産税評価額ではなく、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価する取扱いがあります。帳簿価額が通常の取引価額に相当すると認められる場合には、帳簿価額に相当する金額で評価できる場合もあります。
これは、相続直前に不動産を取得して株価を圧縮するような局面で特に重要です。含み損のある不動産を保有している場合でも、その不動産を取得した時期によって、相続税評価額の算定方法が変わる可能性があります。
実務上は、次のように整理できます。
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 不動産の取得時期 | 純資産価額方式での基本的な見方 |
|---|---|
| 課税時期前3年超 | 原則として評価通達による相続税評価額を検討 |
| 課税時期前3年以内 | 通常の取引価額に相当する金額を検討 |
| 取得直後に市場が下落 | 帳簿価額、鑑定評価、売却事例、近隣取引、収益性を精査 |
| 同族間取引で取得 | 取引価額の妥当性、時価との乖離、租税回避性を精査 |
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
大会社の株式は、原則として類似業種比準方式により評価されます。国税庁は、類似業種比準方式について、類似業種の株価を基に、評価会社の1株当たり配当金額、利益金額、純資産価額(簿価)の三つで比準して評価する方法と説明しています。
ここで重要なのは、「純資産価額(簿価)」という点です。純資産価額方式のように、会社の全資産を相続税評価額へ洗い替える方式とは異なり、類似業種比準方式では、比準要素としての純資産価額が帳簿価額ベースで扱われます。
したがって、会社が含み損のある不動産を保有していても、その含み損が会計上または税務上の帳簿価額に反映されていない限り、類似業種比準方式の株式評価へは直接反映されにくいといえます。
類似業種比準方式でも、含み損が全く無関係というわけではありません。影響する主なルートは次のとおりです。
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 影響ルート | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 減損処理 | 会計上、不動産の帳簿価額を切り下げる | 税務上の損金算入可否とは別問題 |
| 売却損 | 不動産を売却し損失が実現する | 非経常的損益、利益金額、税務処理を検討 |
| 収益低下 | 賃料下落、空室増加により利益が下がる | 類似業種比準の利益要素に影響する可能性 |
| 配当停止 | 資金繰り悪化により配当が減る | 配当要素に影響する可能性 |
| 債務超過化 | 帳簿上の純資産が低下する | 比準要素数、特定会社判定に影響し得る |
ただし、相続直前に含み損を実現させる行為は、法人税、消費税、不動産取得税、登録免許税、借入契約、金融機関対応、事業継続、租税回避否認リスクなどを伴います。単に株式評価を下げる目的だけで不動産を売却することは、慎重に検討すべきです。
評価通達上、大会社の株式は原則として類似業種比準価額で評価しますが、納税義務者の選択により純資産価額方式で評価できる場面があります。
このため、会社が多額の含み損不動産を抱え、純資産価額方式の評価額が類似業種比準価額を下回る場合には、純資産価額方式による評価の可能性を検討する価値があります。ただし、純資産価額方式を選ぶ場合には、会社の全資産と負債を評価し直す必要があるため、不動産以外の有価証券、保険積立金、貸付金、棚卸資産、役員退職金債務なども精査する必要があります。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
中会社の株式は、類似業種比準価額と純資産価額を併用して評価するのが基本です。国税庁のタックスアンサーも、中会社は大会社と小会社の評価方法を併用して評価すると説明しています。
中会社では、純資産価額部分に含み損不動産の影響が反映されますが、類似業種比準価額部分には直接反映されにくいため、影響は中間的になります。
概念的には、次のように考えます。
中会社の株価
= 類似業種比準価額 × L
+ 純資産価額 × (1 - L)
Lの割合が高いほど、類似業種比準価額の比重が高くなり、純資産価額方式で反映される不動産含み損の影響は小さくなります。Lの割合が低いほど、純資産価額の比重が高くなり、含み損の影響は大きくなります。
土地保有特定会社に該当する会社の株式は、原則として純資産価額方式で評価されます。国税庁のタックスアンサーも、土地等の保有割合が一定割合以上の会社を土地保有特定会社として掲げ、特定の評価会社の株式は原則として純資産価額方式により評価すると説明しています。
このため、会社が多額の土地を保有しており、土地保有特定会社に該当する場合には、含み損のある不動産の評価が株式評価に強く影響します。
もっとも、土地保有特定会社の判定は単純な感覚ではできません。判定では、会社規模、総資産価額、土地等の価額、株式等保有割合、開業年数、比準要素、課税時期の資産構成などを確認します。特に、土地等の価額の合計額が総資産価額中に占める割合は、相続税評価額ベースで検討されるため、帳簿上の土地割合とは異なることがあります。
同じ会社の株式でも、誰が相続するかにより評価方式が変わります。取引相場のない株式は、相続や贈与などで取得した株主が、会社の経営支配力を持つ同族株主等か、それ以外の株主かにより、原則的評価方式または配当還元方式で評価されます。
したがって、含み損不動産がある会社の株式でも、相続人が少数株主として配当還元方式を適用できる立場であれば、不動産含み損は評価に大きく反映されない可能性があります。逆に、後継者が同族株主として支配株式を取得する場合には、原則的評価方式が適用され、不動産評価の影響が大きくなりやすいです。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
次の重要ポイントは、数値例で読むべき箇所を整理したものです。計算式の意味を見落とさないために重要です。土地評価の差、法人税額等相当額、Lの割合が株価へどう効くかを読み取ってください。
純資産価額方式では帳簿価額と相続税評価額の差が総資産を動かします。含み益では法人税額等相当額の控除を確認し、含み損では追加控除がない点を確認します。中会社では純資産価額部分の比重だけ株価に影響します。
以下の設例は説明用に単純化したものです。実際の申告では、端数処理、各資産負債の評価、評価明細書、法人税額等相当額、株主区分、会社規模判定が必要です。
前提:
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 土地の帳簿価額 | 100,000千円 |
| 土地の相続税評価額 | 70,000千円 |
| その他資産 | 20,000千円 |
| 負債 | 60,000千円 |
| 発行済株式数 | 1,000株 |
帳簿価額ベースの純資産:
100,000千円 + 20,000千円 - 60,000千円 = 60,000千円
相続税評価額ベースの純資産:
70,000千円 + 20,000千円 - 60,000千円 = 30,000千円
評価差額はマイナスです。この場合、評価差額に対する法人税額等相当額をマイナスとして加算するのではなく、プラスの控除額は生じないと整理します。
したがって、1株当たり純資産価額は概念的には次のようになります。
30,000千円 ÷ 1,000株 = 30千円
この設例では、含み損のある土地によって株式評価は下がります。ただし、下がる理由は「土地の相続税評価額が帳簿価額より低いから」であり、「含み損に対応する税効果を追加控除したから」ではありません。
前提:
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 土地の帳簿価額 | 100,000千円 |
| 土地の相続税評価額 | 130,000千円 |
| その他資産 | 20,000千円 |
| 負債 | 60,000千円 |
| 発行済株式数 | 1,000株 |
| 法人税率等相当割合 | 38パーセント |
帳簿価額ベースの純資産:
100,000千円 + 20,000千円 - 60,000千円 = 60,000千円
相続税評価額ベースの純資産:
130,000千円 + 20,000千円 - 60,000千円 = 90,000千円
評価差額:
90,000千円 - 60,000千円 = 30,000千円
評価差額に対する法人税額等相当額:
30,000千円 × 38パーセント = 11,400千円
課税時期現在の純資産価額:
90,000千円 - 11,400千円 = 78,600千円
1株当たり純資産価額:
78,600千円 ÷ 1,000株 = 78.6千円
この設例では、不動産含み益が株式評価を上げますが、法人税額等相当額の控除により、含み益全額がそのまま株価へ反映されるわけではありません。
前提:
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 土地の帳簿価額 | 100,000千円 |
| 鑑定評価または売却見込額 | 70,000千円 |
| 相続税評価額 | 92,000千円 |
| その他資産 | 20,000千円 |
| 負債 | 60,000千円 |
この場合、経済的な含み損は3,000万円に見えます。しかし、相続税評価額が9,200万円であれば、純資産価額方式での総資産減少は帳簿価額との差額800万円にとどまります。
つまり、株式評価に効くのは、原則として「市場価格との差」ではなく、「相続税評価額等と帳簿価額との差」です。相続税評価額が実勢価格より高く見える特殊事情がある場合には、評価通達による評価が著しく不適当といえるか、鑑定評価や個別評価をどのように位置づけるか、税理士と不動産鑑定士が慎重に検討する必要があります。
前提:
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 類似業種比準価額 | 100千円 |
| 含み損反映前の純資産価額 | 90千円 |
| 含み損反映後の純資産価額 | 60千円 |
| Lの割合 | 0.75 |
含み損反映前:
100千円 × 0.75 + 90千円 × 0.25 = 97.5千円
含み損反映後:
100千円 × 0.75 + 60千円 × 0.25 = 90千円
純資産価額は30千円下がっていますが、中会社の併用方式では純資産価額部分の比重が25パーセントであるため、株価全体への影響は7.5千円にとどまります。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
正確な株式評価には、次の資料が必要です。
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 分野 | 主な資料 |
|---|---|
| 会社資料 | 定款、株主名簿、決算書、勘定科目内訳明細書、法人税申告書、別表、総勘定元帳 |
| 株式関係 | 発行済株式数、自己株式、議決権、種類株式、株主間契約、譲渡制限規定 |
| 不動産資料 | 登記事項証明書、公図、地積測量図、建物図面、固定資産税課税明細書、賃貸借契約書 |
| 評価資料 | 路線価図、評価倍率表、固定資産税評価証明書、不動産鑑定評価書、売買事例 |
| 借入資料 | 金銭消費貸借契約、返済予定表、担保設定、保証契約、金融機関評価 |
| 相続資料 | 遺言書、遺産分割協議案、相続人関係説明図、戸籍、相続税申告資料 |
相続税評価では、課税時期、すなわち相続の場合は原則として被相続人の死亡時点が基準になります。死亡後に不動産を売却した場合、その売却価格が参考になることはありますが、評価時点が異なるため、そのまま課税時期の価額になるとは限りません。
遺産分割では、相続開始時、分割時、審判時など評価基準時をめぐる議論が生じます。遺留分では、相続開始時の価額や贈与時の価額など、制度ごとに基準が異なります。弁護士が関与する紛争では、まず「何のための評価か」と「いつの時点の評価か」を確定することが不可欠です。
「含み損」は帳簿価額との比較で語られることが多いですが、評価実務では帳簿価額の内容を確認する必要があります。
確認すべき点は次のとおりです。
不動産の含み損を論じる場合、同時に負債も確認する必要があります。純資産価額方式では、負債の合計額が控除されるため、不動産に対応する借入金は株式評価を下げる方向に働きます。
ただし、借入先が被相続人個人である場合、会社側には負債がある一方で、被相続人側には会社に対する貸付金債権が相続財産として存在することがあります。この場合、株式評価だけを見ると低く見えても、相続財産全体では貸付金評価が問題になります。
また、被相続人が会社借入の連帯保証人であった場合、保証債務を相続財産から控除できるかは別途検討が必要です。単に保証人であるというだけで当然に控除できるとは限らず、主債務者である会社の資力、保証履行の蓋然性などが問題になります。
不動産鑑定士の関与が有用なのは、次のような場面です。
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 場面 | 鑑定評価の意義 |
|---|---|
| 相続税評価額が実勢価格を明らかに上回る | 通達評価の妥当性を検討する資料となる |
| 収益不動産の空室率や賃料下落が大きい | 収益価格から市場価値を説明できる |
| 相続人間で代償金が争われている | 民事上の客観価値を示す資料となる |
| 裁判所で株式価値が争点になる | 鑑定人、専門委員との議論の基礎となる |
| 金融機関評価と税務評価に差がある | 差額の原因分析に役立つ |
ただし、相続税申告で鑑定評価額を採用すれば必ず認められるわけではありません。財産評価基本通達による評価が原則であり、鑑定評価を使う場合には、通達評価では時価を適切に反映しない事情を具体的に説明する必要があります。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
遺産分割では、相続人の一人が会社株式を取得し、他の相続人へ代償金を支払うことがあります。このとき、相続税評価額をそのまま代償金算定に使うと、会社支配権や不動産の実勢価格を十分に反映しないことがあります。
たとえば、税務上は類似業種比準方式で低く評価された株式でも、実際には会社が駅前の不動産を保有し、安定賃料収入を得ている場合、他の相続人は「税務評価では低すぎる」と主張する可能性があります。逆に、会社所有不動産に大きな含み損があり、売却しても借入金を返済しきれない場合、後継者は「税務評価でもまだ高すぎる」と主張することがあります。
遺留分の場面では、株式の価額が高く評価されるか低く評価されるかにより、請求額が大きく変わります。含み損不動産を保有する会社株式については、次の争点が生じやすいです。
弁護士は、税理士が作成した相続税評価明細書をそのまま訴訟資料にするのではなく、民事評価としての説明可能性を検討する必要があります。
会社が不動産を保有している相続では、株式評価だけでなく、被相続人や後継者の会社資金利用が問題になることがあります。
たとえば、会社所有不動産を後継者が低額で使用していた、会社が後継者へ不動産を低額譲渡した、役員報酬や退職金で会社純資産が減少した、相続直前に不動産を取得して株価が下がった、といった事情です。
このような場合には、税務上の株式評価だけでなく、特別受益、寄与分、遺留分、取締役の善管注意義務、利益相反取引、否認リスクなどが絡みます。弁護士、公認会計士、税理士が連携して、会社法、相続法、税法の三面から検討する必要があります。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
税理士は、相続税申告、取引相場のない株式の評価明細書の作成、評価方式の判定、税務調査対応を担います。含み損不動産がある場合には、不動産の評価、純資産価額方式、類似業種比準方式、土地保有特定会社判定、法人税額等相当額、3年以内取得資産の処理を総合的に検討します。
弁護士は、相続人間の対立、遺産分割協議、調停、審判、遺留分侵害額請求、会社支配権争い、株式買取交渉、取締役責任、同族間取引の紛争を扱います。税務評価額と民事上の時価がずれる場合、どの評価を交渉や裁判で使うかを設計します。
公認会計士は、会社財務、帳簿価額、減損、将来収益、企業価値評価、DCF法、時価純資産法、事業承継計画に強みがあります。相続税評価だけでは会社の実態を説明しきれない場合、財務分析と企業価値評価の観点から補完します。
不動産鑑定士は、土地建物の市場価値、収益価格、取引事例、開発可能性、制限要因、賃貸不動産の収益性を評価します。含み損の実在性、相続税評価額との乖離、遺産分割や訴訟上の時価説明で重要な役割を果たします。
司法書士は、不動産登記、相続登記、会社登記、株式承継に関連する登記実務を支えます。会社が不動産を所有しているだけで株式相続により不動産登記名義が変わるわけではありませんが、被相続人個人が不動産も所有している場合には相続登記が必要になります。相続登記は令和6年4月1日から義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の申請が法律上の義務となり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の可能性があります。
紛争がない書類整理では、行政書士が遺産分割協議書や相続関係説明図などの作成支援を行うことがあります。公正証書遺言では公証人が関与します。遺言執行者は遺言内容の実現を担います。信託銀行等は遺言信託として遺言作成支援、保管、執行を扱うことがあります。
ただし、税務相談、登記申請代理、紛争代理にはそれぞれ資格上の範囲があります。含み損不動産を保有する会社株式の評価は専門性が高いため、窓口担当者だけで完結させず、必要な専門職につなぐ体制が重要です。
遺産分割調停、審判、遺留分訴訟に関連する紛争では、裁判官、家事調停官、家事調停委員、裁判所書記官、家庭裁判所調査官、鑑定人、専門委員などが関与することがあります。不動産価格、会社価値、会計処理が争点になる場合には、鑑定人や専門委員の知見が重要になります。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
含み損が株価に影響するかは、評価方式によります。純資産価額方式では影響しやすく、類似業種比準方式では影響が限定されやすいです。まず評価方式を判定することが出発点です。
相続税評価では、路線価方式、倍率方式、固定資産税評価額、通常の取引価額などのルールがあります。実勢価格が低いからといって、税務上当然にその価格を採用できるわけではありません。
含み損がある場合、評価差額に対する法人税額等相当額をマイナスで計算して株式評価額をさらに下げることはできません。プラスの評価差額がある場合に控除する仕組みであることを理解する必要があります。
課税時期前3年以内に取得または新築した土地等、家屋等は、通常の取引価額に相当する金額で評価する取扱いがあります。相続直前の不動産取得や建築は、株価対策として期待した効果が出ないことがあります。
会社の借入金は株式評価上、負債として控除されます。しかし、その借入金の貸主が被相続人個人であれば、被相続人の貸付金債権が相続財産になります。株式だけを低く見ても、相続財産全体で見れば別の資産が立つことがあります。
不動産を多く保有する会社では、土地保有特定会社に該当するかどうかが評価方式を大きく左右します。該当すれば純資産価額方式が中心となり、不動産含み損の影響が大きくなる可能性があります。
税務上の評価額が低いからといって、他の相続人が納得するとは限りません。特に後継者が会社を支配し、会社所有不動産を実質的に利用できる場合、少数相続人は「実質的な価値が隠れている」と感じやすいです。遺産分割では、税務評価とは別に説明資料を整えるべきです。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
次の時系列は、株式評価を進める段階を表します。評価方式の判定漏れや資料不足を防ぐために重要です。上から順に、目的、株主区分、特定会社、不動産評価、財産全体、説明資料へ進むことを読み取ってください。
相続税申告、遺産分割、遺留分、事業承継を分けます。
評価方式の出発点を誤らないようにします。
土地保有特定会社などの該当性を見ます。
地目、利用状況、取得時期、帳簿価額を確認します。
会社貸付金や納税資金も含めて相続人へ説明できる形にします。
最初に、何のために株式評価を行うのかを明確にします。
次の比較表は、直前の論点を項目ごとに整理したものです。判断や資料収集の抜けを防ぐために重要です。左から項目、内容、実務上の読み方を確認してください。
| 目的 | 評価の中心 |
|---|---|
| 相続税申告 | 財産評価基本通達による評価 |
| 遺産分割協議 | 相続人間で合意可能な時価、代償金算定 |
| 遺留分請求 | 民事上の株式価値、相続開始時価値 |
| 事業承継 | 納税資金、後継者支配、将来経営 |
| 株式買取 | 会社法、契約、交渉上の価値 |
| 税務調査対応 | 評価根拠、資料、通達適用の妥当性 |
同族株主等か、少数株主等かを判定します。そのうえで、会社の総資産価額、従業員数、取引金額などにより、大会社、中会社、小会社の区分を判定します。
この段階を誤ると、どれだけ不動産評価を精密に行っても、最終的な株式評価が誤ります。
土地保有特定会社、株式等保有特定会社、比準要素数1の会社、開業後3年未満の会社、開業前または休業中の会社、清算中の会社に該当するかを確認します。国税庁の評価明細書は、株主の態様、会社規模、特定の評価会社該当性を判定するための表を用意しています。
不動産ごとに、地目、利用状況、権利関係、賃貸状況、取得時期、帳簿価額、固定資産税評価額、路線価、倍率、鑑定評価の要否を確認します。
特に、次の不動産は重点調査が必要です。
会社株式の評価額が下がっても、被相続人の会社貸付金、未収配当、役員退職金、生命保険金、保証債務、個人所有不動産などが別に存在することがあります。相続税と遺産分割の双方で、財産全体を一覧化する必要があります。
相続人間の対立が予想される場合、税務評価明細書だけでなく、説明資料を作るべきです。
説明資料には、次の内容を含めると有用です。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
必ず下がるわけではありません。純資産価額方式が適用され、不動産の相続税評価額等が帳簿価額を下回る場合には株式評価を下げる方向に働きます。しかし、類似業種比準方式が中心となる場合、含み損が帳簿や利益に反映されていなければ影響は限定的です。
そのまま使えるとは限りません。相続税評価では財産評価基本通達による評価が原則です。鑑定評価額は、通達評価が時価を適切に反映しない事情を説明する資料として重要ですが、採用には根拠整理が必要です。
純資産価額方式の評価差額に対する法人税額等相当額は、原則として含み益に対応する控除です。含み損があるからといって、マイナスの法人税額等相当額を計上して株式評価をさらに下げる仕組みではありません。
慎重な検討が必要です。課税時期前3年以内に取得または新築した土地等、家屋等については、通常の取引価額に相当する金額で評価する取扱いがあり、期待した株価引下げ効果が出ないことがあります。金融機関借入、登録免許税、不動産取得税、法人税、消費税、租税回避リスクも検討すべきです。
純資産価額方式では、相続税評価額ベースの資産より負債が大きい場合、株式価値がゼロまたは極めて低くなることがあります。ただし、類似業種比準方式、配当、将来収益、株主区分、特定会社該当性、会社貸付金などを別に確認する必要があります。また、株式価値が低くても、被相続人が会社に対して貸付金を有していれば、その貸付金が相続財産になります。
同じとは限りません。相続税申告では財産評価基本通達による評価が中心ですが、相続人間の代償金、遺留分、会社支配権の争いでは、民事上の時価や公平性が問題になります。税務評価は重要な資料ですが、民事上の最終評価とは限りません。
株式を相続しただけでは、会社所有不動産の登記名義は変わりません。不動産の所有者は会社のままです。一方で、被相続人個人が所有していた不動産を相続人が取得する場合には相続登記が必要です。相続登記は令和6年4月1日から義務化されています。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
「含み損のある不動産を保有している場合の株式評価への影響」を正しく理解するには、単に不動産の時価が下がっているかを見るだけでは足りません。相続税評価では、相続人が取得するのは不動産ではなく株式であること、取引相場のない株式の評価方式が株主区分と会社規模により決まること、純資産価額方式では不動産の評価が直接的に反映されやすいこと、類似業種比準方式では含み損が直接反映されにくいことを押さえる必要があります。
最も重要な実務ポイントは、次の五つです。
次の重要ポイント一覧は、このページで最初に押さえるべき判断順序をまとめたものです。読み進める前に全体像をつかむために重要です。上から順に、株式評価や信託設計で確認すべき優先順位を読み取ってください。
不動産の含み損は、純資産価額方式では株式評価を下げる方向に働きやすい。
ただし、下がる幅は市場価格との差ではなく、原則として相続税評価額等と帳簿価額との差に左右される。
評価差額に対する法人税額等相当額は、含み益に対する控除であり、含み損を追加控除する制度ではない。
土地保有特定会社に該当すると純資産価額方式が中心となり、不動産評価の影響が大きくなる。
会社が不動産を保有している相続では、評価額の一点だけを見て判断すると、納税資金、相続人間の公平、会社支配権、将来経営、税務調査、登記、金融機関対応のいずれかで問題が生じます。税理士が評価方式を組み立て、不動産鑑定士が不動産価値を検証し、公認会計士が会社財務と企業価値を分析し、弁護士が相続紛争と合意形成を設計し、司法書士が登記実務を支えるという横断的な体制が望まれます。
この章では、判断に必要な前提と実務上の注意点を整理します。
国税庁は、令和8年4月に「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催し、取引相場のない株式の相続税評価について、適正な評価制度の在り方を検討しています。開催趣旨では、会計検査院の検査報告において、各評価方式間で評価額にかい離が生じていることなどが指摘されたと説明されています。
したがって、含み損のある不動産を保有している会社の株式評価についても、現行通達だけでなく、将来の通達改正や評価明細書改正の動向を継続的に確認する必要があります。特に、類似業種比準方式と純資産価額方式のかい離、土地保有会社の評価、配当還元方式、評価差額に対する法人税額等相当額の扱いは、制度見直しの影響を受ける可能性があります。