事業譲渡の定義、会社法 上の承認、契約承継、従業員対応、許認可、税務、個人情報、知財、独占禁止法、PMI までを一体で整理します。
事業譲渡は、事業を動かす機能を法律・税務・労務・許認可・PMIまで含めて移す総合実務です。
事業譲渡は、会社または事業者が営む事業の全部または一部を、他の会社や事業者へ移す取引です。M&A、事業承継、グループ再編、不採算事業の撤退、スタートアップの事業売却、スポンサー支援、倒産・再生局面の事業救済など、幅広い場面で利用されます。
単なる店舗や設備の売買ではなく、動産、不動産、在庫、売掛金、契約、知的財産、ノウハウ、顧客関係、従業員、許認可、システム、個人情報、ブランド、取引先との信用、債務、訴訟リスクなどを、どの範囲で移すかが中心になります。多くの要素は契約だけで自動的に移らないため、第三者同意、行政手続、登記、通知、個別契約、労働者本人の同意、株主総会承認、独占禁止法上の届出を整理する必要があります。
この強調部分は、事業譲渡を資産売買としてだけ見ないための要点を示しています。読者にとって重要なのは、移す対象の広さよりも、移した後に事業が実際に動くかを読み取ることです。
法律、税務、会計、労務、知財、個人情報、許認可、競争法、内部統制、PMIを分けて考えると、重要な承継漏れや想定外の責任が残りやすくなります。
次の一覧は、事業譲渡で最初に押さえるべき3つの視点を整理したものです。各項目は、後続の章で検討する会社法手続、契約実務、PMIの土台になるため、どこに手続漏れが起きやすいかを確認してください。
対象事業、譲渡資産、除外資産、承継債務、除外債務、対象契約、対象従業員、対象知財を具体的にリスト化します。
顧客、従業員、システム、請求、許認可、データ、品質管理をクロージング後に安定させ、100日間の統合管理につなげます。
このページは日本法を前提とする一般的な解説です。実際の案件では、対象事業、会社の機関設計、株主構成、労働者の状況、許認可、債権者、取引先、税務、競争法、個人情報、業法、倒産可能性によって結論が変わります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家に相談する必要があります。
譲渡会社、譲受会社、対象事業の意味を確認し、営業譲渡との関係や典型的な利用場面を整理します。
事業譲渡とは、会社または事業者が営む一定の事業を、取引契約により他の者へ移転することをいいます。会社法は、事業の全部の譲渡、事業の重要な一部の譲渡、他の会社の事業の全部の譲受けなどを、株主総会承認の対象となり得る行為として定めています。
ここでいう事業は、個々の財産の集合だけではありません。商品やサービスを提供する設備、在庫、システム、契約、従業員、ノウハウ、顧客や取引先との継続的関係、ブランド、商標、屋号、営業秘密、販売網、売上や利益を生み出す業務手順、許認可、社内規程、運用体制が一体となったものです。
譲渡会社は事業を売る側、譲受会社は事業を買う側、対象事業は移転対象となる事業単位です。対象事業の範囲が曖昧なまま契約すると、この契約は移ったのか、この債務は誰が負担するのか、この従業員は転籍対象なのか、この商標は使えるのかといった紛争が起きやすくなります。
現在の会社法では主に事業譲渡という語が使われますが、判例、契約書、税務資料では営業譲渡という表現が残ることがあります。実務では名称よりも、一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産、取引関係、営業活動が移るかを確認します。
次の一覧は、事業譲渡が使われる代表的な場面を整理しています。なぜその場面で選ばれるのかを押さえると、株式譲渡や会社分割との使い分けを読み取りやすくなります。
後継者不在の会社が、会社全体ではなく収益性のある事業だけを第三者へ譲渡する場面です。対象資産と対象負債を選別しやすい点が特徴です。
不採算事業、非中核事業、重複事業、規制対応コストの大きい事業を切り出し、経営資源を集中させる場面です。
特定のプロダクト、サービス、顧客基盤、ソースコード、商標、データ、チームを移す場面です。知財、OSS、クラウド契約、個人情報、利用規約が中心論点になります。
財務的に苦境にある会社が、価値のある事業をスポンサーへ移し、雇用や取引を維持する場面です。価格の相当性、債権者平等、詐害性が重要です。
事業譲渡は、株式譲渡、会社分割、合併、資産譲渡と似て見えますが、権利義務がどう移るか、過去リスクをどこまで引き継ぐか、個別同意がどれほど必要かが異なります。次の比較表では、移転の単位と実務上の注意点を読み比べてください。
| 手法 | 移転の単位 | 主な強み | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 事業譲渡 | 対象事業を構成する資産、契約、権利義務を個別に移す | 欲しい事業だけを選びやすく、不要資産や一部の過去リスクを切り分けやすい | 契約、許認可、雇用、知財、データ、登記、債権者対応の個別手続が増える |
| 株式譲渡 | 対象会社の株式を取得し、会社自体は存続する | 契約、許認可、雇用契約が会社内に残りやすく、移転手続は比較的少ない | 簿外債務、訴訟、税務、労務、環境など過去リスクも会社に残る |
| 会社分割 | 会社法上の組織再編として権利義務を包括承継させる | 対象事業に関する権利義務を制度的にまとめて移しやすい | 労働契約承継法など固有の手続があり、債権者保護や開示も問題になる |
| 合併 | 会社全体を統合し、消滅会社の権利義務を原則包括承継する | 会社全体の統合に向く | 特定事業だけを選別する設計には向きにくい |
| 資産譲渡 | 機械、在庫、不動産、知財など個別資産を売買する | 単一資産の移転には簡明 | 複数資産が一つの事業機能を移す実質なら、会社法上の事業譲渡に該当する可能性がある |
次の比較表は、売主と買主それぞれの利点と負担を並べたものです。事業譲渡はリスクを選別しやすい一方、移転作業の細かさが価値実現を左右する点を読み取ることが重要です。
| 立場 | 主な利点 | 主な負担・リスク |
|---|---|---|
| 譲渡会社 | 特定事業だけを売却し、非中核事業の切り離し、撤退、経営資源集中、売却代金の活用ができる | 株主総会承認、反対株主対応、契約相手方同意、債権者対応、譲渡益課税、消費税、競業避止義務が問題になる |
| 譲受会社 | 必要な事業、人材、顧客、技術、販路を選別して取得し、既存事業とのシナジーを狙える | 重要契約、賃貸借、従業員、許認可、個人情報、知財、IT移行が未完了だと、期待した価値を実現できない |
会社法467条、468条、469条、21条、22条に関わる承認・責任・通知の要点を整理します。
株式会社が事業譲渡等を行う場合、会社法467条により、一定の行為について効力発生日の前日までに株主総会決議による契約承認が必要となることがあります。典型例は、事業の全部の譲渡、事業の重要な一部の譲渡、他の会社の事業の全部の譲受け、事業全部の賃貸、事業全部の経営委任、損益全部共通契約などです。
次の比較表は、会社法手続で特に確認すべき数値と制度を整理したものです。条文番号だけでなく、いつ、誰に、どのような効果が生じるかを読み取ることが重要です。
| 論点 | 主な内容 | 実務で確認すること |
|---|---|---|
| 重要な一部 | 譲渡資産の帳簿価額が総資産額の5分の1を超えるかが重要な基準 | 定款でより低い割合が定められていないか、総資産額や帳簿価額の算定基準日を確認する |
| 特別決議 | 原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要 | 定足数、種類株式、拒否権条項、株主間契約、親会社承認を確認する |
| 簡易・略式手続 | 一定の場合に株主総会承認が不要となる例外がある | 譲渡会社側と譲受会社側のどちらに例外が使えるか、反対通知で承認が必要に戻らないかを確認する |
| 反対株主の株式買取請求 | 会社は効力発生日の20日前までに通知し、反対株主は効力発生日の20日前から前日までに請求する | 通知・公告、反対通知、価格算定、価格決定申立て、資金手当てを準備する |
| 競業避止義務 | 同一市町村および隣接市町村で一定期間同一事業を行えないことがある | 地域、期間、対象事業、グループ会社、役員、創業者、既存事業の例外を契約で調整する |
| 商号続用責任 | 譲受会社が譲渡会社の商号を続けて使う場合、譲渡会社の事業債務について責任を負うことがある | 商号、屋号、ブランド、ドメイン、請求書、名刺、表示、広告の同一性を確認する |
次の判断の流れは、会社法上の承認手続を初期検討する順番を示しています。上から順に確認すると、株主総会、例外手続、通知・公告、反対株主対応の抜けを見つけやすくなります。
対象事業、対象資産、対象負債、効力発生日を整理します。
総資産額の5分の1基準、定款、事業価値への影響を確認します。
特別決議、20日前通知、買取請求期間、資金手当てを準備します。
重要な財産処分、利益相反、価格の相当性、議事録を確認します。
取締役会設置会社では、重要な財産の処分・譲受け、多額の借財、重要な組織・業務の決定に関係するため、取締役会決議が必要になることが一般的です。株主総会承認を要しない規模でも、善管注意義務、利益相反、価格の相当性、情報開示、内部統制上の承認プロセスは問題になります。
事業譲渡契約で何を移し、何を除外し、どのリスクを誰が負担するかを具体化します。
事業譲渡契約は、譲渡会社が対象事業を譲受会社へ譲渡し、譲受会社が対価を支払うことを定める契約です。契約書に事業を譲渡すると書くだけでは足りず、対象事業を構成する資産、負債、契約、従業員、知財、情報、許認可、顧客関係を、どの範囲で、どの条件で、いつ、どの手続で移すかを具体化します。
次の一覧は、事業譲渡契約で優先的に設計する条項群を整理しています。それぞれが何を移し、何を残し、どのリスクを誰が負担するかを読むための骨格になります。
対象事業、譲渡資産、除外資産、承継債務、除外債務、対象契約、対象従業員、対象知財、効力発生日、重大な悪影響を定義します。
範囲確定不動産、設備、在庫、売掛金、契約上の地位、知財、ドメイン、ソースコード、営業秘密、顧客リスト、帳簿などを個別リスト化します。
別紙管理対象契約上の将来債務、転籍後賃金、リース債務、前受金対応などを分け、未払債務、税務債務、過去紛争、環境責任をどう残すか定めます。
第三者同意固定価格、運転資本調整、純有利子負債調整、在庫評価、アーンアウト、エスクロー、分割払い、マイルストーン払いを設計します。
税務連動権限、承認、所有権、契約、財務、税務、労務、許認可、知財、個人情報、訴訟、環境、反社などを確認し、違反時の補償を定めます。
上限・期間株主総会、独禁法届出、重要契約同意、従業員同意、許認可、担保抹消、金融機関同意、移行支援契約を実行条件にします。
実行管理次の比較表は、価格と補償の設計がどの実務領域に影響するかを示しています。数字の決め方だけでなく、税務、会計、将来損益、紛争処理のどこへ波及するかを確認してください。
| 設計項目 | 主な内容 | 影響する領域 |
|---|---|---|
| 対価配分 | 土地、建物、在庫、営業権、知財、ソフトウェア、のれん、契約上の地位へ価格を配分 | 法人税、消費税、減価償却、登録免許税、不動産取得税、印紙税 |
| 補償上限・免責 | 補償上限額、免責額、バスケット、デミニミス、補償期間を設定 | 表明保証違反、第三者請求、除外債務、税務債務、労務紛争 |
| 第三者請求対応 | 請求通知、防御権限、和解承諾、費用負担を定める | 訴訟、行政処分、顧客クレーム、製品責任、環境責任 |
| TSA | 経理、人事、IT、物流、品質保証、調達、ライセンス管理を一定期間支援 | 事業継続、SLA、データアクセス、セキュリティ、終了時対応 |
デューデリジェンスは、買主が対象事業の価値とリスクを調査する手続です。事業譲渡では会社全体ではなく対象事業だけを切り出すため、対象事業に何が含まれるかを正確に把握することが最も重要です。
次の一覧は、事業譲渡DDで見落とされやすいリスク領域を整理しています。各項目は最終契約の譲渡範囲、表明保証、補償、クロージング条件へ反映されるため、調査結果を契約条件にどう落とすかを読み取ってください。
権利帰属、主要契約、譲渡禁止、解除、チェンジオブコントロール、許認可、訴訟、個人情報、反社、贈収賄、輸出管理を確認します。
売上、利益、運転資本、在庫、売掛金、固定資産、引当金、偶発債務、セグメント損益、共通費配賦を確認します。
税務簿価、含み益、消費税区分、固定資産税、不動産取得税、登録免許税、印紙税、国際税務、移転価格を確認します。
対象従業員、賃金、賞与、退職金、未払残業代、有給休暇、労働時間、労働組合、社会保険、外国人雇用を確認します。
商標、特許、著作権、ソースコード、OSS、データベース、ドメイン、SaaS、セキュリティ、移行可能性を確認します。
行政指導、関連当事者取引、下請法、独禁法、業法、内部通報、贈収賄、制裁、保険、環境、品質問題を確認します。
事業譲渡では、対象事業単独の財務諸表がないことがあります。売主の管理会計では黒字でも、買主が独立運営した場合には、共通費、間接部門費、人件費、システム費、賃料、物流費、親会社支援費用が増えて赤字になることがあります。
DDで確認できなかったリスクは、表明保証、補償、クロージング条件、価格調整、除外債務、エスクロー、TSA、移行計画へ反映します。調査だけで止めると、発見したリスクが契約上処理されないまま残るため注意が必要です。
労働契約は当然には承継されないため、転籍同意、労使協議、対象従業員の選定を慎重に進めます。
会社分割とは異なり、事業譲渡では労働契約が当然に譲受会社へ承継されるわけではありません。従業員を譲受会社へ移すには、原則として労働者本人の同意を得て、転籍または新規雇用契約を締結する必要があります。
次の時系列は、労働者本人の真意に基づく同意を確保するための進め方を示しています。順番を飛ばすと、形式的な同意に見えたり、差別的な選定と受け止められたりするため、説明と記録を丁寧に残すことが重要です。
職務、勤務地、賃金、賞与、退職金、評価、労働時間、休日、福利厚生、勤続年数、有給休暇を比較します。
譲受会社の概要、転籍後の役割、拒否した場合の扱い、相談窓口、労使協議の予定を示します。
十分な情報を得たうえで承諾したといえる状況を整え、同意書、新雇用契約、退職・転籍処理を確認します。
対象従業員の選定は、差別的・恣意的であってはなりません。年齢、性別、妊娠・育児、障害、労働組合活動、内部通報、ハラスメント申告などを理由に不利益な選別をすると、労務紛争につながる可能性があります。労働組合がある場合は団体交渉、労働協約、労使慣行、事前協議条項を確認し、組合がない場合でも説明会、個別面談、FAQ、相談窓口を整備します。
次の比較表は、従業員説明で特に確認されやすい事項を整理しています。労働者が何を理解して同意するのかを明確にするため、変更の有無と不利益の有無を読み分けることが大切です。
| 説明事項 | 確認する内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 譲受会社の概要 | 会社情報、事業内容、経営方針、信用情報 | 従業員が移籍先を具体的に理解できる情報を示す |
| 労働条件 | 職務、勤務地、賃金、賞与、退職金、評価制度、労働時間、休日 | 現行条件との差異を比較できる形で説明する |
| 社会保険・福利厚生 | 社会保険、労働保険、福利厚生、勤続年数、有給休暇 | 勤続年数や有給休暇の扱いは誤解が生じやすい |
| 拒否した場合の扱い | 売主での処遇、配置、退職扱いの有無 | 不利益取扱いや退職強要と受け止められない説明が必要 |
| 2026年5月25日以降の指針 | 改正後指針に基づく労働者保護、説明、協議、同意取得 | 適用時期以降に実行される案件では改正内容を確認する |
許認可の承継可否、業法手続、企業結合届出、30日間の実行禁止期間を確認します。
許認可は事業主体に与えられるものが多く、対象事業を譲渡しても当然に譲受会社へ移るとは限りません。建設業、運送業、旅館業、飲食業、医療、介護、薬局、金融、保険、宅建業、廃棄物処理、警備業、古物商、電気通信、放送、職業紹介、人材派遣、酒類販売、食品製造、学校、保育、ヘルスケア、エネルギー、輸出管理では特に確認が必要です。
次の比較表は、許認可DDで見るべき事項と契約上の対応を示しています。許認可取得がクロージングに間に合うかを読み取ることで、事業停止リスクを早期に把握できます。
| 確認事項 | 見るべき内容 | 契約・実行上の対応 |
|---|---|---|
| 許認可の基本情報 | 種類、番号、有効期限、名義人、更新期限、営業所、設備、人員基準 | 許認可リストを作成し、クロージング前後の名義と運営主体を確認する |
| 承継可否 | 譲渡・承継可否、事前承認、届出、新規許可、役員・管理者・資格者要件 | 取得完了をクロージング条件にするか、取得不能時の解除権を定める |
| 行政対応 | 行政処分・指導歴、失効リスク、契約解除リスク | 行政庁への事前相談、届出期限、担当専門家を決める |
| 移行期間 | 許認可取得日とクロージング日のずれ | 業務委託、TSA、暫定運営の可否と限界を確認する |
一定規模以上の事業譲受けは、独占禁止法上の企業結合届出の対象になり得ます。公正取引委員会は、譲受会社の国内売上高合計額が200億円を超え、対象事業の国内売上高が30億円を超える場合などに届出要件を示しています。届出対象となる重要部分は、会社法467条等の重要部分と必ずしも一致しません。
次の比較表は、企業結合届出で見るべき数値と審査の観点をまとめています。金額基準だけでなく、届出後30日間の実行禁止期間がスケジュールへ与える影響を確認してください。
| 項目 | 主な内容 | 実務上の読み方 |
|---|---|---|
| 売上高基準 | 譲受会社の国内売上高合計額200億円超、対象事業の国内売上高30億円超など | 事業譲受けの規模と対象事業の範囲を早期に整理する |
| 30日間の実行禁止 | 届出受理日から30日を経過するまで実行できない | 短縮制度の利用可能性を含め、クロージング日を逆算する |
| 実質審査 | 水平型、垂直型、混合型の競争影響を確認する | 市場シェア、競争者、参入障壁、取引先交渉力、データ・ネットワーク効果を見る |
| 問題解消措置 | 競争制限効果が懸念される場合の条件設定 | 事業範囲、契約条件、情報遮断、事業売却などの選択肢を検討する |
資産別課税、のれん、個人データ、商標、ソースコード、営業秘密をまとめて確認します。
事業譲渡は、税務上、原則として個々の資産・負債の移転として処理されます。譲渡会社では譲渡損益が発生し、譲受会社では取得価額が各資産に配分されます。対象資産ごとに、法人税、所得税、消費税、登録免許税、不動産取得税、固定資産税、印紙税、源泉税が問題になります。
次の比較表は、税務・会計上の主な論点を整理しています。対価配分が、売主の譲渡益と買主の償却・仕入税額控除の両方に影響する点を読み取ってください。
| 論点 | 主な内容 | 確認すること |
|---|---|---|
| 消費税 | 国内で事業として対価を得て行う資産の譲渡等は原則課税対象 | 土地、株式、有価証券、貸付金、売掛金、営業権、在庫、建物、ソフトウェア、知財、敷金・保証金を区分する |
| 譲渡所得・法人税 | 個人事業主は資産の性質で所得区分が問題になり、法人は対価と税務簿価の差額が益金・損金に反映される | 低額譲渡、高額譲渡、寄附金、受贈益、移転価格、組織再編税制との比較を検討する |
| のれん・営業権 | 識別可能な資産・負債の純額を超える対価が、超過収益力として問題になる | 会計基準、税法、連結・個別、国際会計基準の適用有無を確認する |
| 資産配分 | 譲渡価額をどの資産に配分するかで税額と将来損益が変わる | 契約書に対価配分表を添付し、売主・買主の申告処理を整合させる |
EC、SaaS、医療、介護、教育、人材、金融、広告、プラットフォーム、会員制サービスでは、顧客データや利用履歴が事業価値の中核になります。事業の承継に伴う個人データ提供は、個人情報保護法上、第三者提供に当たらない場合がありますが、当初の利用目的を超える利用、プライバシーポリシー、利用規約、委託、共同利用、越境移転、Cookie、広告ID、漏えい等報告、セキュリティ管理措置は別途確認します。
次の一覧は、知財やデータを移ったつもりにしないための確認項目です。登録、契約、技術実装、秘密管理のどこで権利が止まるかを読み取ることが重要です。
取引先、金融機関、担保権者、賃貸人、債権者、投資家への対応を事業継続の観点で整理します。
事業譲渡では、売主が締結している契約上の地位を買主へ移すには、原則として契約相手方の同意が必要です。譲渡禁止条項、地位移転禁止条項、解除条項、事前承諾条項、チェンジオブコントロール条項がある場合、同意取得が不可欠になります。
次の判断の流れは、取引先同意を進めるときの順番を示しています。重要契約から優先順位を付け、同意が取れない場合の代替策まで読むことで、クロージング後の提供不能リスクを減らせます。
売上上位顧客、代替困難な仕入先、独占販売、代理店、賃貸借、リース、ライセンス、システム、金融機関契約を並べます。
事前承諾、解除、譲渡禁止、地位移転禁止、チェンジオブコントロールを確認します。
譲受会社の信用、品質、価格、担当者、個人情報、請求支払方法、FAQを準備します。
連絡先、請求、アカウント、サービス継続計画を切り替えます。
売主の債務を買主へ移す場合、債務引受、契約上の地位移転、免責的債務引受、併存的債務引受などの法的構成を検討します。免責的に売主を債務から外すには、債権者の同意が必要となるのが通常です。融資契約では、重要資産の処分禁止、事業譲渡禁止、財務制限条項、期限の利益喪失事由、担保維持義務、事前承諾条項を確認します。
不動産が事業価値の中核になる業種では、所有権移転登記、抵当権抹消、境界、土壌汚染、建築基準法、消防法、用途地域、賃借人、サブリース、固定資産税、不動産取得税を確認します。賃貸物件の場合、賃借権の譲渡または転貸には賃貸人承諾が必要となるのが通常です。
倒産・再生局面では、従業員退職、取引先離脱、信用不安により事業価値が急速に毀損します。スポンサーへの譲渡では、売却価格の相当性、透明性、公正性、債権者説明、裁判所対応、従業員保護、取引継続が重要です。上場会社では、金融商品取引法、証券取引所規則、適時開示、インサイダー取引規制、独立社外取締役、利益相反管理が問題になります。
次の比較表は、相手方対応を領域別に整理しています。誰の同意や説明が事業継続に直結するかを読み取り、クロージング条件や事前作業へ落とし込むことが大切です。
| 領域 | 主な相手方 | 失敗した場合の影響 |
|---|---|---|
| 重要契約 | 顧客、仕入先、代理店、ライセンサー、クラウド事業者 | サービス提供不能、契約解除、売主の契約違反 |
| 金融・担保 | 金融機関、担保権者、リース会社 | 期限の利益喪失、担保解除不能、完全な権利取得の失敗 |
| 不動産 | 賃貸人、保証会社、連帯保証人、行政庁 | 営業場所の喪失、用途制限違反、原状回復紛争 |
| 再生・倒産 | 債権者、スポンサー、裁判所、従業員 | 詐害性、否認、価格不相当、スポンサー責任 |
| 上場会社 | 取引所、投資家、独立社外取締役、支配株主 | 適時開示違反、インサイダー管理不備、少数株主保護の問題 |
事業譲渡の実務は、構想、秘密保持、基本合意、DD、契約交渉、社内承認、クロージング、PMIの順に進みます。契約締結日とクロージング日は同日とは限らず、独禁法届出、株主総会、許認可、従業員同意、取引先同意を経て後日実行することが多くあります。
次の時系列は、事業譲渡の実行手順を示しています。順番ごとの目的を押さえると、どの段階で専門家を入れ、どの段階で条件を固めるべきかを読み取れます。
売主は譲渡理由、残存事業、代金使途を整理し、買主は買収目的と統合方針を検討します。
秘密情報の範囲、利用目的、開示先、返還・廃棄、個人情報、差止め、期間を定めます。
譲渡対象、概算価格、独占交渉権、DD、スケジュール、クロージング条件、法的拘束力の範囲を定めます。
譲渡価額、譲渡対象、除外債務、表明保証、補償、従業員、取引先同意、許認可、税務、TSAを交渉します。
取締役会、株主総会、親会社承認、金融機関同意を経て、代金支払、資産引渡し、契約移転、登記、知財移転、従業員転籍、データ移行を行います。
次の強調部分は、クロージング後100日間を重要期間として扱う理由を示しています。契約完了ではなく、顧客・従業員・取引先に不安を与えない安定運営を読み取ることが大切です。
統合責任者の任命、日次・週次の課題管理、キーパーソン面談、顧客トップ訪問、請求・入金・発注確認、ITアクセス権限、給与移行、コンプライアンス研修、個人情報管理、契約未移転リストの解消を進めます。
PMIでは、経営方針・KPI統合、従業員定着、顧客維持、取引先対応、システム統合、会計・経理・請求、人事制度、コンプライアンス、品質管理、ブランド統合、許認可・行政対応、個人情報・セキュリティ、内部統制を整備します。
専門職ごとの役割と、売主・買主が事前に確認すべき事項を一覧化します。
事業譲渡では、弁護士だけでなく、税理士、公認会計士、社会保険労務士、司法書士、弁理士、行政書士、M&Aアドバイザー、IT・セキュリティ専門家、社内法務、コンプライアンス、内部監査、プライバシー担当が関わります。分野を分けすぎると、契約上は可能でも税務上不合理、労務上不適切、許認可上実行不能という問題が残ります。
次の比較表は、専門職ごとの役割を整理しています。誰がどの論点を主導するかを把握することで、相談漏れと責任の空白を減らせます。
| 専門職・担当 | 主な役割 |
|---|---|
| 弁護士・企業内弁護士 | スキーム設計、法務DD、契約書作成、交渉、会社法手続、独禁法、労務、個人情報、許認可、訴訟リスク、クロージング管理 |
| 司法書士 | 不動産登記、商業登記、担保権抹消、会社登記、議事録・登記必要書類の確認 |
| 税理士・公認会計士 | 譲渡益課税、消費税、資産配分、組織再編税制との比較、財務DD、企業価値評価、のれん、監査対応 |
| 社会保険労務士 | 労働条件、転籍同意、就業規則、社会保険、労働保険、労使協定、未払残業代、退職金、有給休暇、従業員説明 |
| 弁理士・知財担当 | 商標、特許、意匠、ライセンス、知財移転登録、共同開発、ソースコード、著作権、営業秘密 |
| 行政書士・許認可専門家 | 業法上の許認可、届出、行政手続、取得可能性、クロージング条件の確認 |
| 内部監査・コンプライアンス・プライバシー担当 | 統制不備、規程、証跡、反社、贈収賄、下請法、独禁法、内部通報、個人情報、漏えい対応、委託先管理 |
次の一覧は、売主が事業譲渡前に確認する事項です。対象事業をどこまで売り、何を残し、譲渡後の残存会社をどう運営するかを読み取るために使います。
| 区分 | 確認事項 |
|---|---|
| 目的・範囲 | 譲渡理由、対象事業と残存事業の境界、譲渡対象資産、除外資産、承継債務、除外債務 |
| 承認・株主 | 株主総会、取締役会、親会社、金融機関承認、反対株主の株式買取請求リスク |
| 競業・ブランド | 競業避止義務の範囲、商号・ブランドの扱い、残存事業との衝突 |
| 外部対応 | 重要契約の同意、従業員説明、許認可の承継可否、取引先・顧客への説明方針 |
| 税務・代金 | 税務影響、譲渡代金の使途、残存会社の運営体制、補償義務への耐性 |
| 情報管理 | 情報漏えい、インサイダー管理、表明保証違反リスク、TSAで売主が負う義務 |
次の一覧は、買主が事業譲渡前に確認する事項です。買収目的、収益力、人材、契約、許認可、IT、税務、PMIのどこに価値毀損要因があるかを読み取ってください。
| 区分 | 確認事項 |
|---|---|
| 買収目的 | 買収目的とシナジー、独立運営後の収益力、キーパーソン移籍、主要顧客・仕入先の継続 |
| 実行可能性 | 許認可取得、重要契約移転、知財・ブランド使用、個人情報・データ利用、ITシステム移行 |
| リスク | 未払賃金、労務紛争、簿外債務、偶発債務、製品責任、品質問題、環境・土壌汚染、税務リスク |
| 規制・価格 | 独禁法届出、価格配分、税務・会計上の合理性、表明保証・補償によるリスク対応 |
| PMI | TSAの必要性、クロージング後100日計画、従業員定着、顧客維持、内部統制 |
制度の一般的な考え方を整理します。個別案件では事実関係によって結論が変わります。
一般的には、会社や事業者が営む事業の全部または一部を、別の会社や事業者へ移す取引とされています。単なる物の売買ではなく、顧客、契約、設備、在庫、従業員、知財、ノウハウ、許認可、データなど、事業を動かす機能全体をどう移すかが問題になります。ただし、対象事業や契約関係によって結論は変わるため、具体的な対応は弁護士等の専門家に相談する必要があります。
一般的には、事業譲渡では労働契約が当然に譲受会社へ承継されるわけではないとされています。従業員を移すには、労働者本人の同意を得て転籍または新規雇用契約を締結するのが基本です。ただし、説明内容、同意取得の経緯、労使関係によって評価が変わる可能性があります。
一般的には、株式譲渡は会社ごと引き継ぐため契約・許認可・従業員が維持されやすい一方、過去の債務やリスクも会社に残ります。事業譲渡は欲しい事業だけを選びやすい一方、個別移転手続が多くなります。どちらが適するかは、事業範囲、リスク、税務、許認可、労務、契約関係で変わります。
一般的には、会社法467条に該当する事業の全部譲渡、重要な一部譲渡、他社事業全部の譲受けなどでは、効力発生日の前日までに株主総会承認が必要になることがあります。ただし、簡易・略式手続などの例外があり、定款や株主構成によっても判断が変わる可能性があります。
一般的には、多くの許認可は当然には移らないとされています。業法ごとに、承継可能か、新規許可が必要か、事前承認や届出が必要かを確認します。許認可が間に合わない場合、クロージング後に事業を継続できない可能性があります。
一般的には、事業の承継に伴う個人データの提供が個人情報保護法上の第三者提供に当たらない場合があります。ただし、取得時の利用目的を超える利用、プライバシーポリシー、委託、共同利用、越境移転、セキュリティによって対応が変わる可能性があります。
一般的には、国内で事業として対価を得て行う資産の譲渡等は消費税の課税対象とされています。ただし、土地など非課税資産もあり、事業譲渡では課税資産と非課税資産が混在します。資産別の対価配分を整理し、税理士等へ確認する必要があります。
一般的には、対象事業の範囲が曖昧、従業員が移らない、主要顧客が離脱する、許認可が取得できない、契約同意が取れない、システム移行に失敗する、想定外債務が出る、PMIが弱い、情報共有が不足することが失敗原因になり得ます。ただし、どの要因が重要かは案件ごとに異なります。
一般的には、企業法務に詳しい弁護士を中心に、案件内容に応じて税理士、公認会計士、社会保険労務士、司法書士、弁理士、行政書士、M&Aアドバイザー、IT・セキュリティ専門家が関与することがあります。具体的な体制は、対象事業、規模、許認可、労務、税務、データの内容で変わります。
一般的には、小規模案件でも、従業員、顧客契約、個人情報、許認可、税務、商号、債務、知財が絡むと紛争につながる可能性があります。ひな形だけで進めると重要な承継漏れが残ることがあるため、資料を整理したうえで専門家に確認することが有用です。
事業価値を守るために、対象範囲、同意、税務、労務、PMIを一体で設計します。
事業譲渡を成功させるには、対象事業を資産の集合ではなく、収益を生む機能として把握することが重要です。顧客、従業員、契約、許認可、データ、ブランド、システムが一体として動かなければ、事業価値は実現しません。
次の一覧は、実務で最後まで崩してはいけない原則を整理しています。各項目から、契約締結前に確認すべき視点と、譲渡後に維持すべき事業価値の源泉を読み取ってください。
資産だけでなく、人、契約、信用、情報、リスクが一体で動くかを確認します。
法律、税務、会計、労務、知財、IT、許認可を横断して、実行不能な設計を避けます。
説明不足、突然の発表、不透明な労働条件、顧客への不十分な説明は価値毀損につながります。
事業譲渡は契約締結で終わらず、PMIで初めて価値が実現します。
後から契約書だけを整えるより、スキーム、税務、労務、許認可、独禁法、個人情報を初期段階で確認する方が、費用と時間を抑えやすくなります。
事業譲渡とは、事業を構成する資産を売るだけの取引ではなく、事業を動かす仕組み・人・契約・信用・情報・リスクを、法律と実務の両面から再設計して移す取引です。
検討を始める場合は、対象事業の範囲、承継対象、同意取得、許認可、従業員、税務、契約、PMIを一体として設計することが不可欠です。個別の見通しや対応方針は、案件資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
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