医療機関で受けた説明に疑問があるとき、説明義務違反、インフォームド・コンセント、損害賠償、証拠、時効をどの順番で見るべきかを一般情報として整理します。
責任を問える可能性はありますが、説明不足だけで直ちに大きな賠償が認められるとは限りません。
責任を問える可能性はありますが、説明不足だけで直ちに大きな賠償が認められるとは限りません。
医師の説明が不十分だった場合、法的責任が問題になる可能性はあります。ただし、単に納得できなかった、結果が悪かった、説明時間が短かったという事情だけで結論が決まるわけではありません。診療録、検査結果、同意書、説明文書、手術記録、看護記録、時系列、医学的知見、患者本人の価値観、説明当時の医療水準を総合的に確認する必要があります。
責任を検討する際は、医師に説明すべき法的義務があったか、その義務に違反したか、説明不足で患者の自己決定権や身体・生命・財産上の利益が侵害されたか、十分な説明があれば別の選択をしたといえるか、請求する損害との因果関係があるかが問題になります。
次の比較表は、説明不足で問題になり得る責任を二つの層に分けたものです。読者にとって重要なのは、どの層の損害を考えているのかで、必要な証拠と主張の組み立てが大きく変わる点です。
| 層 | 問題となる内容 | 典型的な損害 | 検討の中心 |
|---|---|---|---|
| 自己決定権侵害型 | 十分に説明されず、患者が納得して選択する機会を奪われた | 慰謝料など | 説明内容、同意の実質、患者の価値観 |
| 結果回避型 | 十分な説明があれば別の治療を選び、死亡・後遺障害・重い副作用などを避けられた | 治療費、休業損害、逸失利益、慰謝料、弁護士費用相当額など | 別の選択の合理性、代替治療の現実性、損害との因果関係 |
このページでは、説明義務の意味、インフォームド・コンセント、法的根拠、最高裁判例、説明すべき事項、責任が認められやすい場面と難しい場面、証拠、時効、相談前の準備を順番に整理します。
日常的な不満と、裁判でいう説明義務違反は区別して考える必要があります。
日常会話では、医師の説明が短かった、専門用語が多くて理解できなかった、リスクを聞いていなかったように感じる、同意書に署名したが十分に考える時間がなかった、後から別の治療法を知った、合併症後に初めてリスクを聞いた、家族への説明と本人への説明が違っていた、といった不満も説明不足と表現されます。
これらは法的にも重要な手がかりになり得ますが、裁判上は、単に不親切だったかではなく、患者が治療を受けるか、どの治療を選ぶかを合理的に判断するために必要な事項が説明されていなかったかが中心になります。
次の一覧は、インフォームド・コンセントを実質的な意思決定の過程として分解したものです。署名の有無だけでなく、説明、質問、理解、選択がそろっていたかを読むことが重要です。
病状、診断、治療方針、リスク、代替手段、予後などを、患者が理解できる形で説明する過程です。
患者が疑問点を確認し、医師の回答を踏まえて判断材料を補える状態が重要になります。
生命予後だけでなく、痛み、容貌、仕事、家族、信仰、妊娠可能性、費用なども判断材料になります。
同意または拒否が、強制、誤信、不十分な情報によるものではないかが問題になります。
同意書があっても、内容が抽象的で重大なリスクや代替治療の説明がなければ、十分な同意といえるかが争われることがあります。反対に、同意書の記載が乏しくても、診療録、説明文書、患者のメモ、家族の記憶、録音、経過から実質的な説明があったと評価される場合もあります。
説明義務は、医療法上の考え方だけでなく、民法上の責任や診療契約とも結びつきます。
医療法は、医療提供者が医療を受ける者に適切な説明を行い、理解を得るよう努めるべきことを示しています。ただし、医療法の規定だけで民事上の賠償額が決まるわけではなく、実際には診療契約上の債務不履行、不法行為、使用者責任などの枠組みで検討されます。
次の比較表は、説明義務を考える際に出てくる主な法的根拠を整理したものです。どの根拠を使うかによって、相手方、時効、損害の説明が変わるため、相談前に大枠を把握することが重要です。
| 根拠 | 主な内容 | 責任検討での意味 |
|---|---|---|
| 医療法上の説明努力義務 | 医療を受ける者への適切な説明と理解を得る努力を求める考え方 | 医療提供の制度的な前提を示しますが、単独で賠償額を決めるものではありません。 |
| 診療契約上の債務不履行責任 | 医療機関が当時の医療水準に照らして適切な診療と必要な説明を行う義務 | 民法415条に基づく責任が問題となることがあります。 |
| 不法行為責任 | 説明不足により自己決定権や人格的利益が侵害された場合の責任 | 民法709条、精神的損害について民法710条が問題になります。 |
| 使用者責任 | 医師が業務中に行った説明不足について医療機関側の責任を問う考え方 | 民法715条により、病院、診療所、医療法人なども相手方になる場合があります。 |
| 医師法上の指導・記録義務 | 療養方法などの指導、診療録の記載・保存 | 説明、療養指導、記録の重要性を示しますが、民事責任は損害と因果関係も含めて判断されます。 |
自己決定権とは、患者が自分の身体に対してどのような医療行為を受けるか、または受けないかを自ら判断する利益です。手術、輸血、抗がん剤、放射線治療、人工呼吸、透析、麻酔、検査、投薬などは身体への介入を伴うため、医学的合理性だけでなく、患者本人の生活や価値観に沿った選択が尊重されます。
代替治療と患者の価値観は、説明義務の範囲を考えるうえで特に重要です。
最高裁判例は、医師が予定する治療の内容だけでなく、患者の選択に重要な代替治療や患者本人の価値観についても、説明義務の内容になり得ることを示しています。次の時系列は、二つの重要判例から何を読み取るかを整理したものです。
患者が輸血を拒否する明確な意思を有していた場合、その意思決定は人格権の一内容として尊重されるべきとされました。医師側は、必要な場合には輸血する方針を説明し、その病院で手術を受けるかを選べるようにすべきだったと判断されています。
医師は、疾患名・病状、予定手術の内容、危険性、選択可能な治療方法があればその内容と利害得失、予後などを説明すべきとされました。未確立の療法でも、一定の実施例や評価があり、患者が強い関心を示していた場合には説明対象になり得ます。
次の要素は、未確立または医師自身が実施しない治療についても説明が問題になるかを考える手がかりです。読者は、単に別の治療法が存在したかではなく、当時の実施状況、患者への適応可能性、患者の関心がそろうかを確認する必要があります。
少なからぬ医療機関で実施され、相当数の実施例があるかが検討されます。
実施した医師の中で積極的評価があるか、当時の医療水準でどう位置づけられていたかが問題になります。
患者本人にその治療の適応可能性があったか、不確実でも専門施設で検討する余地があったかを見ます。
患者が強い関心を示し、医師がその関心を知っていたかは、説明義務を具体化する重要事情です。
重要なのは、医師が自らその治療を実施する義務や勧める義務が常に認められるわけではない点です。患者が選択可能性を知り、検討する機会を得られたかが中心になります。
説明義務の内容は、病気、治療、緊急性、危険性、患者の状態、当時の医療水準で変わります。
説明すべき事項は一律ではありません。一般的には、病名・病状・診断の見通し、予定される治療・検査・手術の内容、危険性・合併症・副作用、他に選択可能な治療方法、予後、治療しない場合の見通し、患者の価値観に関わる事情が重要になります。
次の一覧は、説明事項を六つの観点に整理したものです。読者にとって重要なのは、どの情報が治療選択の前提になっていたかを具体的に確認することです。
確定診断か疑い段階か、軽症か重症か、進行性や緊急性があるかを理解する必要があります。
術式、麻酔方法、入院期間、術後制限、再手術可能性、検査目的、苦痛、偶発症などが問題になります。
発生頻度が低くても、死亡、後遺症、臓器損傷、神経損傷など重大な結果なら説明対象になり得ます。
手術と保存療法、開腹と腹腔鏡、薬物療法、放射線療法、臨床試験など、比較できる説明が重要です。
治療で見込まれる改善、治療しない場合の悪化、拒否時の危険性、再受診の目安も説明対象になり得ます。
信仰、妊娠・出産、外観、声や嚥下、排尿、性機能、仕事復帰、介護、費用などが影響します。
患者が特に重視していた事情を医師が知っていた場合、その事情に関する説明義務は重くなり得ます。宗教上輸血を拒否していた、妊娠可能性を強く重視していた、乳房や顔貌など外観への影響を懸念していた、仕事復帰時期や経済的負担が重要だったといった事情は、説明範囲を考えるうえで大切です。
重大リスク、代替治療、形式的な同意、質問への対応、退院後の注意点が主な焦点です。
説明義務違反が認められやすいかどうかは、説明されなかった事項の重要性と、患者の選択に与えた影響で変わります。次の比較表では、問題になりやすい場面を、何を確認すべきかと合わせて整理しています。
| 場面 | 問題の内容 | 確認したい事情 |
|---|---|---|
| 重大なリスクの未説明 | 死亡、重い後遺障害、失明、麻痺、不妊、臓器機能障害、再手術などの説明がない | 発生頻度だけでなく、結果の重大性と治療選択への影響を確認します。 |
| 代替治療の未説明 | 複数の治療方法があるのに、一つの治療だけを当然の前提にした | 患者の質問、他院治療への関心、生活の質への影響を確認します。 |
| 説明と実際の医療行為の相違 | 説明された処置より大きな切除、予定外部位の処置、輸血方針の相違など | 事前に方針変更の可能性を説明していたかを見ます。 |
| 形式的な同意 | 手術直前の署名、読む時間の不足、抽象的な同意書、事務的な署名取得など | 説明時期、患者の理解状態、説明者、同席者、文書の具体性を見ます。 |
| 質問や不安への不十分な対応 | 後遺症、仕事復帰、妊娠、輸血拒否などの具体的質問に向き合わない | 質問内容と回答内容を示すメモ、録音、同席者の記憶が重要です。 |
| 退院後・投薬後の注意不足 | 副作用、再受診症状、感染兆候、出血時対応、検査結果フォローの説明不足 | 療養指導義務や説明義務として、対応遅れとの関係を検討します。 |
一方で、法的責任の立証が難しい場面もあります。次の表は、説明不足が主張されても、責任や大きな損害との関係が認められにくくなる代表的な事情をまとめたものです。
| 場面 | 難しくなる理由 | なお残る検討点 |
|---|---|---|
| 医学的に予見困難なリスク | 当時の医学的知見から予見できない特殊な合併症は、標準的説明の対象としにくい場合があります。 | 当時の文献、ガイドライン、医療水準を確認します。 |
| 重要事項は説明されていた | 診療録、説明文書、同意書、家族記録から重要な説明が認定されることがあります。 | 記載の具体性、時期、患者の質問への対応を見ます。 |
| 患者の選択が変わらなかった | 十分な説明を受けても同じ治療を選んだと評価されると、結果全体の賠償は難しくなります。 | 自己決定権侵害による慰謝料が問題となる余地はあります。 |
| 緊急性が高かった | 救命処置、急変対応、意識障害では、詳細な説明を行う時間がないことがあります。 | 可能な範囲での家族説明、事後説明、記録の有無を確認します。 |
同意書は重要な証拠ですが、絶対的な免責書ではありません。
同意書に署名していても、責任が問題になる可能性はあります。同意書が抽象的で具体的リスクがない、代替治療が書かれていない、医師の説明と記載が一致しない、検討時間がない、理解できる言葉で説明されていない、質問への回答がない、家族だけが署名した、署名時に判断能力に不安があったといった事情があれば、実質的な説明があったかが争われます。
次の判断の流れは、同意書がある場面でどこを見るべきかを示しています。読者にとって重要なのは、署名の有無で止まらず、説明の具体性、患者本人の理解、検討時間、同席者、記録との整合性を順番に確認することです。
病名、術式、重大リスク、代替治療、説明日時、説明者、同席者が具体的かを見ます。
患者が理解できる言葉で説明され、質問する機会と検討時間があったかを確認します。
診療録、メモ、録音、家族の記憶、説明文書との食い違いを整理します。
重要説明が記録されている場合、患者側の立証は慎重な検討が必要です。
医師個人だけでなく、病院、診療所、医療法人、開設者、使用者の責任も検討されます。患者と医療機関との診療契約、勤務医の業務中の説明、主治医・執刀医・麻酔科医・看護師・薬剤師・技師などが関わる説明体制、説明文書の不備や共有不足も、組織的責任を考える材料になります。
自己決定権侵害にとどまるのか、身体的損害まで含むのかで、必要な因果関係が変わります。
説明義務違反に基づき問題となる損害は、事案によって大きく異なります。医療行為自体が適切で、身体的結果が医学的に避けられなかった場合でも、患者の人格的利益が侵害されたとして慰謝料が問題になることがあります。
次の比較表は、損害の種類と立証で見られる事情を整理したものです。読者は、どの損害を考えているかに応じて、説明不足と結果のつながりをどこまで示す必要があるかを読み取る必要があります。
| 損害の種類 | 内容 | 立証で重要な事情 |
|---|---|---|
| 自己決定権侵害による慰謝料 | 患者が自分の意思で治療を選ぶ機会を奪われたことによる精神的損害 | 重要な説明の不足、患者の価値観、同意の実質、説明時期 |
| 身体的損害に関する賠償 | 死亡、後遺障害、重篤な副作用などの結果についての損害 | 十分な説明があれば治療を受けなかった、別の治療を選んだ、他院で治療したという合理性 |
| 期待権・選択機会の喪失 | 結果を完全に避けられたとまでは証明できなくても、よりよい結果や別の選択の機会が失われたという考え方 | 事案ごとの判断が細かく、裁判例の射程を慎重に見る必要があります。 |
身体的損害まで問題にする場合、検討される項目は広くなります。次の一覧は、損害項目を整理したものです。重要なのは、項目を並べるだけでなく、説明不足と各損害の因果関係を具体的に確認することです。
説明が十分なら別の選択をし、追加治療や入通院を避けられたかが問題になります。
実費入院や通院、症状の継続により発生した負担が、説明不足と結びつくかを確認します。
生活影響重大な結果を避けられたかが特に厳しく争われやすい項目です。
因果関係自己決定権侵害の慰謝料と、身体的結果に基づく慰謝料は区別して検討します。
精神的損害死亡事案や訴訟で問題となることがありますが、前提となる責任と因果関係の整理が必要です。
個別判断単に「知っていれば受けなかった」と述べるだけでは足りないことがあります。当時の病状、治療の必要性、代替治療の現実性、患者の価値観、家族との会話、医師への質問、他院受診の可能性などを具体的に示すことが重要です。
医療機関側が説明したと主張することも多いため、記録と時系列の整理が重要です。
患者側が説明されていないと感じていても、医療機関側は説明したと主張することがあります。そのため、診療録、看護記録、手術記録、同意書、説明文書、患者・家族の記録、他院の診療記録、録音などを整理することが非常に重要です。
次の一覧は、説明義務違反の検討で重要になりやすい資料を分類したものです。読者は、それぞれの資料が「何を説明されたか」「何を質問したか」「何が記録されていないか」を示す材料になることを読み取ってください。
診断、説明内容、患者の質問、同意取得、検査結果、治療方針、不安や家族説明が残っていることがあります。
中心資料説明日、説明者、署名者、病名、術式、重大な合併症、代替治療、質問欄の具体性を確認します。
説明内容説明当時に何を聞き、何に不安を持っていたかを示す資料になります。時間が経つ前の記録ほど重要です。
当時の認識当時の医療水準や代替治療の現実性を検討する材料になります。ただし他院医師の発言だけで法的責任が決まるわけではありません。
医学的検討患者本人の診療説明の録音は重要な資料になり得ますが、取得方法、編集の有無、文脈、プライバシーへの配慮も問題になります。
取扱注意同意書や説明文書では、説明日と同意日、説明者、患者本人の署名か家族署名か、具体的な病名・術式・検査名、重大な合併症や副作用、代替治療、質問欄や自由記載欄、テンプレートのままではないかを確認します。
医学的な出来事と説明の出来事を分けて、資料と時系列をそろえます。
相談前には、何が起きたかだけでなく、いつ、誰から、何を説明され、何を説明されなかったかを整理します。医学的な出来事と説明の出来事を分けると、説明義務違反の有無や因果関係を検討しやすくなります。
次の表は、相談前の時系列整理で記録したい項目を示しています。読者は、日付、出来事、説明内容、説明者、同席者、資料を横に並べることで、説明の不足や記録の空白を見つけやすくなる点を読み取ってください。
| 時点 | 出来事 | 説明内容 | 説明者・同席者 | 資料 |
|---|---|---|---|---|
| 初診日 | 症状の相談・検査予定 | 病名が未確定か、追加検査が必要か | 担当医・本人 | 診療明細、予約票 |
| 検査日 | 検査の実施 | 検査目的、偶発症、検査しない場合の見通し | 説明医・家族 | 検査同意書、説明文書 |
| 手術説明日 | 術式とリスク説明 | 重大な合併症、代替治療、術後制限 | 執刀医・配偶者など | 同意書、メモ、録音 |
| 治療実施日 | 手術・処置・投薬 | 方針変更や追加処置の説明があったか | 医療チーム | 手術記録、看護記録 |
| 結果判明後 | 合併症や副作用の説明 | 事前説明の有無、原因、今後の治療方針 | 主治医・家族 | 面談記録、退院サマリー |
医療機関へ確認するときは、当時の診断、治療選択肢、説明したリスク、説明者、説明日時、使用資料、治療選択の理由、合併症や副作用の原因、今後の治療方針を具体的に尋ねることが考えられます。
次の判断の流れは、資料確保から相談までの順番を示しています。読者にとって重要なのは、感情的な断定だけでなく、資料、質問、時系列を残しながら進めることです。
同意書、説明文書、パンフレット、診療明細、メール、メモ、録音を確認します。
診療録、看護記録、手術記録、検査記録、画像、紹介状、退院サマリーを確認します。
どのリスクや代替治療を説明した記録があるかを具体的に確認します。
時効や証拠保全の問題があるため、資料を整理して早めに相談することが重要です。
医療機関とのやり取りで怒りや不信感が生じるのは自然ですが、責任追及を見据える場合には、感情的な断定よりも、事実確認を積み上げる方が重要です。口頭だけで終わらせず、書面、メール、面談記録などを残すことが望ましいです。
請求の期間制限と、診療記録が失われるリスクを分けて考えます。
説明義務違反に基づく請求では、時間制限が重要です。不法行為責任、債務不履行責任、生命・身体損害、2020年4月1日の民法改正前後で、問題になる期間が変わることがあります。
次の表は、原則的に意識したい期間を整理したものです。読者は、表の数字だけで結論を出さず、医療行為の時期、損害を知った時期、相手方を知った時期、身体損害の有無、契約責任か不法行為責任かを個別に確認する必要があります。
| 責任の種類 | 主な期間 | 注意点 |
|---|---|---|
| 不法行為責任 | 損害および加害者を知った時から原則3年 | 人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権では5年とされています。 |
| 不法行為からの期間制限 | 不法行為の時から20年 | 経過期間が長い場合、証拠や関係者の記憶も問題になります。 |
| 債務不履行責任 | 権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年 | 生命・身体侵害による損害賠償請求権では20年とされる場面があります。 |
| 民法改正前後 | 2020年4月1日前後で適用関係を確認 | 医療行為や損害発生の時期により、改正前民法か改正後民法かが問題になることがあります。 |
診療録には保存義務がありますが、長期間経過すると関連資料が廃棄されたり、関係者の記憶が薄れたりする可能性があります。法的時効に余裕があるように見えても、証拠保全の観点では早めに対応することが重要です。
説明不足と医療行為そのものの過失、悪い結果、代替治療、家族説明を切り分けます。
裁判では、どの程度の説明が必要だったか、実際に何が説明されたか、説明不足があったとして患者の選択は変わったか、損害額はいくらかが主な争点になります。医師の説明が不十分だったかと、医療行為そのものに過失があったかは別問題です。
次の比較表は、悪い医療結果と説明義務違反を分けて考えるための整理です。読者は、治療結果への不満だけでなく、どの説明が不足し、その不足がどの選択機会や結果に関係したのかを読み取る必要があります。
| 状況 | 法的評価の方向性 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 十分な説明があり、医療行為も適切だったが、不可避の合併症が起きた | 責任追及は難しい方向になります。 | 説明内容と当時の医療水準を確認します。 |
| 医療行為は適切だったが、重大リスクの説明が不十分だった | 自己決定権侵害が問題になり得ます。 | 慰謝料と結果全体の損害を区別します。 |
| 説明も不十分で、医療行為自体にも過失があった | 説明義務違反と医療過誤の双方が問題になり得ます。 | 説明の問題だけでなく、診断・治療・管理全体を確認します。 |
他の治療法があると知らされなかったという相談では、当時その代替治療が医学的にどの程度認められていたか、患者に適応可能性があったか、患者がその選択肢に関心を示していたか、医師がどこまで説明すべきだったかを見ます。医師に常にあらゆる治療法を網羅的に説明する義務や、自ら実施できない治療を勧める義務があるわけではありません。
成人で判断能力のある患者については、原則として説明と同意の主体は患者本人です。本人が理解し判断できたにもかかわらず家族だけに説明した場合、自己決定権侵害が問題になり得ます。未成年者では親権者の同意が重要ですが、年齢や理解力に応じて本人にも説明し、意思を尊重する必要があります。高齢者や認知機能に不安がある患者でも、直ちに本人への説明が不要になるわけではありません。
患者が他の治療法や他院治療に関心を示していたにもかかわらず、医師が一方的に意味がないなどと述べ、実際には有力な選択肢があった場合、説明義務違反が問題になることがあります。また、カルテに「説明済み」とだけ記載されていても、それだけで十分とは限らず、何を説明したか、患者の質問や反応、代替治療、説明文書との整合、説明時期が検討されます。
弁護士が医師の説明不足を検討する際は、医療機関、担当者、病気・症状・検査・治療、説明時期、同席者、同意書や説明文書、診療録開示、説明されていなかったリスクや代替治療、十分な説明があれば選んだ内容、現実の損害、医療行為そのものの過失、他院診療、セカンドオピニオン、経過時間を確認します。
次の一覧は、責任追及や事実確認の主な手段を整理したものです。読者は、目的が説明を求めることなのか、賠償請求なのか、裁判を見据えるのかによって、選ぶ手段が変わる点を読み取ってください。
疑問点を確認し、誤解が解ける場合があります。一方で、説明内容の変化や記録との食い違いがあれば次の対応を検討します。
事実確認説明義務違反が明らかで、損害額について合意が可能な場合、裁判をせずに解決することがあります。
交渉話し合いによる柔軟な解決を目指す手続です。相手方の応諾や合意形成が必要になります。
手続争点や損害額が大きく、責任が否定される場合に選択されます。診療録、医学文献、専門家意見、尋問などで審理されます。
慎重検討医療機関の対応に不信感がある場合に相談できますが、損害賠償の可否を裁判所のように判断する機関ではありません。
併用検討医療事件では、説明義務違反の事件であっても、医学的背景を理解しなければ説明すべき内容の範囲や因果関係を判断できません。弁護士が協力医や医学文献を通じて医学的検討を行うこともあります。
個別の結論は資料や経過で変わるため、一般的な考え方として整理します。
一般的には、リスクが低いこと自体で直ちに説明義務違反になるわけではありません。ただし、発生頻度が低くても、結果が重大で患者の選択に影響し得るリスクであれば、内容、発生時の影響、回復可能性、代替治療との違いの説明が問題になる可能性があります。具体的な評価は、説明文書や診療録を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、標準治療であることは治療の合理性を示す事情ですが、説明が不要になるわけではありません。身体に重大な影響を及ぼす治療では、標準治療を選ぶ理由、リスク、代替手段、治療しない場合の見通しなどが問題になります。具体的な説明範囲は、病状や治療内容によって変わります。
一般的には、口頭説明だけでも内容が十分で、患者が理解し同意していれば有効と評価されることがあります。ただし、後に争いになった場合、説明内容を証明しにくくなります。重大な治療では、説明文書、同意書、診療録の記載が重要です。
一般的には、成人で判断能力のある患者については本人への説明が重要です。ただし、本人の状態、家族の役割、緊急性、本人の希望によって評価は変わります。本人が理解し判断できたのに本人への説明が欠けていた場合は、自己決定権侵害が問題になる可能性があります。
一般的には、質問内容が治療選択に重要で、医師が答えられる範囲の医学情報であったにもかかわらず、曖昧な回答で患者が誤った理解のまま同意した場合、説明義務違反が問題になる可能性があります。質問内容、回答内容、同席者の記憶、録音、メモなどが重要です。
一般的には、治療結果が悪かっただけで直ちに責任が認められるわけではありません。医療には避けられないリスクがあります。説明義務違反、医療行為の過失、因果関係、損害を分けて検討する必要があります。
一般的には、説明不足だけで死亡や後遺障害の損害全体が当然に賠償されるわけではありません。重大な結果について賠償を求めるには、十分な説明があれば別の選択をし、その結果を避けられたという因果関係が問題になります。因果関係が認められない場合でも、自己決定権侵害として慰謝料が問題になることがあります。
一般的には、謝罪や追加説明が目的でも、後に損害賠償や時効が問題になる可能性がある場合は、早めに相談する意義があります。質問文書、診療録開示請求、面談時の記録方法を整理できるためです。具体的な進め方は、資料を持参して弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、医療行為の時期、損害を知った時期、相手方を知った時期、身体損害の有無、契約責任か不法行為責任か、民法改正前後で結論が変わります。時効が疑われる場合は、診療録開示を待つだけでなく、早急に弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、診療録、同意書、説明文書を確保し、時系列を整理することが出発点とされています。そのうえで、何が説明されなかったのか、説明があればどのような選択をしたと考えるのか、現実にどのような損害が生じたのかを整理します。
資料、時系列、説明不足の内容、損害、時効を一つずつ確認します。
相談前チェックリストは、資料の抜けを減らし、説明不足と損害の関係を明確にするために重要です。次の一覧では、何を確認すべきかを項目別に並べています。
医療機関名、診療科、担当医名、初診から現在までの時系列、事故日、結果発生日、説明不足に気づいた日を整理します。
同意書、説明文書、パンフレット、診療録、看護記録、手術記録、検査結果、画像の有無を確認します。
リスク、代替治療、予後、退院後の注意点、患者固有の価値観など、何が不足したと考えるかを書き出します。
家族、第三者、録音、メモ、メール、メッセージなど、説明当時の状況を示す資料を確認します。
実務上は、説明義務の内容が一律ではないこと、同意書は重要だが絶対ではないこと、説明不足と損害との因果関係が中心争点になること、証拠は早期に確保すべきことが特に重要です。
医師の説明が不十分だった場合、患者は責任を問える可能性があります。ただし、医師が何を説明すべきだったのか、実際に何を説明したのか、患者が何を重視していたのか、十分な説明があればどのような選択をしたのか、損害との因果関係があるのかを、証拠に基づいて検討する必要があります。