土地・建物・マンションの評価方法から、負担付贈与、低額売買、総則6項、民事上の評価との違いまで、贈与前に確認したい論点を整理します。
土地・建物・マンションの評価方法から、負担付贈与、低額売買、総則6項、民事上の評価との違いまで、贈与前に確認したい論点を整理します。
まず、法律上の原則と申告実務で使う評価方法を分けて理解します。
このページは、相続・生前贈与を検討する一般読者に向けて、不動産の贈与税評価を整理するものです。税務申告、税務代理、法律意見、登記申請、鑑定評価を個別に代替するものではありません。実際の申告では、贈与日、所在地、利用状況、権利関係、借入れ、賃貸借、親族間の紛争状況により結論が変わります。
結論の骨格は明確です。法律上の原則は「時価」です。ただし、通常の不動産の無償贈与では、国税庁の財産評価基本通達に基づく相続税評価額、つまり土地なら路線価方式又は倍率方式、家屋なら固定資産税評価額を基礎に贈与税を計算するのが実務の基本です。
次の重要ポイントは、このページ全体の結論を先に示すものです。贈与税評価で迷う理由を短時間で把握するために重要であり、通常の無償贈与と例外的に市場価格が前面に出る場面を読み分けてください。
一般的な親子間の土地・建物の無償贈与では相続税評価額が出発点です。一方、負担付贈与、低額譲受、総則6項、通達評価額が客観的時価を超える特殊事情では、通常の取引価額や鑑定評価が重要になります。
次の比較表は、不動産の贈与税評価を三層に分けた整理です。法律、通常実務、例外を同じ表で見ることが重要であり、どの層の話をしているのかを読み取ると判断の混乱を減らせます。
| 層 | 内容 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 第1層 | 法律上の原則 | 相続税法上、贈与により取得した財産の価額は取得時の時価によります。 |
| 第2層 | 通常実務の標準化 | 土地は路線価方式又は倍率方式、家屋は固定資産税評価額で評価するのが基本です。 |
| 第3層 | 例外・補正 | 負担付贈与、低額譲受、総則6項、通達評価額が客観的時価を超える特殊事案では、市場価格・通常の取引価額・鑑定評価が前面に出ます。 |
一般的な親子間の宅地・建物の無償贈与では、売買査定額や実勢価格をそのまま申告書に書くのではなく、財産評価基本通達に従って評価します。他方、借入金付き不動産の贈与、親子間の低額売買、短期間に高額不動産を移転する相続対策、高額マンション・収益物件などでは、路線価で計算したことだけで十分とはいえません。
同じ不動産でも、市場価格、鑑定評価額、路線価、固定資産税評価額が併存します。
不動産には複数の価格があります。実際に売れそうな市場価格又は不動産会社の査定額、不動産鑑定士による鑑定評価額、国税庁の相続税路線価に基づく相続税評価額、市区町村の固定資産税評価額、地価公示価格、基準地価、近隣売買事例などです。共有持分、借地権、賃貸中不動産では権利関係を反映した価額も問題になります。
混乱が生じるのは、法律が時価を出発点にし、税務実務が路線価方式・倍率方式・固定資産税評価額を使い、民事紛争では実勢価格や鑑定評価額が問題になるためです。これは矛盾ではなく、時価を全国の財産に公平かつ大量に適用するための標準化と理解できます。
次の比較表は、本文で繰り返し出てくる基本用語の違いを整理したものです。評価方法を間違えないために重要であり、どの用語が税額計算、どの用語が市場価値や例外判断に関係するかを読み取ってください。
| 用語 | 意味 | 不動産贈与での位置づけ |
|---|---|---|
| 贈与税 | 個人から財産をもらった受贈者に課される税です。 | 暦年課税では1月1日から12月31日までの贈与財産価額を合計し、基礎控除額110万円を差し引きます。 |
| 時価 | 相続税法22条が定める取得時の価額です。 | 最高裁令和4年4月19日判決では客観的な交換価値と位置づけられています。 |
| 相続税路線価 | 道路に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額です。 | 路線価地域の宅地評価で、奥行価格補正率などを反映して使います。 |
| 相続税評価額 | 相続税・贈与税の財産評価のために算定する税務上の評価額です。 | 市場で売れる金額そのものではなく、税務上の標準化された評価額です。 |
| 固定資産税評価額 | 市区町村等が固定資産税課税のために付す評価額です。 | 家屋の贈与税評価では、原則として固定資産税評価額を使います。 |
| 通常の取引価額 | 通常の市場取引で成立すると認められる価額です。 | 負担付贈与や低額譲受の場面で重要になります。 |
次の3つの観点は、法律と実務の関係を整理するための重要ポイントです。通達評価が基本になる理由と、通達評価が絶対ではない理由を読み取ると、例外リスクの位置づけが明確になります。
不動産の贈与税を計算する場合、法律だけで答えるなら評価額は取得時の時価です。ただし、条文は各不動産の具体的な計算式をすべて列挙していません。
通達評価額は、法律上の時価を大量・公平・画一的に評価するための標準的手法です。通常の申告では、この考え方が中心になります。
通達評価額と鑑定評価額の乖離だけでは足りませんが、画一的評価が実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合、通達評価額を超える評価が問題になり得ます。
実務上の教訓は二つです。第一に、通常の申告では通達評価が基本であり、根拠なく任意の査定額を使うべきではありません。第二に、通達評価は絶対ではなく、節税目的が強く、通達評価と市場価値の乖離を利用する不自然な取引では、鑑定評価額等が採用されるリスクがあります。
土地、建物、マンションでは評価の入り口が異なります。
路線価地域の宅地では、路線価方式を用います。路線価を土地の形状等に応じて補正し、地積を乗じます。路線価等は、1月1日を評価時点とし、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められると説明されています。ただし、個別土地の実勢価格を単純に「路線価 ÷ 0.8」で算出するのは不正確です。
次の比較表は、土地・建物・マンションの基本式と計算例を並べたものです。評価対象ごとに使う基礎資料が違うため重要であり、土地は路線価又は倍率、建物は固定資産税評価額、マンションは土地部分と建物部分を分ける点を読み取ってください。
| 対象 | 基本式 | 計算例・注意点 |
|---|---|---|
| 路線価地域の土地 | 土地評価額 = 路線価 × 各種補正率 × 地積 | 路線価300,000円/㎡、地積180㎡、補正率1.00なら、300,000円 × 180㎡ × 1.00 = 54,000,000円です。市場価格が7,000万円程度でも、通常の無償贈与の出発点は5,400万円です。 |
| 倍率地域の土地 | 土地評価額 = 固定資産税評価額 × 評価倍率 | 固定資産税評価額1,800万円、評価倍率1.1なら、1,800万円 × 1.1 = 1,980万円です。固定資産税評価額をそのまま使うのではなく、倍率を乗じます。 |
| 家屋 | 家屋評価額 = 固定資産税評価額 × 1.0 | 固定資産税評価額が1,200万円の家屋なら、通常の無償贈与における家屋評価額は1,200万円です。市場査定額が2,000万円でも、通常の贈与税評価では固定資産税評価額を基礎にします。 |
| 分譲マンション | マンション評価額 = 敷地利用権(土地部分)+ 区分所有権(家屋部分) | 敷地利用権はマンション敷地全体の価額に敷地権割合を乗じ、区分所有権は固定資産税評価額により計算します。 |
次の一覧は、路線価方式で評価額を動かしやすい土地の特徴をまとめたものです。単純な掛け算だけで終わらない理由を理解するために重要であり、形状、接道、権利関係、利用単位のどこに補正や確認が必要かを読み取ってください。
奥行が標準より短い又は長い土地、間口が狭い土地、奥行長大地、不整形地、地積規模の大きな宅地では補正が問題になります。
角地、準角地、二方路線地、三方路線地、無道路地、接道義務を満たさない土地、セットバックを要する宅地、私道負担がある土地では評価が変わります。
がけ地、都市計画道路予定地、容積率の異なる地域にまたがる土地などでは、個別事情を評価に反映する必要があります。
借地権、貸宅地、貸家建付地、駐車場、畑、私道が混在する場合は、登記簿の筆ではなく利用単位・権利関係・地目に応じた評価単位が重要です。
建物には相続税路線価を用いません。固定資産税課税明細書、固定資産評価証明書、名寄帳などで家屋評価額を確認します。未登記建物、増築、附属建物、賃貸部分、共有持分がある場合は注意が必要です。
次の比較表は、マンション評価で確認する資料と令和6年以後の注意点を整理したものです。土地建物を一体で見てしまうと評価を誤りやすいため重要であり、敷地権割合と区分所有補正率の有無を読み取ってください。
| 確認項目 | 内容 | 読み取り方 |
|---|---|---|
| 敷地利用権 | マンション敷地全体の価額に敷地権割合を乗じます。 | 土地部分の評価です。路線価方式又は倍率方式を前提に確認します。 |
| 区分所有権 | 建物部分は固定資産税評価額により計算します。 | 建物部分の評価です。固定資産税評価額を確認します。 |
| 区分所有補正率 | 令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与で取得した一定の居住用区分所有財産では考慮する場合があります。 | 高層階、築年数が浅い物件、敷地権割合と市場価格の関係が特殊な物件では確認が必要です。 |
同じ土地でも、自用地か賃貸中かで評価額は変わります。
不動産の贈与税評価で誤りが多いのは、所有権そのものではなく、権利関係が付着した不動産です。同じ土地でも、自用地、借地権、貸宅地、貸家建付地では評価額が異なります。
次の一覧は、権利関係が付いた不動産の代表的な評価対象を並べたものです。賃貸や借地があると単なる自用地評価では足りないため重要であり、誰が土地を使い、誰が建物を貸しているのかを読み取ってください。
建物所有を目的とする地上権又は土地賃借権です。借地権割合は路線価図や評価倍率表に表示されます。
土地利用権借地権など宅地の上に存する権利の目的となっている宅地です。自用地価額から借地権部分を控除して考えます。
地主側所有者が建てたアパートや貸家を他人に貸している場合の敷地です。借家権割合と賃貸割合を考慮します。
賃貸状況次の比較表は、借地権・貸宅地・貸家建付地の基本式を並べたものです。権利関係による控除や割合が税務評価に直結するため重要であり、自用地価額にどの割合を掛けるのかを読み取ってください。
| 対象 | 基本式 | 注意点 |
|---|---|---|
| 借地権 | 借地権評価額 = 自用地価額 × 借地権割合 | 借地権割合は路線価図や評価倍率表で確認します。 |
| 貸宅地 | 貸宅地評価額 = 自用地価額 − 自用地価額 × 借地権割合 | 借地権部分を地主側の土地評価から控除する考え方です。 |
| 貸家建付地 | 貸家建付地評価額 = 自用地価額 − 自用地価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合 | 賃貸割合は、課税時期に賃貸されている独立部分の床面積合計を各独立部分の床面積合計で割って求めます。 |
贈与直前の空室、募集状況、契約解除、サブリース変更、敷金返還債務の承継は、評価と負担付贈与の双方に影響します。収益不動産を贈与する場合は、土地評価、建物評価、債務の承継、賃貸借契約の引継ぎを分けて確認します。
負担付贈与、低額売買、総則6項、通達評価額が高すぎる事案を確認します。
通常の無償贈与では通達評価が基本ですが、例外場面では通常の取引価額や鑑定評価額が前面に出ます。ここを誤ると、贈与税だけでなく所得税や相続人間の紛争にも影響します。
次の一覧は、路線価方式だけでは判断しにくい例外場面をまとめたものです。通常実務から外れるきっかけを見落とさないために重要であり、負担、対価、市場価格との乖離、特殊事情の有無を読み取ってください。
受贈者が借入金、敷金返還債務、保証金返還債務などを引き受ける場合、土地・建物は通常の取引価額から負担額を控除する考え方になります。
著しく低い価額で譲り受けた場合、時価と支払対価との差額が贈与により取得したものとみなされることがあります。
通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産では、国税庁長官の指示を受けた評価が問題になります。
無道路地、再建築困難地、土壌汚染地、境界紛争地などで通達評価額が客観的時価を上回ると考える場合、不動産鑑定評価書等が重要になることがあります。
負担付贈与とは、受贈者が一定の債務や義務を引き受けることを条件として財産をもらう贈与です。典型例は、親が子に賃貸マンションを贈与し、子がその不動産に付いた借入金、敷金返還債務、保証金返還債務を引き受ける場合です。
次の比較表は、負担付贈与の計算で相続税評価額ではなく通常の取引価額を使う点を示すものです。評価の出発点を間違えやすい論点のため重要であり、どの金額から負担額を控除しているかを読み取ってください。
| 項目 | 金額 | 評価上の意味 |
|---|---|---|
| 贈与対象 | 賃貸用土地建物 | 借入金などの負担が付いた不動産です。 |
| 通常の取引価額 | 7,000万円 | 負担付贈与で土地建物の基礎になる価額です。 |
| 相続税評価額 | 5,200万円 | 通常の無償贈与なら出発点になり得ますが、この例では負担付贈与の基礎にしません。 |
| 受贈者が引き受ける借入金 | 2,000万円 | 通常の取引価額から控除する負担額です。 |
| 負担付贈与の課税価格 | 7,000万円 − 2,000万円 = 5,000万円 | 5,200万円から2,000万円を引いて3,200万円とする考え方ではありません。 |
親から子へ不動産を売買した形式でも、著しく低い価額で譲り受けた場合には、時価と支払対価との差額が贈与により取得したものとみなされることがあります。たとえば、通常の取引価額が7,000万円の土地を3,000万円で売却した場合、差額4,000万円が贈与とみなされる可能性があります。ただし判定は一律ではなく、支払実態、買主の資力、返済条件、担保、売却理由、第三者間でも成立し得る条件かどうかが確認されます。
次の判断の流れは、通常の通達評価でよいか、時価や鑑定評価を確認すべきかを整理するものです。例外リスクを早期に見つけるために重要であり、上から順に取引類型、対価や負担、市場価格との乖離、不自然な事情の有無を読み取ってください。
土地は路線価方式又は倍率方式、家屋は固定資産税評価額が基本になります。
負担がある場合は、通常の取引価額から負担額を控除する考え方が問題になります。
著しく低い価額では、時価との差額がみなし贈与として扱われる可能性があります。
租税負担軽減目的、短期移転、高額売却予定、融資資料などを含めて検討します。
評価明細と根拠資料を保存し、個別事情があれば専門家に確認します。
総則6項については、単に通達評価額と鑑定評価額の間に大きな乖離があるだけでは足りないとされています。評価通達による画一的評価が実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合に、通達評価額を上回る価額による評価が問題になり得ます。
一方で、極端な不整形地、無道路地、再建築困難地、土壌汚染地、崖地、境界紛争地、法令制限が厳しい土地、賃借権関係が複雑な土地などでは、通達評価額が客観的時価を上回っていると主張する余地があります。この場合も、単なる不動産会社の無料査定書だけでは足りないことが多く、通達評価では把握しきれない個別事情を客観的に説明する必要があります。
評価額は納税額そのものではなく、贈与税計算の基礎です。
不動産の評価額が決まっても、それがそのまま納税額になるわけではありません。暦年課税では、1年間に贈与により取得した財産の価額を合計し、基礎控除額110万円を差し引き、残額に税率を乗じます。
次の比較表は、父から18歳以上の子へ土地を贈与し、土地の相続税評価額が5,400万円だった例を示すものです。評価額から税額への接続を理解するために重要であり、基礎控除後の課税価格、税率、控除額の順番を読み取ってください。
| 計算段階 | 式 | 結果 |
|---|---|---|
| 評価額 | 土地の相続税評価額 | 5,400万円 |
| 基礎控除後の課税価格 | 5,400万円 − 110万円 | 5,290万円 |
| 特例贈与財産用の速算 | 5,290万円 × 55% − 640万円 | 2,269.5万円 |
| 贈与税額 | 2,269.5万円 | 2,269万5,000円 |
この例では、直系尊属から18歳以上の子や孫への贈与で一定要件を満たす場合の特例贈与財産用の税率表を前提にしています。実務では、同じ年に他の贈与があるか、一般贈与財産と特例贈与財産が混在するか、住宅取得等資金の非課税制度や配偶者控除を使うかによって結論が変わります。
相続時精算課税を選んでも、不動産そのものの評価方法が市場価格に変わるわけではありません。通常の土地であれば路線価方式又は倍率方式、家屋であれば固定資産税評価額、一定の分譲マンションであれば区分所有補正率を含む評価方法を使います。
次の時系列は、不動産贈与を贈与時だけで終わらせず、将来の相続税まで見て確認する順番を示します。制度選択の影響が後から現れるため重要であり、贈与時の税額、相続時の加算、相続人間の公平を順に読み取ってください。
通常の土地は路線価方式又は倍率方式、家屋は固定資産税評価額を基礎にします。贈与税、登録免許税、不動産取得税などの資金も確認します。
原則として60歳以上の父母又は祖父母などから、18歳以上の子又は孫などへの贈与で選択できます。一度選択すると、その贈与者からの贈与について暦年課税へ変更できません。
特定贈与者が亡くなった時には、相続税の計算上、相続財産の価額に相続時精算課税適用財産の贈与時の価額を加算します。
令和6年1月1日以後の暦年課税贈与については、生前贈与加算の期間が段階的に延長されています。贈与税だけでなく将来の相続税との合計負担を確認します。
高額不動産の贈与は、贈与税額そのものが大きくなりやすく、将来の相続税、値上がり・値下がり、収益移転、相続人間の公平、遺留分、納税資金まで含めて判断する必要があります。
税務評価は、遺産分割・遺留分・特別受益の評価を当然に決めません。
相続に関連した相談では、「贈与税では路線価で申告したのだから、相続人間の話し合いでもその金額でよいはずだ」という誤解が生じます。これは危険です。贈与税申告における評価額は、税務上の課税価格を計算するための価額です。
次の比較表は、税務評価と民事上の評価の目的を分けたものです。申告が終わっても親族間の評価争いが残ることがあるため重要であり、どの場面で市場価値や鑑定評価額が問題になるかを読み取ってください。
| 場面 | 主な目的 | 問題になりやすい価額 |
|---|---|---|
| 贈与税申告 | 税務上の課税価格を計算する | 財産評価基本通達に基づく相続税評価額が基本です。 |
| 遺産分割 | 相続人間で財産をどう分けるか決める | 市場価値、鑑定評価額、合意価額、評価時点が問題になります。 |
| 遺留分・特別受益 | 生前贈与を含めた公平を検討する | 贈与税申告額が資料の一つになることはありますが、当然に拘束するものではありません。 |
| 共有物分割・代償金 | 不動産を現金換算して調整する | 売却可能性、鑑定評価、合意できる評価額が重要になります。 |
たとえば、親が長男に土地を生前贈与し、贈与税申告では相続税評価額5,000万円とした後、親の相続が発生し、他の相続人が「実際には8,000万円の価値がある土地を長男だけがもらった」と主張することがあります。この場合、贈与税申告で5,000万円だったことは資料の一つにはなりますが、民事上の評価を当然に拘束するものではありません。
次の比較表は、不動産贈与で関与し得る専門職の役割を整理したものです。税務だけで完結しないことが多いため重要であり、評価、登記、紛争、境界、売却可能性のどこを誰に確認するかを読み取ってください。
| 専門職 | 主な役割 |
|---|---|
| 税理士 | 贈与税申告、評価明細、暦年課税・相続時精算課税の比較、税務調査対応。 |
| 弁護士 | 遺留分、特別受益、相続人間の紛争、親族間売買、贈与契約の有効性、交渉・調停・訴訟。 |
| 司法書士 | 所有権移転登記、相続登記、登記原因証明情報、戸籍・登記情報の確認。 |
| 不動産鑑定士 | 通常の取引価額、鑑定評価、通達評価と市場価値の乖離、総則6項リスク、民事上の代償金評価。 |
| 土地家屋調査士 | 境界、地積、分筆、合筆、未登記建物、表題登記、地積更正。 |
| 宅地建物取引士・不動産仲介業者 | 市場価格、売却可能性、賃貸需要、近隣取引事例の把握。 |
| 行政書士・FP・信託銀行等 | 争いのない書類整理、資産設計、遺言・保険・老後資金を含む全体設計、専門家への接続。 |
相続で取得した不動産を贈与する場合は、相続登記にも注意が必要です。法務省は、相続により不動産の所有権を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があり、正当な理由なく怠ったときは10万円以下の過料の適用対象になると説明しています。施行日は令和6年4月1日です。
取引類型、贈与日、財産の種類、評価単位、資料保存の順に確認します。
不動産の贈与税評価は、いきなり路線価を調べる前に、取引類型と財産の分解から始めると誤りを減らせます。通常の無償贈与、負担付贈与、低額売買では、評価の入口が変わるためです。
次の時系列は、贈与前から申告準備までの確認順序を示すものです。手戻りを減らすために重要であり、取引類型、贈与日、財産の分解、評価方法、例外リスク、資料保存の順番を読み取ってください。
通常の無償贈与か、負担付贈与か、低額売買か、代物弁済か、信託か、法人が関与する取引かを確認します。
契約書の日付、所有権移転登記日、引渡日、固定資産税の負担開始、賃料収受開始、管理権限の移転に矛盾がないか確認します。
土地、家屋、借地権、貸宅地、貸家建付地、区分所有建物、敷地利用権、共有持分、私道、農地、山林、雑種地などに分けます。
国税庁の財産評価基準書で、贈与年分、都道府県、市区町村、町丁名を確認し、路線価図又は評価倍率表を調べます。
土地は登記簿上の一筆単位とは限りません。利用単位、地目、権利関係、用途、貸付状況により判断します。
奥行、側方路線、二方路線、不整形、間口狭小、奥行長大、がけ地、セットバック、私道、借地権、貸宅地、貸家建付地、賃貸割合を確認します。
固定資産税課税明細書、固定資産評価証明書、名寄帳で家屋評価額を確認します。未登記建物、増築、附属建物、賃貸部分、共有持分にも注意します。
令和6年1月1日以後の居住用区分所有財産では、区分所有補正率の適用有無を確認します。敷地権割合、建築年、総階数、所在階などが必要です。
市場価格との乖離が大きい、租税負担軽減目的が明確、贈与前後に不自然な売買や借入れがある、通達評価では過大又は過小になる特殊事情がある場合は専門家に確認します。
贈与契約書、評価明細書、路線価図、評価倍率表、固定資産税評価証明書、登記事項証明書、公図、地積測量図、賃貸借契約書、入居状況一覧、借入金残高証明書、通帳記録、不動産鑑定評価書を保存します。
単純な換算や思い込みを避け、資料と前提条件を確認します。
不動産の贈与税評価では、路線価、実勢価格、固定資産税評価額を単純に置き換える誤解が起きやすくなります。一般的には、制度上の評価方法と例外場面を分けて整理する必要がありますが、具体的な結論は財産の状況や資料で変わります。
次の一覧は、贈与税評価で特に多い誤解を整理したものです。誤った前提で贈与を進めると税務・民事の両方に影響するため重要であり、どの表現が単純化しすぎているかを読み取ってください。
正確ではありません。法律上は時価です。通常の土地贈与では、時価を具体化する標準的方法として路線価方式又は倍率方式を用います。
危険です。路線価等は地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められますが、個別の市場価格は形状、権利関係、需給、開発可能性などで変わります。
路線価地域の宅地では、固定資産税評価額をそのまま使うのではなく、路線価方式が基本です。倍率地域では固定資産税評価額に評価倍率を乗じます。
通常の贈与税申告では、査定額ではなく財産評価基本通達に基づく評価が基本です。査定額や鑑定評価額は、例外場面で重要になることがあります。
税務評価と民事評価は目的が違います。遺留分、特別受益、代償金、遺産分割では、市場価値や鑑定評価額が問題になることがあります。
次のチェックリストは、不動産贈与を実行する前の確認事項を一覧化したものです。評価漏れや資料不足を防ぐために重要であり、対象財産、評価方法、負担、紛争リスク、納税資金、証拠資料を順に確認してください。
| 確認項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 贈与対象 | 土地、建物、持分、借地権、敷地利用権、附属建物を明確にする。 |
| 贈与日 | 契約日、登記日、引渡日、賃料収受開始日を整合させる。 |
| 土地評価 | 路線価地域か倍率地域か、評価単位、補正率、権利関係を確認する。 |
| 建物評価 | 固定資産税評価額、未登記部分、増築、賃貸部分を確認する。 |
| マンション | 敷地権割合、区分所有補正率、専有面積、所在階、総階数を確認する。 |
| 負担の有無 | 借入金、敷金、保証金、固定資産税、管理費滞納を誰が負担するか確認する。 |
| 低額売買リスク | 代金支払、買主資力、第三者間価格、返済条件を確認する。 |
| 相続紛争リスク | 遺留分、特別受益、他の相続人への説明、遺言、代償金を検討する。 |
| 納税資金 | 贈与税、登録免許税、不動産取得税、司法書士報酬、将来の相続税を試算する。 |
| 証拠資料 | 評価明細、路線価図、固定資産評価証明書、登記資料、契約書、通帳記録を保存する。 |
不動産の贈与税を計算する場合の評価額は、法律上は贈与により取得した時点の時価です。ただし、通常の無償贈与の申告実務では、財産評価基本通達により、土地は路線価方式又は倍率方式、家屋は固定資産税評価額で評価します。
分譲マンションは、敷地利用権と区分所有権を分けて評価し、令和6年1月1日以後の一定の居住用区分所有財産では区分所有補正率を考慮します。負担付贈与や著しく低い価額での譲受けでは、路線価評価ではなく、通常の取引価額・時価が問題になります。
財産評価基本通達による評価が著しく不適当な場合、又は通達評価額が客観的時価を適切に示さない特殊事情がある場合には、不動産鑑定評価額等が重要になります。税務上の評価額は、遺産分割、遺留分、特別受益など民事相続上の評価額を当然に決めるものではありません。
したがって、一般的な親子間の土地・建物の無償贈与であれば、市場価格そのものではなく、路線価方式、倍率方式、固定資産税評価額に基づく相続税評価額で贈与税を計算するのが基本です。しかし、負担付贈与、低額売買、高額マンション、収益不動産、借入れを伴う節税スキーム、相続人間の争いがある場合は、税務・法務・登記・民事紛争の全体を確認する必要があります。
制度の確認に用いられる公的資料・判例資料を整理しています。