2σ Guide

副業・兼業規程を
届出制・健康管理・情報管理から設計する

副業・兼業規程は、勤務時間外の自由と会社の正当な利益を調整する制度です。届出、労働時間通算、健康配慮、秘密保持、競業避止、税務・社会保険、監査までを一体で整理します。

10営業日回答期限の目安
6事由制限事由の中核
年1回見直しの目安
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副業・兼業規程を 届出制・健康管理・情報管理から設計する

副業・兼業規程は、勤務時間外の自由と会社の正当な利益を調整する制度です。

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副業・兼業規程を 届出制・健康管理・情報管理から設計する
副業・兼業規程は、勤務時間外の自由と会社の正当な利益を調整する制度です。
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2σ GUIDE ・ VIDEO

  • 副業・兼業規程を 届出制・健康管理・情報管理から設計する
  • 副業・兼業規程は、勤務時間外の自由と会社の正当な利益を調整する制度です。

POINT 1

  • 副業・兼業規程の全体像
  • この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。
  • 副業・兼業規程の全体像の中核
  • 下の重要ポイントは全体の読み方を示すもので、なぜ重要か、どこを読み取るべきかを短時間で把握できます。
  • 制度の結論、例外、記録、健康管理、情報管理を分けて確認することで、個別判断に入る前の見取り図を作れます。

POINT 2

  • 2. 副業・兼業規程とは何か
  • この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。
  • 就業規則の一章として置く場合もあれば、就業規則の委任に基づく細則として置く場合もあります。
  • ここでいう副業・兼業には、典型的には次のような形態が含まれます。
  • 各行を見比べ、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

POINT 3

  • 副業・兼業規程 ― 3. 制度設計の基本命題 ― 一律禁止から合理的な届出制へ
  • 1. 前提を確認:契約形態、対象者、既存規程、事実関係を確認します。
  • 2. リスクを評価:労働時間、健康、秘密情報、競業、労災、証拠関係を確認します。
  • 3. 対応を記録:許容、条件付許容、制限、申告、面談、資料提出などを記録します。

POINT 4

  • 4. 副業・兼業規程が扱うべき主要リスク
  • この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。
  • 4.1 労務提供上の支障
  • 4.2 長時間労働と健康配慮
  • 4.3 秘密保持と営業秘密

POINT 5

  • 副業・兼業規程 ― 5. 裁判例の読み方
  • この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。
  • 5.1 形式違反だけでは足りない
  • 5.2 禁止が認められやすい場面
  • 5.3 許容されやすい場面

POINT 6

  • 6. 副業・兼業規程を作成する前の現状調査
  • この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。
  • 6.1 現状調査項目
  • 6.2 高リスク職種の特定
  • 規程を作る前に、社内の実態を把握しなければなりません。

POINT 7

  • 副業・兼業規程 ― 7. 届出制の設計
  • この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。
  • 7.1 許可制と届出制の違い
  • 7.2 届出事項
  • 7.3 届出のタイミング

POINT 8

  • 副業・兼業規程 ― 8. 禁止または制限事由の具体化
  • この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。
  • 8.1 労務提供上の支障
  • 8.2 長時間労働・健康障害
  • 8.3 秘密漏えい

まとめ

  • 副業・兼業規程を 届出制・健康管理・情報管理から設計する
  • 副業・兼業規程の全体像:この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。
  • 2. 副業・兼業規程とは何か:この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。
  • 副業・兼業規程 ― 3. 制度設計の基本命題 ― 一律禁止から合理的な届出制へ:この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

副業・兼業規程の全体像

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

このページでは、制度の結論を先に押さえ、続いて実務で迷いやすい分岐を確認します。下の重要ポイントは全体の読み方を示すもので、なぜ重要か、どこを読み取るべきかを短時間で把握できます。

副業・兼業規程の全体像の中核

制度の結論、例外、記録、健康管理、情報管理を分けて確認することで、個別判断に入る前の見取り図を作れます。

副業・兼業規程は、従業員の私生活上の自由、キャリア形成、収入確保の利益と、会社の労務提供確保、健康配慮、秘密保持、競業避止、信用維持、情報管理、労働時間管理の要請を調整するための社内ルールです。単に「副業を禁止する規程」ではありません。現在の実務では、厚生労働省の副業・兼業政策、モデル就業規則、裁判例の流れを踏まえ、原則として副業・兼業を許容し、例外的に禁止または制限できる場面を具体化する設計が標準的な出発点となります。厚生労働省も、副業・兼業を希望する者が増加する中で、安心して副業・兼業に取り組めるよう労働時間管理や健康管理等を示すガイドラインを公表し、令和4年7月改定版を掲載しています。

もっとも、原則許容という方向性は、会社が何も管理しないことを意味しません。副業・兼業が雇用契約で行われる場合、労働基準法上の労働時間通算が問題になります。労働時間は、事業場を異にする場合でも、労働時間に関する規定の適用について通算されるとされ、事業主が異なる場合も原則として通算の対象となります。厚生労働省の解説では、他の使用者の事業場における労働時間は、労働者からの申告等によって把握することが示されています。

したがって、副業・兼業規程の中心は、禁止ではなく、届出、リスク評価、条件設定、健康確保、情報管理、実労働時間の申告、利益相反管理、違反時対応を、過不足なく制度化することにあります。この記事は、弁護士、企業内弁護士、外部弁護士、社会保険労務士、税理士、公認会計士、個人情報・営業秘密管理担当、内部監査担当、コンプライアンス担当、経営管理担当の観点を統合した実務論として、副業・兼業規程の設計方法を解説します。

Section 01

2. 副業・兼業規程とは何か

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

副業・兼業規程とは、従業員が自社以外で業務に従事する場合の申告、確認、制限、健康管理、情報管理、労働時間管理、懲戒その他の取扱いを定める社内規程です。就業規則の一章として置く場合もあれば、就業規則の委任に基づく細則として置く場合もあります。

ここでいう副業・兼業には、典型的には次のような形態が含まれます。

次の比較表は、2. 副業・兼業規程とは何かに関する項目を横に並べたものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから制度上の扱いと実務対応を区別することです。各行を見比べ、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

類型主な法務上の論点
雇用型他社の正社員、契約社員、パート、アルバイト労働時間通算、割増賃金、36協定、健康管理、労災、社会保険
業務委託型フリーランス、請負、準委任、顧問、講師、執筆労働者性、偽装請負、フリーランス法、秘密保持、知財帰属
役員・経営参加型他社取締役、監査役、合同会社社員、スタートアップ参画競業、利益相反、忠実義務、会社の信用、職務専念
自営・起業型個人事業、EC販売、アプリ開発、コンサルティング情報管理、競業、顧客接触、税務、設備利用、商標・著作権
投資・資産運用型不動産賃貸、金融商品投資業務性の有無、利益相反、インサイダー情報、反社会的勢力排除
社会活動型NPO、自治会、研究会、講演、大学非常勤報酬の有無、職務関連性、会社名使用、守秘義務

副業と兼業は、日常用語として厳密に区別されないことが多いです。実務では、「本業以外の収入活動」を副業、「複数の仕事を同時に持つ状態」を兼業と説明することがあるが、規程上は用語の差よりも、会社が管理すべきリスクを漏れなく対象にすることが重要です。したがって、規程では「副業・兼業」を、自社の勤務時間外に他の事業者、個人、団体または自己の事業のために継続的または反復的に業務、役務提供、役員就任、事業運営を行うこと、と定義するのが実務的です。

Section 02

副業・兼業規程 ― 3. 制度設計の基本命題 ― 一律禁止から合理的な届出制へ

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

次の判断の流れは、この章の確認順序を表しています。読者にとって重要なのは、どの段階で何を確認し、どこで記録を残すかを把握することです。上から下へ進み、必要な分岐を読み取ってください。

副業・兼業規程 ― 3. 制度設計の基本命題 ― 一律禁止から合理的な届出制への確認順序

前提を確認

契約形態、対象者、既存規程、事実関係を確認します。

リスクを評価

労働時間、健康、秘密情報、競業、労災、証拠関係を確認します。

対応を記録

許容、条件付許容、制限、申告、面談、資料提出などを記録します。

3.1 私生活上の自由と会社の管理権限

従業員は、労働契約上の労務提供義務を負う時間帯には、会社の指揮命令に従い職務を遂行する必要があります。しかし、勤務時間外の時間は、原則として従業員の私生活領域です。裁判例の一般的方向性も、勤務時間外の利用は基本的に労働者の自由であり、会社が制限できるのは、労務提供上の支障、秘密漏えい、競業による利益侵害、名誉・信用毀損や信頼関係破壊が問題となる場合に限定されるという考え方に立っています。厚生労働省のガイドラインもこの枠組みを示しています。

このため、副業・兼業規程の法的安定性を高めるには、次の順序で設計する必要があります。

  1. 原則として副業・兼業を認める。
  2. 会社が確認すべき事項を届出制で把握します。
  3. 例外的に禁止または制限できる事由を限定列挙する。
  4. 禁止または制限の判断は、抽象的な不安ではなく、具体的な支障、危険、利益侵害の程度に基づいて行います。
  5. 形式的な届出違反だけを理由に重い懲戒処分をするのではなく、実害、危険性、故意過失、改善可能性、説明機会を考慮する。

3.2 厚生労働省モデル就業規則の位置づけ

厚生労働省は、平成30年1月にモデル就業規則を改定し、許可なく他社業務に従事しないことという従来型の遵守事項を削除し、副業・兼業に関する規定を新設しました。さらに、副業・兼業ガイドラインの改定に伴い、モデル就業規則上の記述も改訂されています。厚生労働省の現行のモデル就業規則は、勤務時間外の他社業務従事を認めた上で、届出を基礎に、労務提供上の支障、企業秘密漏えい、会社の名誉・信用毀損や信頼関係破壊、競業による利益侵害がある場合には禁止または制限できるという構造を採用しています。

モデル就業規則は、そのまま全企業に適用される法令ではありません。しかし、行政の標準的な考え方と裁判例の方向性を反映した強い参照資料です。したがって、副業・兼業規程を新設または改定する場合、同モデルの構造から大きく外れるときは、なぜ自社ではより厳しい規制が必要なのかを説明できなければなりません。

Section 03

4. 副業・兼業規程が扱うべき主要リスク

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

副業・兼業規程は、会社の不安を網羅的に書く文書ではありません。規程化すべきリスクは、法的に正当化でき、実務上管理可能で、従業員に予測可能な形で示せるものに限られます。主要リスクは以下のとおりです。

4.1 労務提供上の支障

労務提供上の支障とは、副業・兼業により、本業の勤務に遅刻、欠勤、居眠り、集中力低下、納期遅延、安全運転義務違反、顧客対応品質低下などが生じる、または具体的に生じるおそれが高い状態をいいます。単に「疲れそう」「印象が悪い」という抽象的懸念では足りません。

特に、運転、医療、介護、建設、警備、製造ライン、危険物取扱い、金融取引、重要インフラ、情報セキュリティ運用など、ミスが重大事故につながり得る職種では、労務提供上の支障を広く把握する合理性が高いです。逆に、短時間かつ低負荷で、勤務時間と完全に分離されています活動について、一律に禁止する合理性は低いです。

4.2 長時間労働と健康配慮

副業・兼業において最も制度設計が難しいのは、従業員の私生活上の自由と、会社の安全配慮義務の緊張関係です。厚生労働省ガイドラインは、使用者が労働者の全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながら配慮しないまま健康障害が生じた場合等を問題場面として示しています。

会社は、私生活を過度に監視してはなりません。他方で、副業・兼業の届出により過重労働の可能性を把握した場合、何も対応しないことも適切ではありません。実務的には、規程上、次のような仕組みを置きます。

次の比較表は、4. 副業・兼業規程が扱うべき主要リスクに関する項目を横に並べたものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから制度上の扱いと実務対応を区別することです。各行を見比べ、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

管理項目実務上の設計
届出時確認副業先、業務内容、所定労働日、所定労働時間、所定外労働見込み、深夜勤務の有無を確認します。
定期報告雇用型副業は月次または一定期間ごとに実労働時間を申告させる。
健康申告疲労、睡眠不足、医師の指示、面接指導対象該当性を確認します。
会社の対応時間外労働の抑制、副業の一時制限、産業医面談、人事面談、配置上の配慮を行います。
記録化届出、確認、面談、会社判断を文書化する。

4.3 秘密保持と営業秘密

副業・兼業は、秘密情報の流出リスクを高める。従業員が本業で知った製品情報、顧客情報、価格情報、技術情報、ソースコード、営業戦略、人事情報を副業先で利用する可能性があります。また、逆に副業先の情報を本業に持ち込むことで、会社が他社の営業秘密侵害に巻き込まれるリスクもあります。

経済産業省は、営業秘密や秘密情報の保護に関する指針やハンドブックを公表しており、秘密情報の漏えい防止策を企業の状況に応じて講じることを促しています。営業秘密管理指針は、不正競争防止法上の営業秘密として保護されるために必要となります管理水準を検討するうえで重要な資料であり、令和7年3月に改訂版が公表されています。

副業・兼業規程では、秘密保持義務を抽象的に再掲するだけでは不十分です。以下の実装が必要です。

  1. 秘密情報の範囲を、営業秘密、個人情報、顧客情報、技術情報、未公開財務情報、事業計画、ソースコード、社内資料などに分類する。
  2. 本業の情報を副業先で使用しないことを明記する。
  3. 副業先の情報を自社業務に持ち込まないことを明記する。
  4. 会社端末、会社アカウント、クラウド、メール、生成AI、社内チャットを副業に使用しないことを明記する。
  5. 副業先から秘密保持契約を求められた場合、自社業務と矛盾する義務を負わないよう注意喚起する。
  6. 競業、共同研究、顧客接触がある場合には、法務確認を必須とする。

4.4 競業避止と利益相反

在職中の従業員は、一般に使用者の正当な利益を害する競業行為を避ける義務を負うと解される。ただし、競業避止義務は無限定ではありません。同一業種だから常に禁止できますわけではなく、従業員の職務内容、役職、アクセス可能情報、副業先の事業内容、顧客の重なり、営業秘密の利用可能性、利益相反の程度を総合して判断する必要があります。

たとえば、製薬会社の研究開発担当者が競合企業の研究補助をする場合、法務・知財・情報管理上のリスクは高いです。小売会社の本部バイヤーが競合小売の仕入れ支援をする場合も、価格情報や取引条件の流出リスクが高いです。他方で、IT企業の経理担当者が休日に地域スポーツ教室の補助をする場合、競業性は通常低いです。

副業・兼業規程では、競業の定義を広くしすぎると、過度な私生活制約となります。実務的には、「会社の正当な利益を具体的に害する競業または利益相反」を禁止または制限事由とし、判断要素を別表で示すのが望ましい。

4.5 会社の名誉・信用と信頼関係

副業・兼業が会社の名誉や信用を損なう場面には、会社名や役職を無断で利用した広告、違法または反社会的な事業への関与、顧客への誤認表示、SNS上の不適切表示、会社の信用を利用した勧誘、利益供与や贈収賄リスクを伴う活動などがあります。

この類型は、規程上便利に使いやすい反面、濫用の危険があります。会社の価値観と合わない、上司が不快です、社内の評判が悪いという理由だけでは、禁止または懲戒の根拠として弱いです。会社の信用を害する具体的態様、第三者からの誤認、法令違反、コンプライアンス違反、顧客関係への影響を確認する必要があります。

Section 04

副業・兼業規程 ― 5. 裁判例の読み方

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

副業・兼業規程の設計では、裁判例の方向性を理解することが不可欠です。厚生労働省の参考資料は、マンナ運輸事件、十和田運輸事件、東京都私立大学教授事件などを取り上げ、勤務時間外の兼業を基本的に労働者の自由としつつ、労務提供の支障や企業秘密漏えい等の場面で例外的制限を認める考え方を整理しています。

5.1 形式違反だけでは足りない

裁判例の重要な示唆は、就業規則に許可制や届出制がある場合でも、形式的な違反だけで当然に懲戒処分が有効になりますわけではありませんという点です。副業・兼業が職場秩序に影響せず、労務提供に具体的支障を生じさせない程度であれば、禁止違反とは評価されにくい。

このため、規程に「無届副業は懲戒解雇」と書くことは危険です。無届ですことは問題だが、懲戒処分の種類は、業務支障、秘密漏えい、競業性、故意性、反復性、会社からの注意後の対応、実害の有無に応じて比例的に判断する必要があります。

5.2 禁止が認められやすい場面

禁止または重い処分が認められやすいのは、次のような場合です。

  1. 深夜または長時間の副業により、本業の誠実な労務提供に支障が生じる蓋然性が高い場合。
  2. 競業他社の役員、営業、技術開発、顧客開拓等に関与し、会社の正当な利益を害する場合。
  3. 会社の営業秘密、顧客情報、未公開情報を利用または漏えいした場合。
  4. 会社の名称、肩書、設備、アカウントを利用して第三者を誤認させた場合。
  5. 法令違反、反社会的活動、重大な信用毀損行為がある場合。

5.3 許容されやすい場面

反対に、許容されやすいのは、次のような場合です。

  1. 勤務時間外に短時間、低頻度で行われる活動。
  2. 本業と業種、顧客、情報が重ならない活動。
  3. 本業への遅刻、欠勤、品質低下、安全上の支障がない活動。
  4. 会社の秘密情報、設備、名称を使用しない活動。
  5. 会社が黙認してきた、または届出制度を明確に運用していなかった活動。
Section 05

6. 副業・兼業規程を作成する前の現状調査

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

規程を作る前に、社内の実態を把握しなければなりません。法務部だけで規程案を作ると、現場運用と乖離しやすいです。人事、労務、情報システム、知財、営業、経営企画、内部監査、税務、広報、各事業部の意見を確認します。

6.1 現状調査項目

次の比較表は、6. 副業・兼業規程を作成する前の現状調査に関する項目を横に並べたものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから制度上の扱いと実務対応を区別することです。各行を見比べ、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

調査項目確認内容
既存規程就業規則、服務規律、秘密保持規程、競業避止規程、情報セキュリティ規程、懲戒規程との整合性
実態実際に副業・兼業者がいるか、届出があるか、黙認状態か
業務特性長時間労働、深夜勤務、安全配慮、顧客情報、営業秘密、知財の有無
職種差役員、管理職、研究開発、営業、経理、法務、IT、現場職で異なりますリスク
労働時間副業先が雇用型か、労働時間通算が必要か、36協定管理が可能か
相談体制従業員が相談しやすい窓口、報復禁止、個人情報管理
税務・社保会社として案内すべき範囲、本人責任と会社の手続支援の境界
システム申請フォーム、承認ワーク手順、証跡、アクセス権限
国外要素海外法人、外国法、輸出管理、越境個人データ、外貨報酬

6.2 高リスク職種の特定

全従業員を同じ基準で管理すると、過剰規制または管理不足になります。以下の職種は、届出時の審査を強化する合理性があります。

次の比較表は、6. 副業・兼業規程を作成する前の現状調査に関する項目を横に並べたものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから制度上の扱いと実務対応を区別することです。各行を見比べ、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

職種・立場高リスクとなる理由
役員、執行役員、経営幹部忠実義務、利益相反、会社機会の流用、開示前情報の利用
法務、経理、財務、M&A担当未公開情報、インサイダー情報、取引先情報へのアクセス
研究開発、知財、データサイエンス技術情報、発明、ソースコード、営業秘密の流出
営業、購買、商品企画顧客情報、価格情報、仕入条件、競業接触
IT・セキュリティ担当システム権限、ログ、脆弱性情報、個人情報
運転、医療、介護、警備、建設疲労による事故、第三者損害、安全配慮
広報、IR、採用会社名使用、未公開情報、レピュテーション
Section 06

副業・兼業規程 ― 7. 届出制の設計

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

7.1 許可制と届出制の違い

許可制は、会社の事前承認がなければ副業・兼業を行えない制度です。届出制は、従業員が副業・兼業の内容を会社に申告し、会社は例外的禁止または条件付与の必要性を確認する制度です。

副業・兼業規程の標準形は、届出制です。厚生労働省ガイドラインも、使用者は労働者からの申告等により副業・兼業の有無・内容を確認し、届出制などの仕組みを設けることが望ましいと整理しています。

ただし、全ての企業で純粋な届出制しか許されないわけではありません。金融、医療、重要インフラ、輸出管理対象技術、営業秘密性の高い研究開発、法令上の兼職規制がある業種では、職種限定の事前承認制を採る合理性があります。重要なのは、制度名ではなく、制限の必要性、相当性、判断基準の明確性です。

7.2 届出事項

副業・兼業規程は、従業員から何を届け出させるかを明確にしなければなりません。過少であれば管理できず、過大であればプライバシー侵害や萎縮効果を生みます。

次の比較表は、7. 届出制の設計に関する項目を横に並べたものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから制度上の扱いと実務対応を区別することです。各行を見比べ、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

届出事項必要性留意点
副業先名、所在地、事業内容競業・信用リスク確認個人顧客名まで求める場合は必要性を吟味する。
業務内容、役職、責任範囲競業・秘密漏えい・利益相反確認抽象的な「業務委託」では不足します。
契約形態労働時間通算、フリーランス法、社会保険確認雇用、請負、準委任、役員、自営を区別する。
所定労働日、所定労働時間労働時間通算、健康管理雇用型では必須。
所定外労働、深夜労働の見込み健康配慮、割増賃金最大時間数も確認します。
副業開始日、期間労働契約の先後、管理モデルいつからの契約かを明確にします。
会社設備・会社情報の使用有無情報管理原則禁止とする。
競合・取引先との関係競業、利益相反顧客との直接取引は重点確認。
報酬の有無税務、利益相反、継続性報酬額の詳細まで必要かは目的に応じる。
健康状態への影響安全配慮医療情報の収集は最小限にする。

7.3 届出のタイミング

届出は、原則として副業・兼業の開始前に行わせる。既に副業・兼業をしています従業員については、規程施行時に一定の猶予期間を設け、届出を促すのが実務的です。新入社員については、入社時確認書に副業・兼業の有無を記載させる。

変更届も重要です。副業先、業務内容、労働時間、役職、顧客範囲、契約形態が変わった場合には、再届出を求める。特に、当初は非競業的活動であったものが、事業拡大により競業化することがあります。

7.4 会社の回答期限

副業・兼業規程には、会社が届出を受けてから合理的期間内に回答することを定める。回答期限がないと、会社の不作為により従業員の活動が不当に制約される。標準的には、必要資料が揃ってから10営業日以内、複雑案件は20営業日以内などと定める。

会社が期限内に回答できない場合には、理由と追加確認事項を通知する。会社が漫然と放置する運用は、届出制の信頼性を失わせる。

Section 07

副業・兼業規程 ― 8. 禁止または制限事由の具体化

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

副業・兼業規程は、禁止または制限できる事由を、従業員が理解できる程度に具体化する必要があります。以下は、規程に入れるべき標準的な事由です。

8.1 労務提供上の支障

規程例としては、「副業・兼業により、会社における勤務、職務遂行、勤務態度、成果物、納期、安全確保または顧客対応に具体的な支障が生じ、または生じる高度の蓋然性がある場合」とする。

「高度の蓋然性」という文言を入れることで、抽象的懸念だけで禁止しない趣旨が明確になります。

8.2 長時間労働・健康障害

「副業・兼業により、通算労働時間、深夜労働、連続勤務、休息不足その他の事情から、従業員の健康確保に重大な支障が生じるおそれがある場合」と定める。

ここで重要なのは、健康リスクがある場合でも直ちに恒久禁止としないことです。勤務時間の削減、期間限定の制限、深夜労働の禁止、健康面談など、段階的措置を用意する。

8.3 秘密漏えい

「会社または第三者の秘密情報、営業秘密、個人情報、未公開情報その他業務上知り得た情報の漏えい、使用、持込み、混同のおそれが具体的に認められる場合」とする。

ここでは「会社の秘密」だけでなく「第三者の秘密」も含める。副業先の秘密情報を自社業務に持ち込むことも、自社にとって重大なリスクだからです。

8.4 競業・利益相反

「会社の事業、顧客、取引先、研究開発、営業活動その他の正当な利益を不当に害する競業または利益相反が認められる場合」とする。

禁止対象は「同業ですこと」ではなく「正当な利益の不当な侵害」です。この限定がないと、規程が広すぎる。

8.5 名誉・信用毀損

「会社の名誉、信用、ブランド、社会的評価を具体的に害し、または第三者に会社の関与、承認、推奨があると誤認させるおそれがある場合」とする。

会社名、肩書、ロゴ、メールアドレス、名刺、SNSプロフィールの使用ルールも併せて定める。

8.6 法令違反・反社会的活動

違法行為、脱法的業務、反社会的勢力との関係、公序良俗に反する事業への関与は、明確な禁止事由とすべきです。金融商品取引法、個人情報保護法、不正競争防止法、下請法、フリーランス法、景品表示法、薬機法、建設業法、宅建業法、労働者派遣法、職業安定法など、業種別規制との接点にも注意する。

Section 08

副業・兼業規程 ― 9. 労働時間通算の実務

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

次の判断の流れは、この章の確認順序を表しています。読者にとって重要なのは、どの段階で何を確認し、どこで記録を残すかを把握することです。上から下へ進み、必要な分岐を読み取ってください。

副業・兼業規程 ― 9. 労働時間通算の実務の確認順序

前提を確認

契約形態、対象者、既存規程、事実関係を確認します。

リスクを評価

労働時間、健康、秘密情報、競業、労災、証拠関係を確認します。

対応を記録

許容、条件付許容、制限、申告、面談、資料提出などを記録します。

9.1 通算が必要となる基本構造

雇用型の副業・兼業では、労働基準法上の労働時間通算が中心論点となります。厚生労働省ガイドラインは、労働者が事業主を異にする複数の事業場で、労働時間規制が適用される労働者に該当する場合、それらの複数事業場における労働時間が通算されると整理しています。

一方で、労働基準法が適用されないフリーランス、独立、起業、共同経営、顧問、役員などの働き方や、労働基準法は適用されるが労働時間規制が適用されない管理監督者等の場合は、労働時間通算の対象から外れることがあります。ただし、その場合でも、過労防止の観点から就業時間を把握し、長時間にならないよう配慮することが望ましいとされる。

9.2 通算されるもの、されないもの

厚生労働省ガイドラインによれば、法定労働時間の適用では、自社と他の使用者の事業場における労働時間が通算されます。また、時間外労働と休日労働の合計について、単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件は、労働者個人の実労働時間に着目して通算されます。

他方で、36協定により延長できる時間の限度時間や、特別条項を設ける場合の1年の延長時間の上限については、個々の事業場における36協定の内容を規制するものであり、自社と他社の労働時間は通算されません。また、休憩、休日、年次有給休暇については労働時間に関する規定ではないため、適用にあたって他社の労働時間は通算されないと整理されています。

この区別を誤ると、規程や実務が過剰または過少になります。副業・兼業規程では、詳細な計算式をすべて書く必要はありませんが、労働時間通算の対象となる雇用型副業では、所定労働時間、所定外労働、実労働時間の申告義務を置く必要があります。

9.3 割増賃金の考え方

副業・兼業の場合、各使用者は、自社の労働時間制度を基に、労働者からの申告等により他社の所定労働時間・所定外労働時間を把握し、通算の結果、自社で労働させた時間が法定労働時間を超える部分について割増賃金を支払う必要があります。厚生労働省ガイドラインは、所定労働時間は労働契約の締結の先後で通算し、所定外労働時間は発生順で通算する整理を示しています。

規程上は、従業員が雇用型の副業を行う場合、次の事項を申告する義務を定める。

  1. 副業先との労働契約締結日。
  2. 副業先での所定労働日、所定労働時間、始業終業時刻。
  3. 副業先での所定外労働の有無、見込み時間、最大時間。
  4. 副業先での実労働時間の報告方法。
  5. 労働時間に変更があった場合の報告期限。

9.4 管理モデル

労働時間通算は、日々の実労働時間を細かく把握すると、従業員にも会社にも大きな事務負担が生じます。厚生労働省ガイドラインは、手続上の負担を軽減する簡便な労働時間管理の方法として管理モデルを示しています。管理モデルは、副業・兼業開始前に、先に労働契約を締結していた使用者の法定外労働時間と、後から労働契約を締結した使用者の労働時間を合計して、単月100時間未満、複数月平均80時間以内となります範囲で各使用者の労働時間上限を設定する考え方です。

副業・兼業規程に管理モデルを導入する場合、規程本文では基本方針を置き、詳細は運用細則や合意書で定めるとよい。副業先が管理モデルに応じない場合の代替手続も必要です。

9.5 労働時間通算に関する規程文言のポイント

労働時間通算条項は、次のような構造が望ましい。

  1. 雇用型副業の場合、会社は労働基準法その他関係法令に従い、必要な範囲で副業先の労働時間を確認します。
  2. 従業員は、所定労働時間、所定外労働、実労働時間を、会社が定める方法で申告する。
  3. 会社は、通算労働時間が法令上または健康確保上問題となる場合、副業の時間削減、期間制限、一時停止その他必要かつ相当な措置を求めることができます。
  4. 会社は、取得した情報を労務管理、健康管理、法令遵守の目的でのみ利用する。
Section 09

副業・兼業規程 ― 10. 健康管理と安全配慮

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

副業・兼業規程は、従業員の健康を本人任せにしてはなりません。もっとも、会社が私生活を全面管理することもできません。規程上は、本人の自己管理義務、会社への報告義務、会社の配慮措置を組み合わせます。

10.1 自己管理義務

従業員は、副業・兼業を行う場合、自社業務と副業・兼業の業務量、進捗、労働時間、睡眠、疲労、健康状態を自ら管理する必要があります。厚生労働省ガイドラインも、労働者が業務量、進捗状況、費やす時間、健康状態を管理する必要がありますと整理しています。

10.2 会社への報告義務

会社は、従業員に対して、次の場合に報告を求めるべきです。

  1. 副業・兼業により睡眠不足、疲労蓄積、体調不良が生じた場合。
  2. 副業・兼業先で深夜労働、休日労働、所定外労働が増加した場合。
  3. 会社の業務に支障が生じた、または生じるおそれがある場合。
  4. 医師、産業医、保健師等から就業上の配慮を指摘された場合。
  5. 労災、事故、メンタルヘルス不調が生じた場合。

10.3 会社の措置

報告を受けた会社は、必要に応じて次の措置を検討します。

次の比較表は、10. 健康管理と安全配慮に関する項目を横に並べたものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから制度上の扱いと実務対応を区別することです。各行を見比べ、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

状況措置例
軽度の疲労面談、勤務時間見直し、副業時間の削減要請
深夜労働が継続深夜副業の制限、休息確保、産業医面談
本業に遅刻・欠勤改善指導、一定期間の副業停止要請
安全リスク職種シフト調整、副業時間上限、運転業務からの一時除外
健康障害の疑い産業医面談、医療機関受診勧奨、就業上の措置
Section 10

副業・兼業規程 ― 11. 秘密保持、個人情報、情報セキュリティ

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

11.1 秘密保持条項の再設計

副業・兼業規程の秘密保持条項は、単に「会社の秘密を漏らしてはなりません」と書くだけでは不足します。現代の情報漏えいは、クラウドストレージ、個人メール、スマートフォン、生成AI、共同編集ツール、外部チャット、USB、画面共有、スクリーンショットなど、多様な経路で発生します。

規程では、次を明記する。

  1. 会社情報を副業・兼業に利用しありません。
  2. 副業・兼業先の情報を会社の業務に持ち込まありません。
  3. 会社端末、会社ネットワーク、会社メール、社内チャット、会社クラウドを副業・兼業に使用しありません。
  4. 会社の資料、テンプレート、ソースコード、顧客リスト、価格表、営業資料を転用しありません。
  5. 副業・兼業に生成AIを利用する場合も、会社情報を入力しありません。
  6. 違反または疑いがある場合は直ちに報告する。

11.2 個人情報保護

副業・兼業において個人情報を扱う場合、会社の個人情報と副業先の個人情報が混在すると重大な問題になります。個人情報保護委員会は、漏えい等の対応に関する資料、報告フォーム、ガイダンス、Q&Aを公表しており、個人データ漏えい等が発生した場合の報告・本人通知の制度運用を示しています。

規程上は、従業員が自社の個人データを副業・兼業に利用することを明確に禁止する。また、副業・兼業先の個人データを自社環境に保存することも禁止する。会社の端末に副業先の顧客リストが保存されると、情報漏えい時に責任範囲が不明確になります。

11.3 営業秘密と退職後競業との接続

副業・兼業規程は、退職後競業避止義務とも接続します。副業・兼業を通じて従業員が競合事業を育て、退職後に自社顧客を誘引するリスクがあります。もっとも、退職後競業避止は職業選択の自由との関係で厳格に考える必要があるため、副業・兼業規程だけで無限定な退職後制限を課すべきではありません。

実務上は、在職中の副業・兼業規程で秘密情報の不使用、顧客情報の不利用、会社機会の流用禁止を明確化し、退職後の競業避止は別途、職種、地域、期間、代償措置、対象情報を限定した誓約書または合意書で管理します。

Section 11

副業・兼業規程 ― 12. フリーランス型副業とフリーランス法

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

副業・兼業が業務委託型で行われる場合、労働時間通算の対象外となることがあります。しかし、会社が従業員に副業を業務委託として行わせる、または社外のフリーランスを受け入れる場合には、労働者性とフリーランス法の問題が生じます。

フリーランス・事業者間取引適正化等法は、令和6年11月1日に施行され、個人として業務委託を受けるフリーランスと発注事業者との間の取引適正化および就業環境整備を目的としています。公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省は、それぞれ関連資料を公表しています。

副業・兼業規程との関係では、次の点が重要です。

  1. 従業員がフリーランスとして副業する場合、雇用型と異なり労働時間通算の扱いが変わる可能性があります。
  2. 形式上フリーランスでも、実態が指揮命令下の労働であれば、労働法規の適用を受ける可能性があります。
  3. 会社が自社従業員に、労働時間規制を回避する目的で業務委託型副業をさせる設計は危険です。
  4. 会社が副業人材を業務委託で受け入れる場合、取引条件明示、報酬支払、ハラスメント対策、中途解除予告等のフリーランス法対応が必要となる場合があります。
  5. 副業・兼業規程では、請負・委託・準委任契約であっても、実態に応じて労働契約と評価される場合があることを明示します。
Section 12

副業・兼業規程 ― 13. 税務、社会保険、労災、雇用保険

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

副業・兼業規程は、税務や社会保険の詳細な解説書ではありません。しかし、従業員から質問が多く、会社として誤案内をすると混乱を招くため、最低限の案内条項またはFAQを整備すべきです。

13.1 税務

国税庁は、給与所得者で確定申告が必要な人に関するタックスアンサーを公表しています。また、雑所得について、副業に係る所得、たとえば執筆料やシェアリングエコノミーに係る所得などが該当する場合があると説明しています。

会社の副業・兼業規程では、次のように整理するのが安全です。

  1. 副業・兼業に関する所得税、住民税、消費税、インボイス、帳簿保存等は、従業員本人が自己の責任で確認し、必要に応じて税理士または税務署に相談する。
  2. 会社は、従業員の個別税務判断を行わありません。
  3. 副業収入の有無や金額の確認は、法令遵守、労務管理、利益相反確認に必要な範囲に限定します。
  4. 会社が副業先への報酬支払者となる場合は、源泉徴収、支払調書、消費税その他の税務処理を別途確認します。

13.2 社会保険

日本年金機構は、兼業・副業等により2カ所以上の事業所で勤務し、それぞれの事業所で社会保険の加入要件を満たす場合、本人から二以上事業所勤務届を提出する必要があることを案内しています。

副業・兼業規程では、社会保険の加入判定や届出は、従業員本人および関係事業所が制度に従い行うこと、会社は必要な範囲で案内または手続協力を行うことを定める。

13.3 労災保険

厚生労働省は、複数事業労働者の労災保険給付について、複数就業先の賃金額を基礎として給付額を算定する制度を案内しています。労災保険制度上、複数事業労働者やその遺族への給付額は、全ての就業先の賃金額を合算した額を基礎として決定されます。

規程上は、従業員が副業先で労災事故に遭った場合または自社業務に影響する傷病が生じた場合の報告義務を置きます。会社は、労災保険の個別請求手続を本人任せにするだけでなく、自社に関係する資料提出や労働時間情報の整理に対応できます体制を整えるべきです。

13.4 雇用保険

雇用保険は、原則として主たる事業所で適用要件を満たす場合に被保険者となります。厚生労働省は、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が一定要件を満たす場合、本人の申出によりマルチ高年齢被保険者となることができるマルチジョブホルダー制度を案内しています。

副業・兼業規程では、雇用保険の適用関係は個別事情により異なるため、従業員本人がハローワーク等に確認すること、会社は必要な証明に協力することを定めるのが実務的です。

Section 13

副業・兼業規程 ― 14. 就業規則としての作成、変更、届出、周知

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

副業・兼業規程を就業規則の一部として置く場合、労働基準法上の就業規則手続が問題になります。厚生労働省は、常時10人以上の従業員を使用する使用者は、労働基準法第89条により就業規則を作成し、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があり、変更する場合も同様であると案内しています。

14.1 手続の基本

副業・兼業規程を就業規則に新設する場合の標準手続は以下のとおりです。

  1. 現状調査とリスク分析。
  2. 規程案、届出様式、合意書、FAQ、運用手順を作成。
  3. 労働組合または過半数代表者に説明。
  4. 意見書を取得。
  5. 就業規則変更届を所轄労働基準監督署に提出。
  6. 従業員に周知。
  7. 管理職、人事、法務、情報システム向け研修を実施。
  8. 運用開始後、相談・届出状況をレビュー。

14.2 不利益変更の問題

既存の就業規則が副業を広く認めていたのに、新たな規程で厳しく制限する場合、労働条件の不利益変更が問題となる可能性があります。厚生労働省は、労働契約の変更について、使用者が一方的に就業規則を変更しても労働者の不利益に労働条件を変更できず、就業規則により変更する場合は内容の合理性と労働者への周知が必要と説明しています。

反対に、従来の全面禁止から原則許容へ改定する場合は、一般に労働者に有利な変更となります。しかし、届出義務、情報申告義務、健康管理報告義務、競業制限が新たに追加されるため、説明と周知は重要です。

Section 14

15. 副業・兼業規程のサンプル条項

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

以下は、実務上の検討素材であり、各社の業種、職種、労働時間制度、情報管理体制、労使関係に応じた修正が必要です。

15.1 本則型サンプル

第1条 目的
本規程は、従業員が勤務時間外に副業・兼業を行う場合の手続、確認事項、禁止または制限事由、労働時間管理、健康管理、秘密保持、競業避止その他必要な事項を定め、従業員の多様な働き方と会社の事業上の正当な利益、法令遵守および安全衛生を調和させることを目的とする。
第2条 定義
本規程において副業・兼業とは、従業員が会社の勤務時間外に、他の事業者、団体または個人のために労務、役務、業務、助言、制作、販売、講演、執筆その他の活動を反復継続して行い、または自己の事業を営むことをいいます。雇用、請負、委託、準委任、役員就任、顧問、個人事業その他契約名称を問わありません。
第3条 基本方針
従業員は、勤務時間外において、副業・兼業を行うことができます。ただし、副業・兼業が本規程に定める禁止または制限事由に該当する場合、会社は必要かつ相当な範囲で、副業・兼業の中止、変更、時間短縮、条件付実施その他の措置を求めることができます。
第4条 届出
従業員は、副業・兼業を開始しようとする場合、会社所定の様式により、開始予定日の前までに届け出なければなりません。届出事項に重要な変更が生じた場合または副業・兼業を終了した場合も同様とします。
第5条 届出事項
従業員は、前条の届出において、副業・兼業先の名称、事業内容、業務内容、契約形態、開始日、予定期間、所定労働日、所定労働時間、所定外労働の見込み、深夜労働の有無、会社の事業・顧客・取引先との関係、会社情報または会社設備の使用予定の有無その他会社が法令遵守、労務管理、健康管理、秘密保持、競業避止のため必要と認める事項を申告する。
第6条 禁止または制限事由
会社は、副業・兼業が次の各号のいずれかに該当し、または該当する高度の蓋然性がある場合、必要かつ相当な範囲で、当該副業・兼業を禁止または制限することができます。
1 労務提供、勤務態度、職務遂行、成果物、納期、安全確保または顧客対応に具体的な支障が生じる場合。
2 長時間労働、深夜労働、連続勤務、休息不足その他の事情により、従業員の健康確保に重大な支障が生じるおそれがある場合。
3 会社または第三者の秘密情報、営業秘密、個人情報、未公開情報その他業務上知り得た情報の漏えい、使用、持込みまたは混同のおそれが具体的に認められる場合。
4 会社の事業、顧客、取引先、研究開発、営業活動その他の正当な利益を不当に害する競業または利益相反が認められる場合。
5 会社の名誉、信用、ブランドまたは社会的評価を害し、または第三者に会社の関与、承認、推奨があると誤認させるおそれがある場合。
6 法令、公序良俗、反社会的勢力排除方針その他会社のコンプライアンス方針に反する場合。
7 その他前各号に準ずる重大な支障がある場合。
第7条 会社の確認および回答
会社は、届出を受けた場合、必要な確認を行い、原則として必要資料が整った日から10営業日以内に回答する。会社は、確認に必要な範囲で追加資料または説明を求めることができます。
第8条 労働時間の申告
雇用型の副業・兼業を行う従業員は、会社が労働基準法その他関係法令を遵守するため必要な範囲で、副業・兼業先における所定労働時間、所定外労働時間、実労働時間その他会社所定の事項を申告しなければなりません。
第9条 健康管理
従業員は、副業・兼業を行う場合、自らの業務量、労働時間、休息、睡眠および健康状態を管理しなければなりません。従業員は、副業・兼業により疲労、体調不良、睡眠不足、労災事故その他会社業務への支障が生じ、または生じるおそれがある場合、速やかに会社へ報告しなければなりません。
第10条 秘密保持および情報管理
従業員は、会社の秘密情報、営業秘密、個人情報、顧客情報、技術情報、未公開情報、社内資料、ソースコードその他会社業務に関連して知り得た情報を、副業・兼業に使用し、第三者に開示し、または副業・兼業先に持ち込んではなりません。従業員は、副業・兼業先その他第三者の秘密情報を会社業務に持ち込んではなりません。
第11条 会社設備等の利用禁止
従業員は、会社の端末、通信回線、メールアカウント、クラウドサービス、社内システム、資料、名刺、肩書、ロゴ、商標その他会社の設備、資産または表示を、副業・兼業のために使用してはなりません。ただし、会社が事前に書面または電磁的方法により承認した場合はこの限りではありません。
第12条 競業および利益相反
従業員は、副業・兼業により会社の正当な利益を害する競業行為または利益相反行為を行ってはなりません。従業員は、会社の顧客、取引先、競合事業者または自らの職務と密接に関連する相手方との副業・兼業を行う場合、あらかじめ会社に具体的内容を申告しなければなりません。
第13条 調査および是正
会社は、副業・兼業に関して本規程違反またはその疑いがある場合、必要かつ相当な範囲で、従業員に説明、資料提出、是正、停止または再発防止策を求めることができます。会社は、調査にあたり、従業員のプライバシーおよび個人情報の保護に配慮する。
第14条 不利益取扱いの禁止
会社は、従業員が副業・兼業に関して相談、届出、報告または協議を行ったことのみを理由として、不利益な取扱いをしありません。
第15条 懲戒
従業員が本規程に違反した場合、会社は、就業規則の定めに従い、違反の内容、故意または過失、会社または第三者への影響、反復性、是正状況その他一切の事情を考慮して、必要かつ相当な措置を講じることができます。
第16条 個人情報の取扱い
会社は、本規程に基づき取得した従業員の副業・兼業に関する情報を、法令遵守、労務管理、健康管理、秘密保持、競業避止、利益相反管理その他本規程の目的達成に必要な範囲で利用し、正当な理由なく第三者に提供しありません。

15.2 細則で定めるべき事項

本則にすべてを書き込むと、規程が長くなりすぎる。以下は細則、運用マニュアル、届出様式、FAQに分けるとよい。

次の比較表は、15. 副業・兼業規程のサンプル条項に関する項目を横に並べたものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから制度上の扱いと実務対応を区別することです。各行を見比べ、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

文書内容
副業・兼業届出書副業先、契約形態、労働時間、業務内容、競業関係、会社設備使用の有無
労働時間申告書所定労働時間、所定外労働、実労働時間、深夜労働、休日労働
管理モデル合意書労働時間上限、報告頻度、副業先との連絡、変更時対応
競業・利益相反確認票顧客重複、取引先関係、役職、情報アクセス、営業秘密リスク
情報管理誓約書会社情報不使用、副業先情報不持込み、会社端末不使用
FAQ税務、社保、住民税、労災、届出期限、違反時対応
Section 15

副業・兼業規程 ― 16. 役員、管理職、専門職の特別管理

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

16.1 役員

取締役、執行役、執行役員、監査役、重要な経営幹部は、一般従業員よりも重い忠実義務、善管注意義務、利益相反管理義務を負う。会社法上の競業取引や利益相反取引に該当する場合、取締役会承認等が必要となることがあります。副業・兼業規程とは別に、役員兼職規程、関連当事者取引規程、利益相反管理規程で管理すべきです。

16.2 管理職

管理職は、会社の機密情報や人事情報に接することが多いです。労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかにかかわらず、競業、利益相反、情報漏えいの確認を強化する合理性があります。ただし、「管理職だから副業は全面禁止」とする場合には、職務内容、情報アクセス、責任範囲を踏まえた説明が必要です。

16.3 専門職

弁護士、公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、医師、薬剤師、建築士、技術士、研究者、教員などの専門職は、外部活動が職業倫理、資格法、利益相反、守秘義務、広告規制と関係します。資格登録上の兼職制限や所属機関の規程を確認する必要があります。

Section 16

副業・兼業規程 ― 17. 会社が副業人材を受け入れる場合

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

副業・兼業規程は、自社従業員が外で働く場面だけでなく、他社従業員を自社が副業人材として受け入れる場面にも関係します。

17.1 受入時確認

他社従業員を雇用または業務委託で受け入れる場合、次を確認します。

  1. 相手方が本務先の副業・兼業ルールに違反していませんか。
  2. 本務先の秘密情報を自社に持ち込まないか。
  3. 本務先との競業避止義務や利益相反に抵触しないか。
  4. 雇用型の場合、労働時間通算に必要な情報交換が可能か。
  5. 業務委託型の場合、フリーランス法その他の取引適正化ルールに対応できますか。
  6. 成果物の知的財産権帰属が明確か。

17.2 他社秘密の持込み防止

副業人材を受け入れる会社は、「他社の秘密を持ち込まないでください」と口頭で言うだけでは不十分です。契約書、誓約書、オンボーディング資料、作業環境、ファイル共有設定、生成AI利用ルールを通じて、他社秘密の持込み防止を明文化します。

Section 17

副業・兼業規程 ― 18. 部門別の責任分担

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

副業・兼業規程は、法務部だけでは運用できません。責任分担を明確化する必要があります。

次の比較表は、18. 部門別の責任分担に関する項目を横に並べたものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから制度上の扱いと実務対応を区別することです。各行を見比べ、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

部門役割
経営会議基本方針、許容範囲、リスク許容度の決定
法務規程案、契約、競業、秘密保持、紛争対応
人事労務届出受付、労働時間通算、健康管理、就業規則手続
情報システム会社端末・アカウント利用制限、ログ、情報漏えい対策
コンプライアンス利益相反、反社、贈収賄、社内通報
知財発明、著作物、営業秘密、共同開発リスク
内部監査運用状況、証跡、規程遵守の監査
税務・経理源泉徴収、報酬支払、関連当事者取引、消費税
産業医・保健スタッフ健康面談、過重労働対策、就業上の措置
現場管理職業務支障の把握、勤務状況の確認、従業員面談
Section 18

副業・兼業規程 ― 19. 運用手順

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

19.1 標準手順

  1. 従業員が副業・兼業届を提出する。
  2. 人事労務が形式確認を行います。
  3. 雇用型の場合、労働時間通算の要否を確認します。
  4. 法務またはコンプライアンスが競業、秘密保持、利益相反を確認します。
  5. 情報システムまたは情報管理担当が会社設備・データ利用の有無を確認します。
  6. 必要に応じて現場上長が労務提供上の支障を確認します。
  7. 会社が許容、条件付許容、変更要請、禁止または制限を回答する。
  8. 従業員が開始後、所定の頻度で労働時間や変更事項を報告する。
  9. 問題発生時に是正、面談、制限、懲戒検討を行います。
  10. 年1回、規程と運用の見直しを行います。

19.2 条件付許容の例

禁止か許容かの二択では、実務に合わありません。条件付許容を活用すべきです。

次の比較表は、19. 運用手順に関する項目を横に並べたものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから制度上の扱いと実務対応を区別することです。各行を見比べ、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

リスク条件例
労働時間が多い月間上限、深夜禁止、週1回の休息日確保
競業に近い顧客接触禁止、営業活動禁止、特定業務のみ許容
情報漏えい会社端末使用禁止、資料持出禁止、情報管理誓約書
会社名誤認会社名、肩書、ロゴの使用禁止
健康リスク産業医面談、一定期間後レビュー
役職上リスク経営会議承認、利益相反申告、定期報告
Section 19

副業・兼業規程 ― 20. 違反時対応と懲戒

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

20.1 懲戒の前に事実認定

副業・兼業違反が疑われる場合、まず事実認定を行います。SNS投稿、名刺、ウェブサイト、取引先からの情報、勤怠記録、社内ログ、顧客苦情などを確認します。ただし、私生活調査は必要かつ相当な範囲に限ります。従業員への説明機会を与え、誤認や届出漏れの可能性も確認します。

20.2 懲戒判断要素

次の比較表は、20. 違反時対応と懲戒に関する項目を横に並べたものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから制度上の扱いと実務対応を区別することです。各行を見比べ、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

要素確認内容
規程明確性従業員に予測可能な規程だったか
周知規程、届出方法、禁止事由が周知されていたか
故意過失意図的隠蔽か、誤解か
実害遅刻、欠勤、漏えい、顧客喪失、信用毀損があったか
危険性実害がなくても重大リスクが具体的だったか
反復性注意後も継続したか
職位役職、情報アクセス、責任範囲
比例性懲戒種類が重すぎないか

20.3 是正措置

軽微な届出漏れであれば、届出追完、注意、教育で足りる場合が多いです。重大な競業、秘密漏えい、会社名濫用、虚偽申告、健康・安全上の重大リスクがある場合は、副業停止命令、懲戒、損害賠償請求、差止め、刑事告訴、取引先対応を検討します。

Section 20

副業・兼業規程 ― 21. よくある誤解

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

21.1 「副業は全部禁止できます」

現在の裁判例、行政資料、モデル就業規則の方向性からすれば、全面禁止を当然視することは危険です。全面禁止が許容されるには、業種、職種、秘密情報、健康安全、規制上の理由など、相当強い説明が必要です。

21.2 「届出制なら会社は何でも聞ける」

届出制は、会社が副業・兼業に関する私生活情報を無制限に収集できます制度ではありません。収集項目は、労務管理、健康管理、法令遵守、競業避止、秘密保持に必要な範囲に限定します。

21.3 「フリーランス副業なら労働時間管理は不要」

労働時間通算の対象外となる場合はあるが、健康配慮、労務提供上の支障、秘密保持、競業避止は残ります。また、形式上フリーランスでも実態が労働者であれば労働法の適用が問題になります。

21.4 「無届副業は必ず懲戒解雇できます」

無届は規程違反になる可能性がありますが、懲戒解雇の有効性は別問題です。実害、危険性、故意性、職位、反復性、会社の周知状況、比例性を検討する必要があります。

21.5 「副業情報を人事が全社共有してよい」

副業・兼業情報には、勤務先、収入、健康、家庭事情、思想信条に近接する情報が含まれることがあります。共有範囲は、審査・労務管理に必要な担当者に限定します。

Section 21

副業・兼業規程 ― 22. 業界別の留意点

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

22.1 金融機関、上場会社、証券関連

未公開重要情報、インサイダー取引、利益相反、顧客情報、適時開示、反社会的勢力排除、贈収賄防止が重要です。役職員の投資、顧問、社外役員、金融商品販売、暗号資産関連業務には追加審査を要します。

22.2 医療、介護、保育

疲労による事故、感染管理、資格上の責任、利用者情報、夜勤、連続勤務が問題になります。健康管理とシフト管理を重視します。

22.3 IT、AI、データ産業

ソースコード、学習データ、顧客データ、クラウド環境、生成AI入力、OSSライセンス、発明・著作権帰属が重要です。副業で作成したコードと本業コードの混同を防ぐ仕組みが必要です。

22.4 製造、研究開発

技術情報、ノウハウ、図面、試験データ、品質情報、共同研究、特許出願前情報が重要です。研究開発職の副業は、知財部門の確認を必須にします。

22.5 建設、運送、警備

長時間労働、深夜労働、疲労、事故、第三者損害、安全衛生教育が中心となります。副業時間の上限、連続勤務の禁止、運転前休息などを具体化します。

22.6 教育、研究、士業

講演、執筆、非常勤講師、研究会参加は、社会的にも有益な活動です。他方で、所属機関名の使用、利益相反、研究データ、共同研究契約、守秘義務、謝金、研究倫理が問題になります。

Section 22

副業・兼業規程 ― 23. 内部監査とモニタリング

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

副業・兼業規程は、制定しただけでは機能しありません。内部監査は、次の項目を定期的に確認します。

  1. 届出件数、承認件数、条件付件数、禁止件数。
  2. 回答期限の遵守状況。
  3. 労働時間申告の取得率。
  4. 健康面談の実施状況。
  5. 競業・秘密保持審査の証跡。
  6. 個人情報のアクセス権限管理。
  7. 無届副業の相談・通報対応。
  8. 懲戒判断の比例性。
  9. 管理職研修の実施状況。
  10. 規程と実態の乖離。

監査結果は、経営会議、人事、法務、コンプライアンスに共有し、規程改定や教育に反映します。

Section 23

副業・兼業規程 ― 24. 導入時のコミュニケーション

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

副業・兼業規程を導入する際、従業員に「会社が副業を監視する制度」と受け止められると、届出が進みません。会社は、次のメッセージを明確に伝えるべきです。

  1. 原則として副業・兼業を認める方針です。
  2. 届出は、禁止のためではなく、労働時間、健康、秘密保持、競業、会社信用を適切に管理するためです。
  3. 相談や届出を理由に不利益取扱いはしありません。
  4. 税務や社会保険など、本人が確認すべき事項もあります。
  5. 困った場合には、人事、法務、相談窓口に事前相談できます。
Section 24

25. 副業・兼業規程の作成チェックリスト

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

次の比較表は、25. 副業・兼業規程の作成チェックリストに関する項目を横に並べたものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから制度上の扱いと実務対応を区別することです。各行を見比べ、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

項目確認
基本方針原則許容、例外制限の構造になっているか
定義雇用、業務委託、役員、自営を含めているか
届出届出事項が必要十分か
回答期限会社の回答期限を定めているか
禁止事由労務提供、健康、秘密、競業、信用、法令違反を具体化していますか
労働時間雇用型副業の通算、申告、管理モデルを扱っているか
健康管理過重労働、深夜労働、面談、措置を扱っているか
情報管理会社情報不使用、副業先情報不持込み、会社設備不使用を定めているか
競業同業禁止ではなく正当利益侵害を基準にしていますか
不利益取扱い相談・届出のみを理由とする不利益取扱いを禁止していますか
懲戒比例原則、事実確認、説明機会を踏まえているか
個人情報副業情報の利用目的、共有範囲、保管期間を定めているか
手続就業規則変更、意見聴取、届出、周知を行っているか
教育管理職、従業員、人事法務向け研修を準備していますか
監査運用レビュー、内部監査、改善サイクルを設けているか
Section 25

副業・兼業規程 ― 26. 結論

この章では、制度理解と実務対応を分け、確認すべき資料・数値・判断要素を整理します。

副業・兼業規程の本質は、禁止ではなく調整です。従業員の勤務時間外の自由を尊重しながら、会社の労務提供確保、健康配慮、秘密保持、競業避止、信用維持、労働時間管理を実現するには、抽象的な全面禁止ではなく、届出制、リスク評価、条件付許容、例外的禁止、証跡管理を組み合わせる必要があります。

企業法務の観点からは、規程の文言だけでなく、運用の一貫性が重要です。同じような副業をある従業員には認め、別の従業員には合理的理由なく禁止する運用は、制度への信頼を損ないます。人事労務の観点からは、労働時間通算、割増賃金、健康管理、社会保険、労災を実務に落とし込む必要があります。情報管理の観点からは、営業秘密、個人情報、生成AI、クラウド、会社設備利用を具体的に統制しなければなりません。

副業・兼業規程は、働き方の多様化に対応する企業のガバナンス文書です。適切に設計された規程は、従業員の挑戦を支え、企業のリスクを可視化し、労使双方にとって予測可能なルールを提供します。逆に、不明確で過度に厳しい規程は、無届副業を増やし、実務リスクを地下化させます。したがって、今後の副業・兼業規程は、法令、裁判例、行政ガイドライン、情報管理、労務実務、税務・社会保険、企業文化を統合した、精密な制度設計として位置づけるべきです。

Reference

この記事の参考資料

公的機関・行政資料

  • 厚生労働省「副業・兼業」
  • 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」令和4年7月改定版
  • 厚生労働省「モデル就業規則について」
  • 厚生労働省「モデル就業規則」
  • 厚生労働省「副業や兼業として働いている勤務先の労働時間についても通算しなければならないと聞きました。副業・兼業先の労働時間についてはどのように把握すればよいでしょうか。」
  • 厚生労働省「副業・兼業に関する裁判例」
  • 経済産業省「営業秘密、営業秘密を守り活用する」
  • 経済産業省「営業秘密管理指針」
  • 個人情報保護委員会「漏えい等の対応とお役立ち資料」
  • 内閣官房「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律等に係る取組について」
  • 公正取引委員会「フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組」
  • 厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方等へ」
  • 国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」
  • 国税庁「No.1500 雑所得」
  • 日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」
  • 厚生労働省「兼業・副業の労災保険。労災にあった場合の給付はどうなる?」
  • 厚生労働省「雇用保険マルチジョブホルダー制度について」
  • 厚生労働省「労働契約、契約の締結、労働条件の変更、解雇等」
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